朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~

折原さゆみ

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22ジャスミンの行動理由

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 それからというもの、男はことあるごとに、ジャスミンを自分のもとに呼びだすことが多くなった。そして、蒼紗のことを話すよう要求した。話さないと直接蒼紗に会いに行くとまで言われ、ジャスミンは仕方なく、男と会い、蒼紗の様子を事細かに話した。初対面で、蒼紗と話すのは恐れ多いと言った男とは思えない変わりようだった。

 そのせいで、ジャスミンは蒼紗と一緒に居る時間が減ってしまった。そんな日が続いたある日、男からSNSで一つのメッセージが届いた。それが、今回の事件につながっていく。




 いつものように、昼休みになり、食堂で蒼紗と一緒に昼食を食べようとしていたときだ。ポケットに入れていたスマホが振動する。ジャスミンは、蒼紗たちにばれないようにこっそり確認する。スマホは、男からの新着メッセージを受信していた。メッセージの文面をさっと読んでいくと、男からの重要な知らせだった。


「ごめん、蒼紗。お昼は一緒にできないわ。ちょっと用事を思い出したから、午後の授業にも、たぶん出られないと思うから、プリントとかあったらもらっておいてくれる?」

 男からのメッセージには、蒼紗とジャスミンについて書かれていた。本人の前で返信するわけにも行かず、仕方なく蒼紗と一緒に昼食をとることはあきらめる。誰もいない場所でゆっくりと文面を確認したかったので、昼には誰もいない、文学室の控室に向かった。控室の中に入り、イスに座って改めて確認する。


「オレ、朔夜さんの秘密を知ってしまったかもしれないです。きっと誰も信じてはくれないだろうけど。でも、佐藤さんなら、信じてくれると思っています。朔夜さんの秘密について話したいから、今から言う場所に来て欲しい。誰にも邪魔されないところで、二人でゆっくり話したいです」

 ジャスミンは動揺した。蒼紗の秘密とは、いったいどれのことを指しているのだろうか。自分と同じ能力者であることがばれたのか、それとも、年を取らない体質を知られてしまったのだろうか。とはいえ、別に秘密を知られたとしても問題はない。普通なら信じられない話だ。ジャスミンも、そんなことは信じられないと言えばいいだけだ。


 そう考えると、少し気持ちが落ち着いた。しかし、メッセージはこれで終わりではなかった。

「朔夜さんの話し以外にも、話したいことがあります。朔夜さんのことを観察していくうちに、オレはいろいろ気付きました。それとは別に、佐藤さんのことも勝手に観察させていただきました。そして、気づいてしまいました。あなたが、『能力者』だってことも」

「待ち合わせ場所に来るも来ないも佐藤さんの自由ですが、オレがどこまで知っているのか、知りたくありませんか?」



「あの男、蒼紗のことを尊敬すると言いながら、蒼紗と私の両方を観察していたってわけか。私が能力者だってことを確信しているってことは、彼自身も能力者だってこと?」

 ぶつぶつつぶやきながら、ジャスミンは、男に返信するために、スマホに文字を入力していく。そして、送信ボタンを押した。

『蒼紗のことで私が知らない情報を持っているのは癪だから、話だけは聞いてあげる。それと、私が能力者だって話も興味があるから』


 さらに画面をスクロールしていくと、待ち合わせ場所がどこか書かれていた。すぐに場所がわかるように、下には待ち合わせ場所のURLが貼られていた。待ち合わせ場所に絶句するが、すでに送信ボタンを押してしまったあとだった。しかし、どこが待ち合わせ場所だろうと、男から話を聞いた方がいいと思ったジャスミンは、そのままスマホを鞄にしまった。

 とりあえず、男と会う目に昼食を食べようと思った。男から、時間の指定はなかったので、少しくらい遅れてもいいと、ジャスミンは勝手に解釈した。電話ではなく、いつ見るのかわからないSNSでのメッセージが悪い。


 コンビニで買ったおにぎりを食べ終え、男とどういう風に話を進めようか考えていると、控室の廊下が騒がしいことに気付いた。控室は学食からは遠い。昼休みの控室の廊下で何を騒いでいるのだろう。何も考えずにジャスミンは、廊下の様子を見るために控室の扉を開けた。その時に、騒いでいる声の主に気付けばよかったと後悔してもすでに遅い。








「あ、蒼紗さん。そんな、もったいないよ。先生は忙しい人なんだよ。その先生自ら話しを聞いてくれるというのに、無視していいわけないよ。話だけでも聞いた方がいいよ。先生の妖怪についての話は必見だ……」

「いい加減にしてください!」

「ガチャ」

『アッ』

 一体廊下で何が起こっているのか。気になって控室の扉を開けると、そこにいたのは、今一番逢いたくなかった人物だった。まさか、蒼紗がいるとは思っていなかったジャスミンは、驚いた。しかし、驚きを隠し、ここから一刻も早く立ち去れるように言葉を紡ぐ。

「ぐ、偶然ね。蒼紗は控室になんか用事でもあったの?わ、私の用事はもう済んだから、部屋に入っていいわよ。ごめんね、私が使っているのに遠慮していたのよね」

 その後は、駒沢に捕まりそうになっていた蒼紗に、耳もとに息を吹きかけられ、思わず蒼紗と用事があると言ってしまったが、なんとか、説得して蒼紗と別れることができた。


 蒼紗とは、大学の校門で別れたはずであるが、ジャスミンは蒼紗が自分の後を追いかけていることに気付いた。ジャスミンは、他人の気配に敏感であった。背後から何やら自分を見つめる視線に気づき、相手にばれないように確認すると、電柱の陰に隠れた蒼紗が見えた。きっと蒼紗は自分のことが心配でついてきているのかもしれない。とはいえ、ジャスミンには男と会って、いろいろ聞かねばならないことがある。

 ジャスミンは蒼紗の尾行に気付きつつも、仕方なく目的の場所まで急いだ。


 目的地にたどり着いたジャスミンは、思わずその場で立ち止まってしまった。







「わかっていたとはいえ、私もうかつだった。蒼紗がついてきているというのに、こんなところに入っていったら、蒼紗に幻滅される……」

 男が待ち合わせ場所にしたのは、歓楽街にある、ラブホテルだった。ジャスミンは今まで自分の能力と、わがままな性格で彼氏がいたことがなかった。それに加えて、彼女は今年大学生になったばかりの、うら若き乙女である。このような場所に足を踏み入れるのは初めてだった。そのような場所を指定してきたというからには、そのような行為を強要されるのではないのか。蒼紗に幻滅されるということだけが頭をよぎるジャスミンに、その考えは思いつかなかった。本当に蒼紗信者一号だと言えよう。

「蒼紗に幻滅されると言っている場合ではないわね。蒼紗に害をなそうとするもの、悪い虫を払うのは私の使命」

 意を決して、ジャスミンはラブホテルの中に入っていった。

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