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第二章 俺たちの教育

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「ここがお前らの部屋だ。今日は遅いからもうそのまま寝ろ」

「えーっ、もしやベッドは白露とおんなじの使わなきゃいけないの?」

「今はそれしかないからな、我慢しろ」

「はぁーい」

 蒼穹城ここに着いて、ホールの後にリズルに案内に案内されたのは俺たちの部屋だった。

「じゃ、お休み」

 バタンとドアを閉め、リズルはどこかへ行ってしまった。

「蒼、もう寝よう」

「そうだな」

 俺と蒼はベッドに倒れ込む。

「なんか今日色々あったよな」

「うん」

「しかもお前と一緒のベッドだし」

「そう? これまでは母さんも父さんも召使いにとられて独りだったからこうして白露と居れるのは嬉しいよ」

「う、うん……」

 顔が火照っているのを感じ、蒼に背を向ける。

「もう寝なきゃ」

「そうだね、お休み」

「お休みなさい」

 目を閉じると、だんだん眠りに落ちていった――――……。

    »†«

「あれ、おはよう」

 早く起きていた俺に驚いたらしい蒼が目を丸くしながらそう声を掛けた。

「おはよう」

「早起き? 偉いねっ!」

 蒼は俺に抱きつくと頬に軽くキスをした。

「朝からなんなんだよ。もしやお前……、生活環境が変わって頭でもおかしくなったのか?」

「分かんないの? ご褒美のチューに決まってるだろ」

「分かるわけないだろっ! だって今までそんなのなかったし」

「んー……。でもさ、やっぱり白露の言う通り頭がおかしくなったのかも。白露のこと好きになっちゃった」

「それは友情に決まって――――」

「そうじゃないもん、ホントにそういうのと違う『好き』なの」

 怒ったような声を出すとさっきよりも強く俺を抱きしめた。

(はぁ……今後もこんな感じだったらこいつの扱い変えないとだな……)

「早くしないとリズルに叱られるぞ」

「……そうだね」

 渋々僕から離れるとホールへ向かって歩き出した。

    »†«

「おう、遅かったな」

「リズルさんどうしよう……。色々あって蒼がおかしくなった」

 蒼に聞こえないようにそっと話しかける。

「何があったんだよ、そんな変わらないように見えるが」

ちらりと蒼に視線を移す。

「いやさ、なんか『白露好き』って言ってきて俺にキスしてくるし、抱きついてくるの。いつもはやらなかったのに」

「どうせ遊びのつもりでやってんだろ。それとかそういうのを演じているだけだと思う」

「そうかな……」

「そうに決まってるさ。……今日はやらなきゃいけないことが沢山あるから朝食食べに行くぞ」

 リズルに促され、食堂へ向かった。

    »†«

「んで、やることって?」

 食べ終わって蒼が口周りを布巾で拭きながら聞いた。

「まぁまずは城の部屋の場所をある程度覚えて貰って午後まで図書室で本を読んでもらう。その間に私は姉に手紙を書く」

「え、リズルさんのお姉さんって城の中にいるんじゃないの?」

「いや、手分けして地下でお前らを探していたぞ。それで、お前らが見つかったから戻ってこいっていう手紙を出さなきゃいけない。郵便魔法は用意するものが多いし、ここの方が成功しやすいからな」

「その魔法ってのは天使しか扱えないの? 俺達には扱えるの?」

(それは確かにそうだな……)

「うーんそれは分からない。お前らにどれくらい天使の血が残ってるか次第だな」

「なるほど」

「じゃ、色々案内するからついて来い。間違っても迷子になるんじゃないぞ」

「はーい」

    »†«

「――――まずここが私の部屋。何かあった時はここに来い。ま、ないと思うが」

 ちょっと扉が開いていて中が見えるが、本や紙が散乱していて足の踏み場がなさそうだった。

(いつもどうやって部屋の中を歩いているんだろう……?)

リズルはくるりと背を向けるとホールへ向かって歩いていった。

「……え? まだこっちに部屋あるよ?」

「あぁ、それは私の親父とか従兄弟とかが住んでいた部屋だな。多分もう使うこともないだろう」

「……そうだね」

 最後にその部屋の方を振り返って天使の後に続く。


 ホールに向かう途中、窓を眺めているとあるものが見えた。

「リズルさんっ、あれ何!?」

 俺は興奮のあまり窓にかおをくっつけて叫んでいた。

「えっどこ?」

「あの城の門にいる白い馬みたいな奴!」

「あっホントだ!」

 天使は「あぁ、そんなことか」とつまらなそうに呟いた。

「あれはここらへんの蒼穹そらに生息するペガサスっていう馬だ。神話にも出てくることがあるからだいたいは知っているだろ。……あと昨日乗った馬車にもペガサスの羽根が使われているな」

「ふーん……」

「時々ここらへんに留まっていることもある」

 説明を終えるとまた歩き出した。

    »†«

 ホールに出、そのまま歩いて隣の館に移る。

「初めて来た時は不自然に城の一部が切り取られてる感じだなぁって思ってたけどこういうことだったんだね」

「あぁ、だっていちいち外に出るのに下まで降りて入ってまた上がるなんて大変だろ。でもこの城作った奴は装飾とか美しさにこだわる奴だったからこういう変な形になったんだよなぁ」

「その人って天使なの?」

「いいや、人間さ。天使にはこういうものを作る才能とかないし文明みたいなものもない」

「仲良かった?」

「会ったことはないぞ」

「え? でもなんか会ったことある風に言ってたけど」

「じっちゃんからそのまま聞いた話だから、なんかそういう風になるというか……」

「じゃあリズルさんのお爺さんは会ったことあるんだね」

 蒼がニコリと笑った。

「天使はお前らが思ってるよりも寿命が長いから、初代の頃にはもういるぞ」

(……ん? 初代って神話の頃か?)

「それじゃあ神話の時代にはもういるってこと?」

「さぁ……」

 リズルさんは首を斜めに傾けた。

「お、ここが図書室だ」

 大きい扉をグーッと押した。だがあまり開いていない。

「手伝おっか?」

 蒼はそう言いながらグーッと押すのを手伝っている。

「もう既に手伝ってるじゃねぇかよ………」

 眺めていた俺も手伝う。
 すると、ギィィと音を立てて扉が開いた。

「はぁ、疲れた」

「リズルさん案外長生きでも体力ないんですね。……それなら僕たちを探すのも大変だったんじゃないですか?」

「まぁな。長い間図書室とか部屋に閉じ籠もってたから……。今思えば姉の言うことを聞くべきだった」

 図書室に足を踏み入れる。

「わあぁ………!」

 この図書室は三階まである。
 これは最早図書館なのでは?

「三階まであるの凄いね。しかも本格的だし」

 確かに俺たちは簡易教科書で文字を習っただけで、このような分厚い本は見たことがない。

「初代の頃から本を集めているから、結構古い本もある。だから資料探しならここが一番だぞ」

「ここで僕たちは勉強するんだね」

「あぁ、まずこの本を読んでもらう」

 リズルさんから渡された本は真新しいものだった。

「これは最近のもの?」

「いや、元ある本から書き写してある程度修正を加えただけだ」

 リズルさんはその本をペラペラとめくるとあるページで止めて俺たちに見せた。

「今日はここまで読め」

「えぇー多くない?」

「はぁ、仕方ない奴だ……。しょうがない、ここまでにしてやる」

「えっガチ!? ありがとリズルさん!」

「――――ただし」

 怖い声で蒼の歓喜を遮る。

「ちゃんと覚えろよ、お前らの頭は空っぽだからな」

「はぁーい」


 リズルさんが出た後、俺は蒼と二人きりになった。しかもあの分厚い扉は閉めてるし。

「うふふんっ、白露と二人きりだっ!」

 何故か蒼は嬉しそうだ。

「俺はあんま嬉しくないけど蒼は嬉しそうだね」

「だってそりゃあ白露と二人きりだもん、聞いてなかった?」

「聞いてたよ。でも本読まなきゃいけないじゃん」

「僕が読み聞かせしてあげよっか?」

「別にいいし」

 蒼からプイッと顔をそらす。

「なんか冷たいねーぇ」

「……」

 聞こえないふりをして本を読み続ける。

「ねぇー」

 頬を突いてくるが、無視。 

「うぅー」

 流石に涙目になってきたので、頭だけ撫でる。

「ねーえってば」

「もう、何? 本読まなきゃいけないじゃん」

 我慢出来なかったから、少し怒りっぽく言ってみた。

「一緒に勉強しよーよってこと―。別にこれくらいならいいでしょ?」

「……まぁ、それくらいなら、別にいいよ」

 嬉しそうに笑うと、本を朗読し始めた。

(はぁ、面倒臭いな……。次からは個室にしてもらおっと)


 それから数十分間後、意外と早くリズルさんが、戻ってきた。

「あれ、リズルさん早いね、戻ってくるの」

「まあ、郵便魔法はそんなに時間が掛かるものではないからな。しばらくしたら姉からも返答が来るだろう」

「ふーん」

「じゃ、昼食食べるぞ」

「はーい」

「先に準備してるから本はお前らの部屋にでも片付けとけ」

 そう言ってリズルさんは食堂へ向かった。
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