しがない俺が手にした力でやれること

hagedaijin

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9.彼女の事情

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 ”アビ”の勧めもあり、金策作戦遂行のため隣町の市街地に繰り出した。

 この街の郊外には【権田原組】という、小規模な渡世人?を営む集団がいる。
 ”アビ”のいう『悪い人のところからお金を頂戴すれば、誰も訴えず資金入手できる』誰も心を痛めない、作戦なわけだが……権田原の人どうなるの?

 市街地の歩道に溢れんばかりの人込み。その中にこちらに向かう一人の美少女。

 周囲の野郎共の顔を見れば、皆だらしない顔をひっさげ、デレデレ。
 彼女モチの奴なんかだと隣を歩く同伴者から手痛いしっぺ返し、を食らっている。

 俺も仕事で方々に行ったが、稀にみる逸材だな彼女。
 愁いを秘めた瞳、気だるげなしぐさ。
 名前は…鮎川 砂霧(さぎり)ちゃん、15歳、清涼女学園1年か。

 隣を歩く見えない少女も彼女に劣らず、美少女だったりする。
 見えない少女の名は……ん?アカシックレコードに”増田 加奈”と、”犬神 時雨”という二つの名前が表示されていて、”時雨”の方が今はグレー字で”加奈”の方が黒字。
 ”砂霧”ちゃんは黒字表示だから、今の彼女は”加奈”ちゃん、ということか。

 目に見える二人ステータス画面に、フィルルターを重ねるように”視れる”レベルを下げていくと、魅力的な美少女が”増田 加奈”というスタイルも容姿も平凡な普通の少女に見えてきた。
 なるほど。一般人には彼女はこう見えるようで、”砂霧”ちゃんに周囲の男どもの視線が集中すると、彼女のスキル効果で背景に溶け込んでしまう、らしい。
 面白い特技を持つ少女だ。

 隣の砂霧ちゃんはステータスからすると、外見の良さ以外は普通で、周囲の人間たちに認識されていない”加奈”を何故か意識内にとどめ、認識している。
 ステータスに反映されない隠しスキルや能力があるようだ。

 涼は自身のスキル、【森羅万象の理】でも見えない普通の少女”砂霧”を”視る”。


 ”砂霧”と”時雨”が共に歩いていれば、両方ともにナンパされるだろうことは、予想される。

 なかなか面白い組み合わせだと思う。
 注目を一身に集める彼女に、とりわけ強い欲望を視線に乗せて見つめる二人組。

 あの枝道に隠れている二人組は………彼らの詳細も”今”の俺には一目瞭然だった。
……………………………………………………………………………………
 俺の力が拡大し始めたのは少し遡ること、ひと月前。

 ”アビ”に自身の可能性を煽(おだ)てられ増長……慢心した俺は、自宅で、仕事現場で趣味の拡充に”力”を際限なく使った。

 無現空間たる【収納空間】があるのだから、ドンドン収納していこう、というわけ。

 手始めに自宅の自室と物置の私物を収納空間に送った。
【空間魔法】の応用でPCの配線だけが元の自室の壁につながっている。

 収納空間内の建築エリアに新たな自室を作り、今度はごちゃごちゃにならないよう家具を設置する。
 自宅の俺の私物はベッドだけを残して全て収納空間内に構築した自室に仕舞った。
 自室は建て直した新築の頃を彷彿とさせる広さを取り戻した。
 

 最近、仕事で行くようになったパチンコ屋の駐車場警備。

 駐車場に出入りする車の誘導をしたり、駐車場の駐車数を数えたり、場内のごみ集めが主な仕事になる。
 ただ立っていればいいわけでなく、それなりの苦労はある。
 出入り口に立てば、安全にお客に出てもらうために仕事をしているのに、それを邪険にするマナーが悪い人。
 車道と店の敷地の間には歩道があるのに、そこに何も通らない、とでも思っているのか、一時停止もせずに駐車場に猛スピードで入ろうとする人……

 この前の事だけど、安全のために停車を促していると、自分の思った時に出庫できない事にいら立ったのか、
「免許もってるんやど」と、意味の分からないことを言い出す客。
 免許持っていなければ車に乗れないのに、何当たり前のことを言うんだろ、この人。
「そうですか」と返すと、「なんやとわれ、お前どこの警備や?」という始末。

 こういう人たちの事を【やから】というそうだ。
 当たり前に返されたのが腹が立ったのか、彼はパチンコ店側に自身の行動の不備を伝えずに抗議した。

 数分後監視カメラで様子を見ていた店長さんに”指導”を受けた。
 なんか、納得がいかない。だから、彼には相応の対応をしておいた。
 国道を自宅へと向かう彼の車を捕捉し、彼の車からガソリンを全て収納空間に送った。

 後日、また絡まれた。懲りない人は再現知らず、というか…

 彼が車道に出てパチンコ屋から十分離れた場所で、股間を中心に爆発すれば面白いのでは?なんて、俺は考えたけど手は出していないし、触れてもいない。
 次の週からその人を見かけなくなった。きっと違うパチンコ屋に行ったんだろう。

 ごみ収集も厄介で、2時間おきにごみ集めに周回する。
 いくら集めても”たばこの吸い殻”が投げ捨てられている。
 投げ捨て現場で本人たちに「困ります。吸い殻集め大変も大変なんですよ」と、こぼしても”すいません”の軽い言葉で、あざ笑うばかり。

 俺は彼らに反省を促すために、パチンコ屋の敷地全体に”呪い”を術式魔法で施した。
 彼らが無自覚に捨てる、吸い殻やごみを対象に、それらが地面に落ちた後、30秒立っても彼らが拾わなければ、かのゴミが本人たちの体内の”隙間”へと転移する、というものだ。

 時間内にごみ箱へ捨てに行くならまだしも、こちらの仕事を妨げる、ゴミの不法投棄は許されない。

 俺の毅然とした行いで駐車場内でごみを見かけることが無くなった。
 それはある意味で良かった。
 だが、寒くなると出入り口で立ちっぱなし、というのは運動していないだけ肌寒い。
 そんな時、ゴミ拾いで駐車場内を周回するだけでも、暖まるというものだ。
 まぁ。俺自身には”適温調整”スキルを衣服に付与してあるので、無縁だ。
 が、何だか同僚たちに悪いことをしたような気が………

 たまに、コンビニの手提げ袋いっぱいのごみを捨てる人がいる。
 これをそのまま腹腔内に転移させれば、その人も苦しいだろうから、転移時にそのごみを圧縮して体内の脂肪分と共に燃焼させることにした。
 大きなごみは減るし、捨てた人も体内の脂肪まで減らせるのだから、感謝してほしいくらいだ。
 燃焼したごみと脂肪の残りかすは、その人の体内に残るので始末をしないで済む、という利点もある。


 出入り口に一日通しで…8時半から23時まで立ちっぱなし、というのは考え事をしていればすぐ慣れてしまったが、無駄な時間もある。

 だから、俺は自身の警備能力をコピーした、コピー人間を配置して仕事をさせていた。
 引き抜いた自毛を基にした、クローン人間だが、今の俺の肉体構成で作られたので、並み以上の働きをするだろう。
 生きているゴーレム…フレッシュ・ゴーレムというものかな?これ。
 もちろん、問題が起これば”無かったことにする”用意も怠らず、亜空間から監視の”目”は飛ばしている。

 もう、これ…いや彼【コピー君】に仕事任せておけば、自分は自由に動けるのでは?なんて思わないでもないが、見守るだけはしていた。
 こうやって、長々と流れる雲を眺め、通り過ぎる車を眺めていれば、14時を過ぎる頃に下校中の高校生や中学生、帰宅した後遊びに行くのだろう小学生たちが、パチンコ屋の前の歩道を通りだす。

 もちろん、コピー君が配置された歩道の向かい側、反対車線側の歩道を通る人たちもいる。

 そんな学生の中から”彼女達”を収納魔法と幻影魔法を用いて、すみやかに蒐集した。

 あの娘イイな…収納。おっあの娘も…ってな具合に。

 突然、目の前で人が消えれば、それを見た人は驚くだろう。

 でも、離れた場所で目線の外れた時に消えるのであれば、問題ないのでは?
 という考えで、収納すると同時に幻影を作り出し、他人の視線が消えた時点で消滅するように設定しておいた。
 この作業を続けてずいぶん経つ。
 やればやるほど魔法の熟練度が上がり、息をするように視線を向けるだけで作業は終わる。

 収納空間に送られた彼女たちは、待機していた”アビ”によって、名前・年齢・職業・身体能力等の分類を受け、俺の頭の中のコレクションの一覧表へと集約される。

 霊場として名高い”高原山”の寺院の駐車場に仕事で赴いたときは、訪れていた観光客の可愛い女の子や女性を片っ端から収納した。
 場所柄か外国から訪日する観光客もいて、ボンキュッボンからスレンダーまで、あらゆる体型がいて、外国人はグラマーだと思っていた俺は、自分の見識の狭さを知らされた。
 彼女たちが話す言葉はもちろん、【言語理解】スキルのおかげで、日本語で話すようによく理解できた。
 彼女たちがいなくなったことに気付き、路地を娘或いは伴侶たちの名を呼びながら探す家族や友人たち。
 心当たりを探しに来た人々に対する応対も、かの地の現地人同様の語学力で、

「いえ、私たちは見ていないですね。警察に届けられては?」
と、助言できた。【言語理解】マジ凄いスキル


 橋の架け換え工事の現場に派遣されたときは、下校時間になり橋を渡っていく小学生から高校生に至るまで、好みの娘をチョイスして蒐集した。

 走行禁止区画をヘルメット無しで、二人乗りや三人乗りする原付バイクに対しては、風系魔法の【真空刃】でチェーンを切っておいた。
 すべからず、車体が停止し彼らは原付バイクを手押しで帰っていった。安全でいいですね。


 昔から、テレビや映画の特撮に出てくる怪獣など、消しゴムでできた人形をコレクションするのが趣味だった。

 中々、その当時のモノは捨てられず、長く自宅の物置の奥に保存されていた。
 そこに、新たなコレクションが加えられた。
 今度のはリアルで造形がいい、生きているみたいだ。時間は止めてますが生きてます。


 収納魔法のおかげで、魔力制御力も増し”アビ”の手を借りなくてもよくなってきた。

 彼女には当初の役目……アドバイスとナビゲーションから離れてもらい、収納空間内の収納物の管理をしてもらっている。
 自分でもできるが正直面倒くさい、要所要所で自分は動くが雑用は適材適所、というわけだ。

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 しかし、いささか涼はやり過ぎた。

 派遣先周辺で失踪者が続出したり、不思議なことが起きだした。

 パチンコ店周辺では、たばこの吸い殻が体内から検出される、ニコチン中毒に陥いる客や突然腹痛をうったえる客たちが増えた。

 夜間、自転車で無灯火やスマホを”しながら運転”をしていた人々が、転倒して負傷する事故多数。

 横断歩道のない国道を車が来ていない時に横断していた人たちが、何もない所で躓(つまづ)き通りかかった車に引かれる人身事故。

 無謀運転を繰り返す、暴走車やバイクが走行中に炎上。


 次々と起こる事件?や事故が、何故か”涼”が派遣される日に限って続出している。
 そんな指摘が外部やネット経由であり、会社での涼の立場が怪しくなり始めた。

 最初の頃は『ついてないね、事故続いて…』という感じが、最近では『楠さぁ、何か憑いてるの?』となり、『言いにくいんだが、先方さんから楠を外すよう要請されてな…』と、なってきた。

 警備会社は信用もさることながら、評判や関係者からの風聞を気にする。

 そんな中で特定の隊員が派遣された現場で、不可解な事象が続発する。
 同僚からは”涼”自身の過失ではなく、たまたま会社がその日その場所に”涼”を派遣して、彼は偶然巻き込まれただけだ、と庇ってはくれたが、会社上層部は契約先からの応答に俺を排除する意向を伝えだした。

『ああ、楠。悪いな。今、仕事少なくてな。回せる仕事無いんだわ』
『すまん、明日も休み』

 と、いう風に仕事をさせてもらえない、状況だ。

 現場関係者や同僚、監視カメラ等の映像から涼のアリバイは実証されていて、事件事故には無関係だと証明されていた。
 なのに、会社は風聞を気にして、無関係であるはずの涼を切り捨てた。

 仕方なく、涼は自宅警備を余儀なくされた。
 他に副職もしていないため収入も無く、貯金も無い。
 無いことづくめの涼に選択権は無く…サラ金から借りて、母親に食費その他の費用として10万円渡した。

 自室の窓から外を見ると、向かいの通りの端っこにシルバー、電柱のそばに黒の乗用車が止まり、いずれも涼の家を監視している。

 刑事と公安だろう。
 
 こうなったのは【身から出た錆】【自分で種をまく】【自業自得】【マッチポンプ】【墓穴を掘る】とか、言うのだろう。

 涼に捜査員たちの目が向いた原因は、ネットの世界にあった。

 世の中、暇人でカンを働かせる者はいるようだ。
 ネットの”うよチャンネル”の掲示板上では、涼を犯人扱いする住人たちが数多くいた。

……………………………………………………………………………………


56.おい、お前ら聞いたか?美少女誘拐事件。

57.それ違う。広域婦女子失踪…なんちゃらだろ?

58.そうそれ。

59.乙葉ちゃんも消えてるんだが、関係あんのかな?

60.乙葉?誰それ…名前からすると可愛いんだろ?

61.もちろん。胸デカで武プロに所属するアイドル候補生だぜ

62.げぇぇぇぇぇ、よりによって武プロ?あそこ評判悪いしょ

63.だども、裏もの急降下と見た

64.>63は黙れ。俺のアイドルを勝手に汚すな

65.お前振られた口だろ、俺の同志だ

67.勝手に同志扱いすなっ

68.で、その乙葉ちゃんもいなくなった、てか

70.そっ…俺のダチの彼女も目の前で消えたってよ

71.それ、どこのホラー

72.二人で下校してて、さっきまで話してたのに隣見たら、いなかったて

73.さすがに、うそだろ?

74.まじ、マジ

75.俺のダチでポリいるんだが、最近多いらしい

76.何が多いんだ

77.そばにいたのにいつの間にかいない、ってやつ

78.だから、婦女子失踪ってか



 この辺は問題ないな。確かにホラーだ。
 学校帰りのあの娘たちの笑顔は、あの年代特有のものだしな。
 そんな娘たちが、いなくなる。不思議なこともあるもんだ。


156.で、俺のダチがたまたま行った日が、失踪者がたくさん出た日で、

157.出た日ってアバウトだな(笑)

158.しょうがねぇじゃん。いなくなったの、気付いたの遅い奴とかいんべ

159.これ、この警備員なんだが…

160.ああ、映ってんな。おっさんが

161.おい、もしかして、それって…

162.ああ、俺の連れのポリが失踪者が出た範囲を捜査した結果、面白いこと分かった、てよ

163.もしかして、同じ警備会社とか?

164.ビンゴ!!!!それも同じおっさんだったわけ

165.それ、出木杉じゃね

167.デモ用、犯人は犯行現場に戻るとか、犯行現場にいる、とか言うじゃん

168.まぁ、そう言うな。じゃそいつで決まり化

169.ポリのダチはアリバイが崩せねぇ、っていってたけどな

170.アリバイ出た……監視カメラか?

171.そっ。そいつ動かねぇでやんの。失踪した学生に手も触れてねぇし、声もかけてねぇ

171.でも、怪しい

172.そうだよ、怪しい

173.俺もそう思う

174.ぜってー関係あるべ

175.UPしといたぜ、祭りだ、祭り

 この後、リンクが張られたサイトに表示される、いずれも失踪者が出ている場所近くで仕事をしている、同じ風貌の警備員。


179.これだけ重なれば、もう確信犯?

180.決まりだな

181.通報しました



 ネット住民の戯言にどれだけの発言力があるのか、この時点では未知数だった。
 しかし、手詰まりで何の成果もあげられず、市民からの苦情に苦慮していた、一部の捜査員が重い腰を持ち上げ、写されていた警備員についてマークし始めた。


……………………………………………………………………………………


 という流れ。

 うん実行犯も何も俺が張本人だ。
 俺は純粋にコレクションしているだけで、金銭を要求したこともない。

 現時点で物的証拠も無ければ、各所に設置された監視カメラの映像が、俺のアリバイを証明している。

 だが、仕事現場に刑事がうろつき、何故か公安まで俺を見張っているのはなぜ?

 ”アビ”に聞いても
『旦那になんら影響も与えない、無害な連中です』
 と取り合わない。

 【危機感知】スキルは止まったまま。この事も”アビ”は俺に言わなかった。

 前から分かっていたが、俺とアビの間では脅威と考える対象に隔たりがあった。

 俺にとっては、今の生活を脅かす、警察を含む、捜査機関や管理機関に捕捉されるのは本意ではない。
 やるだけやっといて何だが、この国の失踪者が年間何人いる?

 それが数日で、200人ぐらい消えた……うん、まぁ、よく考えなくても間違いなく、”ただ事ではない”はずだ。

 警察組織が重い腰を上げるな。
 事件っていうか、それぞれ別の場所で同時期にいなくなってるんだから、単独犯では無理だろうし。
 これが組織犯罪なら、俺の背後関係を探られただろう。

 無い腹をいくら探られたって痛くも痒くもない。
 でも職場で、警察にマークされるだけで、仕事できなくなるのは、刑事ドラマでも定番のパターン。

 そんな事態が俺自身に社会的ダメージを与えて不利益を被る、っていう事が”アビ”には分からない。

 アドバイザー兼ナビゲーター能力を備えた、俺のサポーター。
 俺の欲望の肯定者と捉えていたが、どうも彼女には別の思惑があるようだ。


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 力を多く使うようになって、夢枕というか夢の中で”前任者”の若者が、俺にアクセスしてきた。

 色々見せられた。前文明の崩壊、高次元生命体の消失……まぁ色々だ。
 それらはすでに終わってしまった、彼の回想録でしかない。
”今”を生きている俺には、この世界の成り立ちなんかは興味がない。
 彼からは”精々、楽しんでくれ”と、託された。言われなくてもそうする。

 彼からはもう一つ頼まれたことがある。異世界【グローディアス】の管理ユニット【クリスディア】

 名前から女性だろう人格を持つ、【クリスディア】は”俺”に早く逢いたいが為に、”アビ”に干渉していた。

 ”アビ”……いや【クリスディア】の目的は、考えるまでになく俺の異世界転生と見た。
 人間で、この世界の住人である俺が、あちら側のクリスディアに会うためには、異世界へ転移しなければならない、という前提条件を満たしたいが為に、彼女は俺の社会的立場を失くし、居場所を奪い転移しやすい土壌を用意しようとしている。

 かの異世界、【グローディアス】という名の処曰く【剣と魔法の世界】

 そこへ行くためにはいくつかの方法がある。

 一般的な方法としてまず一つ。
 この世界で死した後、”輪廻転生”装置によって、【グローディアス】に”魂”が送られる。
 この世界と【グローディアス】とは、死者の”魂”を循環させている。
 あちらで死した者はこちらで転生する。
 だから、異世界間移動は”魂”の状態でなくてはならない。
 過去の記憶などをアカシックレコードに残し、来世である別世界へと記憶を抹消された状態で送られる。

 もう一つ、この世界に未練が無い者を管理者権限で、対となる世界に送る、という方法。
 処曰く【異世界転生】ってやつだな。

 現実的には0に近い時間の間に管理者による質疑応答の後、死亡前の記憶を受け継いだまま転生する。
 赤ん坊として人生やり直し、みたいな感じだ。

 或いは前世の肉体情報を模倣した肉体をチート付きで与え、厄介ごとに対処させる。
 対象となる”魂”たちに異世界移動時の工程が伝えられないせいか、【異世界転移】と思われている。

 管理ユニット【G-3】と【クリスディア】は概ね、異世界転移に関して、そのようなルールだと認識している。

 だが、実際は違う。俺が許可した対象物は簡単に送り込むことも、引き寄せることもできる。
 俺自身、あちらへの移動も簡単だ。

 だから、”アビ” が、この世界での俺の社会的立場、居場所を失くす為に誘導している。
 ”未練”を断ち切らせて【グローディアス】へ送ろうとしているのだろう。
 だが、今の俺にとって有難迷惑な行為そのものだ。

 今はまだ、【グローディアス】に移動するつもりはない。
 一度あちらを観察してみて、てこ入れが必要なら手は打つ。

 さて、”アビ”に干渉してまで、俺に逢いたい”クリス”に対して、どう対応したものか。

 貢献するものには褒美を、背信行為には報いを…というのが俺の方針だ。

……………………………………………………………………………………

 話を戻そう。クリスの目的はどうあれ、結果的に彼女の行動と言動が今の俺の力の開花につながった、と考えれば彼女の貢献度に応じて褒美を与えるつもりだが……まぁ、今は保留だ。

 ステータス画面と合わせて、彼女達にマトワリ付く浮遊物体。
 彼女たちの周囲に浮かぶ、ビー玉大の物体を見て俺は”アビ”に尋ねた。

「なぁ、アビ。あれは監視装置だと思うが、無効化してくれないか?」

 【心通し】スキルで脳内会話などしなくとも、俺の周囲の空間に干渉して”アビ”以外に声が聞こえないようにすれば事足りる。

「大丈夫ですよ。今の容姿は若いなりですし、コピー君は自宅警備してますから」

 やはり、聞き分けが悪い。とは言え、こちらを観察している彼女も面白いスキル持ちだ。

 ”深宇宙探査機 試作壱号シグナライザー”を操る、”オペレーター”の”長嶋 麗奈”嬢ねぇ……なんともまぁ、スキル持ちや特殊装置、旧家に【国家守(くにやもり)】と、てんこ盛りだ。

 軽く、彼女たちのステータス画面から関連先の【清涼女学園】を精査すれば、面白いデーターが出てきた。
 表の顔は各界の著名な豪商や財閥系資産家の子女を集めた、由緒正しい私立女学校だが、来歴は怪しく出資者に至っては京都で守護職を代々受け継いできた旧家が名を連ね、授業内容に護身術と能力制御等の特殊授業が組まれている。
 現在は一般入学組が半分を占めている学生層も、何らかの意図の下集められた能力持ちの子女たちがそれ以外と、こんな学園は普通じゃ創立しない。

 仕事にあぶれて金策に来ただけにしちゃぁ、面白いトコに来たと思う。

 さしあたって、”砂霧ちゃん”だが………ふむ、フムフム…ほ、ほー世の中分からないねぇ。と、なると。あいつらは……んんん!?いや、もったいないなぁ。あれだけの逸材がアレらにねぇ。

 ステータス画面から関連先事項の確認とアカシックレコード(長いからアカコレ)に記されていく項目と、未来予測を読み進める涼。

 彼にとっては数秒の事だったが、並列思考で【時空魔法】と【転移魔法】を瞬時に構築し、”砂霧”を収納した。

 周囲のざわめきは【沈静化魔法】と【催眠魔法】を併用して”砂霧”失踪を無かったことにする。
 そして、動揺して姿を現した”時雨”に近づく。

 彼女に【魅了魔法】を使ってみるが、”加奈”という表層意識体は影響されるが、深層意識体”時雨”には抵抗された。
 とりあえず、【魅了魔法】にかかった”加奈”という普通の少女になりきっている”時雨”に付き合い、見つかるはずのない”砂霧”探索に乗り出す。

 ”加奈”が疲れたので、コンビニで買い求めたペットボトルのジュースを代わる代わる飲み干す。
 やはり、彼女は動揺が抜けきらないのか、時々明滅するかのように加奈になったり、時雨になったりとアカコレの情報も錯綜している。
 彼女のスキルはアカコレまで欺(あざむ)く、レアスキル。

【清涼女学園】に通う女子に有用性あるスキル持ちがいるなら、蒐集してみるのもいいな。

 ”時雨”の護衛術の演武を見ながら、今後の活動方針について考えをまとめた”涼”は、興味本位で”時雨”に相対する。
 私生活で”ステゴロ”体験は無かったが、テレビで見た以上に対人戦は迫力があった。
 涼の素人丸出しの攻撃に伸縮式の警棒で左右に受け流し、反対に涼の手首・膝へと的確に攻撃を与え無力化しようとする”時雨”。
 彼女の動きに目が慣れ、隙を見つけて懐に入ろうとした涼の眼球に向けて、それまでに倍する”突き”を放つ”時雨”。
 彼女の動きに遅滞は無く、”本気”と見た涼は側面へ体を一歩ずらして”突き”を躱し、リーチの差を埋めるためにさらに一歩踏み込んで、右手の人差し指と中指をそろえ武器に見立て、彼女の眼球に狙いを定め動きを模倣した。
 瞬時に自身の殺人技を模倣し、反撃に移った涼に動揺して動きが瞬間止まる”時雨”。
 涼は彼女の眼球まで後1㎝というところで掌を広げ、彼女の額に手を触れた。

 ”時雨”は自分の技が躱され、あまつさえ模倣の上に反撃を許したことに”喜び”を覚えていた。
 涼も”時雨”の動きがさらに精緻で俊敏な攻撃型にチェンジしたこと受け、シフトを変え応対していく。
 案外ダンスもいいもんだ、、涼は思った。

 二人のダンスは”加奈”の体力が尽きかけた事で終幕を迎えた。
 ”時雨”本来の体力はまだありそうだが、普通の娘”加奈”としては妥当な線のつもりらしい。

 いやいや、普通の娘はとっくに超えてるし、”時雨”が出ていましたよ。

 体制の崩れた彼女を抱きとめる形で、重なる二人の影。
 まじかで見る彼女の視線が熱を帯びているのが分かった。
 こうなってくると彼女のしぐさが、演技なのか本気なのか見わけがつかない。

 彼女が瞼を閉じたのが”誘い”ではないか?と思いはしたが、”据え膳食わぬは男の恥”という名分のもとに、素人娘とは初めてのキスを敢行した。

 軽くついばむ口づけを数回、口腔の奥へと舌を潜り込ませ深く味わい、互いの舌と唾液の交換をする。
 最初、彼女の舌に触れた時、驚いた彼女に普通の人なら舌をかみちぎられる勢いでかまれたが、全体が人間をやめている涼の舌は物ともせず、彼女の舌に絡みつく。
 涼の拘束から逃れようと反射的に押しのけようとする彼女の手をやんわりと掴み、両手首共に無害化する。
 もう片方の手で彼女の体を拘束して逃がさない。

 そのまま、彼女の中に媚薬入りの唾液を流し込んでいたが、一向に”時雨”に効かない状況を見てもう一段階まで踏み込もうと考えていた。

 しかし、探知範囲に混ざる別のスキル持ちの気配を背後に感じていた。
 数分前から、こちらの様子をうかがっていた気配の主は、少し興奮状態で歩み寄ってきた。

 拘束を解いた”時雨”は少し涙目で涼をにらみ上げていた。
 夜のお水の店の百戦錬磨の女性から教わった、ディープキスまでは許容範囲だったのか、アカコレに記された”加奈”の感情と”時雨”の演技の表情が一致していなかった。
 案外、初めてだったのかねぇ……考えてみればスキルや能力が常人離れしているとはいえ、15歳の女の子には変わりない。
 まぁ、役得というわけで許してもらおう。
 可愛いギャップを見せる少女を背に、涼は誰何の声を上げる”先生”に向き直った。

 【清涼女学園】1の2組担当、佐々木 撫子 27歳 B 82 W 65 H 85 
 佐々木工業の創業者の孫娘。最近、親からの見合いについての打診に辟易している。本人は仕事に情熱を燃やす一方、女学園出身故、異性との交遊もなく内心焦っているが、結婚は恋愛の末に、と考えている。

 アカコレからの情報と目の前の撫子を見ながら涼は【魅了魔法】を込めた視線で彼女を見た。

 撫子の涼に対する認識が、【油断ならない危険な異性】から【信用のおける頼りがいのある年下の男の子】へと変わり、【将来を誓い合った恋人】になるまで時間はかからなかった。

 これが、常人のケースなのだが……”時雨”は何から何まで特別仕様と考えた方がいいみたいだ。

「すいません。僕が彼女に無理強(むりじ)いしてしまいました。彼女は悪くありません。僕を罰してください」

 ”僕”なんて一人称を久しぶりに使い、吹き出すところを抑え”撫子”を真摯に見つめる。

「……まぁ…そういう事でしたら今回は大目に見ます。以後気を付けるように」

 普通に考えたら、おかしな話だ。
 撫子の中では、”恋人の浮気に寛容な自分”という立場に落ち着いたようで、彼女を伴い”時雨”を連れて女子寮へと向かった。
 ”時雨”の頭の中から”砂霧失踪”についての記憶が薄れていた。
 表層の”加奈”の気持ちが、”まずい所を担任に抑えられたけど、今は撫子を静観しよう”と、アカコレに記録されていて、”嫉妬”の視線が撫子に飛ばされているが、当の撫子は偶然再会した”年下の恋人の涼”と会話をするのに夢中で気づいていなかった。

 奇妙な三角関係のまま菓子店【セレスディア】に入る三人。
 この店は建物全体に”結界”が張られていて、麗奈嬢の”視聴端子”は入れない仕様らしい。
 アカコレにもこの建物登記上の情報はあるものの、現状況についても白紙。
 涼の【森羅万象の理】でも内部をうかがい知れなかった。

 ここ以外の各地の”結界”に覆われた地域も見ることができないことから、【森羅万象の理】やアカコレも万能とは言い難く、世界は思った以上に涼を楽しませてくれる。

 自分の思い通りにならないものを”力でねじ伏せる”のが、ゲーム攻略方針によく使いがちな涼の数あるうちの悪癖だった。
 彼にとって反抗的な、或いは自分の信念を曲げない意志の強い存在を屈服させる事、殊更興奮する変態性を隠し持っていた。
 今までは社会的な立場や年齢による体力不足や肥満な体型など、自身に自信が持てなかった涼だったが、ここにきて自分に都合のいい力を手に入れ、俄然楽しむことを目標に色々やろうと本性が現れだしていた。

 ”アビ”による社会生活からのドロップアウト、というアプローチは彼女の思惑を外れ、出てはいけないものを目覚めさせてしまった。

……………………………………………………………………………………

「いらっしゃいませ。本日はどのケーキにしますか?」

 店内を入るとカウンターで客に対して、複数の店の売り子が客に注文を聞いている。
 普通の店のようだが、涼の目から見ると異種族様々の興味深い情景が広がっていた。

 まず、カウンター向こうの売り子には、【サキュバス・ハーフ】【鬼人】【人魚】【牙人】【狼人】と、ステータス表示に人間以外の種族表示されている、いずれも10代前半から10代後半までの少年少女が働いている。

 客の中にも【清涼女学園】の一般入学組のスキル持ちが混ざっていて、”ここはゲームの世界か?”という情景だ。
 常人には評判高いケーキ屋と知られ、2階から上の専門学校と寮を兼ねた区画も何ら不自然な点は無い。

 ただ、構成員が”人外”である点で一種の特殊な環境なのだろう、と推し量れる。

 女子寮への差し入れを撫子と”加奈”を演じている”時雨”に任せ、売り子に交じり客の応対をしている10代前半にしか見えない、御年356歳の【サキュバス・ハーフ】の女性に話しかけた。
 ただし、【グローディアス】共通語で。

 彼女、セレスディアは菓子専門学校の理事にして、任侠やくざ【権田原組】組長、八州 権左(はちすか ごんざ)の妻で…この界隈で名の知られた【セレスタン】として伝説になるほどの武闘派らしい。

 見た目のギャップもさることながら、来歴もすごい。
 関連項目から【権田原組】の構成員を調べれば、出るわ出るわ。
 ほとんどが”獣人”で占められ、二代目候補の権蔵(ごんぞう)と同年代の組員達は、【性豪】という【絶倫】と同じ効果のスキルを持つ二代目姉(あね)さん”沙耶”【サキュバス・クォーター】の”穴兄弟”。
 組長の”権左”自身が【スキル簒奪(さんだつ)】を持ち、吸血系魔物から奪った能力で、”不死身の権左”の異名をとどろかせている。

 思った以上に面白かったので、当初の金策候補からは外して、友好的な関係を築く為に、路線変更にしよう。

 最初話しかけられた【グローディアス】共通語に、首をかしげていたセレスディア。
 しかし、涼が【アディリシア・バル・ゴットバルト】の名を告げると、一見和やかなしぐさに笑っていない目、という取り合わせに変わった。

「どこで、その名を?」

「やはり、お知り合いでしたか。いえ、ね。少し”向こうのお話”をしたくて話しかけさせてもらいましたが、通じてよかったです。で、応じていただけますか?【セレスディア・バル・ゴットバルト】姫」

 涼の不遜な態度に警戒をあらわに、店の売り子の【牙人】に後の事を任せ、セレスディアは店内のラウンジの席に座り相対した。

 店内でケーキを食べるために用意された、ブレンドティーの香りを楽しむ二人。
 表面上は笑顔で聞き覚えの無い外国語を話す二人は、セレスディアの容姿もあり午後の日差し中”絵”にはなっていた。
 しかし、会話の中身は少し不穏当ではあった。

「で、どこで母の名を?」

 セレスディアの問いかけに一拍置き、遠くを見るようにアカコレの記録を読み上げる。

「【アディリシア・バル・ゴットバルト】…異世界【グローディアス】の大国オーマ帝国内夜魔族所領、夜魔大国(やまたいこく)の領主候補になるはずだった悲劇の姫(笑)。代々サキュバスである事が国主の条件で、オーマ帝国から統治を委任されていたが、世代を重ねたことでサキュバス種が衰退。彼女が生誕したときには、叔父で【グローディアス】の人間種”ノーマン”による統治が成されていた。その叔父が権威の簒奪を恐れ彼女の暗殺を企てたが、オーマ帝国皇魔帝”黒狼王”に助け出される。黒狼王に妾姫として加わるよう求められたが拒否。彼の怒りを買いこの世界へ飛ばされる……こんなもんですか?」

 自身の母親の出自について、事細かに語る青年に対して警戒を強めるセレスディア。

「ああ。そんなに警戒しないでください。僕はあなたたちと敵対関係になりたいわけじゃなくて、お近づきになりたいわけでして」

「…どうだか。私はあなたの事は知らないし、知りたくもありません。それにあの娘たちに【魅了】を使って誑(たぶら)かす様な人物とは、友好な関係が築けるなんて思いません」

 撫子と時雨に視線を向けて、涼に対して拒絶姿勢をとる。

「あなたには彼女たちがどう見えますか?」

 ふと、この【サキュバス・ハーフ】の女性から、二人がどう見えるのか興味がわいた。

「?…何を知りたいのかは判からないけど、二人ともあなたに魅了されてメロメロじゃない。異性を意のままに従わせて、何様のつもり?ああ、私には効かないから、変な視線は向けないで」

 けんもほろろなセレスディアの態度に肩をすくめた涼は、別経路から攻めてみることにした。

「そう見えますか。僕としてはあなたともお近づきになりたかったのですが……300年ほど遅かったですかね?」

 自身に気持ち悪い”魅了”の視線を向ける青年を”きっと”睨みつけ、

「…私の事も御知りのようね。でもお生憎様(あいにくさま)。私の心はゴンちゃんで一杯だから、貴方に付け入るスキはありません」

 セレスディアの様子を見て涼は楽しそうに笑った。
 とはいえ、彼に”寝取り”の趣味はないので潔く彼女の事は諦め、彼女の孫二人について話をする。

「それは残念……ですが、僕があなたたちとお近づきになりたいのは本当の事です。なら、お孫さん二人にアプローチをしてもいいですか?」

 青年の申し出をいぶかしげな顔で聞いたセレスディアは、しばし思考に入る。
 彼が言う、二人の孫は母アディリシア(今は山路 綾(あや)と名乗っている)から言わせると、先祖帰りの真正サキュバスで開花すれば能力は、綾をも超える、と太鼓判を押されていた。

 その彼女たちであれば、この青年の【魅了】も跳ね返せるだろうし、見た目が細マッチョの均整の取れた体つきとはいえ、護衛についている獣人の”小政(こまさ)”に敵(かな)いはしないだろう、でも…

 一抹の不安はあるが、自身の母の見立てに自信があるセレスディアは、護衛の獣人の小政を思い浮かべ、目の前の青年は対処可能、と判断してしまった。
 彼女に誤算があるとすれば、彼女自身が自身の種族的優位に拘泥するあまり、【魅了】に抵抗しきれていないことに気付けなったこと。
 青年が見た目通りの若者で、人外のバケモノだと見えなくなっていた。

「いいでしょう。あの娘たちが、安易にあなたに”なびく”とは思わないけど、若いもの同士交流することはいいことだと思うし。話しかけるのは許可しましょう。でも、それ以上の関係を迫るのは、お互い許しあう関係になるまでダメですからね?」

 快い了承を得た涼は深々とセレスディアに頭を下げた。

「ありがとうございます。おばあ様。誠心誠意、彼女達に接します」

 ”しめしめ”と笑顔になりかける涼だが、表情筋を総動員して神妙な態度でセレスディアの前を辞した。


 セレスディアの頭の中から抜け落ちていた、青年への警戒感を取り戻したのは、彼が店を出てだいぶ経ってからだった。
 日が暮れ、菓子店の商品があらかた販売され、店じまいしようとしたとき、唐突に思い出した。
 青年の【魅了】にまんまと”やられた”と気付いたセレスディアは、愛しの権左に危険人物の風体を話し、彼への警戒を促した。
 可愛い孫娘の居場所を問い合わせたが、時すでに遅し。
 心配になった権左が、組員を街中に放って見つけたのは、瀕死状態で路地にうずくまる、護衛の”小政”だった。

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 涼自身に語らせると中々進みません。


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