恋にもがく中学生

折原さゆみ

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3小山内詩衣(おさないしい)④

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「お前に会えたのも、何かの縁かもな。ちょうどいい。野球部は午後錬あるけど、今は昼休憩中だから、ちょっとお前の時間を借りてもいいか?」

「いや、あいにく、今日はこの後、先客があるから、話を聞くのは明日以降になるかな」

「先客?それって……」

「ごめん、詩衣。遅くなって。ちょっと、部活の顧問に捕まって。あれ、次郎がなんでここに居る?」

 次郎が話している途中で、私に話があると言っていた、先客である澪が教室にやってきた。教室まで急いできたのだろうか。顔に汗が吹き出して、タオルで拭っている。

「別にそんなに待っていないからいいよ。それで、話って何?ああ、次郎がいるのは偶然だよ。次郎は忘れ物を取りに来たんだってさ」

「いや、詩衣、偶然にしてはできすぎてるよね。もしかして、次郎、お前の好きな奴って……」

「じゃあな。小山内。俺の話はまた今度聞いてくれ」

 そういえば、澪は次郎に対して、他の人とは違う何か特別な感情を持っているかもしれなかった。ということは、最悪なタイミングで二人が鉢合わせてしまったということだ。どうしたらいいのか、二人の間でおろおろしているうちに次郎が教室から出ていった。



「さて、俺の話だけどさ。まずは、真実を聞いておきたいけど、詩衣はさ、次郎のことが好きなの?」

「いきなりだね。好きではないよ。嫌いではないけど、恋愛対象としてではないね。第一、私の好みではない」

 つい、正直な感想を伝えてしまった。誰だって、好きな人に、別の人が好きではないかと疑われて、良い気分でいられるはずがない。怒り気味でやけくそに話すと、澪は驚いた顔をしていた。意外だったようだ。

「そうなん、だ。詩衣が嘘を言うことはないと思うけど、そっか。それならいいや。本当に、今日ここで会ったのは偶然なんだね?」

 私の言葉に納得できないのか、私に疑いの言葉と視線を向けてくるが、本当に偶然、次郎と会ったのだ。納得してもらうほかない。

「私が嘘を言うことはないって思うなら、信じてよ!」

「そ、そうだね。ごめん、疑ったりして」

 最終的にどうにか納得してもらったが、一つ不可解な点があった。私が次郎に偶然会ったという事実に安どの表情を浮かべていたことだ。その時の私は特に何も考えていなかった。夏の暑さと空腹でイライラしていた。だから、聞いてしまった。

「澪ってさ、実は次郎のことが好きだったりして」

「な、なっつ!」

「図星なの!」

 澪は、私がカマをかけていることに気付いておらず、慌てふためいた。これは本当に図星のようだ。しかし、その後の反応は私が想像していたものと違っていた。

「し、知っていたんだな。詩衣って、見ていないようで、いろいろ見ているんだな」

 何と、開き直ってしまったのだ。もっと、冷静さを失ってしまうか、白を切ってごまかすかと思っていたのに。これでは私がどう反応していいかわからない。私が沈黙していると、次第に冷静さを取り戻したのか、澪の顔が蒼染めていく。

「いや、もしかして、知らなかったの、か。俺は墓穴を掘ったか。いや、でも……」



「詩衣。」
「澪」

 焦っていたのは、お互いさまで、名前を呼んで一度落ち着こうとしたら、見事にハモってしまった。教室にきれいなハモりが響き渡った。しかし、そのおかげで、互いに多少の落ち着きを取り戻すことができた。

「先にオレが話してもいいかな」

「どうぞ」

 澪に話を譲ることにした。もともと、この場にいるのは、澪が呼んだせいである。澪が話をするために私を呼んだのだから、先に話をしてもらった方がいいだろう。

 こうして、澪の話が始まった。そして、澪は話を終えると、私に何の感想も聞かずに、そのまま教室から出て行った。

「それを私に一番に話すとか、いったい、私は澪の中でどんな立ち位置にいるのだろうか」

 誰もいなくなった教室で、私がつぶやく声は外のセミの音に紛れて消えていく。外を見ると、今日も雲一つない快晴だった。しかし、私の心はそれとは反対にどんよりとした曇り空だった。

 夏休みは、特に何もないまま、終わりを告げた。澪との関係は、夏休みの間中、ぎくしゃくしたままだった。そして、二学期が始まってすぐ、澪は別の学校に転校してしまった。

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