汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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8夏休み明け~転校生①~

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 夏休みが終わってしまった。しかし、進学校である私の高校では、夏休み中も補習という名の強制授業があったため、夏休みが終わって、今日から新学期という感じはあまりしなかった。

 まあ、補習という名の強制授業では、今までの復習が主だったため、新学期から新たに授業が始まるということ、長い時には7時間目まで授業があることが、夏休みとの違いといったところだろう。


「転校生を紹介します。イギリスからの帰国子女だそうだ。自己紹介をしてくれ」

「今日からこのクラスで一緒に勉強することになりました『山下絵怜(やましたえれん)』です。よろしくお願いします」

 一学期と同じような日々がまた始まるのかと思っていたが、一つ変わったことがあった。私のクラスに転校生がやってきたことだ。




「転校生が来たけど、これって、何かの前ふりかな」

「それ、わかる気がする。ラブコメなら大抵、主人公が朝、パンを加えた美少女とぶつかって、その子がまさかの自分のクラスの転校生」

「もしくは、『ヤッホー。主人公!久しぶり(はーと)』みたいな」

「何か、転校生についてかなりの偏見があるみたいですけど、私も芳子さんの意見は聞いたことがあります」

 昼休み、いつものように私たちは机を寄せ合ってお弁当を食べていた。その時に、話題に上がったのが『転校生』だった。ちょうど私のクラスに転校生が来たので、そのせいだろう。例によって、妹の陽咲と麗華も私のクラスでちゃっかりお弁当を食べていた。

 芳子が話題を振り、それぞれが転校生についての意見を述べている。パンをうんぬんはこなで、ハートマークを飛ばしているのは陽咲、こなでの意見に同意しているのは麗華だ。

『で、喜咲は転校生についてどう思う?』

 彼女たちが会話している様子を観察していたら、彼女たちの視線が私に集まった。私にも転校生についての意見を求めているらしい。さて、どう答えたら正解だろうか。


「今日来た転校生について言っているのなら、彼女は普通の転校生で、この後ラブコメも起こらないし、幼馴染と偶然再会もしない。主人公のハーレム要員にもならないし、幼馴染カップルの恋のキューピッドにもならないし、当て馬にもならないでしょ」

 今日来た転校生をちらりと確認する。帰国子女とは言っていたが、両親は日本人らしく、黒髪黒目、日本人の顔をしていた。教室の前で自己紹介した時に、知り合いがクラスメイトにいた雰囲気でもなかったし、今も、転校生に興味を持った集団と一緒に仲良くお弁当を食べていた。特に問題視するようなことも起きていないため、視線を陽咲たちに戻す。


「うわ、転校生要素満載の解答ありがとう。転校生キャラが困りそうなほどのキャラ設定ごちそうさまです」

 陽咲になぜか合掌された。

「ていうか、何度も言っているけど、喜咲が一番、フィクションと現実があいまいかもしれないわね」

「まあ、転校生と言っても、しょせん三次元、我々の生きている場所での彼女は、そこまで魅力があるとは思えないね」

 芳子とこなでが私の意見を聞いたにも関わらず、興味が失せたような顔をしていた。芳子に至っては、私を馬鹿にしているとしか思えない発言をしている。これは看過できないので、すぐに反論した。


「私は別に、二次元と三次元を一緒になんて考えてな」




「そう言えば、転校生の山下さんって、彼女のことですか?」

 私の反論は、麗華に遮られてしまった。麗華も私たちのグループに慣れてきたのか、空気を読まない発言をしてくることがある。彼女の言葉のせいで、私の反論は誰にも聞いてもらえなかった。

「そうだけど、転校生がどうかしたの?」

 仕方なく、麗華が指さした方向に目を向ける。そこには、私のクラスに転校してきた山下絵怜が数人のクラスメイトの女子と楽しそうにお弁当を食べているはずだった。グループを作ってお弁当を食べているのは、私たちも同じなので、可笑しなことではないだろう。しかし、どうして一発で転校生だと見抜いたのだろうか。

「アレ?なんか、三次元が二次元に近づいている?」

 芳子たちも麗華の指さした方向に目を向けたようだ。芳子の意味不明な言葉に首をかしげるも、その理由はすぐに判明することになった。さらには、麗華が転校生だと気づいた理由も判明した。




「絵怜(えれん)、お前、日本に戻ってくるっていうのは、本当だったんだな」

「私が陽一(よういち)に嘘言うわけないでしょう!お父さんの仕事がやっと一段落して、日本に戻ってこれたの。大学は日本の大学を受けるつもりだから、一緒に行けるかもよ」

「冗談きついぞ。絵怜の頭とオレの頭じゃ、出来が違うだろ」

「だったら、私と一緒に大学に受けるように勉強しろよー!」

 そこには、二人の男女が仲睦まじく会話する姿があった。私が見ていた光景は何だったのだろうか。先ほどまで山下絵怜は、クラスメイトの女性と仲睦まじく弁当を食べていたはずだった。いつクラスメイトの男子と接触したのだろうか。しかも、クラスメイトの女性のグループから外れて、クラスの男子と机を向かい合わせにして話している。

「いやいや、まさか本物が見れるとは」

「陽咲の転校生論が当たった……」

 芳子とこなでが呆然と陽咲を見る。陽咲は、まさか自分の言葉が現実になるとは思っていなかったようで、慌てて弁解を始めた。

「ええと、ま、まぐれだよ。まぐれ、あ、明日は雪かもしれないね。で、でもさあ、これって、チャンスじゃない?」

『チャンス?』

 陽咲の言葉に、その場にいる私たちの声が見事にハモりを見せた。何がチャンスだというのだろうか。

「チャンスよ。だって、二次元が現実にも起こりうるって言うことがわかった。ということは、他にもたくさんのフィクションが現実に紛れ込んでいるかもしれないというわけ。だから」

 こなでは、よほど頭が混乱しているのか、意味不明なことを言いだした。

「だから、彼女に近づいて、確認してみるのはどうかということよ!」

「なるほど。陽咲の言うことは一理ある」

「ひさきっち、天才かもー」

 自分の妹の意味不明な言葉が理解されてしまった。しかし、このままでは、転校生の将来がやばいことは確実だ。




「いやいや、そんなことのために、彼女をこちら側に引き寄せるのは……」

「私も、喜咲さんの意見に賛成です。なぜなら、彼女は私たちと正反対の……」



「キーンコーンカーンコーン」

 私の言葉にかぶせるように麗華も意見を述べる。珍しく麗華は私の意見に賛成のようだが、理由が私と異なる気がする。とはいえ、その言葉はタイミング悪く、チャイムにかき消されてしまった。

昼休み終わりのチャイムが教室に響き渡る。陽咲と麗華は慌てて荷物を持って教室を出ていった。私たちも次の準備のために動き出す。


 二学期も面白くなりそうな予感がした。
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