この声が君に届くなら

折原さゆみ

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64話せてよかった

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『お゛れ゛、陸上部の゛マネージャーを、や゛る゛ことにした、ん゛だ』

 緊張で言葉がうまく口から出てこなかったが、それでも懸命にアリスに部活に入ることを話した光詩は、視線を自分の膝に落としてアリスの反応を待つ。光流の話を聞くため、夜奏楽とアリスはベッドから下りて、光流と同じようにクッション床に敷いて座っていた。

「もう、私、退散していいかな。この後の展開、読めるんだけ」

【ダメです!ていうか、どうして二人とも、私にそんな大事な話を秘密にしていたんですか!】

 光詩が話している間は静かに聞いていた夜奏楽が口を開く。腰まで上げていい加減にこの部屋から出たいようだ。しかし、すぐさまダメだとアリスに止められ、しぶしぶ腰を下ろす。アリスは顔を真っ赤にして怒っていた。夜奏楽だけでなく、光詩にまで怒りの矛先が向く。

【相談くらいしてくれてもよかったじゃないですか!光流先輩もアリスちゃんも、私はそんなに頼りなかったですか?】

「秘密ってほどでもないし。ていうか、むしろ、サプライズ的なノリだよね。だって、恋人が自分のために同じ部活に入ってくれたんだよ。これはむしろ、喜ぶ要素しかなくない?」

【うううう。でも、先に話してくれたら私、部活の顧問に話をつけましたよ。どうやってあの顧問に部活のこと、認めてもらったんですか?しかも、先輩は選手じゃなくて、マネージャー、ですよね?】

『実は、まだ、話はしてい゛な゛い゛』

「そうそう、実はまだなんだよ。だから、アリスに話すのはもう少し後になる予定だったんだけど」

 あまりにもお兄ちゃんとアリスの仲が進展しなさ過ぎて、私が早めちゃった。

 ぼそりとつぶやかれた言葉は光流の耳にしっかりと届いていた。

(本当に夜奏楽は自由すぎる)

 自分たちの仲が進展しないからという理由で、重要な話を前倒ししていいものか。とはいえ、アリスが夜奏楽のつぶやきを聞いていなくてよかった。

【とりあえず、私に相談してくれなかったのは悲しいです。でも、陸上部のマネージャーって、私と一緒に部活できるってことですよね。いつから一緒に活動できるんですか?】

 アリスは光詩たちが自分に相談せずに部活を決めてしまったことを怒っていたが、すぐに気持ちを切り替え、現実的な質問をする。気持ちの切り替えの早さに光詩は感心してしまう。

『とり゛あ゛えず、担任と陸上部の顧問に、み゛とめても゛ら゛ってから、だ。たぶん、夏休み直前くらい、だと、お゛も゛う』

 もうすぐ夏休みなので、本格的にマネージャーとしての活動が始まるのは休みに入ってからだろう。陸上部にはすでに女子のマネージャーが二人いるので、彼女たちから仕事を教えてもらうつもりだ。

【夏休みも光流先輩と一緒にいられる……】

「だから、私はこの場にいたくなかったんだよ。もういいでしょう。私は自分の部屋に戻るから」

 光流の言葉を聞いたアリスが嬉しそうな恥ずかしそうな顔をする。そんな顔が見ることができて、話せてよかったと、光詩の顔も緩んでしまう。ほんわかとした雰囲気に耐えかねた夜奏楽が今度こそ席を立ち、宿題のテキストも持たずに、どたどたと部屋を出ていった。


【後で、しれっとお菓子とか持ってきてくれるかもしれないですね】
『ア゛リ゛スは、ちゃっかり゛してい゛るな』

 二人の視線が交わり、互いが一緒に活動する姿を想像してほほ笑みあう。部屋は冷房を入れて冷やしてあるが、少しだけ身体が熱くなった。

(でも、これは心地よい暑さだ)

 まだ担任と顧問から部活の了承をもらっていないが、すでにアリスと一緒にできる日が楽しみだった。

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