結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【親知らず抜歯】1痛いのは嫌ですが……

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「大鷹さんって、親知らずありますか?」

 GWも終わって、世間が五月病だと騒ぐ季節となった。夕食後、私は大鷹さんにある質問をする。

「唐突ですね。僕は4本生えていましたが、大学生の時に4本とも抜きました」

「4本……」

「僕に親知らずの有無を聞いてきたってことは、紗々さんも生えているってことですよね?痛みが出てきて、抜こうかなって感じですか?」

「まあ、はい……」

 私には縁がないと思っていた親知らずだが、最近、なんだか、口の奥の方に違和感を覚えるようになってきた。そして、GW前に行った歯医者の定期的な歯のクリーニングで、歯科医師にこう言われた。

『親知らずが右上に1本、左上に1本、生えていますけど、どうしますか?痛みがないのなら、今はまだ抜かなくて良いと思いますけど、将来的には抜いておいた方が良いと思いますよ』

 その時は、ちょっと家に帰って考えます、と言って保留にしていた。とはいえ、このまま放置してよい問題ではない。だから、大鷹さんに親知らずについてきいてみたわけだ。

「もし、紗々さんが嫌でないのなら、医者の言う通り、抜いておいた方がいいと思います。ネットとかで自分で調べたらわかりますけど、親知らずって、そのままにしていてよいことってないらしいです」

「やっぱり、そう、ですよね?」

 別に親知らずを抜きたくないわけではない。歯医者には定期的に行っているので、病院が苦手なわけでもない。ただ、痛いのは嫌だなと思ってしまう。大鷹さんの言う通り、抜いた方が良いという情報は山ほど出て来た。そして、それと同時に。

「でも、痛いのは嫌だなって……」

 つい、本音が口から出てしまう。慌てて口を押えようにも、ばっちりと大鷹さんに聞かれてしまう。誰だって痛いのは極力避けたいと思うのは普通のことだ。

大鷹さんは苦笑していたが、私の気持ちも理解してくれているようだ。

「確かに痛いですね。でも、上の親知らずと下の親知らずで抜いた時の痛みは全然違うみたいですよ。紗々さんは上下どちらですか?」

「上と下、1本ずつです……」

「そうですか……」

 しばらく私たちは無言で食事を続ける。今日の夕食は豆乳パスタだ。最近はスマホで調べると簡単に料理のレシピを調べることができる。今まではパスタを作るのに、麺はゆでなくてはならないという固定概念があった。しかし、フライパンひとつで、具材とともにゆでて、ひとつのフライパンだけで完成してしまう【ワンパン】パスタなるレシピを見かけて、パスタを作るハードルがぐっと下がった。

 ネットに感謝様様である。料理のレシピも簡単に出てくるし、当然、親知らずについての情報も山ほど出てくる。

「今のところ、何か重要な予定もないし、抜くなら今しかない、ですよね」

「気になるなら、ですね。でも、抜歯後は痛み止めももらうし、何とかなる、と思いますよ」

 大鷹さんは軽い調子に勇気づけられる。経験者がそう言っているのだから、きっと大丈夫だ。

「大鷹さんは4本でしたが、私は2本ですからね。嫌ですけど、とりあえず、いつ抜けるのか歯医者に予定を聞いてみます」

 思い立ったが吉日。ここは勢いで抜いてもらうしかない。


「親知らず、ですか。私も大学生の頃に抜きましたよ」

「私は生えていないみたいです」

 次の日の昼休憩中、歯医者の予約を入れる前に、河合さんと梨々花さんに親知らずについて聞いてみた。大鷹さんだけでなく、他の人の意見も聞きたくなったからだ。二人は珍しく私の質問に快く答えてくれた。

「河合さんは抜いたんですね。やっぱり、痛かった、ですよね?」

「まあ、痛かったですよ。上はそれほど痛くなかったですけど、下の親知らずは……。でも、抜いた方がいいですよ、絶対。抜くと小顔効果もあるみたいですし、虫歯とかの問題もあるみたいですから」

「痛いのは嫌ですけどねえ。でも、私の周りでも抜いている人は結構いるので、抜いたらいいんじゃないですか?痛そうにしている倉敷先輩とか、顔が腫れてる倉敷先輩を見るのもおもしろ」

「梨々花さん、先輩で遊ばないの」

「別に遊んだりなんかしませんよ。ただ、思ったことを口にしただけです。それに、こんなことは江子先輩には言いませんし、他の人にだって言いません!」

 私は常識人ですから。

 嫌な事を言う後輩である。そして、なぜ、自分が常識人だと胸を張って言えるのか謎である。まあ、自己肯定感が高いに越したことはないし、本人の言う通りなら、他の人に迷惑をかけて居なさそうなのでいいのだろうか。

「いや、だったら、私にも言わないで欲しいです」

「江子先輩、それで、今度私と一緒に、このお店行きません?ここのカレーがおいしいって有名なんです。ああ、倉敷先輩は、抜歯後はそういうのは控えたほうがいいんでしたね」

 通常運転で今日も梨々花さんも元気そうで何よりだ。

「梨々花ちゃん、せっかくだし、紗々先輩と3人で行きたいな」

「えええ!まあ、江子先輩が言うなら、仕方ありませんね」

 2人が何やら話しているが、まずは予約である。私はスマホを取り出し、意を決して、歯医者に予約の電話を入れることにした。


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