この声が君に届くなら

折原さゆみ

文字の大きさ
9 / 72

9出会い

しおりを挟む
「橘花亜梨栖(きっかありす)。私と同じ中学二年生。親しくなったのは、去年の秋、くらいかな。去年に引き続き、今年も同じクラスになりました!」

【き、橘花亜梨栖(きっかありす)です。夜奏楽ちゃんにはお世話になっています。夜奏楽ちゃんは私の人生を変えてくれた大事な人です】

「そんな大げさなこと言わないでよ。私がアリスの魅力に気付かなくても、他の人がきっとアリスの魅力に気付いていたから。私が早かっただけだし」

【私は夜奏楽ちゃんが気付いてくれてよかった、とてもうれしかったんだよ】


 光詩が中学三年生の夏休みに入る前くらいだっただろうか。ある日の休日、夜奏楽が親友だという少女を光詩たちの家に招待した。ちょうど部活の大会が終わり、引退していたため、光詩は家で宿題をしていた。

 そんなときに突然、部屋をノックされ、妹とアリスが入ってきた。ノックしてくれたのは良かったが、その後の行動がいただけない。ノックの意味を分かっているのだろうか。ノックと同時に部屋に入ってくるのはやめてほしい。たまたま、宿題をしていたから良かったものの、他の他人に隠したいことをしていたらどうするつもりだったのか。

『よ゛そら゛。部屋にはい゛ってくる゛ときは、ノックを゛』

 光詩は途中で言葉を止めてしまった。妹が彼女と同年代の少女を連れてきたことが分かったからだ。妹だけなら、しっかりと注意しようと思ったが、他人がいるのに注意するのは気が引けた。それに、言葉を止めたのにはもう一つ、大きな理由があった。

『いま゛、声を出したのは……。きみ゛か?」

 部屋に入ると同時に妹が誰かを紹介した声は聞こえていた。しかし、その後に続いた声はとても小さかったものの、とても印象に残るものだった。

【ええと……】

「アリス!卑屈になっちゃだめ。アリスの声は魅力的だから、お兄ちゃんが気になったんだよ。自信を持ちなさい!」

 どうやら、光詩の聞き間違いではないようだ。先ほど聞いた印象的な声が、妹の隣の少女の口から発せられた。黒髪ショートの猫目の、長身でスラリとした体形の彼女からは想像もできない、小学生低学年のような、とても可愛らしい高い声だった。


「いきなり部屋に押し掛けてごめんね、お兄ちゃん。どうしても、お兄ちゃんにアリスを紹介したかったんだ」

【突然、夜奏楽ちゃんがお兄さんの家に行くって言い出した時は驚いたよ。ごめんなさい。勉強の邪魔でしたよね?】

 二人を部屋に向かい入れた光詩は部屋の隅に置かれていた簡易机を広げて、クッションを床に置いた。妹とアリスはおとなしくクッションの上に座り、光詩はベッドに腰かける。互いに少し落ち着いたところで、夜奏楽が先ほどまでの威勢の良さを隠して光詩に謝罪する。それにつられてアリスという少女もペコリと頭を下げた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...