恋にもがく中学生

折原さゆみ

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1加藤紗那(かとうさな)④

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「では、一時間目の授業を始めましょうか」

 転校生が自分の隣の席に来るという事実を聞いて、私は少しの間、放心状態となっていた。その間に朝の会は終わり、いつの間にか、教卓に立っている先生が担任のミーちゃんではなくなっていた。

 一時間目は数学だった。数学の担当は、若い男性教師だった。私はあまりタイプではないが、一部の女子からはかっこいいと定評のある先生だ。一時間目の数学の授業を始めるために、先生は、教科書とノートを開くように指示を出す。クラスメイトは指示に従って授業の準備を始めていた。私も、指示に従って、机の中から教科書とノートを取り出す。先生は、クラス全体を見渡し、全員の机に教科書とノートがあることを確認したのだろう。今日の日直の当番を黒板で確認して、挨拶するように目配せする。

「起立」

 日直のクラスメイトが号令をかける。その指示に従ってクラスメイトは席を立つ。

「加藤さん、具合が悪いのですか。授業を始めますよ」

「す、すいません。大丈夫です」

 流れに乗れず、私は席を立つのが遅れてしまった。思いのほか、転校生のことで頭を悩ませている自分に驚くが、今はそのことは頭の隅に置いておこう。席を立ち、ひとまず落ち着こうと深呼吸する。

「お願いします」

 教室にクラスメイトの挨拶が響き渡った。



「クスッ」

 数学の授業が始まり。教室は静まり返る。先生が黒板に白いチョークでかつかつと数式を書いていく。外は相変わらずの雨で、雨音が教室にいてもザーザーと聞こえてくる。

 その中で、私の隣から聞こえたのは、静けさに似合わぬ小さな笑いだった。隣にいるのは、当然、今朝来た転校生。ちらりと隣を見ると、どうやら、教科書は、前の中学でも同じものを使っていたらしい。私が貸す必要がなくて、よかったことは不幸中の幸いだと思うことにした。

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