人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

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2異変

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「全校生徒の皆さんは、授業後、速やかに帰宅してください。繰り返します。全校生の皆さんは、授業後……」

 今日は今までとは違う一日となった。放課後は部活がなくなり、授業後、生徒は強制帰宅を命じられた。理由は明かされず、全校生徒は速やかに帰宅するようにと校内放送が入った。

「今日は全部活が中止となりました。生徒の皆さんは、速やかに自宅に帰宅するようにしてください」

 帰りのHRの最中に校内放送が入り、その後は担任からも、すぐに帰宅するよう指示された。

「緊急の職員会議を行いますので、先生方は、帰りのHRが終わり次第、職員室に集まってください。繰り返します。緊急の職員会議を行いますので……」

 生徒の帰宅を促す校内放送の後は、緊急の職員会議を行うという放送が入る。紫陽の担任は、放送が入るや否や、すぐに帰りの挨拶をして、生徒の様子も見ずに教室から飛び出していく。

「では、先生は職員会議があるそうなので、これで失礼します。君たちも、寄り道せずに、さっさと帰宅するように。皆さん、さようなら!」

 教室から出ていく担任の左手は、朝と同じようにスラックスのポケットに突っ込まれたままだった。




 紫陽は家に帰ると、制服を着替えるより先に、自分の部屋にあるパソコンの電源を入れる。パソコンが起動するまでの間に、制服から部屋着に着替えていると、ドアをノックする音が聞こえた。慌てて着替えを終えてドアの外に声をかける。

「どうした?」

 この時間に家にいるのは、今家に帰ってきた紫陽と中学生の妹くらいである。家の前に車は一台もなかったので、両親はまだ仕事をしているのだろう。

 紫陽が返事をすると、ドアを開けて妹が入ってきた。何やら真剣な表情で、思いつめた顔をしている。

「あのね、お兄ちゃん。ニュースはもう見た?そのことなんだけど……」

「もしかして、すみれも『スマホが手から離れなくなった』とかいうんじゃないだろうな」

 妹の手をまじまじと見つめてしまう。しかし、妹の手にスマホは握られていなかった。高校で盛り上がっていたスマホの話題が頭から離れず、つい、妹の手を確認してスマホが握られていないことに安堵してしまう。今日のニュースといったら、それくらいしか思いつかない。

「私は大丈夫だけど、私の友達が……」

 話している途中で、急に泣き出してしまった妹の背中を撫でて、落ち着かせる。妹は紫陽に話を聞いてもらうために、泣きながらも話を続けた。

「あさ、いっしょに、が、がっこうに、行こうとして、い、いえをを出たよって、コネクトで連絡を取ったら、手から、スマホが、は、はなれないって連絡が来て……」

 つっかえながらも、説明を終えた妹は、その後、大声で泣き出してしまった。


 話を要約すると、すみれの友達は、紫陽のクラスメイトの高橋と同じ状況になってしまった。夜にスマホを持ったまま、寝落ちしてしまった妹の友達は、朝起きて、手にスマホを握っていることに気が付いた。彼女にとっては、スマホを持ったまま寝落ちしてしまうのはよくあることで、またやってしまったという感じだった。

 しかし、いつもと様子が違ったのは、握った手からスマホが離れなかったこと。慌てた彼女は母親に相談した。母親は娘の現状を確認して、学校を休むよう娘に伝えた。

 妹は、友達から連絡を受けて、登校前に友達の家に足を運んだ。そして、本当に友達の手からスマホが離れないことを自分の目で確認した。確かめたからといって、友達の手からスマホが離れることはない。仕方ないので、妹はそのまま学校へ向かった。

 学校に行くと、クラスでは3人の生徒が欠席していたそうだ。どの生徒の欠席理由も体調不良ということで、どこが悪いのか詳しいことは教えてもらえなかったらしい。



 話を聞いた紫陽は、起動を終えたパソコンで、妹から聞いたことや学校で見た光景をネットで検索することにした。妹も一緒にパソコンを覗き込む。

 検索画面のトップに「スマホが手から離れない」というニュースが載っていたので、その項目をクリックする。

すると、そこには妹の友達や紫陽の学校で起きた出来事と同じようなことが全国各地、いや、世界各地で起こっているという記事が掲載されていた。


「ただいまあ」
「ただいま」

 家の玄関のドアのカギを開けるガチャリという音と、挨拶が聞こえてきた。紫陽と妹は顔を見合わせて、母親と父親を出迎えるために一階に降りた。

 仕事から帰宅した両親を出迎えた二人は、真っ先に彼らの手を確認する。そしてスマホが握られていないことを確認する。

 夕食中に見ていたテレビでは、スマホが手から離れないというニュースがどの放送局でも報道していた。

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