見た目と性格が一致しなくてもいいですか?

折原さゆみ

文字の大きさ
15 / 27

15そこまで言うのなら

しおりを挟む
「何、言ってるの」

 立ち上がったのはいいが、弟に腕を掴まれてしまう。それを振りほどこうと弟の方に身体を向ける。すると、弟の驚いた表情が目に入る。アリアさんとルリさんを見ると、2人も私の行動に驚いていた。

「姉さん、泣くほど家に帰るのが嫌なんだろ。なのに、どうして家に帰るなんて言うんだよ」

「ちょ、ちょっと、ダイヤ、何お姉さんを泣かせているの。ご、ごめんなさい。ルリを呼んだのは間違いでしたか?ルリになら、お姉さんを任せられると思って呼んだんですけど。男の人が怖いのなら、今すぐ帰します。だから、泣かないでください」

 ああ、でも泣き顔も女神みたいに美しい。

 アリアさんの後半の謎の言葉はさておき、私は泣いているらしい。
 
「エエト、その、悪かった。俺の容姿って、女性には受けるみたいだけど、ガタイのせいで威圧感あるよな。これ飲んだら帰るよ」

(違う。私はただ、ダイヤたちに迷惑をかけたくなかったから、帰るって言ったのに)

 どうして、彼らは私みたいな人間にそこまで気にかけてくれるのか。そんなに優しい言葉をかけてくれるのか。弟に掴まれた腕と反対の手で目じりに触れる。私は無意識に涙を流していた。

 私と彼の問題なのに、そこまで親身になる必要は彼らにない。弟のダイヤだって、肉親とはいえ親ではない。

 改めて彼らの事を考えると、涙が止まらない。申し訳なさに胸がいっぱいになる。もうすぐ30歳にもなる成人女性が人前で泣くなど、恥ずかしすぎる。

 彼らの同情を引こうとして泣いているわけではないが、はたから見たら、そう思われても仕方ない。なんて浅ましい女と言われても仕方ない。

「か、帰るね」

 涙を袖で拭い、弟の手を振り払って、荷物をもつ。玄関に向かおうと足を踏み出したが、進むことができない。

「ダメだよ。そんな悲しそうな、寂しそうな顔の姉さんをあのクズ野郎の元に帰すわけにはいかない」

 弟に再度、腕を掴まれた。他の2人の様子をうかがうと、弟と同じ真剣な表情で首を横に振って、弟の意見に同意のようだ。弟に視線を移すと、にっこりと微笑まれた。現役モデルの笑顔の破壊力はすさまじい。自分と似ている顔とは言え、私とは全く違う圧を感じた。その圧に耐え切れず、私は立ち上がったのに、またソファに座りなおす。


「なんで泣いているのか、理由を聞いてもいい?内容次第によっては、今すぐにでも、あいつを僕たち3人でぶっ潰しにいく」

「まあまあ、そんな物騒なこと言わないで、ちゃんとお姉さんの話を聞いてみようよ」

 ソファに座りなおしたが、どうにも居心地が悪い。私の隣に座っていた弟は私の正面に座った。ダイヤ、アリアさん、ルリさんの3人を前に、悪いことをしていないのに、まるで取り調べを受けているような気分になる。これでかつ丼が出てきたら、私は完全に犯罪者だ。

「そ、その、さっきはすみません。30歳にもなる女の泣き顔なんて、誰も見たくないのに」

「謝罪はいらないし、そもそも、この中の誰も姉さんが泣いているのを責めたいわけじゃない。理由が知りたいんだ。僕って、そんなに頼りないかな?」

 誠意をもって謝罪して、帰ろうと思っていたのに弟はテーブルを挟んで私を下から覗き込み、悲しそうに見つめてくる。顔がいいと、何をしても格好がついてしまう。とはいえ、私が同じようにやっても、ただ見苦しいだけだろう。顔が似ていても、内面は外にまで影響する。

「ダイヤは私にとって、自慢の弟だよ。頼りないなんてとんでもない。むしろ、私の方がお姉ちゃん失格だよ」

「自慢の弟……」

「ちょっと、褒められて喜んでいる場合じゃないでしょ。お姉さん、私はお姉さんさえよければ、今回の計画にルリを使うのがいいと思う。今のところ、一番、相手に効果的だと思ってる。だから、嫌かもしれないけど、少しの間だけでも」

「俺で良ければ喜んで協力します。真珠さんさえ、嫌でなければ」

「それはダメです」

 弟もアリアさんもルリさんも、自分たちの価値をわかっていない。モデルの2人もそうだが、アリアさんだって十分にかわいくてきれいだ。

 彼らと一緒に行動するのは危険だ。下手をすれば、彼らの価値を私が落としかねない。アリアさんはモデルではないので、被害は少ないかもしれないが、ダイヤもルリさんも私と一緒に居ることで、ファンが減って大損害を被る可能性がある。

 私のせいで、今まで積み上げてきた彼らの功績を台無しにするわけにはいかない。だからこそ、今ここで、覚悟をもって彼らの助けを断る必要がある。

「そ、その、ルリさんが嫌だとかいうわけではありません。そもそも、ルリさんを嫌いな女性なんていないと思います。ただ、超人気モデルのルリさんに、私のような一般人と仮にも恋人として一緒に過ごすことに、申し訳なさを感じるというか、いや、私のせいでルリさんの価値を落とすのはいけないと言いますか……」

「なんだ、そんなことか。心配して損した。ルリ、言ってやれよ。お前の口からの方が姉さんを安心させられるだろう」

「そうだね。エエト、真珠さん。俺の心配は不要です。むしろ、俺が朴念仁過ぎて、男が好きだという噂まで出ているので、気にしないでください。俺の事が苦手でないなら、良かったです」

「こういう時は、いい男を隣にはべらせて優越感に浸ってください!逃した獲物は大きかったと知らしめればいい!」

 どうやら、何を言っても彼らは私の問題に首を突っ込む気のようだ。私は彼らに警告はした。それでもなお、私に協力したいというのなら。

「で、では、お願いします」

 それはもう、頼むしかないではないか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

処理中です...