しがない俺が手にした力でやれること

hagedaijin

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7.どこにもいない少女

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 私は増田 加奈。清涼女学院高等部1年。

 隣を歩く可愛らしい子は、クラスメイトで親友の鮎川 砂霧、通称”さっちゃん”。

 背中まで届く黒髪を赤いリボンでひとまとめにして、右肩から前に垂らしている。

 体型は着やせする方、という本人の言はともかく、学園指定の制服で隠しきれない大きな胸が目を引く。

 身長は私より少し高めで、こじんまりとした小顔に儚げな表情を浮かべ、時折ため息をつく。

 周りの景色を見ているようで、彼女の目には別の物が見えているのだろう。

 見ての通りの美少女ぶり……道行く男どもの顔を見ろ!

………私は誰にも見てもらえない背景……男どもの視線は”さっちゃん”に釘付け……こんちくしょー。

 分かっちゃ~いたけど、私達これでも同い年でクラスメイトなのに。

 なのに扱いは天と地ほども違う。

 今日も今日として”さっちゃん”がため息をつけば、ほわっと胸を抑えるバカ男ども多数。

 惹きつけられるツボは、愁いを含んだ表情か?

 けだるげに髪をかきあげるしぐさか?

 ……それとも、認めたくはないが、前に突き出した推定90越えの巨大なバストを含む、均整の取れたスタイルか?

 ああ、そうとも。全て私には無い要素だ。

 胸は出ていないので足先が見下ろせるし、胴体も括(くび)れていない。

 だから、どうだってんだ?私には私なりの良さがある……多分。

 そして、これが重要事項だ。お前らは知らないだろう。

 ”さっちゃん”がこんな表情するときは、だいたい家庭がらみの悩み事が原因なんだぞ。

 ホント、あのバカ親たちからどうして、こんな素直で心持のいい少女が生まれたんだか……



 ”さっちゃん”の父親はガチで真正のロリコン。”さっちゃん”に向ける視線に怖気が走ったよ…

 それだけじゃなく、私に対しても異様な興奮した目つきでじろじろ見てくる変態行動。
 
 母親も年の割に見た目は若いけど、厚化粧して連日の男あさり。

 相手はそろいもそろって美中年揃(ぞろ)い。

 情報通のクラスメイト、高島 麗奈(たかしま れいな)嬢によると、相手の男性たちの素性は……

 代議士の息子で大ベテラン俳優をはじめ、大病院の院長、有名弁護士。
 次期警視総監候補と噂されている敏腕警視、某芸能プロダクション社長。
 この街の暗黒社会を牛耳(ぎゅうじ)ろうとしている暴力団の若頭(わかがしら)、とそうそうたるメンバーだ。

 どういうつながりかというと、いずれも国立【帝南大学】の某ヤリサークルの創始メンバー達だという。

 チョット…待て。麗奈ちゃん、この情報どうやって仕入れた?十分危ないネタ満載何だが!?

 この事は口が裂けても”さっちゃん”に言えない。
 これ以上、彼女を悩ませる種を増やすのは酷だ。



 ましてや、彼女の芸能界入りには裏があった。

 先週の事。学園からの帰り道でスカウトマンからの誘いに、”さっちゃん”は返事を保留のまま寮に帰り着いた。

 私も相談されたけど、砂霧が親の呪縛から離脱する為に芸能活動で資金を稼ぐ、という強い意思と頑張る姿勢に私は応援する旨を伝えた。

 あの腐れ母親が珍しく”さっちゃん”の芸能界入りをプッシュし、公募オーディションを受けた。

 来季放送のドラマの準ヒロイン枠を見事勝ち取ったわけだけど……

 ”さっちゃん”を採用したのは【武田プロモーション】

 そして、バカ母親とその愛人である【武田プロ】社長武田 陽一が仕組んだ、”出来レース”だなんてとても言えないよ。

 あんなに喜んでいる”さっちゃん”はあまり見たことが無い。

 友人としては、バカ母の謀略プラス、黒すぎる【武田プロ】所属には異を唱えたい。

 麗奈の追加情報によると、あの武田社長は指定広域暴力団【芹沢会】の若頭、芹沢 保(たもつ)と裏でつながっている。

 売れなくなった所属アイドルに法外な違約金を借金として負わせ、裏ものビデオ女優として無理やり出演させたり、泡姫(あわひめ)として”お水業界”に流してる、らしい。

 それと合わせて、仕事をとるためなら所属女優を関係先に枕営業させている。


 ところで【泡姫】って何?…言葉の響きから、いかがわしい職業ぽいけど。
 この前、担任の佐々木 撫子(ささき なでしこ)先生、通称撫子ちゃんに質問したら、拳骨を頭にもらって…しこたま怒られたんだから……

 麗奈、初めから答え、教えてよ………

 結局【泡姫】の意味については、耳と顔を真っ赤にさせた撫子ちゃんは教えてくれなかった。怒られ損だよ……


 ”さっちゃん”のバカ母が相当やばい連中と”ねんごろ”な関係にある、というのは”さっちゃん”にもしかするともしかするかもって自体なわけだけど……ホント、どうすればいいんだろう。

 でも、当事者たる砂霧が、ダメな親たちからの経済的な独立を勝ち取り、妹と共に別居するために武田プロに所属しようと考えてるわけで。
 加奈は友人の生まれの不幸と、現在進行形で”泥沼”にはまりそうな状況に頭を悩ます。

 彼女の元に舞い込む”相談事”の半数は、加奈自身に解決の糸口が見いだせない……っていうかもう警察案件でしょ、コレ。




 曰く、相談者Aさんの場合……父からの性交渉が嫌です。
 今まで10回堕胎させられて、もう子供の産めない体になりました。
 将来に希望も持てないし、もしも彼氏ができたらどう対応すればいいいですか?

 いや、ねぇ。重いよ。警察や児相に行くレベルでしょ。
 そんな変態オヤジ牢屋に行ってもらって施設に入ればいいんじゃないの?
 選択に困って二進も三進もならない友人に代わり、私が児相に友人の件について通報しておきました。
 後日、彼女の父親が”青少年育成条例違反”で逮捕され、彼女はめでたく児相に保護された。
 最近の話だと、好きな人ができた、って教えてくれたけど。

 過去の事は忘れて幸せになって欲しいです。



 曰く、相談者Bさんの場合。なんかさぁ、うちの高校の先輩がぁ、”売り”強要っするんよ。
 私ぃアレ嫌いじゃないんだけど、やっぱ彼氏ぃ以外の咥(くわ)えるのって、嫌じゃね?
 でも、うちの彼氏ぃ私が他人にヤラれるの見ると興奮するっていうんだぁ。
 だーかーらーどうしたらいい?

 あの、それ惚気(のろけ)ですか?私、これでも女子高に通う処…なんですよ。
 何を咥えるんですか?いや、麗奈、具体的な形教えないでよ!想像したじゃない。
 うぇっ。気持ぢ悪い……阿武隈さんの勝手にしてください。あっBさんでした。

 でも、一応他校の数少ない友人なので、警察に通報しておきました。
 後日、彼女の高校に巣くっていた、学生専門の買春グループが摘発された、って麗奈に聞いた。
 もちろん、彼氏さんも。
 複数の少女達をレイプして、写真で脅して売春を強要していた首班として。

 Bさんとの仲は自然消滅です、はい。



 曰く、相談者Cさんの場合。父の会社が倒産して学校通えなくなりました。
 債権者から逃れるために夜逃げを計画していたけど、見つかって今監禁されています。
 父の借金だけど、何か私と母にソープか”裏モノ”に出ろって、強要されています。誰か私を助けて。

 すぐさま、警察に通報して彼女の携帯の受信電波から監禁場所を特定し、救出されたって麗奈が教えてくれた。

 借金の方も違法融資で法外な利子だったことが判明し帳消しに。
 債権者の皮を被った【芹沢会】系矢橋組の組長以下組員全員が逮捕された。

 あの……麗奈さん?私、あんたに私の友人関係話してないよね?
 それにあの子の事あんたに教えてないよね?何で私に事後について教えてくれるのかなぁ?

 自分ではにこやかな笑顔で麗奈に詰め寄ってみたんだけど、まんまと逃げられた。
 麗奈の情報収集欲って半端ないから、味方で運用するには重宝するけど敵に回ったら難儀するレベルだよねぇ。



 という塩梅(あんばい)で、私の元にくる相談内容って”重い”のやら警察案件が割と多い。


 クラスメイトをはじめ上級の先輩や学園外の高校に通う友人たちからも知恵を借りて、ひねり出した答えを相談者たちに伝えていた。最終的な判断は当事者に任せている。

 私達のような少年少女は経済的な面で親から離れられない関係にある。

 その方面に関しては、親や金銭が絡む問題故に問題解決が難しかった。

 時間的に猶予が無く、相談者本人が”がんじがらめ”で動けない様なときは、匿名通報で関連組織に連絡していた。

 警察や児童相談所なんかがあたる。

 頼ってくれるのはうれしい反面、内容がヘビーすぎて胃もたれ気味。

……………………………………………………………………………………


 ところで、麗奈が拾ってくるネタは9割9分以上、正確な情報。

……今までハズレがほとんどない。唯一外れたのは、先月だったかな?

 中東の小国の街、ムグゲドを占拠していた、武装組織【Amanda】が壊滅した件。

 隣国から攫われ奴隷化されていた女学生たちと、強制労働を課せられていた住人達が、共に無事救出された、ってニュース。


 麗奈のリークしてくれた情報は、【国連軍】による救出作戦。

 事前に町の【Amanda】のアジトを空爆、浮足立つ組織員に対し、特殊部隊で各個撃破の後、女学生と住民の確保、という内容だった。

 でも、ふたを開けてみれば……町中から次々と白旗が掲げられ、白旗を持ちながら避難場所から現れた女学生達。

 俗に言う”無血開城”ってやつ。

【国連軍】が街中をしらみつぶしに捜索すると、重機関銃や迫撃砲などによる戦闘痕が多数見つかった。

 所々に人間の血痕が大量に地面を濡らしている他は、武装組織員のただの一人も見つからず、あるはずの死体や欠片すら発見できなかった。

 助けられた女学生によると、黒髪黒目の少年が刀らしき武器一つで武装組織と戦闘を繰り広げ、少女達は戦闘前に安全な場所に隔離されていた、らしい。

 麗奈の情報の通り作戦が決行されれば、多数の死傷者が出ていたはずで…

 それを一人の少年が殲滅せしめた、というのだから【国連】内部の人間はもとより、密かに組織に対して情報収集にあたっていた諜報機関でさえ、誰も信用しなかった。

【国連】の正式発表では少年について触れず、【国連軍】の戦力に恐れを抱いた武装組織が、町を放棄し無血開城がなった、と報じられた。


 一人の少年による殲滅劇。
 さすがの麗奈も度肝を抜かれ、その少年に対して強い興味を掻き立てられたらしい。
 彼の詳細についていろいろな分野で情報を集めてる。

 それで見つかった戦闘映像がこれ。
 私のスマホには麗奈からもらった短い動画が保存してある。

 ネタ元は壊滅した武装組織が残した膨大な量の遺品の一つ、ビデオカメラの動画データ。
 ”無謀な作戦を敢行した憐れな異教徒の少年”とタイトルがつけられていた。
 ネットで彼ら武装組織の宣伝効果高揚などを目的として公開する予定だった。

 単純な理由として、少年の無謀をあざ笑うために録画していたんじゃないか?って麗奈が言っていた。

 でも、この動画の内容がおかしい。
 私はそれらについて麗奈に問いただし、一切の加工はしていない、との確証を得ていた。

 それでも信じられない内容だった。
 そりゃあ、【国連】も”まとも”に取り上げない、というか信じない。


 動画の中で少年は右手に刀を下げ、手前の組織員がかまえる重機関銃の前へと小走りで近づいていく。
 明らかに銃弾が少年に当たっているはず。
 でも、銃弾は少年の前にある”見えない壁”によって跳ね返され跳弾する。
 その流れ弾に構成員が負傷していく様子が映っていた。

 そして、少年は何も持っていない左手を相手に向けた瞬間!!

 少年が立つ地面が泡立ち膨れ弾け、螺旋を描きながら細い”ヤリ”のようなものを形成し、画面を貫く寸前で動画は終わっていた。


 正直なところ、麗奈が言うようにこの動画が”本物”であるならば、異世界モノによくある”魔法”を使った、みたいだと考える人もいる。

 といっても、【魔法】なんて空想の産物で実際には何か仕掛けがあるはずで。

 まぁ、トンデモ動画に変わりなく、麗奈は面白いからとネットの掲示板”ネットうよチャンねらー”でUPした。
 動画掲載サイトに多数の視聴者を誘導し、広告収入でざっと5千万円程稼いだ、って教えてくれた。



 まぁ、麗奈の事は横に置いておいて……今は”さっちゃん”についてね。

 正直”保留”かなぁ…物的証拠はないし。

 あのバカ母に納得づくで、”さっちゃん”解放に成功する方法が見出せない。


 クラスメイトが豪商や旧家のお嬢様といっても、彼女達はそこの子女でしかない。
 経済活動で直接金銭を得ているのは彼女たちの親御さん。
 こと出資や親権問題絡むと身動き取れない子多いのよ、これが。


 暴力というか威力分野は”あて”があるにはある。
 クラスメイトに【鳶鷹(とんびたか)姉妹】と呼ばれている、八州 京子・渚(はちす きょうこ・なぎさ)の姉妹。

 なんで【鳶鷹姉妹】か、というと……彼女たちのお父さんが、プロレスラーを軽くしのぐ巨漢の強面で彼女たちの容姿が全然似ていないからなんだ。

 でもそれって、母親似じゃね?と思った。

 以前、行われた【中等部】の授業参観に来ていた姉妹の母親が、すごい色気ムンムンの美女だったので遺伝子は嘘つかないんだね、って思った。

 そんで、京子は男勝りのさっぱりした性格。
 口調は少し乱暴な、尊敬する母親をまねて少し変わっている。
 渚さんはゆるほわ~んとした穏やかな性格。
 二人とも姉妹みたいに似ているのに母親が違う……これは麗奈からの極秘情報。

 でも時折見せる、言葉遣いに”任侠映画”の主役みたいなのを混ぜてくるので、性格は意外と彼女たちの祖父似なのかも。

 姉妹の祖父は、この辺りの”シマ”を取り仕切っている【権田原組】の組長で、【不死身の権左(ごんざ)】として、ある業界では超有名人。

 あの強面のお父さんはデイトレーダー…金融市場で金儲けをする凄腕。
 学園にも数億単位で寄付している。
 普通、暴力組織が公共の団体に寄付行為をするのは、忌避されがち。

 だけど、寄付金の大半は、2代目襲名間近な父親の為替相場からの”儲け”というのが一つ。
 もう一点が彼女達の祖母の出自が、京都で平安の世から続く由緒ある旧家だ、ということで許可されているらしい。

 とはいえ、彼女たちのおじいさんに安易に頼るのは筋違い、というか”火に油を注ぐ”というか”爆弾に点火”レベルに達しそうで、デンジャラスで危険なんだよね。


 ”さっちゃん”が所属しようとしている武田プロとつるんでいる【芹沢会】
 そこと【権田原組】は抗争真っ最中で街中で発砲事件は起こっていない。
 けど、一触即発状態でヨダンが許されない状況。(by麗奈)


 それにバカ母経由で愛人たちが侮れない。
 俳優は除外するとして弁護士に警察、とこちら側が不利な状況に追い込まれる、恐れがある。
 最悪なのが【権田原組】の解体・解散が実行された場合。

 薬や”たかり”、その他のアクドイ商売で評判も悪い【芹沢会】が、私たちの周辺にはびこっていく………なんてことになったら目も当てられない。それらの商売がらみで訴訟は数知れず起こされているけど、敏腕弁護士が示談交渉で逮捕者を出させない有様だ。


 かたや【権田原組】は昔かたぎで”任侠”と”義勇”、地域社会への貢献を基本理念にもつ、今では珍しい”まとも”な組だった。【必要悪】という言葉があるけど、この地域に居続けても共存できる人たちだと思う。
 だから、一個人の相談事でなくさせるには惜しい、というわけ。

 敵は戦車でこちらは竹やり、っていうのが今の状況かな。


 加奈は何とかならないものかと思案し、ふと隣の友人の様子に目を止めた。
 砂霧が視線を向ける方向……私たちが向かう進行方向からこちらに向かってくる人だかり。
 大半の男たちがだらしない顔で砂霧に視線を向け、恋人らしき女性がそばにいる男性はだらしない顔を彼女たちにつねられている。

 いつも目する光景だった。ただ……一人だけ違う雰囲気をまとう青年がいた。

 残暑が残る今日この頃、身に着けてる服装は妥当で、何ら不審な点は見られない。

 でも、加奈は彼が一瞬の”スキ”もない歩き方と身にまとう”覇気”に気付いた。

 一見、普通に歩いているようでいて、川面に浮かぶ木の葉が流れに逆らわらないように、彼もまた人波に逆らわず”するりするり”にと人ごみを避けている。

 いつでも、周囲に対して対処できる、という姿勢が加奈に戦慄を覚えさせた。

 加奈自身、周囲が”持っている”人だらけなせいもあり、自分を卑下(ひげ)し自身を凡庸だと評している。
 だが、彼女も”持っている”方だったりする。
 ある分野では稀有で有望な成長株でありながら、彼女の人となりは謙虚で決して出しゃばらず、周りに気を使い融和的友人関係をモットーとしている。
 彼女の家族と学園の護身授業の担当講師だけが、彼女の隠された才能を見出していた。

 その加奈の目から見て、青年は動物園で見るライオンやトラ、クマ以上の脅威として認識され、思わず砂霧に話を振ってしまった。


「…おやおや!?…”さっちゃん”はあの人のこと、気になるの?」

 意外や意外、砂霧はアレが気になってしまったみたい。
 普段は彼女の父親が、トラウマとなって一切男性に興味が無い、って風なのに。
 我が親友ながら趣味が悪い、というか間が悪い、というか……

「…あの態度気に入らない。文句言ってくる」

 うわぁぁぁぁぁぁぁ……マジ!?マジですか?
 アレ相当ヤバいよヤバイなんてもんじゃないって。
 止めて!ねぇ、止めてよ!”さっちゃん”

 砂霧は見た目に反して、物事に対してははっきりしている。
 告白してきた男子たちに対して丁重にではあるが、ハッキリと交際する気が無いと伝え、将来的にも希望を持たせない言動をとる、という面があった。

 それが、最悪な場面で今発動された。

 加奈は砂霧の行動力に待ったをかけようとしたとき、青年がほほ笑んだ。

 その瞬間、周囲の何かが変化し、加奈の身近な”気配”が消えた。

 加奈は”まさか”と思いながらも確信をもって、目を離すべきでない対象から目をそらし、隣を振り返り愕然とする。

 友人の砂霧がいない。周囲に彼女の気配の”け”の字も感じられない。

 当然、周囲を見回しても砂霧が突然消えたことに気付き驚いている人たちは見えても、砂霧の姿は見えなかった。

 砂霧を消したのは……枝道の陰でこちらを凝視して驚いている二人組では無い。

 アレは麗奈の回状メールで送られてきた、要注意人物【芹沢会】の若頭・芹沢 保の息子の充(みつる)と彼が主催する”やり逃げサークル”のメンバーだ。でも、今は無視。

 他の周囲の人たちも当然無関係。

 多少、砂霧に対して思慕や劣情を抱いていただろうけど、今は度外視できる。

 やはり、あの青年しかいない。
 そう確信して彼がいるだろう場所に視線を向けようとして、

「…何かあったのか?俺に手伝えることあるか?」

 と、話しかけられた。
 ビクッと見上げると優し気な瞳で加奈に話しかける、人の好(よ)い青年の顔があった。

「…あっ!?…………そう、そうです。友達の砂霧ちゃんがいなくなって…」

 あれっ??私、どうしたんだろう?

 あんなに脅威を感じて、ヤバいと思っていた人に普通に対応してる……
 あっ…この目。この目を見てはだめ。多分”邪眼”系のたぐいだ、前に父さんが話していた……
 でも、体が自分のモノじゃないかのように動作が鈍い。
 この人、今度は”私”に何かしたんだ。
 抵抗しないと。抵抗?何で抵抗するの?
 この人はいい人だよ。よく知っている人だよね。あれ、どこで会ったっけ?

 加奈の目は青年の視線を受け止め、意識は靄(もや)が被されたように有耶無耶(うやむや)な状態になっていく。そして、旧来の知り合いのような気がしてきて、何でも話していいと思った。

「それは心配だね……そうだ、俺も一緒に探すよ」

「えっ、悪いですよ。何か用事あったんじゃないですか?」

「まぁ、あるにはあるけど。急ぎってわけじゃないから、君の友人を探すよ…えっと」

「あぁ、私の名前は増田 加奈って言います。加奈って気楽に呼んでください」

 加奈自身、さっき会ったばかりの他人に気安く名前呼びを許すほど、軽い娘ではなかった。
 警戒していた相手にこうも安易に対応している時点で、彼女はもう彼の術数の手に落ちている。
 今の時点において、それが最善策だと疑っていないのが証拠だ。


 こんないい人に名前呼びされないのは我慢できない。
 だって、私の大事な人だから……


 加奈と青年は彼女が思いつく砂霧が行きそうな場所をしらみつぶしに探した。

 存在も気配も消えた砂霧は見つかるはずもなく、二人は街中のはずれにあった公園で共にベンチに座り、ここへ来る途中で買った飲み物を代わる代わる口にした。

 普段の彼女なら『間接キスしてるう~』と狼狽(うろた)える事案であるが、恋人同しなら普通の行為だ。
 私と彼は将来を誓い合った恋人同しだ。親も公認だし婚約もしている。
 キスだって日常茶飯事。でも大切なものはまだ渡していない。
 クリスマスプレゼントに彼にもらってもらうんだ。


 昨日だって……昨日!?…それに彼の名前は……そうそう、今日はデートで街で遊んで公園で休憩中だった。

 彼女の意識は靄(もや)がかかり、青年が婚約者で今はデート中だと信じて疑わない。
 ”加奈”の意識から”砂霧”失踪についての記憶が抜け落ち、久しぶりの婚約者との逢瀬で頭がいっぱいになっていく。



「それでね、護身の先生にも褒められたんだよ?”増田は筋がいい”って」

「へぇ~それはすごいね。見せてくれないか」

 うわぁ、嬉しい。彼から褒められた。ムフフ…あぁぁ幸せ。彼の為なら何でもできる。
 命を差し出せ、って言われたら喜んでそうする。でも、彼、優しいからそんなこと言わないけどね。

 加奈はベンチから立ち上がると彼から少し離れた場所で、日ごろの鍛錬の成果を披露する。

 入学時に学園から支給された、伸縮式のステンレス製の警棒を伸ばし、授業で習った護身術の”型”を青年に披露し始めた。

 その動きは流麗で素人に毛が生えた領域を逸脱し、”ひとかどの武人”にも迫る勢いだった。

 いつしか、青年も加わり打打発止(ちょうちょうはっし)の様相にまで発展していく。

 互いに引きつき、押し込み、まるでダンスのパートナー同士のように息の合った二人。
 そんな掛け合いを演じていたが……突然、終わりを迎えた。加奈の体力が底をついたのだろう。

 不意に加奈の体勢が傾き青年が抱きしめる形で終了した。

 二人は視線はともに熱く、互いに見つめあい、自然と唇が近づく。

「んっ……はぁ。んんんっ」

 最初は軽く唇をつけ、軽くついばむ。そして、次第に激しくお互いを求めあい、唾液を交換しあい互いの舌が複雑に絡み合う。青年が加奈の背中に回した手が、加奈の逃亡を許すまいと身じろぎする彼女の体を離さない。もう片方の手が加奈の首筋から胸、下腹部へと移動するに伴い、彼女の体が熱を持ち始める。
 
 それが、10秒過ぎ…1分過ぎ…2分目に突入したとき、均衡はもろくも崩れた。


「あなた達、何をしているんですか!!?…増田さん、あなたがまさか衆人環視でハレンチな行為に及ぶなんて」

 公園の入り口から血相を変えて二人に駆け寄る、スーツ姿の20代後半に見える女性。加奈と砂霧のクラス担任の佐々木 撫子であった。



 あっ!?撫子ちゃん!??どうしよう、私ヤバいとこ見られちゃった。
 でも、彼に迷惑かからないように私が何とかしないと。

「ち、違うんです。これは、そう!護衛訓練の一環で…彼に暴漢役をやってもらって、いかに対処できるかをですね…」

 わぁぁあああ、私のバカ。こんなの絶対信用されないよう!?

「そんな言い訳、通じると思ってるの?この事は親御さんに相談するわ。それより、あなた!」

 撫子ちゃんは彼に詰め寄った。

 しかし、彼が先生に振り返り謝罪を始めたことで一応の収拾はついたようだ。
 戸惑いと困惑で顔色の悪かった彼女が、いつも通りの優し気な笑顔を彼に向けていた。



 はぁ~良かった。彼に迷惑かかっちゃったら、こうして会うことできなくなっちゃう。
 加奈は撫子に彼の誠意ある言葉によって、自体が終局したことに安堵した。
 そればかりか、彼はお詫びを兼ねて寮のみんなの分のケーキをお土産に買ってくれる、と言う言葉に歓喜した。

 もちろん、寮長も兼任している撫子先生監視の元、寮までの荷物持ちを彼にさせることに心苦しく感じたものの、一分一秒でも彼と長く居られて、加奈は幸せいっぱいだった。

 でも、私の大事な人に対してにこやかな笑顔で話しかける撫子ちゃんは、正直うざい。
 誰に断って、人の婚約者に色目使ってんだ、この行き遅れ!?

 腹立たしいことこの上ないが、仮にも学園においての担任教師である撫子先生に今は強く出れない。
 先ほどの行為に対する追及を蒸し返される煩わしさとリスクを鑑みて、今は許してやることにした、今は。

……………………………………………………………………………………


 公園から10分ほど歩くと【セレスディア洋菓子専門学校】という大きな看板を掲げた建物がある。
 3階建てのビルで1階が店舗兼実習室、2階が教室で3階が学生と講師達の寮を兼ねている。
 ここの洋菓子は近所でも評判で、リピーターがたくさんいるし、常連もたくさんいる。

 私達、学生寮の住人は金銭的な面で容易に買うことはできないけど、たまにクラスメイトのお嬢様勢が”こづかい”でおごってくれる。

 彼女たちには足を向けて寝れないね。

 足を向けて……で思い出したけど。

【中等部】の夏季合宿の時の長谷部さんの”要望”には驚いたなぁ……
 同室になった他の子たちも引いていたっけ…お嬢様にも色々溜まるものがあるんだろうねぇ。
 彼女は自分の敷布団の周りに皆の布団の足側を向かせて、みんなに足蹴にされて喜ぶんだもん。

『私をもっといたぶってぇ~』にはさすがにみんなエンガチョした。
 目がいっちゃってたし、よだれをたらして下から洪水のごとく……あれ?何の話だったけ。




 1階の洋菓子店にはいつも外国人の店員さんが対応してくれる。
 10代前半ぐらいの年恰好で近所でも評判の美少女だった。

 上の階の洋菓子教室で生産された、生徒達の課題作品の内”習作”と形に難がある”失敗作”が店頭のガラスケースの隅に並べられている。

 これらの生徒作品は私のお小遣いでも手が出るほど、滅茶苦茶安い。普段買いはこれ。

 洋菓子教室の講師たちが、工夫を凝らした一品の十分の一以下で販売されている。

 味もそこそこで私達一般家庭出身者には好評だ。

 でも、お嬢様方には不満があるようで、彼女たちは講師たちの作品を必ず購入する。

 私も何度か食べたからわかるけど、生徒作品なんて比較対象にならないほどおいしい。
 そりゃ、あんだけの値段はして当たり前。
 中でも週一で不定期に販売される、【セレスSP】のケーキは絶品で常連でもなかなか食せない一品だ。
 もちろん、予約はできないので機会がある者たちは、毎日のように洋菓子店へ足を運ぶ。

 私達学園生は、何故か1割引きで販売されているのだけど、情報通の麗奈は口をつぐんで教えてくれない。
 誰かに何か言い含められているのか、何らかの取引材料なのか……多分、特製ケーキで買収とみた。


「いらっしゃいませ-」

 鈴の成るような涼やかな美声が耳をくすぐる。

 看板娘のセレスディアの声だ。彼女の幼い容姿から巷では【セレスたん】とも呼ばれているけど、私は【セレスさん】と呼んでる。

 長く金髪をツインテールにして、青い瞳に喜色を浮かべ今日も元気よく客を出迎える。
 今日はピンクを基調としたドレスを身にまとい、接客の実習中の専門学校生と共にカウンターの向こう側にいた。

「こんにちは!セレスさん」

「さぁ、好きなだけ…というのは日持ち的に無理だろうから、みんなの分を選んでくれ」

 彼の厚意に甘えるのが当然な私は、彼の善意にしり込みする撫子ちゃんの背中を押し、ケーキ選びをする。
 私から離れた彼はセレスさんと楽しげに話しながら、店内に併設されたラウンジで向かい合わせに座る。

 意外とセレスさんには嫉妬を覚えなかった加奈は、二人の耳慣れない会話に耳を傾けながら、加奈の横で額にしわ寄せケーキ選択に唸る、撫子に聞いた。

「ねぇ、撫子ちゃん。彼とセレスさんの使っている言葉判る?」

 多様な選択授業がある学園では、世界各国から優秀な講師を招き言語取得にも力を注いでいた。

 入学後のレセプションで外語講師たちが、多彩な言語を披露し選択授業の説明をしていたが、それらにセレスたちが交わす言語は含まれていなかった。

「ふむぅ……私も聞いたこと無いわね。欧州寄りの原語に似ているけど、発音が複雑……ソレよりも【先生】が抜けてるわよ?」

 撫子の抗議はスルーし、彼らの会話に耳立てて子細漏らさず記憶していく。
 後々、使用言語が判れば内容が判るだろう。

 ケーキを購入後、女子寮へと向かう。名残惜しいけど”彼”とはここでお別れ。
 撫子ちゃんの手前、自室に”彼”を招き入れるなんてできないもん。
 寮の玄関ホールで”彼”と次に会う約束をする。触れ合う手のひらに熱がこもる。

 ここには撫子ちゃん以外にもみんなの視線がある。
 握手以上のことはできないけど、”彼”との間に何かがつながった気がした。

 リビングルームに並べられたケーキが、寮の皆にいきわたり臨時のお茶会が開かれ、消費されていった。

 私は自室に戻りドアを閉め鍵をかける。部屋に入りクローゼットの前を通り、姿見鏡に自身を映す。
 自室に戻った私がいつもする………儀式。




 姿見に映った自分は、メリハリの利いた肢体に高く結い上げた黒髪、表情をなくした顔。
 ”犬神 時雨(いぬがみ しぐれ)”……それが私の本性。

 ”増田 加奈”は学園に潜伏する為の仮の姿。
 雌伏(しふく)の時は過ぎ、ついに私の前に”彼”が現れた。私が生涯をとして仕えるべき”主”。

 公園で彼の前で護身術のデモンストレーションを披露していた時、私は興奮を覚えていた。
 ”彼”の瞳は常人には残像のようにしか見えない動きもつぶさに追いきり、あまつさえ参戦してきた。

 私は彼を試してみたい欲求に逆らえず、殺すための技を使ってしまった。
 でも”彼”は易々とかわし、あまつさえ即興で技をコピーする始末。
 忍びの技を極めた私がなすすべなく、敗北を喫してしまった。

 そして、彼に初めてを奪われた。
 彼の膂力に抗えなかった否、熱に浮かされ、流れに抗えなかった。

 撫子が現れなかったら、私は……



 鏡に映る時雨は、自身の唇に指を添え…あの時の熱を思い出す。
 初めての敗北。異性との初めての接吻。

 忍びの家系に生まれた自分は、いつか”主”に仕えねばならなかった。
 で、あるならば。せめて、自分が使えるべき”主”を自らの手で探してみたかった。
 己の技量を越える、器量と寛容を備えた最高の”主”を求めていた。

 そして、叶った。”増田 加奈”の心をを書き換えられたときは正直驚いた。
 仮の人格とはいえ、易々と防壁を崩され一瞬にして”恋人”と思いこまされた。

 私は”加奈”として恋人役を演じきれただろうか?……あの方の望むままに。

 それすらも…あの方の手のひらで踊らされていた、哀れな生贄でしかなかったのかもしれない。

「主様、私はあなたの元にはせ参じます」


 時雨の決断は早かった。

 元から少なかった衣類を数個のかばんに押し込み、自室を後にした。

……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………


 翌日の教室に彼女”増田 加奈”の姿は無かった。

 そもそも、”佐々木 撫子”が担当するクラスに”増田 加奈”という生徒は在籍していない。

 だから、誰も不思議には思わなかった。

 最初に気付くべき人物、”鮎川 砂霧”は登校しなかった。

 彼女の席は窓際の後ろで、その前の席は”犬神 時雨”という少女の席であった。

 しかし、入学後に”時雨”の姿を見た学生は少ない。


 ふと気づくと砂霧の前の席の誰も座っていない席の椅子が、まるで誰かが座っていたよう動いていたり。

 彼女の席のそばの窓が、ひとりでに開いてたり。

 そういったことが日常的にあり、クラスメイト達はあの席には”誰か”がいるけど、見えない”何か”だと思っていた。

 そんな事象が起こった時は必ず、砂霧が誰もいない前の席にいる”誰か”に話しかけている姿が良く目撃された。

 クラスメイトのほとんどが京都に本家を置く、旧家ゆかりの子女で占められている。

 それぞれ、特殊な能力を持つ少女たちが集まる教室で、一般家庭からの入学組で普通の少女だった砂霧が、浮かなかった理由がここにある。

 なにがしかの能力を持った彼女たちは、砂霧を【霊視能力者】と考えていた。

 他の皆に見えない”誰か”が霊的存在ではないか?という憶測ゆえに。

 彼女達能力者は殊更自らの力を披露するわけでなし、それらを御する為に日々精進していた。

 だから、時々砂霧が口にする”加奈”が霊的存在だと思い、”時雨”と結びつける者はいない。

 また、自分を”増田 加奈”だと強く自称する”時雨”に対して、友人として”加奈”として接する砂霧。

 砂霧同様、”時雨”が見え、彼女が頑固に誇示する自分が”加奈”だという主張を飲み込んだ、クラス担任の撫子が登校していないこともあり、”時雨”出奔にこの時点で気づけた者は少ない。

……………………………………………………………………………………

 彼女たちの不在が顕在化するよりも重大な事態が学園で起きていた。
 旧家を含む複数の生徒の親元から 突然、娘たちの無期限休学届が提出された。
 1クラス当たりの生徒数の激減により、クラスを再編成。
 それに伴い、担当講師の配置換え、授業時間割の変更など、学園が多忙を極めたのは致し方ない。

 それらが沈静化したとき、残された人々は疑問を浮かべる。

 無期限休学届が提出され、登校しなくなった生徒の大半は旧学生寮の生徒であったこと。
 なぜか、彼女達は同じ時期に寮から姿を消してた。
 残ったのは、いずれも自宅通学している生徒。
 そして入寮組で残ったのは、あの日、所用で寮を離れていて【お茶会】に参加できなかった生徒。

 これらの共通点に気付き、彼女たちの行方に気付いた生徒は一人。
 入寮者でその日、寮にはいたものの自室で特殊な環境下にいた、”高島 麗奈”だけが知っていた。

……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………

非コレクションNO.01
名前 増田 加奈    年齢 15歳
職業 清涼女学園高等部1年生
身長 155センチ B 70 W 65 H68
備考……鮎川砂霧の親友。目立った特徴も容姿でもない普通の子
砂霧に対して劣等感を持ちながら、友人として接する優しい面を持つ。
学園内外に多くの協力者兼友人がいて、日々相談事に悩まされている。
『私は背景』が口癖。




 いやぁ……世界は広い、というか世間は狭い、いうべきか。
 身近なご近所に多彩な少女たちがこんなにいたなんて、世界は面白い。

 この世界にスキルや魔法が全然ない、と思っていたけど……そうでもなかったな。

 試しに【人物鑑定】で自分を見てみると、職業欄に【言霊(ことだま)使い】が追加されていた。

 あれかな?【創造魔法】を【想像魔法】とかにしたり、【状態異常】魔法を【状態移譲】魔法と考えたりしていたのが、良かったのかな。


 胸は大きいけど根は普通の少女な砂霧ちゃん。
 複雑な家庭事情や、その先に待ち受ける彼女の行く末に少し可哀そうに思ってしまった。
 それなら、俺が保護した方が彼女は幸せになれるんじゃないか?なんて思っていた。

 でも、彼女がそばにいたのなら、俺の行動って無駄足だったんじゃね?と思うね。

 だって、


非コレクションNO.01改
名前 犬神 時雨  年齢15歳
種族 シャドーウルフ種獣人族(先祖帰り)
職業 清涼女学園高等部1年生
   増田 加奈(仮人格)
   犬神流忍術継承者
身長 170センチ B 98 W65 H 85
ユニークスキル 【私は背景】
技術スキル 【気配遮断】【聞き込み】【思い込み】【気配察知】
      【危険察知】【徒手空拳術】【犬神流短剣術】【光学迷彩】
      【影分身】【身体強化】【獣化】【半獣化】etc
魔術スキル【地水火風・遁】【影まとい】【影縫い】【影移動】【幻術】
     【縁(えん)の赤い糸】etc


 本当はこんなに多彩で魅力的な娘だからな。
 特に技術スキル【思い込み】とユニークスキルの【私は背景】は面白い。

【思い込み】………自身が設定した人物像を設定どおりに演じることができる。
         精神や肉体にも影響を与え、観測者や世界さえ欺く。
         通常の【人物鑑定】では見破れない。

【私は背景】……ひとたび彼女そう思えば、何物にも彼女は見えないし、気配も感じられない。
        アカシックレコードにも記録されない。


 まぁ、俺の【森羅万象の理】は欺けなかったみたいだけど。

 試しにかけた【魅了】が”加奈”の人格に作用して、かかっている状態なのに、本性の”時雨”には効果が無かったっていうんだから、どこまでが演技でどこからが本当の彼女なのか判別つかないな。

 アカシックレコードにも記録させない彼女の【私は背景】は軽くホラーだな。
 普段の彼女のクラスでも出てるんじゃないだろうか?

 きっと、街中でも無意識化で【私は背景】スキルが顕在化していたんだろうな。

 最初、砂霧を見つけた時、彼女一人しかいなかった。
 砂霧消失で狼狽したせいか、スキルが弱まったので発見できたけど。
 俺でも注視していない見えなくなるし、存在も感じられなくなる。
 一瞬、自分だけに見えた”幻”だと、認識が書き換えられたりもして、相当のもんだ。

 それに別れ際にさりげなく、握手に乗じて俺に仕掛けた手並みに脱帽。
 悪意を感じなかったから無効化しなかった、小指から延びる【赤い糸】。
 この【赤い糸】の先にいる彼女の気配を感じる。”時雨”が、俺の自宅を見つけたらしい。

 さて、彼女を迎える準備をしようかね。



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 大変お待たせしました。第7話です。PCの長子が悪いのか通信状況に問題があったのか、この間2時間分の書きあげ分がロストしました。
 まぁ違う構想が立ち上げたられたので、無駄ではなかったですけど脱力感は半端ないです。
 
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