恋にもがく中学生

折原さゆみ

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3小山内詩衣(おさないしい)~三谷裕次郎(みたにゆうじろう)③~

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「澪ねえ。あいつって、なんだか変わってるよな。他人と話すときに、なんか緊張してる感じがするんだよね。俺だけにかもしれないけど。あんな、社交的で誰とでも打ち解けられます、みたいな雰囲気をだしているわりに、よくみると、緊張している感じが矛盾していておかしい」

「やっぱりそう思うよねえ。わかるわかる。次郎に対して、もしかして、対抗意識もっているのかもしれないよ」

 どうやら、当の本人も、他の人とは違う視線を受けていることには気付いているようだ。それがどのような感情なのかはわかっていないみたいだが。

「ああ、でも、俺、澪みたいな視線を受けたことある気がする。ええと……。確か、あれは」



「じろう、日直の仕事、終わったあ?」

 何か大事なことを言おうとしている次郎の言葉を遮るように、教室に騒がしい声が入ってきた。

「ああ、実乃(みの)か。ごめんごめん。結構日誌書くのに戸惑って。小山内が頑張って書いてたんだけど、さすがに一人で任せるのは、どうかと思ってたんだ。でも、もうすぐ終わるから」

 声がした方に視線を向けると、次郎を取り巻く女子の一人がそこにいた。廊下の窓に肘をついて、次郎のことを待っているようだ。さいわい、学級日誌はほぼ書き終えてある。後は、見直しと今日の一言を書くだけで終わりだ。

「ごめんね、実乃さん。もう終わるから。次郎、私が職員室に日誌をもっていくから、実乃さんと帰っていいよ」

「悪いな。じゃあ、遠慮なく帰らせてもらうわ」

 私の言葉に頷いて、二人は教室を出ていった。さて、私もさっさと日誌を書き上げて職員室によって帰ろうと思っていたら。

「詩衣だけか。一足遅かったみたいだな。」

 何と、当の本人がやってきたのに驚いて、私はシャーペンを手から落としてしまった。シャーペンが床に落ちる、からんという音がやけに大きく聞こえた。

「そんなに驚いた顔をしなくてもいいだろう。ちょっと、教室に忘れ物を取りに来ただけだ」

 私は、そんなに驚いた顔をしていたのだろうか。あわてて、自分の顔を手で触ってみるが、あいにくと、触るだけでは自分がどのような顔になっているのかわからない。私の怪しい行動が面白かったのか、澪は笑いながら自分の机の中をあさっていた。本当に忘れ物を取りに教室に戻ってきたようだ。

「それで、次郎の奴はどこ行ったんだ?まさか、詩衣一人で日誌を書いていたんじゃないだろうな」

「そんな責任感ない奴じゃないよ、次郎は。お迎えがきていたみたいだから、私が後はやっておくと言っておいた」

「そうか………。まあ、次郎は確かにそんな嫌な奴じゃなかったな」

 私の驚いた顔を見て笑った顔とは違う、寂しそうな笑顔をみせて、用は済んだとばかりにじゃあな、と教室を去ろうとする澪に。つい声をかけてしまった。

「澪ってさ。実は、次郎のことが……」



「キーンコーンカーンコーン。」

 絶妙のタイミングで、私の言葉は途中で消されてしまった。時計を見ると、すでに下校時刻を迎えていた。これから放送が入り、校内にいる生徒は急いで玄関に向かうだろう。外で部活をしている生徒も急いで帰り支度を済ませて、帰宅していく時間だ。

「オレたちも帰ろうか」

 私の言葉は、チャイム音で澪には聞こえなかったのだろうか。しかし、私はそれでよかったと思っている。もし、私の推測が当たっていたら、あまりにも悲しい結末を迎えそうだったから。
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