恋にもがく中学生

折原さゆみ

文字の大きさ
23 / 25

3小山内詩衣(おさないしい)③

しおりを挟む
 医者に部活に行く許可を得られたことから、次の日からも私は部活に行った。もちろん、重たいものを運んだり、走ったりすることは厳禁だったので、タイムを計ったり、タイムを記録するなどの仕事を主にしていた。最近の夏は猛暑なので、こまめに休憩を取りながらの練習となる。

「なあ、詩衣、話があるんだが、部活の終わりに時間あるか?」

 本日二回目の休憩で、日陰で休んでいると、澪に話しかけられた。たまたま、部員に飲み物を渡し終えて、一人で涼んでいたところを見計らっていたようだ。

「別に暇だけど、なんの話?ここでは、まあ、休憩時間も短いし無理だね」

 澪は、緊張と不安が入り混じった微妙な顔をしていた。何を話してくれるのかわからないが、あまり良い話ではなさそうだ。もしかして、好きな人に振られた話を私に相談してくれるのか。そうだとしたら、私は傷ついた心に塩を塗りこめられるということになる。

 私の言葉を了承ととらえたのだろう。そうかと軽く答えただけで、その場を去ってしまった。

「休憩終わりだぞ。さっさと練習に戻れ」

 部活の顧問も、外の気温三十度越えの炎天下の中で、だるそうでやる気がなさそうだった。しかし、とりあえず部活をやめるという気はないらしい。仕方なく、他の部員と同様に私も自分の持ち場に急いだ。



「よし、これで本日の部活は終わりだ。熱中症にならないよう、気を付けて帰るように」

 練習が終わり、皆、ちりぢりに帰宅する。私も帰りたかったが、あいにく予定が待っていた。

「詩衣は帰らないの?」

「いや、帰りたいのはやまやまだけど、ちょっとこれから用事が……」

「そう、じゃあ、また明日」

 智樹は、私に何の用事があるのか興味がなかったのか、挨拶してすぐに校門から見えなくなった。

「さてっと」

 ぼやぼやしていても、時間は待っていてくれない。私は澪との待ち合わせ場所に急ぐことにした。とはいっても、落ち合う場所は、私たちの教室だった。

「なんでまた、教室で待ち合わせなのか、気になるところではなるが」

 今は夏休みで、陸上部の部活は午前中で終わりだ。基本的に陸上部は午前のみが部活のことが多く、お昼前には家に帰ることができる。他の運動部や吹奏楽部に比べて楽だとは思う。

「ぐううう」

 早く家に帰りたいと、私の心の声は、身体の声となって現れていた。お腹の音が教室に響き渡るが、あいにく今は誰もいないので、恥ずかしい音は私だけしか知ることがないのが幸いだった。

「なんで、小山内がこんなところにいるんだ?」

 前言撤回。私以外にも聞かれてしまった。

「ゲッ。次郎かよ。そっちこそ、夏休みなのに、なんでこんなところに出没しているの?おかしいでしょ」

「俺は純粋に忘れ物。ほらこれ」

 純粋に忘れ物のようだった。手には、机の中から取り出した参考書が握られている。それにしても、次郎も間抜けだが、その前にも、澪が忘れ物を取りに来たことがあるのを思い出す。そんなに教室に忘れ物をするほど間抜けな二人だっただろうか。そんなことを考えながら、次郎のことを見つめていたら、次郎は忘れ物をもってすぐに教室を出ることなく、私に近づいてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...