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新たな出会い

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「華宮利皇、ボク達より二つ年上。この会社の社員の一人で、二番目の義姉の旦那さん」
「それはさっき自己紹介で…って、えっ!」
 前半はさっき聞いたが、後半は聞いていなかった。
 眼を見開き、利皇に視線を向けた。
「ああ、結婚していることは言ってなかったっけ?」
 そう言って、左手の薬指の指輪を見せる。
「うっそ! なら何でオレにちょっかいかけてきたんだよ?」
「俺は元々恋愛に性別はこだわらないタチなんだ。奥さんも同じでね。お互い自由に遊ぶのが条件で、結婚したようなもんだし」
「っ!」
 声にならない叫びが、陽一の口から飛び出た。
 それはつまり、羽月の二番目の義姉も恋愛対象は男女関係ないということで…。
 口をパクパクさせながら、羽月を見上げた。
 羽月は額に手を当て、深くため息を吐いた。
「…まっ、そういうことだね。お互い恋愛に対してはフリーであることを条件に、結婚したことは聞いたし」
 それを聞いて、今度は利皇を見た。
「なっなら何で結婚したんだよ?」
 そんなに自由では、結婚の意味などない。
「まあいわゆる契約結婚? お互い権力者の家に生まれているからね。親が勝手に決めた相手と無理やり結婚させられるよりは、自分で決めた相手と結婚して、好き勝手にやりたかったんだよ」
「…ちなみに一応聞いておくけど、そこに恋愛感情はあるのか?」
「そりゃもちろん。夜の営みだってあるよ? お互い仕事が忙しくて会える日が少ない分、夜は盛り上がるからね」
 陽一はパンッと音が鳴るぐらい、強く自分の両耳を塞いだ。
 …何で人様の夜の生活事情を聞かなくてはいけないのか…虚しく思う。
 大体夜の営みと恋愛感情は関係あるんだろうか?
 利皇の口から聞くとどうしても胡散臭く聞こえてしまうが、…ある方に信じたいので、とりあえずはあると思うことにした。
「利皇、そこまで。そんなことはボクも聞きたくない」
「そう? まあ仲は悪くないよ。結婚してまだ一年だしね」
 …しかしその間、二人はきっとお互い別の人間と夜を共に過ごしたこともあるんだろう。
 陽一はさっき利皇が自分達のことで感動したと言っていたことを、少し信じる気になった。
 彼や奥さんがこうでは、確かに物珍しい行動だっただろう。
「…で、もしかしなくてもこの人が代理人?」
「そう。利皇は口も演技も上手いからね。…でも心配になってきたな」
 険しい表情で羽月は陽一の肩を掴み、自分の背後に隠した。
「だからゴメンってば。もう二度としない。噂に聞く陽一くんがあんまり可愛かったからさ」
「かっ可愛い?」
「そっ。スーツ着ているけど、高校生に見えるし」
 グサッ!
 …周囲の人から言われ、自覚していたとは言え、改めて無邪気な笑みで言われるとダメージは深かった。
「それに羽月くんを虜にさせた人だからね。どんなものなのか、知りたくなって」
 羽月の利皇を見る眼に、暗い感情が浮かぶ。
「好奇心は身を滅ぼすという言葉、知らないとは言わせないよ?」
「怖い怖い。だからもうしないって。約束する」
 苦笑しながら両手を上げる姿を見ても、なかなか信じにくい。
 羽月は再びため息をついた。
「…とりあえず陽一、座って。いろいろと仕事のこと、説明するから」
「あっ、うん」
 改めて陽一はソファーに腰を下ろした。
「飲み物はコーヒーで良い?」
「ああ、頼む」
 羽月は部屋の隅でコーヒーを淹れはじめた。
 利皇は陽一の向かいに座ると、足を組んだ。
「俺の設定としては、高校時代の先輩の友達ってことでね。何度か一緒に遊んだことがある程度で大丈夫だろう」
「そう…だな」
 陽一は敬語を使うのを止めていた。この人相手では、いろいろと通用しないと実感したからだ。
 ため息をつきながら、カバンの中から持ってきた書類を、利皇の前に差し出した。
「はい、これ。ウチの工場の資料」
「契約の内容の良さに、不審を感じた人はいた?」
「オレや水野さんは感じたけれど、他の人は特に」
「まあ田舎は良い人多いから。それに詐欺をされるような会社でもないしね」
 …それは水野とも話したことだが、工場関係者以外の人から聞くと、わずかにイラッとくる。
「利皇、余計なこと言わない」
「ああ、ゴメン。俺、口が軽いのが欠点なんだ」
 サラッと言うところを見ると、大して欠点だとは思っていないのだろう。実際、羽月に咎められてもヘラヘラしている。
 しかし書類をパラパラと捲りながら、利皇は少し唸った。
「まあ東京の店の方は俺と羽月くんがいれば大丈夫。問題は工場の方だね」
「それはこっちでも話し合った。店を出すとすれば今までの生産では数が追いつかなくなるだろうから、工場の増設を考えている。だけど問題は材料の方で、花や果物が原材料だからいきなりは増やすことは不可能だ」
「うん。この商品の強みはあくまでも地域で採れた原材料という点だからね。ここで他所から仕入れたら、どこにでもある物と大差ないし」
「ああ。だからとりあえず、駅やデパートなどで行われる物産展には今後出ず、インターネット販売と店を中心に売ろうと思う」
「ん~。でも正直に言うと、店の方を重視してもらいたいなぁ。確かに手に入りにくい物ほど熱くなるけど、東京の人は流行の流れが速いから。置いていかれる前に、定着させたいんだよね」
「それはこっちも理解している。けどインターネット販売の方が先にはじめたんだ。できれば同時に扱っていきたい」
「う~ん。気持ちは分かるんだけどなぁ」
 目の前にコーヒーカップが置かれたので、話し合いは一時中断した。
 陽一はミルクと砂糖を入れて一口飲んだあと、忘れていたことを思い出した。
「あっ、忘れてた。今日ここに荷物を配達するよう、頼んだんだった」
「荷物って何?」
 隣に座り、コーヒーを飲んだ羽月が首を傾げる。
「工場の人達がウチの商品を扱ってもらうなら、良さを知ってもらった方が良いって言って…」
 陽一が苦笑しながら説明していると、部屋に置いてある電話が鳴った。
「もしかしてコレかな?」
 利皇が立ち上がり、電話を受けた。
「もしもし? ―そう、じゃあ運んでくれ」
 電話を切ると、楽しそうにこちらを向いた。
「荷物が届いたって。送り主は茜家」
「うっうん。まあ荷物が届いたら、説明をする」
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