辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
24 / 133
第2章

閑話 オークキングになったオークの話

しおりを挟む
オークキングが誕生するまでのオーク側の話です。残酷な描写がありますので苦手な人は読み飛ばしてください。読まなくても本編に影響はありません。
一応いつも通りまとめは文末に用意しておきます。

◇◇◇◇◇◇


 それは突如現れた。人間の冒険者達だ。彼らは集落の周りをぐるりと囲むと、何故か囲いを築き始めた。初めはなんのための囲いか分からなかったが、時が経つと、それは自分達を集落の外に出さないようにするための囲いだと分かった。

 集落への侵入を防止するための囲いというのは聞いたことがあるが、逆に出さないための囲いというのは聞いたことがなかった。

 集落の兵士達が冒険者達を追い払おうと外に出たが、帰ってこなかった。おそらく返り討ちにあったのだろう。その後も食べ物を取りに集落の外へ出ようとすると、冒険者達に阻まれ、最悪殺された。

 集落の中のオーク達はほとんどが戦闘など無縁の生活をしていたから、兵士達が返り討ちにあった時点で、村の中で大人しく時間が過ぎるのを待つ他なかった。

 幸い、今年は収穫が多く、集落の蓄えもふんだんにある。何が目的か分からないが、その内に飽きていなくなってくれるだろうと高を括っていた。

 リンデンはそのオークの集落の中の1人だった。他のオークよりも少し食いしん坊で、人より多く物を食べる癖があった。性格は温厚で、今まで争い事を起こした事も巻き込まれたこともなかった。周りより少し横幅が広く、運動が苦手なリンデンは家の中にいることが多く、体もあまり動かさなかった。

 最初に異変が起きたのは老人達だった。元々身体が弱ってきていた上に、少なくなってきた食料を自分達が食べるよりは幼い子供にと、食べるのを拒否し始めたのが原因だった。

 次に倒れたのは子供を持つ親達だった。老人達と同じく、自分の食べる分を自分の子供に与えていたのだ。

 その子供達も食料が尽きた後は程なく倒れて行った。幼い体力でその育ち盛りに必要な栄養を断たれては、長くは持たなかった。

 リンデンはたまたま生き残った。食料を分け与える子供もまだなく、優先的に食料を与えられるほどには若かった。そして、普段から皆より多めに食べていた事で、身体の中の蓄えも幾分か多かった。家から出ず、運動らしい運動をしなかったのも功を奏した。

 しかし、我慢ももう限界をとうに過ぎていた。あるはずも無い食料を探し、集落を歩き回った。多くの人間に誤解を受けているが、オークの食べ物は木の実や虫、そして木の根などであった。人間の想像とは異なり、肉食ではなく、人肉はおろか、鹿などの動物の肉すら口にすることは無かった。集落に僅かに生えていた木は根本から掘り起こされ、全て食べ尽くされていた。虫も木の実もとうの昔に底を尽きていた。

 どれほど歩き回っただろう。リンデンはある家の前にたどり着いた。そこは良く知った家だった。この集落はオークの集落の中では大きい方であるものの、集落の中はみな知り合いで、知らない家など無かったが、それでもその家はリンデンにとって特別な意味を持つ家だった。

 開け放たれた扉を潜り、中に入った。既に事切れた彼女の両親が床に横たわっていた。もう何度も見かけた光景だ。既にリンデン以外は皆餓死していた。中には時間が経ち、腐敗が始まっている死体もあった。リンデンは構わず奥へと進んだ。

 何故初めにこの家に来なかったのか自分でも不思議でしょうがなかった。彼女の死体を見たくない。無意識にそう思ったのだろうか。彼女はベッドに横たわっていた。

 リンデンには将来を誓い合った彼女がいた。運動が苦手で外に出ることが少なかったリンデンの、唯一と言っていいほど外に出る理由だった彼女。その彼女は今目の前で永遠の眠りについていた。周りのオークに比べても出過ぎていたリンデンのお腹を、貫禄があって立派だと褒めてくれた彼女。リンデンと一緒で食べることが大好きだった彼女。その彼女のふくよかだった体は、今のリンデンと同じように、見る影もなく縮んでいた。

 彼女を目の当たりにして、最初に感じたのは飢餓感だった。最愛の人の死を悲しむことすら許されない飢餓感にリンデンは苛まれていた。ふと彼女の腹を見た。生前は村1番の器量持ちの呼び声の高かった彼女の腹は今や平になっていた。いつものように裾をめくり、腹を出す。お互いの腹を撫で合うのが、オークの親愛の証だった。

 腹が減った。何か食べたい。彼女の腹を見ても襲ってくるのは凄まじい飢餓感のみ。そう思うと彼女の腹は何かえも言われぬ最上のご馳走に見えた。彼女の腹は脂肪が抜け落ちた後も、張りがあり、妙に美味しそうに見えた。

 いけない。何を考えているんだ。オークは肉など食わない。共食い、ましてや最愛の人を食べるなど死んだ方がマシだ。しかし、リンデンの意志に反して、その場から立ち去ることが出来ずに、しばらく立ちすくんでいた。

 そして・・・。おもむろにリンデンは最愛の人の腹に噛み付いた。口の中に鉄のような味が広がった。美味い。思ったことは自分の想像していたことではなかった。限界を超えた飢餓は食性も味覚をも超越した。

 もっと食いたい。気がつくとリンデンは彼女を残さず食べていた。足が別の部屋に進む。床に倒れていた彼女の両親も、リンデンにとっては既に食料だった。

 リンデンは本能に従い、集落中を歩き、腐敗が進んだものもお構い無しにその口へと運んだ。しかし、いくら食べてもその飢餓感が収まるどころか増すばかりだった。

 もっとだ。もっと食べなくては。集落の全ての食料を食べ尽くしたリンデンは、集落の外に向かった。

 冒険者達が嬉々とした表情でリンデンに襲いかかってきた。リンデンはそれを無造作に掴むと食らいついた。冒険者達の悲鳴がこだました。その場から逃げようとした冒険者には突進をした。前からこんなに速く動けただろうか?そんな疑問も浮かばず、リンデンは目の前に散らばった肉片を残さず口へと運んだ。

 外に出ることが少なく色白だったリンデンのその身体は闇のように黒く染っていた。腹が減った。何か食いたい。

 『暴食』を繰り返したリンデンは、その都度肉体を大きくし、飢餓感は更に増した。食べても食べても消えぬどころか増す飢餓感を抱え、当てもなく、目につく生き物を全て食らいつくし、リンデンはさ迷っていた。

 何故か元々食べていたはずの木の実や木の根などは目にもとめず、食するのはあの日食べたあの人と同じ肉だけになっていたこと気づかずに。


◇◇◇◇◇◇

温厚なオークの青年リンデン。色々なことが重なり、最後の生き残りになった彼は、菜食なのに彼女の遺体を食べちゃった。
そしたら『暴食』オークキングになっちゃった。

いつも読んでくださりありがとうございます。
励みになりますので、少しでも面白いと思っていただけたら、感想、お気に入り登録をお願いします。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...