218 / 234
番外編【親知らず抜歯】1痛いのは嫌ですが……
しおりを挟む
「大鷹さんって、親知らずありますか?」
GWも終わって、世間が五月病だと騒ぐ季節となった。夕食後、私は大鷹さんにある質問をする。
「唐突ですね。僕は4本生えていましたが、大学生の時に4本とも抜きました」
「4本……」
「僕に親知らずの有無を聞いてきたってことは、紗々さんも生えているってことですよね?痛みが出てきて、抜こうかなって感じですか?」
「まあ、はい……」
私には縁がないと思っていた親知らずだが、最近、なんだか、口の奥の方に違和感を覚えるようになってきた。そして、GW前に行った歯医者の定期的な歯のクリーニングで、歯科医師にこう言われた。
『親知らずが右上に1本、左上に1本、生えていますけど、どうしますか?痛みがないのなら、今はまだ抜かなくて良いと思いますけど、将来的には抜いておいた方が良いと思いますよ』
その時は、ちょっと家に帰って考えます、と言って保留にしていた。とはいえ、このまま放置してよい問題ではない。だから、大鷹さんに親知らずについてきいてみたわけだ。
「もし、紗々さんが嫌でないのなら、医者の言う通り、抜いておいた方がいいと思います。ネットとかで自分で調べたらわかりますけど、親知らずって、そのままにしていてよいことってないらしいです」
「やっぱり、そう、ですよね?」
別に親知らずを抜きたくないわけではない。歯医者には定期的に行っているので、病院が苦手なわけでもない。ただ、痛いのは嫌だなと思ってしまう。大鷹さんの言う通り、抜いた方が良いという情報は山ほど出て来た。そして、それと同時に。
「でも、痛いのは嫌だなって……」
つい、本音が口から出てしまう。慌てて口を押えようにも、ばっちりと大鷹さんに聞かれてしまう。誰だって痛いのは極力避けたいと思うのは普通のことだ。
大鷹さんは苦笑していたが、私の気持ちも理解してくれているようだ。
「確かに痛いですね。でも、上の親知らずと下の親知らずで抜いた時の痛みは全然違うみたいですよ。紗々さんは上下どちらですか?」
「上と下、1本ずつです……」
「そうですか……」
しばらく私たちは無言で食事を続ける。今日の夕食は豆乳パスタだ。最近はスマホで調べると簡単に料理のレシピを調べることができる。今まではパスタを作るのに、麺はゆでなくてはならないという固定概念があった。しかし、フライパンひとつで、具材とともにゆでて、ひとつのフライパンだけで完成してしまう【ワンパン】パスタなるレシピを見かけて、パスタを作るハードルがぐっと下がった。
ネットに感謝様様である。料理のレシピも簡単に出てくるし、当然、親知らずについての情報も山ほど出てくる。
「今のところ、何か重要な予定もないし、抜くなら今しかない、ですよね」
「気になるなら、ですね。でも、抜歯後は痛み止めももらうし、何とかなる、と思いますよ」
大鷹さんは軽い調子に勇気づけられる。経験者がそう言っているのだから、きっと大丈夫だ。
「大鷹さんは4本でしたが、私は2本ですからね。嫌ですけど、とりあえず、いつ抜けるのか歯医者に予定を聞いてみます」
思い立ったが吉日。ここは勢いで抜いてもらうしかない。
「親知らず、ですか。私も大学生の頃に抜きましたよ」
「私は生えていないみたいです」
次の日の昼休憩中、歯医者の予約を入れる前に、河合さんと梨々花さんに親知らずについて聞いてみた。大鷹さんだけでなく、他の人の意見も聞きたくなったからだ。二人は珍しく私の質問に快く答えてくれた。
「河合さんは抜いたんですね。やっぱり、痛かった、ですよね?」
「まあ、痛かったですよ。上はそれほど痛くなかったですけど、下の親知らずは……。でも、抜いた方がいいですよ、絶対。抜くと小顔効果もあるみたいですし、虫歯とかの問題もあるみたいですから」
「痛いのは嫌ですけどねえ。でも、私の周りでも抜いている人は結構いるので、抜いたらいいんじゃないですか?痛そうにしている倉敷先輩とか、顔が腫れてる倉敷先輩を見るのもおもしろ」
「梨々花さん、先輩で遊ばないの」
「別に遊んだりなんかしませんよ。ただ、思ったことを口にしただけです。それに、こんなことは江子先輩には言いませんし、他の人にだって言いません!」
私は常識人ですから。
嫌な事を言う後輩である。そして、なぜ、自分が常識人だと胸を張って言えるのか謎である。まあ、自己肯定感が高いに越したことはないし、本人の言う通りなら、他の人に迷惑をかけて居なさそうなのでいいのだろうか。
「いや、だったら、私にも言わないで欲しいです」
「江子先輩、それで、今度私と一緒に、このお店行きません?ここのカレーがおいしいって有名なんです。ああ、倉敷先輩は、抜歯後はそういうのは控えたほうがいいんでしたね」
通常運転で今日も梨々花さんも元気そうで何よりだ。
「梨々花ちゃん、せっかくだし、紗々先輩と3人で行きたいな」
「えええ!まあ、江子先輩が言うなら、仕方ありませんね」
2人が何やら話しているが、まずは予約である。私はスマホを取り出し、意を決して、歯医者に予約の電話を入れることにした。
GWも終わって、世間が五月病だと騒ぐ季節となった。夕食後、私は大鷹さんにある質問をする。
「唐突ですね。僕は4本生えていましたが、大学生の時に4本とも抜きました」
「4本……」
「僕に親知らずの有無を聞いてきたってことは、紗々さんも生えているってことですよね?痛みが出てきて、抜こうかなって感じですか?」
「まあ、はい……」
私には縁がないと思っていた親知らずだが、最近、なんだか、口の奥の方に違和感を覚えるようになってきた。そして、GW前に行った歯医者の定期的な歯のクリーニングで、歯科医師にこう言われた。
『親知らずが右上に1本、左上に1本、生えていますけど、どうしますか?痛みがないのなら、今はまだ抜かなくて良いと思いますけど、将来的には抜いておいた方が良いと思いますよ』
その時は、ちょっと家に帰って考えます、と言って保留にしていた。とはいえ、このまま放置してよい問題ではない。だから、大鷹さんに親知らずについてきいてみたわけだ。
「もし、紗々さんが嫌でないのなら、医者の言う通り、抜いておいた方がいいと思います。ネットとかで自分で調べたらわかりますけど、親知らずって、そのままにしていてよいことってないらしいです」
「やっぱり、そう、ですよね?」
別に親知らずを抜きたくないわけではない。歯医者には定期的に行っているので、病院が苦手なわけでもない。ただ、痛いのは嫌だなと思ってしまう。大鷹さんの言う通り、抜いた方が良いという情報は山ほど出て来た。そして、それと同時に。
「でも、痛いのは嫌だなって……」
つい、本音が口から出てしまう。慌てて口を押えようにも、ばっちりと大鷹さんに聞かれてしまう。誰だって痛いのは極力避けたいと思うのは普通のことだ。
大鷹さんは苦笑していたが、私の気持ちも理解してくれているようだ。
「確かに痛いですね。でも、上の親知らずと下の親知らずで抜いた時の痛みは全然違うみたいですよ。紗々さんは上下どちらですか?」
「上と下、1本ずつです……」
「そうですか……」
しばらく私たちは無言で食事を続ける。今日の夕食は豆乳パスタだ。最近はスマホで調べると簡単に料理のレシピを調べることができる。今まではパスタを作るのに、麺はゆでなくてはならないという固定概念があった。しかし、フライパンひとつで、具材とともにゆでて、ひとつのフライパンだけで完成してしまう【ワンパン】パスタなるレシピを見かけて、パスタを作るハードルがぐっと下がった。
ネットに感謝様様である。料理のレシピも簡単に出てくるし、当然、親知らずについての情報も山ほど出てくる。
「今のところ、何か重要な予定もないし、抜くなら今しかない、ですよね」
「気になるなら、ですね。でも、抜歯後は痛み止めももらうし、何とかなる、と思いますよ」
大鷹さんは軽い調子に勇気づけられる。経験者がそう言っているのだから、きっと大丈夫だ。
「大鷹さんは4本でしたが、私は2本ですからね。嫌ですけど、とりあえず、いつ抜けるのか歯医者に予定を聞いてみます」
思い立ったが吉日。ここは勢いで抜いてもらうしかない。
「親知らず、ですか。私も大学生の頃に抜きましたよ」
「私は生えていないみたいです」
次の日の昼休憩中、歯医者の予約を入れる前に、河合さんと梨々花さんに親知らずについて聞いてみた。大鷹さんだけでなく、他の人の意見も聞きたくなったからだ。二人は珍しく私の質問に快く答えてくれた。
「河合さんは抜いたんですね。やっぱり、痛かった、ですよね?」
「まあ、痛かったですよ。上はそれほど痛くなかったですけど、下の親知らずは……。でも、抜いた方がいいですよ、絶対。抜くと小顔効果もあるみたいですし、虫歯とかの問題もあるみたいですから」
「痛いのは嫌ですけどねえ。でも、私の周りでも抜いている人は結構いるので、抜いたらいいんじゃないですか?痛そうにしている倉敷先輩とか、顔が腫れてる倉敷先輩を見るのもおもしろ」
「梨々花さん、先輩で遊ばないの」
「別に遊んだりなんかしませんよ。ただ、思ったことを口にしただけです。それに、こんなことは江子先輩には言いませんし、他の人にだって言いません!」
私は常識人ですから。
嫌な事を言う後輩である。そして、なぜ、自分が常識人だと胸を張って言えるのか謎である。まあ、自己肯定感が高いに越したことはないし、本人の言う通りなら、他の人に迷惑をかけて居なさそうなのでいいのだろうか。
「いや、だったら、私にも言わないで欲しいです」
「江子先輩、それで、今度私と一緒に、このお店行きません?ここのカレーがおいしいって有名なんです。ああ、倉敷先輩は、抜歯後はそういうのは控えたほうがいいんでしたね」
通常運転で今日も梨々花さんも元気そうで何よりだ。
「梨々花ちゃん、せっかくだし、紗々先輩と3人で行きたいな」
「えええ!まあ、江子先輩が言うなら、仕方ありませんね」
2人が何やら話しているが、まずは予約である。私はスマホを取り出し、意を決して、歯医者に予約の電話を入れることにした。
0
あなたにおすすめの小説
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる