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15そこまで言うのなら
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「何、言ってるの」
立ち上がったのはいいが、弟に腕を掴まれてしまう。それを振りほどこうと弟の方に身体を向ける。すると、弟の驚いた表情が目に入る。アリアさんとルリさんを見ると、2人も私の行動に驚いていた。
「姉さん、泣くほど家に帰るのが嫌なんだろ。なのに、どうして家に帰るなんて言うんだよ」
「ちょ、ちょっと、ダイヤ、何お姉さんを泣かせているの。ご、ごめんなさい。ルリを呼んだのは間違いでしたか?ルリになら、お姉さんを任せられると思って呼んだんですけど。男の人が怖いのなら、今すぐ帰します。だから、泣かないでください」
ああ、でも泣き顔も女神みたいに美しい。
アリアさんの後半の謎の言葉はさておき、私は泣いているらしい。
「エエト、その、悪かった。俺の容姿って、女性には受けるみたいだけど、ガタイのせいで威圧感あるよな。これ飲んだら帰るよ」
(違う。私はただ、ダイヤたちに迷惑をかけたくなかったから、帰るって言ったのに)
どうして、彼らは私みたいな人間にそこまで気にかけてくれるのか。そんなに優しい言葉をかけてくれるのか。弟に掴まれた腕と反対の手で目じりに触れる。私は無意識に涙を流していた。
私と彼の問題なのに、そこまで親身になる必要は彼らにない。弟のダイヤだって、肉親とはいえ親ではない。
改めて彼らの事を考えると、涙が止まらない。申し訳なさに胸がいっぱいになる。もうすぐ30歳にもなる成人女性が人前で泣くなど、恥ずかしすぎる。
彼らの同情を引こうとして泣いているわけではないが、はたから見たら、そう思われても仕方ない。なんて浅ましい女と言われても仕方ない。
「か、帰るね」
涙を袖で拭い、弟の手を振り払って、荷物をもつ。玄関に向かおうと足を踏み出したが、進むことができない。
「ダメだよ。そんな悲しそうな、寂しそうな顔の姉さんをあのクズ野郎の元に帰すわけにはいかない」
弟に再度、腕を掴まれた。他の2人の様子をうかがうと、弟と同じ真剣な表情で首を横に振って、弟の意見に同意のようだ。弟に視線を移すと、にっこりと微笑まれた。現役モデルの笑顔の破壊力はすさまじい。自分と似ている顔とは言え、私とは全く違う圧を感じた。その圧に耐え切れず、私は立ち上がったのに、またソファに座りなおす。
「なんで泣いているのか、理由を聞いてもいい?内容次第によっては、今すぐにでも、あいつを僕たち3人でぶっ潰しにいく」
「まあまあ、そんな物騒なこと言わないで、ちゃんとお姉さんの話を聞いてみようよ」
ソファに座りなおしたが、どうにも居心地が悪い。私の隣に座っていた弟は私の正面に座った。ダイヤ、アリアさん、ルリさんの3人を前に、悪いことをしていないのに、まるで取り調べを受けているような気分になる。これでかつ丼が出てきたら、私は完全に犯罪者だ。
「そ、その、さっきはすみません。30歳にもなる女の泣き顔なんて、誰も見たくないのに」
「謝罪はいらないし、そもそも、この中の誰も姉さんが泣いているのを責めたいわけじゃない。理由が知りたいんだ。僕って、そんなに頼りないかな?」
誠意をもって謝罪して、帰ろうと思っていたのに弟はテーブルを挟んで私を下から覗き込み、悲しそうに見つめてくる。顔がいいと、何をしても格好がついてしまう。とはいえ、私が同じようにやっても、ただ見苦しいだけだろう。顔が似ていても、内面は外にまで影響する。
「ダイヤは私にとって、自慢の弟だよ。頼りないなんてとんでもない。むしろ、私の方がお姉ちゃん失格だよ」
「自慢の弟……」
「ちょっと、褒められて喜んでいる場合じゃないでしょ。お姉さん、私はお姉さんさえよければ、今回の計画にルリを使うのがいいと思う。今のところ、一番、相手に効果的だと思ってる。だから、嫌かもしれないけど、少しの間だけでも」
「俺で良ければ喜んで協力します。真珠さんさえ、嫌でなければ」
「それはダメです」
弟もアリアさんもルリさんも、自分たちの価値をわかっていない。モデルの2人もそうだが、アリアさんだって十分にかわいくてきれいだ。
彼らと一緒に行動するのは危険だ。下手をすれば、彼らの価値を私が落としかねない。アリアさんはモデルではないので、被害は少ないかもしれないが、ダイヤもルリさんも私と一緒に居ることで、ファンが減って大損害を被る可能性がある。
私のせいで、今まで積み上げてきた彼らの功績を台無しにするわけにはいかない。だからこそ、今ここで、覚悟をもって彼らの助けを断る必要がある。
「そ、その、ルリさんが嫌だとかいうわけではありません。そもそも、ルリさんを嫌いな女性なんていないと思います。ただ、超人気モデルのルリさんに、私のような一般人と仮にも恋人として一緒に過ごすことに、申し訳なさを感じるというか、いや、私のせいでルリさんの価値を落とすのはいけないと言いますか……」
「なんだ、そんなことか。心配して損した。ルリ、言ってやれよ。お前の口からの方が姉さんを安心させられるだろう」
「そうだね。エエト、真珠さん。俺の心配は不要です。むしろ、俺が朴念仁過ぎて、男が好きだという噂まで出ているので、気にしないでください。俺の事が苦手でないなら、良かったです」
「こういう時は、いい男を隣にはべらせて優越感に浸ってください!逃した獲物は大きかったと知らしめればいい!」
どうやら、何を言っても彼らは私の問題に首を突っ込む気のようだ。私は彼らに警告はした。それでもなお、私に協力したいというのなら。
「で、では、お願いします」
それはもう、頼むしかないではないか。
立ち上がったのはいいが、弟に腕を掴まれてしまう。それを振りほどこうと弟の方に身体を向ける。すると、弟の驚いた表情が目に入る。アリアさんとルリさんを見ると、2人も私の行動に驚いていた。
「姉さん、泣くほど家に帰るのが嫌なんだろ。なのに、どうして家に帰るなんて言うんだよ」
「ちょ、ちょっと、ダイヤ、何お姉さんを泣かせているの。ご、ごめんなさい。ルリを呼んだのは間違いでしたか?ルリになら、お姉さんを任せられると思って呼んだんですけど。男の人が怖いのなら、今すぐ帰します。だから、泣かないでください」
ああ、でも泣き顔も女神みたいに美しい。
アリアさんの後半の謎の言葉はさておき、私は泣いているらしい。
「エエト、その、悪かった。俺の容姿って、女性には受けるみたいだけど、ガタイのせいで威圧感あるよな。これ飲んだら帰るよ」
(違う。私はただ、ダイヤたちに迷惑をかけたくなかったから、帰るって言ったのに)
どうして、彼らは私みたいな人間にそこまで気にかけてくれるのか。そんなに優しい言葉をかけてくれるのか。弟に掴まれた腕と反対の手で目じりに触れる。私は無意識に涙を流していた。
私と彼の問題なのに、そこまで親身になる必要は彼らにない。弟のダイヤだって、肉親とはいえ親ではない。
改めて彼らの事を考えると、涙が止まらない。申し訳なさに胸がいっぱいになる。もうすぐ30歳にもなる成人女性が人前で泣くなど、恥ずかしすぎる。
彼らの同情を引こうとして泣いているわけではないが、はたから見たら、そう思われても仕方ない。なんて浅ましい女と言われても仕方ない。
「か、帰るね」
涙を袖で拭い、弟の手を振り払って、荷物をもつ。玄関に向かおうと足を踏み出したが、進むことができない。
「ダメだよ。そんな悲しそうな、寂しそうな顔の姉さんをあのクズ野郎の元に帰すわけにはいかない」
弟に再度、腕を掴まれた。他の2人の様子をうかがうと、弟と同じ真剣な表情で首を横に振って、弟の意見に同意のようだ。弟に視線を移すと、にっこりと微笑まれた。現役モデルの笑顔の破壊力はすさまじい。自分と似ている顔とは言え、私とは全く違う圧を感じた。その圧に耐え切れず、私は立ち上がったのに、またソファに座りなおす。
「なんで泣いているのか、理由を聞いてもいい?内容次第によっては、今すぐにでも、あいつを僕たち3人でぶっ潰しにいく」
「まあまあ、そんな物騒なこと言わないで、ちゃんとお姉さんの話を聞いてみようよ」
ソファに座りなおしたが、どうにも居心地が悪い。私の隣に座っていた弟は私の正面に座った。ダイヤ、アリアさん、ルリさんの3人を前に、悪いことをしていないのに、まるで取り調べを受けているような気分になる。これでかつ丼が出てきたら、私は完全に犯罪者だ。
「そ、その、さっきはすみません。30歳にもなる女の泣き顔なんて、誰も見たくないのに」
「謝罪はいらないし、そもそも、この中の誰も姉さんが泣いているのを責めたいわけじゃない。理由が知りたいんだ。僕って、そんなに頼りないかな?」
誠意をもって謝罪して、帰ろうと思っていたのに弟はテーブルを挟んで私を下から覗き込み、悲しそうに見つめてくる。顔がいいと、何をしても格好がついてしまう。とはいえ、私が同じようにやっても、ただ見苦しいだけだろう。顔が似ていても、内面は外にまで影響する。
「ダイヤは私にとって、自慢の弟だよ。頼りないなんてとんでもない。むしろ、私の方がお姉ちゃん失格だよ」
「自慢の弟……」
「ちょっと、褒められて喜んでいる場合じゃないでしょ。お姉さん、私はお姉さんさえよければ、今回の計画にルリを使うのがいいと思う。今のところ、一番、相手に効果的だと思ってる。だから、嫌かもしれないけど、少しの間だけでも」
「俺で良ければ喜んで協力します。真珠さんさえ、嫌でなければ」
「それはダメです」
弟もアリアさんもルリさんも、自分たちの価値をわかっていない。モデルの2人もそうだが、アリアさんだって十分にかわいくてきれいだ。
彼らと一緒に行動するのは危険だ。下手をすれば、彼らの価値を私が落としかねない。アリアさんはモデルではないので、被害は少ないかもしれないが、ダイヤもルリさんも私と一緒に居ることで、ファンが減って大損害を被る可能性がある。
私のせいで、今まで積み上げてきた彼らの功績を台無しにするわけにはいかない。だからこそ、今ここで、覚悟をもって彼らの助けを断る必要がある。
「そ、その、ルリさんが嫌だとかいうわけではありません。そもそも、ルリさんを嫌いな女性なんていないと思います。ただ、超人気モデルのルリさんに、私のような一般人と仮にも恋人として一緒に過ごすことに、申し訳なさを感じるというか、いや、私のせいでルリさんの価値を落とすのはいけないと言いますか……」
「なんだ、そんなことか。心配して損した。ルリ、言ってやれよ。お前の口からの方が姉さんを安心させられるだろう」
「そうだね。エエト、真珠さん。俺の心配は不要です。むしろ、俺が朴念仁過ぎて、男が好きだという噂まで出ているので、気にしないでください。俺の事が苦手でないなら、良かったです」
「こういう時は、いい男を隣にはべらせて優越感に浸ってください!逃した獲物は大きかったと知らしめればいい!」
どうやら、何を言っても彼らは私の問題に首を突っ込む気のようだ。私は彼らに警告はした。それでもなお、私に協力したいというのなら。
「で、では、お願いします」
それはもう、頼むしかないではないか。
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