見た目と性格が一致しなくてもいいですか?

折原さゆみ

文字の大きさ
17 / 27

17朝を迎える

しおりを挟む
「お前みたいなやつ、オレ以外、恋人にするわけないだろ。お前の良いとこなんて、その顔と身体だけで、性格が最悪だ。暗くて根暗で陰キャな奴なんか、いくら容姿がよくても、引き取り手なんてないぞ。恋人になってやったオレに感謝するんだな。ああ、もし恋人ができたとしても、それはお前の身体だけが目当てで、すぐに捨てられるのがオチだな」

「オレはお前以外にほかの女を作る。当たり前だろ?お前と話していてもまったく面白くない。だが、お前はダメだ。お前みたいなやつは、ひとりの男に尽くすのがお似合いだ。そもそも、お前みたいな不器用なやつ、誰も身体以外、見向きもしないだろうが」

「やあねえ。顔だけ良い女なんて。彼は私のことを性格も容姿も全部好きだって言ってくれているけど。ご愁傷様」

「顔がいいって、便利ねえ。中身がクズでも男が寄ってくるのだから。ああ、羨ましいこと」

「あれが噂の顔だけ女。社内の男、たぶらかしているみたい。顔がいいって、罪よねえ。性格はアレだけど」

 同棲中の彼や、顔も知らない彼の浮気相手、今まで私をバカにしてきた女性たちが口々に私に罵倒を浴びせてくる。

「私は……」

 彼らに反論しようと口を開いた。


「夢か……」

 嫌な夢を見た。目が覚めて、いつも見る天井とは違うことに気づいて、ここが自分の家ではないことを思い出す。昨日の夜、弟の家を訪ねて、そのまま泊めてもらったのだった。布団から起き上がると、隣のベッドでは、アリアさんが抱き枕を抱えてすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

枕元にあるスマホで時刻を確認する。まだ朝の5時30分だった。冬の朝は日の出が遅い。まだ外は真っ暗だろう。カーテン越しからも陽の光はなく、部屋は暗かった。

「5時半か」

 起きるにはまだ早い。とはいえ、一度目が覚めてしまったら、もう一度眠れる気がしない。そもそも、ここは自分の家ではないので、二度寝することに抵抗がある。たとえ寝ることができたとしても、またあの悪夢を見るのなら、起きてしまった方がいい。

 スマホを閉じようとしたところで、ふと昨日の夜、彼に送ったメッセージに既読がついたかどうか知りたくなった。SNSの彼とのやり取りの画面を開くが、既読はなかった。当然、返事もない。私のメッセージだけが残っていた。返事が来ないのは予想できたが、少しだけ胸が痛んだ。

「散歩にでも出かけようかな」

 弟の家では勝手が違うが、洗面所の場所は昨日使ったので覚えている。ちらりとアリアさんのベッドを確認するが、起きる気配はない。私はコッソリと化粧用具をもって、部屋をでて洗面所に向かった。


「お、オハヨウゴザイマス」
「おはようございます」

 目が覚めてしまったのは私だけではなかったようだ。部屋を出て廊下を歩いていると、ルリさんがちょうど部屋から出て来た。目が合ったので挨拶をすると、相手も頭を下げて挨拶を返してくれた。手にはスマホを持っていたので、誰かと連絡を取るために部屋から出て来たのだろうか。

「昨日はすみません。僕が嫌なら、すぐに作戦変更にしてもらっていいですよ」

「とんでもない!私こそ、人気モデルのルリさんにこんな面倒なことを押し付けてしまって申し訳ないと」

「そんなに自分を卑下しない方がいいです。特にダイヤの前では。僕やアリア、他の人の前でもやめたほうがいい。真珠さんは素敵な人です。もし、あなたをバカにするような人がいるのなら」

 その人とはさっさと別れたほうがいい。

 最後の言葉には妙な威圧感があった。私はその言葉に反論することができなかった。弟もそうだが、どうして彼らは自分にそこまで自信があるのだろうか。私にはどうしても理解できない。自分を卑下しないようにと言われても、私には弟と比較されるのが当たり前だった。弟と3歳差で年齢が近かったため、顔は似ているのに弟は性格も明るく優秀で、私は顔だけが取り柄の根暗な姉と言われ続けてきた。

「ちょっと、電話がかかってきたので出てもいいですか?もしもし、ルリですけど」

 暗い思考の海に沈みかけていたが、ルリさんの声ではっと我に返る。今はこんな暗いことを考えていてはいけない。この暗い考えからおさらばして、新しい自分になるためにも、彼と円満に別れなくてはならない。

 とりあえず、朝の散歩でもして気分をリフレッシュしよう。ルリさんが電話している間に、私は洗面所に向かい、化粧をして家を出る支度をすることにした。


【少し、散歩に出かけます。1時間ほどで戻ります。真珠】

 何も伝言を残さずに外に出るのも悪いので、スマホで弟たちにメッセージを入れておく。昨日、SNSアプリに私のための別れ計画のグループを作った。私、弟、アリアさん、ダイヤさんの4人のグループだ。そこにメッセージを入れたので誰かしらが見てくれるだろう。

「僕も散歩に付き合ってもいいですか?」

 玄関で靴を履いていたら、ルリさんに声をかけられた。化粧に時間がかかり、ルリさんの電話は終わっていたようだ。ひとりで散歩して気分をリフレッシュしようと考えていたので、返答に困る。

ルリさんのことは嫌いではない。どちらかというと、好みのタイプだ。彼と別れるためにルリさんは、仮の恋人として私と付き合うふりをしてくれる。ひとりでの散歩も捨てがたいが、ここは一緒に散歩したほうが無難かもしれない。

「いいですよ」

「ありがとうございます」

 私たちは2人でこっそりと家を出た。玄関を出るとまだ外は薄暗かった。時刻は6時過ぎ。2月の日の出は7時近いので太陽が出るまでには時間がある。冬の刺すような寒さが身に染みる。持ってきたマフラーに顔をうずめて外に向かって歩きだす。隣にいたルリさんは手袋をした両手に息を吹きかけていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

処理中です...