マージナル:平凡なβが、すべての運命を壊すまで

水城

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37.DiE4u(3)

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 悠一は考える。

 どう対応すればいいか。どんな態度を取ればいいのか。
 どんな言葉を選べばいいのか。
 
 どうしたら―― 

 楽にしてやれるのか。
 どうしたら、奏を助けてやれるのか。傷つけずにすむのか。

 奏は横たわったままモゾモゾと足を動かし、膝を抱えて丸くなる。
 
「俺、向こうに行ってる。だからその、シたいなら……」

 奏の真紅の耳朶から視線をそらし、悠一がそう、低い呟きで口にすれば、

「…ばっ、ばか、なに…言ってんだよ、ゆう…い、ち」と、奏が応じた。

「いや、だから……すこしは気分とかが、マシになるんだったらさ」

 オマエが楽になるんなら。
 バカでもなんでも、俺は別に構わない――

 奏は黙っている。
 ちいさく荒い息遣い。

 悠一が立ち上がる。

「まっ…て」
 奏が悠一を見上げた。

「おいて…くなよ……や、だ」
 
 そうやってまた身悶える奏の制服のスラックスの前立てに、悠一は、ごくわずかだが先走りが染み出しているのに気づく。

「その…脱いどけ、スラックス……汚れたら、大変だから」 

 できるだけ淡々と、だが素っ気なくなり過ぎないように、悠一が言い添えた。

「や、だ…やだ」

 奏がフルフルと首を横に振る。
 そんな様子を少し見やって、悠一は、

「やっぱ、俺。下に降りてる」と告げた。

 ティッシュの箱をそっとベッドに置き、歩き去ろうとする悠一の背に、奏が「ゆういち」と呼びかける。そして、

「ごめ…ん、おれ、分かんない、わかんない…んだ、ひとり、にしないでくれよ、やだよ……どうしたら」と繰り返した。

 悠一は戸惑いを隠して、ただ瞬く。
 そして、ふたたびベッドへ歩み寄ると、端に腰を下ろした。

 右手をそっと、奏のベルトへと伸ばす。
 静かにバックルを外して、スラックスの前立てを寛げてやった。

 ボクサーブリーフの合わせ目はぬかるんでいて、屹立した部分がのぞいている。

 ひたすらさりげなく「そこ」から目をそらし、悠一は軽く唇をかみしめて、奏の脚からスラックスを脱がせた。

 奏の身体の下から掛布団を引き出して、あらわになった足元に掛けてやる。

 すると、もうどうしようもなくなったのだろう。
 ついに奏が「自らの部分」へと指を伸ばした。

 自慰が始まる音。
 息を殺す気配。
 ほのかな熱っぽさ。

 悠一は奏の横顔を見下ろす。
 サラサラとした指ざわりの奏の髪へと指を滑らせ、そっとそっと、くしけずった。

 奏の自らを扱く動きが早まる。
 粘度のある水音が続いた。切なく鼻にかかる声。
 あまい、甘い――声。

 淫戯はかなりの時間続いた。

 奏は疲れを見せ始めている。
 ある程度まで高まった快楽は、けれどもそれ以上には駆け上がっていかず、奏は達することができないままだった。

 いたたまれなくなった悠一が、視線をさまよわせる。
 横向きのままの奏の、ボクサーパンツの「後ろ」が濡れていた。
 
 奏もすぐに、「それ」を悠一に気づかれたコトを察し取る。そして、

「みる、なぁ……ぁっ」と。
 ちいさな、でも鋭く悲痛な声を上げた。

 悠一が立ち上がる。

 たしか、アレがまだ、どこかに――
 
 記憶を手繰り寄せた。
 学習机の最下段。悠一が、その奥の奥を指先で探る。

 使いかけのコンドームの箱が見つかった。
 中学時代。
 半ばたぶらかされるようにして、近所のOLと「密事」に耽っていた時の――名残。

 使用期限はギリギリだった。
 だがまあ、「当座の役」には立つだろう――

 その中身を3つほど切り取り、悠一は、
「かなで」と呼びかけて、

「これ」と、コンドームを差し出した。

 大きな目をさらに大きく見開いて、奏がフルフルと首を横に振る。
 どうしたらよいのか、もう、まるきり分からないとでもいう風に――

 悠一は、手にしていた避妊具を軽く咥えて、指と歯でパッケージを破く。
 手早く、それを奏の男茎に装着した。
 それから、残りのふたつも包装を剥がして取り出し、自分の右手の人差し指と中指に二重して被せる。

「あのさ……」

 悠一が、ひどく声量を落として言った。

「手伝うから、俺」

 その声の低さは「家業」の場で遺族に声がけするときと、なぜかどこか似ていた。

「てつ、だう……?」
 奏が訊き返す。

「……後ろ、とか、すこしは…役に立つかなとか、思って」

 悠一の言葉は、相当に回りくどかった。
 けれども奏は、すぐさま耳朶だけでなく頬まで真っ赤にしてしまう。

 あえて返事は聞かぬまま、悠一はコンドームをした指先を、奏の腰に滑らせた。その指は、すでに分泌液で濡れそぼった窪みへと、ごくあっけなく滑りい入る。

 入り口を軽くこするように指を上下させれば、くちゅりくちゅりと音がして、その響きは、あまりにも淫らで恥ずかしく。奏は――

 固く瞼を閉じて、奥歯を喰いしばる。
 けれど――

 「やめろ」とは言えなかった。
 「やめてくれ」とは頼めなかった。

 だってずっと――
 その場所に触れたかった。そして、誰かに触れられたかったから。
 そこへの「刺激」を欲していたから。

 悠一の指が擦れる場所から、ふつふつと訳の分からないものがこみ上げて。
 奏の腰は、どうしようもなく痺れて揺れる。

 どんなにペニスを弄ったところで、こんな感覚は全然得られなくて。

 ――そうだよ、気づけば、おれはいつだって。
 尻を、床に枕にこすりつけてた。
 腰を揺らして、ぬるぬるに「後ろ」を濡らして。
 最近は、いつも、そんな。

「あ、…っ、あぁっ……」

 あやふやな形に開かれたくちびるから漏れ出す、奏の声の色が変わる。

「あ、あん、あんあん、あ、ああっ……」

 つき上げるような嬌声。
 悠一はそっと左手を伸ばし、窓とレースのカーテンを閉めた。

 そして、奏の肩に腕を回して、寄り掛からせて――

 コンドームをかぶせた人差し指と中指を、奏の中へと挿し入れた。

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