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11受験の悪魔
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冬休みが明けて、授業が本格的に始まったが、大学は高校と違い、始まったと思えばすぐに春休みに入る。私の大学では二月の初めにはもう、授業が終わり、春休みに入ることになっていた。そのため、どの授業もテストについての説明や課題の提出についての説明から始まっていた。
久しぶりの大学生活に、私はいまだに慣れずにいた。「学生には長期休みがある」ことに慣れるのは、いったいいつになるのだろうか。
今日の服装は、「雪女」をイメージした。全身を白で統一して、白のワンピースに白いパンプス。さすがに生足は寒いので、ストッキングを着用している。メイクもあえて、白めにしてみた。
「相変わらず、地味よねえ」
「相変わらずの、目に痛い配色ですね」
お互いの服装の感想を言い合うのも随分と慣れてきた。今日のジャスミンの服装は、全身が真っ赤だった。真っ赤なワンピースに靴も小物もすべてだ。私が白で統一しているので、二人が並ぶと紅白でおめでたいことになってしまう。
「何をイメージしているのか聞いてもいいですか?」
「決まっているでしょう!寒いから、私自身が蒼紗の太陽になろうと思って、蒼紗を温めようと思ったのよ!」
「はあ」
ジャスミンの考えていることを理解できる日は、永遠に来ないかもしれない。太陽というのならば、黄色やオレンジなどの色が温かい光を現していると思う。それなのに、全身真っ赤に染め上げてくるのだから、よくわからない。
「そういえば、蒼紗は知っているかしら?なんでも、『受験の悪魔』と呼ばれるのが、今世間をにぎわせているらしいわよ」
「今の季節にぴったりなものが出ているのですね。とはいえ、そんなものが世間をにぎわせているのは、どうかと思いますけど」
ジャスミンは、授業中だというのに、こそこそと隣の席に座る私に話しかけてくる。私としては、授業で話されるテストや課題の内容に真剣に耳を傾けたいのだが、私の意志は完全に無視のようだ。
「それにしても、『受験の悪魔』ですか。もうそんな時期なんですね。一年はあっという間ですねえ」
ジャスミンが話しかけてくる以上、私は何か答えなければならない。私が無視することをジャスミンは良しとしない。返事がないということは、聞こえていないという解釈になるらしく、同じ話を永遠に繰り返されたことがある。それ以来、私は面倒でも返事をするよう心掛けている。
私が答えると、ジャスミンは自分の話を聞いてくれたと思ったのか、噂の説明をしてくれた。
「蒼紗は知らなくても当然か。ええと、受験生の間で広まっているらしいんだけど、受験に失敗するという夢を見た生徒が、次々と自殺を図るっている恐ろしい話。とりあえず、今のところ、死者は出ていないみたいだけど、死者が出るのは時間の問題だって、ニュースでも話題になっているわよ。でも、受験に失敗した夢を見たからって、自殺を図るなんて、くだらないと思わない?蒼紗もそう思うでしょう!」
私が返事をしたことがうれしかったのか、ジャスミンの声が徐々に大きくなっていく。慌てて、もう少し声を潜めるように伝えようとしたが、すでに遅かった。
「そこの二人。今は授業中ですよ。授業を聞く気がないのなら、退室して構いませんよ」
『す、すみません』
私たちは同時に謝り、それ以降、私語を慎み、真面目に授業を受けるのだった。今受けている授業が駒沢の授業でなくてよかったと心から思った。今受けている授業は全学部共通の法律学の授業で、先生は厳しいことで有名な女性の教授だったのだが、それでも駒沢に注意されるよりは何倍もましだった。
「そんなに知らないことを悲しまなくてもいいわよ。世間に疎い蒼紗も私は好きよ。それで、その夢を見る生徒にはある、共通点があったのよ」
「知っていますが、どう考えても無理やりな共通点ですよね」
昼休み中も、「受験の悪魔」についての話題は続いていた。ちなみに、綾崎さんは私たちと違う授業を受けていたため、昼休みに食堂で昼食をとっているときに現れた。綾崎さんも、「受験の悪魔」について知っているようだった。
「何よ。私の話に割り込まないでくれる?私は蒼紗と話しているのよ」
「私も蒼紗さんと話をしたいので。それでですね。その共通点というのが……」
「オレも話に入ってもいいかな」
「やすのり君。どうしてここに。今日は授業がないはずでしょう?」
「佐藤さんの顔が見たくなって。それにしても、面白い話題で盛り上がっているね。オレにも教えてよ」
突然、私たちの会話に割り込んできた人物がいた。声のした方に顔を向けると、そこには私が見たことのない人物が立っていた。しかし、ジャスミンは彼のことを知っているようだ。
「ええと、この男性はいったい……」
「ああ、蒼紗さんは知らなかったんですか。佐藤さんの彼氏ですよ」
ジャスミンが説明するより早く、綾崎さんが男性の正体を説明してくれた。綾崎さんの説明に、男性が自己紹介を始めた。
「茶来安保(さらいやすのり)です。経済学部一年で、朔夜さんたちと同じ一年生。佐藤さんとは、お付き合いさせてもらっています。佐藤さんから、よく朔夜さんの話は伺っていますが、確かに魅力的ですね。人を引き付ける力があるというか」
「ええと」
「やすのり君。今日、これから用事はあるかしら?一緒に行きたいお店があるんだけど」
男性の微妙な自己紹介に戸惑っていた私の言葉を遮るように、ジャスミンが突然大声を出した。男性、茶来君の腕を引っ張り、どこかに連れていく。
「蒼紗さん、もうご飯は食べ終わったでしょう。次の授業がある部屋に、少し早いですが、向かいましょう。佐藤さんのことは放っておきましょう」
どうやら、綾崎さんは、ジャスミンの彼氏が気に入らないようだ。私も、自己紹介の時点で、生理的に受け付けないなと感じた。自己紹介以外でも、彼の外見も私の苦手なタイプだった。
茶来君は、見た目がチャラかった。茶髪に両耳に四角い大きなピアスをつけていた。服装は、ジャスミンと似たり寄ったりの派手好きなようで、赤いライダージャケットに下はダメージが入った穴がたくさん開いたジーンズを履き、穴からは素肌が見えている。目つきは悪く、ぱっと見、不良にしか見えなかった。
私たちは、ジャスミンを置いて、食堂を後にした。結局、「受験の悪魔」については詳しく聞くことができなかったが、ニュースでも報道されているくらいらしいので、今日家に帰ったら、テレビをつけて確認しよう。
私たちが食堂を後にして、廊下を歩いていると、ジャスミンが追いかけてきた。
「私を置いていくなんて、蒼紗って、なんて薄情者なの。見損なったわ!」
「いえ、見損なうようなことはしていません。それより、ジャスミンの彼氏のことですが」
「ああ、あれのことね。蒼紗が気にすることはないわよ。あいつには、蒼紗の前に姿を現すなと、あれだけ言ったのに」
ぶつぶつと彼氏に対して文句を言うジャスミンに、私は疑問を投げかける。
「ジャスミンは、どうして、茶来君とつき合うことにしたんですか?」
「そんなことはどうでもいいでしょう」
「そうですよ。蒼紗さんが気にすることはありません」
二人の圧力に気圧されて、私はそれ以上追及できず、しぶしぶ次の授業がある教室に向かうのだった。
「ちっ。あいつ、逃げやがった」
「まあ、仕方ないよ。彼女は君と同じ『能力者』だからね。警戒するのも無理はない」
「朔夜に迷惑をかけるな。これ以上、俺たちの騒動に巻き込みたくない。もし、朔夜に被害を及ぼすようなら」
「もしかして、静流は、あの子のことが好きなの?桜華が一番だったはずでしょう。いなくなって、もう心変わりしちゃったとか」
「違う。朔夜には桜華の件で、迷惑をかけた。だから、これ以上は迷惑をかけたくないだけだ」
「ふうん。まあ、それは彼女次第だよね。それにしても、ここには面白いものがたくさんあるね。そうそう。そろそろあいつにも挨拶しておかなくちゃね。僕をここに連れてきたのは、あいつが原因なんだから」
私たちがいなくなった後の食堂では、茶来君と西園寺雅人と雨水君がいて、何やら不穏な会話をしていた。三人ともイケメンといえる部類なので、すぐに女子生徒が集まってきて、ちょっとした騒ぎになっていたようだが、私たちが気付くことはなかった。
久しぶりの大学生活に、私はいまだに慣れずにいた。「学生には長期休みがある」ことに慣れるのは、いったいいつになるのだろうか。
今日の服装は、「雪女」をイメージした。全身を白で統一して、白のワンピースに白いパンプス。さすがに生足は寒いので、ストッキングを着用している。メイクもあえて、白めにしてみた。
「相変わらず、地味よねえ」
「相変わらずの、目に痛い配色ですね」
お互いの服装の感想を言い合うのも随分と慣れてきた。今日のジャスミンの服装は、全身が真っ赤だった。真っ赤なワンピースに靴も小物もすべてだ。私が白で統一しているので、二人が並ぶと紅白でおめでたいことになってしまう。
「何をイメージしているのか聞いてもいいですか?」
「決まっているでしょう!寒いから、私自身が蒼紗の太陽になろうと思って、蒼紗を温めようと思ったのよ!」
「はあ」
ジャスミンの考えていることを理解できる日は、永遠に来ないかもしれない。太陽というのならば、黄色やオレンジなどの色が温かい光を現していると思う。それなのに、全身真っ赤に染め上げてくるのだから、よくわからない。
「そういえば、蒼紗は知っているかしら?なんでも、『受験の悪魔』と呼ばれるのが、今世間をにぎわせているらしいわよ」
「今の季節にぴったりなものが出ているのですね。とはいえ、そんなものが世間をにぎわせているのは、どうかと思いますけど」
ジャスミンは、授業中だというのに、こそこそと隣の席に座る私に話しかけてくる。私としては、授業で話されるテストや課題の内容に真剣に耳を傾けたいのだが、私の意志は完全に無視のようだ。
「それにしても、『受験の悪魔』ですか。もうそんな時期なんですね。一年はあっという間ですねえ」
ジャスミンが話しかけてくる以上、私は何か答えなければならない。私が無視することをジャスミンは良しとしない。返事がないということは、聞こえていないという解釈になるらしく、同じ話を永遠に繰り返されたことがある。それ以来、私は面倒でも返事をするよう心掛けている。
私が答えると、ジャスミンは自分の話を聞いてくれたと思ったのか、噂の説明をしてくれた。
「蒼紗は知らなくても当然か。ええと、受験生の間で広まっているらしいんだけど、受験に失敗するという夢を見た生徒が、次々と自殺を図るっている恐ろしい話。とりあえず、今のところ、死者は出ていないみたいだけど、死者が出るのは時間の問題だって、ニュースでも話題になっているわよ。でも、受験に失敗した夢を見たからって、自殺を図るなんて、くだらないと思わない?蒼紗もそう思うでしょう!」
私が返事をしたことがうれしかったのか、ジャスミンの声が徐々に大きくなっていく。慌てて、もう少し声を潜めるように伝えようとしたが、すでに遅かった。
「そこの二人。今は授業中ですよ。授業を聞く気がないのなら、退室して構いませんよ」
『す、すみません』
私たちは同時に謝り、それ以降、私語を慎み、真面目に授業を受けるのだった。今受けている授業が駒沢の授業でなくてよかったと心から思った。今受けている授業は全学部共通の法律学の授業で、先生は厳しいことで有名な女性の教授だったのだが、それでも駒沢に注意されるよりは何倍もましだった。
「そんなに知らないことを悲しまなくてもいいわよ。世間に疎い蒼紗も私は好きよ。それで、その夢を見る生徒にはある、共通点があったのよ」
「知っていますが、どう考えても無理やりな共通点ですよね」
昼休み中も、「受験の悪魔」についての話題は続いていた。ちなみに、綾崎さんは私たちと違う授業を受けていたため、昼休みに食堂で昼食をとっているときに現れた。綾崎さんも、「受験の悪魔」について知っているようだった。
「何よ。私の話に割り込まないでくれる?私は蒼紗と話しているのよ」
「私も蒼紗さんと話をしたいので。それでですね。その共通点というのが……」
「オレも話に入ってもいいかな」
「やすのり君。どうしてここに。今日は授業がないはずでしょう?」
「佐藤さんの顔が見たくなって。それにしても、面白い話題で盛り上がっているね。オレにも教えてよ」
突然、私たちの会話に割り込んできた人物がいた。声のした方に顔を向けると、そこには私が見たことのない人物が立っていた。しかし、ジャスミンは彼のことを知っているようだ。
「ええと、この男性はいったい……」
「ああ、蒼紗さんは知らなかったんですか。佐藤さんの彼氏ですよ」
ジャスミンが説明するより早く、綾崎さんが男性の正体を説明してくれた。綾崎さんの説明に、男性が自己紹介を始めた。
「茶来安保(さらいやすのり)です。経済学部一年で、朔夜さんたちと同じ一年生。佐藤さんとは、お付き合いさせてもらっています。佐藤さんから、よく朔夜さんの話は伺っていますが、確かに魅力的ですね。人を引き付ける力があるというか」
「ええと」
「やすのり君。今日、これから用事はあるかしら?一緒に行きたいお店があるんだけど」
男性の微妙な自己紹介に戸惑っていた私の言葉を遮るように、ジャスミンが突然大声を出した。男性、茶来君の腕を引っ張り、どこかに連れていく。
「蒼紗さん、もうご飯は食べ終わったでしょう。次の授業がある部屋に、少し早いですが、向かいましょう。佐藤さんのことは放っておきましょう」
どうやら、綾崎さんは、ジャスミンの彼氏が気に入らないようだ。私も、自己紹介の時点で、生理的に受け付けないなと感じた。自己紹介以外でも、彼の外見も私の苦手なタイプだった。
茶来君は、見た目がチャラかった。茶髪に両耳に四角い大きなピアスをつけていた。服装は、ジャスミンと似たり寄ったりの派手好きなようで、赤いライダージャケットに下はダメージが入った穴がたくさん開いたジーンズを履き、穴からは素肌が見えている。目つきは悪く、ぱっと見、不良にしか見えなかった。
私たちは、ジャスミンを置いて、食堂を後にした。結局、「受験の悪魔」については詳しく聞くことができなかったが、ニュースでも報道されているくらいらしいので、今日家に帰ったら、テレビをつけて確認しよう。
私たちが食堂を後にして、廊下を歩いていると、ジャスミンが追いかけてきた。
「私を置いていくなんて、蒼紗って、なんて薄情者なの。見損なったわ!」
「いえ、見損なうようなことはしていません。それより、ジャスミンの彼氏のことですが」
「ああ、あれのことね。蒼紗が気にすることはないわよ。あいつには、蒼紗の前に姿を現すなと、あれだけ言ったのに」
ぶつぶつと彼氏に対して文句を言うジャスミンに、私は疑問を投げかける。
「ジャスミンは、どうして、茶来君とつき合うことにしたんですか?」
「そんなことはどうでもいいでしょう」
「そうですよ。蒼紗さんが気にすることはありません」
二人の圧力に気圧されて、私はそれ以上追及できず、しぶしぶ次の授業がある教室に向かうのだった。
「ちっ。あいつ、逃げやがった」
「まあ、仕方ないよ。彼女は君と同じ『能力者』だからね。警戒するのも無理はない」
「朔夜に迷惑をかけるな。これ以上、俺たちの騒動に巻き込みたくない。もし、朔夜に被害を及ぼすようなら」
「もしかして、静流は、あの子のことが好きなの?桜華が一番だったはずでしょう。いなくなって、もう心変わりしちゃったとか」
「違う。朔夜には桜華の件で、迷惑をかけた。だから、これ以上は迷惑をかけたくないだけだ」
「ふうん。まあ、それは彼女次第だよね。それにしても、ここには面白いものがたくさんあるね。そうそう。そろそろあいつにも挨拶しておかなくちゃね。僕をここに連れてきたのは、あいつが原因なんだから」
私たちがいなくなった後の食堂では、茶来君と西園寺雅人と雨水君がいて、何やら不穏な会話をしていた。三人ともイケメンといえる部類なので、すぐに女子生徒が集まってきて、ちょっとした騒ぎになっていたようだが、私たちが気付くことはなかった。
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