辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
20 / 133
第2章

第20話

しおりを挟む
 夕刻。3人は町にある少し高めの居酒屋で食事をしていた。先ほどの店で、カインとロロはその場でシャルルに村から出る羊毛品の一切の買い取りをお願いし、商談は円満に終了した。
 シャルルにとっても今回のもともとの目的だった酒の取引も無事終了し、その上うまくいけばそれ以上の儲けになるかもしれない商談が結ばれ、お祝いという形で、2人を誘って夕食を開催した。もちろんシャルルの奢りだ。

「いやー。シャルルさん本当にありがとうございます。あそこで話しかけていただけなかったら、恐らく今年も同じ価格で取引をしている所でした」
「こちらこそ、いい取引が出来たわ。ところで、もし良かったらあなたたちの村まで同行させてもらいたいんだけどいいかしら? 全部買取となると手付金を払わないといけないでしょうし、それに大体どのくらいあるのか確認もしたいし。本心を言うと、あれだけ良い質の羊毛を育てられる村だもの、他にも何か商売になりそうなものがないか見たいのよ」

「ええ。構いませんよ。私達は目的を果たしたから明日にでも村に戻るつもりですが、シャルルさんは他の用事はありますか? 数日ならこちらの滞在を伸ばして、一緒に行くのも可能です。そっちの方がお互い楽でしょうから。しかし、それよりかかるとなると私達はいったん村へ戻らせてもらって、シャルルさんには直接村に来てもらいたいのですが」
「この町の用事は既に済んでるから明日の出発で問題ないわ。そういえば村の名前はオティスと言ったかしら? どこかで聞いたことがある気がするのよね。それも最近・・・」

「そうなんですか。これと言って有名になるようなことがある村でもないですし、この地方の人間ですら知らない者も多い辺鄙な村です。シャルルさんみたいな方が耳にするようなことは思いつきませんね」
「ああ! そうよ! そうだわ。その村にセレンディアで活躍している冒険者がいない? ちょっとした私の知り合いで、最近まで一緒に旅をしていたのよ。なんでもずいぶん帰ってなかった故郷の村に帰るとか言って。その村の名前が確かオティスだったわ」

「なんですって?! その冒険者の名前はなんて言うんです?」
「えーと、サラ、よ。長い黒髪が特徴的な美人さん」
「なんと・・・。シャルルさん。その子は私の娘ですよ。そうですか。サラは帰ってくるんですね。それで今はどこに?」
「え?! そうなの? 偶然は怖いわね・・・。この辺りまで一緒だったんだけどね。途中で厄介事が起きて・・・」

 シャルルは道中起こった惨状を2人に話した。2人は話に聞き入り、その惨状に顔をしかめた。だが、サラ達がその問題の解決のために善意で残ったことを聞くと、カインはどこか誇らしげな表情を浮かべた。

「そうですか。そんなことが。しかし、娘は、サラはAランクになっても優しさを忘れていないようだ。その点が聞けて安心しました。もともと3年も会っていなかったのだから、会うのがまた少し遅くなったとしても問題じゃない」
「Aランク? 2人はSランクのはずよ」

「え? そうなんですか? つい最近届いた手紙にはAランクなったと書かれていたからてっきり。書いた日付は数か月以上前でしたが、いくらなんでもそう簡単にランクが、しかもSランクになんか上がるものですかね?」
「Sランクになったのは村に向かう直前だから知らないのも無理はないわね。それにしてもAランクになったのも数か月前だなんて、あの2人とんでもないわね。なんでもコリカ公国に突如現れたタイラントドラゴンを討伐したとかで昇級したらしいわよ。緊急の集団討伐が発行されたんだけど、討伐の一番の功労者が2人だったって。その討伐中にSランクの冒険者が亡くなったらしいわ。相当な相手だったんでしょうね」
「なんと・・・」

 カインは絶句した。まさか自分の娘がSランクになっていたとは。しかも2人はまだ若い。恐らく歴代のSランクになった冒険者の中でも有数の若さだろう。
 そしてまた、覚悟はしていたが、Sランクがやられるような危険なクエストに娘が参加していることを聞いて、同じ冒険者として誇らしい気持ちと、親として心配する気持ちと、複雑な心境になった。

「驚いてばかりですいません・・・。どうでしょう。もしよければ、娘の最近の話をもっと聞かせてもらえませんか?」
「ええ。喜んで」

 3人はその日、夜遅くまで良く食べ、良く飲み、良く話した。明くる日、3人は支度をして、カイン達の住む村オティスへ向かって出発した。



 時は少し遡って、カイン達が夕食のために居酒屋にちょうど着いた頃。嫌味のある調度品が趣味悪く飾られた、大きな部屋でジョセフは1人憤っていた。
 どうやらあのバカな村人はカラクリに気付いたらしい。そのことはジョセフにとって非常に許せないことだった。
 何も考えず黙ってあの金の卵をわしに安く売っていればいいものを! 自分勝手な論理だが、自分が儲けるのを邪魔した時点で、それは全て自分にとって敵対したのと一緒だった。

 人が不幸になろうが自分が儲けられれば一向に構わないという人間だ。目の前から金の卵を盗み去ろうとしているシャルルは親の仇のように思えた。
 その原因となったロロももう一人も村の人間だろうが一緒だった。いや、ジョセフにとって親の仇というのは適切ではない。
 何故なら自分の親に何があろうが、自分の儲けに関係ないのであれば、それはジョセフにとって全く関係のない事象だからだ。実際、ジョセフは自分の親を殺している。殺しているというと正確ではないが、殺したようなものだ。

 ジョセフの父はこの商会の、と言っても元は小さな卸問屋だったのだが、主だった。
 ある日父は病に伏せた。薬を飲めば必ず治るような病で、幸い仕事に成功していた父はその薬を買うだけの蓄えもあった。
 しかし、父は病のせいで動けない。そこでジョセフに金の在処を教え、薬の買い付けなど全てを任せた。父は当然のことだが、一人息子のジョセフが薬を手に入れ、自分に飲ませてくれることを信じて疑わなかった。
 その時既にジョセフの母は他界していた。

 しかし、ジョセフの考えは違った。ここで父に薬を与え、回復した父が成し遂げられることは、全て、いやむしろ自分の方が上手くやれるとジョセフは思った。
 ならば父に薬を買うのは無駄ではないか。薬を買わずに、その資金を商売に回した方が稼げる。ジョセフはそう判断した。
 実際ジョセフは父のあとを継ぎ、商売を成功させた。薬を待っていた父は、しばらくして帰らぬ人となった。

「そうだぁ。あいつらを村に返さなきゃいいんだ」

 我真理を得たりといった表情で、左手の平を右の拳でぽんっと叩く。そうだ。簡単なことだ。
 今頃あのむかつく生意気な女はバカな村人を相手に酷い条件の商談を成立させ、大儲けできるとほくそ笑んでいるに違いない。
 全くひどい商人もいたものだ。

 だが、幸いまだその事はロロともう1人居た男、おそらくあいつも村の人間だろう、あの2人しか知らないことだ。
 町の商人達も見ていただろうが、この町の商人達はわしには逆らえない。逆らえばどうなるか知っているからだ。
 あの女とあの2人を村に着くことなく始末すれば、他にこのことを誰も知る者はいなくなる。そうすれば金の卵は再びジョセフの手のもとに戻ってくることになるだろう。

「おい! だれか!」

 ジョセフは囲っているならず者に命じて、3人の行方を探させた。出来れば町の外がいい。幸いなことに最近町の近くには魔物が出没するという噂だ。
 ジョセフは自身の出っ張り弛んだ腹を両手で擦りながら、ぐふふと醜い声で笑った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...