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第1章 いじめの代償~季節外れの転校生~

6(0-2)ある娘思いな父親

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 私の娘の話をしよう。娘は今年小学5年生になる。彼女はとても頭がよく、リーダーシップにあふれた、実に自慢できる娘である。そのことがわからない奴も多い。

 例えば、学校の教師だ。彼らはどうやら私の娘の良さに全く気付いていない。娘の行動に対して、いちいち文句を言う奴もいる。話を聞く限り、娘は一ミリも悪くないのに娘がまるで加害者のような物言いをする。娘も自分がなぜ加害者になっているのか理解できずに泣いてしまうことがある。そういう理解のない奴には親としてガツンと言ってやらなければならない。

 ガツンと言ってやり、それでもわからない愚か者がいる。なるべく使いたくはないのだが、奥の手を使うことにしている。いわゆる権力による脅しである。幸い、私には権力があるのでそれを使えば一発で彼らは怖気づく。そして娘の良さを理解する。

 理解したと口では言っても、一度娘を傷つけたものをそのまま同じ学校にとどめておくほど私は優しくはない。そのような愚か者は強制的に異動してもらうことにしている。それだけではもしかしたら、他の学校でも娘のような出来の良い児童に同じことをするかもしれない。それでは可哀想である。私の娘のような出来の良い娘が他にいるとも思えないが、一応の配慮である。
 
 さらに私は権力を使い、彼らがちょっとした不祥事を起こすように仕向ける。もしくは不祥事を起こしたように見せかけて、教員生活を辞めるように働きかけている。実際は異動だけでは彼らに対して罰が甘いと思うからだ。

 こうして、私の可愛い娘は楽しい学校生活を送れているというわけである。我ながら、なんて娘思いな父親だと自負したくなる。娘も最近はめっきり学校での文句を言わなくなった。私の努力が報われてきたということだろう。このまま私がいる限りは娘の学校生活の安寧は守っていこう。そう決意して今日もしっかり仕事に励むのだった。




「今日ね。うちのクラスに転校生が来たの。この時期に珍しいでしょう。」

 娘がそんな話をしてきたのは小学5年生の5月の初めだった。やけに嬉しそうに話すものだから、よほどその転校生が気に入ったのだなと思っていると、案の定、その転校生が相当気に入ったようだった。


「その子はとっても大人びていて、私のクラスメイトとは全然違うの。私、転校生と親友になれそうだと思うの。今度、その転校生を家に連れてきてもいいかしら。」

 ああ、本日も娘はとても可愛らしい。娘が家に連れてきたいといった子は今までに一人もいない。よほどのことなので、その転校生とやらがうちに来るのを楽しみに待つことにしよう。
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