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21彼氏との出会い
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「それで、どうして蒼紗があんなところにいたのかなあ?」
「いや、私だって大人ですから、ああいうところに行くこともありますよ。それに、そのセリフはジャスミンにも言えるのではないですか。私はジャスミンのことが心配だったので、追いかけたら、あの場所にたどりついただけです」
「むむむ」
私たちはその後、混乱に乗じて、その場を離れて私の家に向かった。そして、現在、私の家のリビングには、私とジャスミン、翼君にゆきこちゃん、ジャスミンの彼氏に似た男が集まっていた。ジャスミンの彼氏に似た男は、いまだに気を失っていて、目覚める気配はなかった。翼君がリビングの床に転がしていた。ジャスミンは、私たちが家に向かっている途中で目が覚めたが、自分の状況を理解せずに暴れて大変だったが、説得して今に至る。
とりあえず、まずはジャスミンの話を聞こうと思ったのだが。その前に、ジャスミンに私の行動をとがめられてしまった。とはいえ、私が心配してついてきた、つまり尾行していたのだと知ると、ため息をつく。
「はああ。まあ、あんなところを見られたら、話すしかないわね。そこに倒れている男は、蒼紗も知っていると思うけど、一応、私の彼氏よ。」
ジャスミンは観念して話してくれるようだ。話はどうやら、彼氏ができたところから始まるらしい。私の予想通り、男はジャスミンの彼氏だったらしい。
ジャスミンがその男と出会ったのは、大学の文化祭の時だった。文化祭の帰り、蒼紗と別れてすぐ、一人になったところを見計らったかのように、男はジャスミンに話しかけてきた。
「すいません。あなたは、いつも大学内でコスプレしている二人の内の一人ですよね」
男はいきなり、自己紹介も何もなしに、そんなことを言ってきた。ジャスミンは突然、初対面の男から言われた言葉に戸惑った。しかし、自分たちのことは大学内ではそれなりに有名になっていることを思い出す。
「二人の内っていう言い方は好きではないけど、まあ、大学内でコスプレしている人なんて、イベントごとを覗けば私たち以外いないから、間違いではないわね」
「うわあ、そうですよね。オレ、いつも、大学に来るたびに、あなたたちを探していました。すごいですよね。他人と違う格好をしながら、堂々としていられるなんて」
男は興奮したように、ジャスミンと蒼紗がいかにすごいことをしているのか、そのことに対していかに尊敬しているかを勢いよく話し出す。しかし、ジャスミンは話が徐々におかしな方向に向かっていることに気付いた。
「それで、オレは、朔夜さんの執事服にくぎ付けで、その後、西園寺さんが居なくなっても、懸命にコスプレしている姿を見て、感銘を受けました。自分の意志を貫く姿に、オレもこんな風に自分の意志を貫いて生きていけたらなと」
「オレが一番好きな朔夜さんのコスプレは、今年の文化祭での狐巫女の姿です。まるで、この世のものではないようなお姿に感銘を受けました!」
「ときどき、人とは違う表情をみせる、そう、まるで、老人のように人生を悟ったような表情をすることがあるんです。それがまた朔夜さんの魅力の一つです。オレたちと同い年なのに、そんな大人びたような、人生を長く生きてきたかのような、あの貫禄ある瞳にこれまた感動しました!」
「それからそれから……」
男は、ひたすら、蒼紗について自分が思っていることをジャスミンに伝える。もう、直接本人に言えばいいと思うレベルで、告白に近いものを感じたジャスミンだった。しかし、それはダメだと本能が告げていた。
「蒼紗が魅力的で、惚れるのはわかるけど、それなら直接言えばいいでしょう。ああ、でも直接は私が許さないけど。それで、私に話しかけてきたのは、蒼紗と話す機会を作って欲しいということかしら?そうだとしても、お断りだわ」
直接本人に言えないから、わざわざジャスミンが一人の時を狙って話しかけてきた。そして、ジャスミンに蒼紗との懸け橋になって欲しい。そう考えると、ジャスミンが一人になったタイミングで男が声をかけてきたことが納得できる。しかし、そんなことができるはずがない。ジャスミンも蒼紗のことが好きで好きで仕方ないのだから。
「あの朔夜さんと二人きりになるなんて、恐れ多い。でも、あなたになら、オレの気持ちがわかってもらえると思って……。もしかしたらと、そうですか。ダメですか……」
ジャスミンの答えに、男は目に見えてがっくりと落胆していた。あまりの落胆ぶりにジャスミンは妥協案を男に伝えることにした。
「蒼紗と二人きりは無理だけど、私があんたとこれからも会うっていうのはどうかしら。私は蒼紗と一緒に居ることが多いし、蒼紗についての話を聞かせることはできるけど」
「本当ですか!うれしいです。ああ、でも、そうすると、あなたと僕の関係をもし、朔夜さんが知った時の説明が必要ですね。それはどうしましょう?」
「そうねえ。ところで、蒼紗の名前は知っていたみたいだけど、私の名前は知らないのかしら?」
「ええと、確か……。鈴木さんでしたか?」
「本当に蒼紗にしか興味ないのね。私の名前は佐藤よ」
ジャスミンは自分のうかつな発言に後悔していた。こんな、蒼紗にしか興味がなく、蒼紗の隣に居る自分の名前すら知らない人間を蒼紗に近づけるのは危険だ。かといって、自分がこの男とこれからも会うのは、生理的に受け付けなかった。ジャスミンが自分の発言について考えている間に、男は話を進めていた。
「佐藤さんは、今彼氏とかいますか?」
突然の質問にジャスミンは反射的に答えてしまう。
「彼氏なんていないし、今後も必要ないわ」
「そうですか。あ、じゃあ、こういうのはどうですか。これなら、怪しまれずに僕と会うことができますよ」
『彼氏と彼女』
男が提案したのは、シンプルな男女の関係だった。
「絶対お断りよ!いや、でも……」
ジャスミンはすぐに否定の言葉を吐いたが、その後に続く言葉が見つからない。彼氏と彼女という関係、つまり恋人同士になれば、その間は、男は蒼紗と二人きりにする必要がない。自分が男の恋人なのだから。蒼紗に近づく悪い虫は、自分が追い払うと決めているジャスミンは、覚悟を決めて、男のことを正面から見据える。男は、ジャスミンの言葉を真に受けて、申し訳なさそうにしていた。
「す、すいません。あまりにも唐突すぎる言葉でしたよね。まだ知り合ったばかりなのに、突然恋人同士なんて。他に何かいいアイデアを……」
「その必要はないわ。あなたのそのアイデアで行きましょう!」
「本当ですか!ありがとうございます。ええと、僕の名前は茶来安保(さらいやすのり)です。これからよろしくお願いします」
「そうね。こちらこそ、よろしく。佐藤よ」
こうして、ジャスミンと男は蒼紗のことが好きという共通点だけで、恋人同士となったのだった。
「いや、私だって大人ですから、ああいうところに行くこともありますよ。それに、そのセリフはジャスミンにも言えるのではないですか。私はジャスミンのことが心配だったので、追いかけたら、あの場所にたどりついただけです」
「むむむ」
私たちはその後、混乱に乗じて、その場を離れて私の家に向かった。そして、現在、私の家のリビングには、私とジャスミン、翼君にゆきこちゃん、ジャスミンの彼氏に似た男が集まっていた。ジャスミンの彼氏に似た男は、いまだに気を失っていて、目覚める気配はなかった。翼君がリビングの床に転がしていた。ジャスミンは、私たちが家に向かっている途中で目が覚めたが、自分の状況を理解せずに暴れて大変だったが、説得して今に至る。
とりあえず、まずはジャスミンの話を聞こうと思ったのだが。その前に、ジャスミンに私の行動をとがめられてしまった。とはいえ、私が心配してついてきた、つまり尾行していたのだと知ると、ため息をつく。
「はああ。まあ、あんなところを見られたら、話すしかないわね。そこに倒れている男は、蒼紗も知っていると思うけど、一応、私の彼氏よ。」
ジャスミンは観念して話してくれるようだ。話はどうやら、彼氏ができたところから始まるらしい。私の予想通り、男はジャスミンの彼氏だったらしい。
ジャスミンがその男と出会ったのは、大学の文化祭の時だった。文化祭の帰り、蒼紗と別れてすぐ、一人になったところを見計らったかのように、男はジャスミンに話しかけてきた。
「すいません。あなたは、いつも大学内でコスプレしている二人の内の一人ですよね」
男はいきなり、自己紹介も何もなしに、そんなことを言ってきた。ジャスミンは突然、初対面の男から言われた言葉に戸惑った。しかし、自分たちのことは大学内ではそれなりに有名になっていることを思い出す。
「二人の内っていう言い方は好きではないけど、まあ、大学内でコスプレしている人なんて、イベントごとを覗けば私たち以外いないから、間違いではないわね」
「うわあ、そうですよね。オレ、いつも、大学に来るたびに、あなたたちを探していました。すごいですよね。他人と違う格好をしながら、堂々としていられるなんて」
男は興奮したように、ジャスミンと蒼紗がいかにすごいことをしているのか、そのことに対していかに尊敬しているかを勢いよく話し出す。しかし、ジャスミンは話が徐々におかしな方向に向かっていることに気付いた。
「それで、オレは、朔夜さんの執事服にくぎ付けで、その後、西園寺さんが居なくなっても、懸命にコスプレしている姿を見て、感銘を受けました。自分の意志を貫く姿に、オレもこんな風に自分の意志を貫いて生きていけたらなと」
「オレが一番好きな朔夜さんのコスプレは、今年の文化祭での狐巫女の姿です。まるで、この世のものではないようなお姿に感銘を受けました!」
「ときどき、人とは違う表情をみせる、そう、まるで、老人のように人生を悟ったような表情をすることがあるんです。それがまた朔夜さんの魅力の一つです。オレたちと同い年なのに、そんな大人びたような、人生を長く生きてきたかのような、あの貫禄ある瞳にこれまた感動しました!」
「それからそれから……」
男は、ひたすら、蒼紗について自分が思っていることをジャスミンに伝える。もう、直接本人に言えばいいと思うレベルで、告白に近いものを感じたジャスミンだった。しかし、それはダメだと本能が告げていた。
「蒼紗が魅力的で、惚れるのはわかるけど、それなら直接言えばいいでしょう。ああ、でも直接は私が許さないけど。それで、私に話しかけてきたのは、蒼紗と話す機会を作って欲しいということかしら?そうだとしても、お断りだわ」
直接本人に言えないから、わざわざジャスミンが一人の時を狙って話しかけてきた。そして、ジャスミンに蒼紗との懸け橋になって欲しい。そう考えると、ジャスミンが一人になったタイミングで男が声をかけてきたことが納得できる。しかし、そんなことができるはずがない。ジャスミンも蒼紗のことが好きで好きで仕方ないのだから。
「あの朔夜さんと二人きりになるなんて、恐れ多い。でも、あなたになら、オレの気持ちがわかってもらえると思って……。もしかしたらと、そうですか。ダメですか……」
ジャスミンの答えに、男は目に見えてがっくりと落胆していた。あまりの落胆ぶりにジャスミンは妥協案を男に伝えることにした。
「蒼紗と二人きりは無理だけど、私があんたとこれからも会うっていうのはどうかしら。私は蒼紗と一緒に居ることが多いし、蒼紗についての話を聞かせることはできるけど」
「本当ですか!うれしいです。ああ、でも、そうすると、あなたと僕の関係をもし、朔夜さんが知った時の説明が必要ですね。それはどうしましょう?」
「そうねえ。ところで、蒼紗の名前は知っていたみたいだけど、私の名前は知らないのかしら?」
「ええと、確か……。鈴木さんでしたか?」
「本当に蒼紗にしか興味ないのね。私の名前は佐藤よ」
ジャスミンは自分のうかつな発言に後悔していた。こんな、蒼紗にしか興味がなく、蒼紗の隣に居る自分の名前すら知らない人間を蒼紗に近づけるのは危険だ。かといって、自分がこの男とこれからも会うのは、生理的に受け付けなかった。ジャスミンが自分の発言について考えている間に、男は話を進めていた。
「佐藤さんは、今彼氏とかいますか?」
突然の質問にジャスミンは反射的に答えてしまう。
「彼氏なんていないし、今後も必要ないわ」
「そうですか。あ、じゃあ、こういうのはどうですか。これなら、怪しまれずに僕と会うことができますよ」
『彼氏と彼女』
男が提案したのは、シンプルな男女の関係だった。
「絶対お断りよ!いや、でも……」
ジャスミンはすぐに否定の言葉を吐いたが、その後に続く言葉が見つからない。彼氏と彼女という関係、つまり恋人同士になれば、その間は、男は蒼紗と二人きりにする必要がない。自分が男の恋人なのだから。蒼紗に近づく悪い虫は、自分が追い払うと決めているジャスミンは、覚悟を決めて、男のことを正面から見据える。男は、ジャスミンの言葉を真に受けて、申し訳なさそうにしていた。
「す、すいません。あまりにも唐突すぎる言葉でしたよね。まだ知り合ったばかりなのに、突然恋人同士なんて。他に何かいいアイデアを……」
「その必要はないわ。あなたのそのアイデアで行きましょう!」
「本当ですか!ありがとうございます。ええと、僕の名前は茶来安保(さらいやすのり)です。これからよろしくお願いします」
「そうね。こちらこそ、よろしく。佐藤よ」
こうして、ジャスミンと男は蒼紗のことが好きという共通点だけで、恋人同士となったのだった。
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