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第十七話

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「出来た! 出来たぞ!!」

 ハンスの声でセレナは目を覚ました。
 窓からは既に朝日の光が射しており、小鳥達の鳴き声も聞こえてくる。

「セレナ! 起きたか! すぐに着替えて、クエストを受けに行くぞ! 早速この魔法を実戦で試してみなくては!」
「え? ハンス様。待ってください。昨日は一睡もしていないんですよね? お身体大丈夫ですか? それにせめて朝食を食べてからでも遅くはないかと。そもそもこの時間では、まだギルドの受付も空いていないでしょうし」
「む? そうか……よし! じゃあ、まずは朝食を食べよう。この時間に開いているとなると、あそこのパン屋だな。セレナ! 早くしろ! 置いていく訳にはいかないんだから!」
「あ、はい! すぐ準備をします!」

 セレナは慌てて、服を着替えると、装備を身に付け、そのままクエストに迎える格好を整えた。
 普段なら朝食を食べた後、一度部屋に戻るもが普通だったが、今のハンスの勢いでは、朝食の後すぐにギルドに向かおうと言うだろうと思ったためだ。

 ちなみにこの部屋は一室しかないため、セレナが着替えをする際はハンスには向こう側を向いてもらっているようにしている。
 ハンスはそういう所に無頓着なようで、ハンスが着替える際はセレナが見ていようがいまいがお構い無しだった。

 街にあるパン屋で焼き立てのパンを買うと、広場にあるベンチに座り、それを食べた。
 香ばしい匂いと、口に広がる甘い味にセレナは幸せを感じていた。

 奴隷として捕まって以来、口にするものは全て冷えて固いものばかりだった。
 ハンスに買われてからは食事は一変した。

 セレナが買われた相手は実はハンスが初めてではなかった。
 身の回りの世話をさせる目的でと、昔とある商人に買われたことがあったのだ。

 その時の仕打ちは、まさに奴隷そのものだった。
 寝る時に与えられたのは薄い毛布一枚で、硬く冷たい床に身体を縮こまらせながら寝た。

 出てくる食事も、主人も食べ残しか、まるで犬にでも与えるかのように、全ての食材がひと皿に盛られ、ぐちゃぐちゃに混ざったひどいものだった。
 食器も与えられず、手で救うか、皿を持ち上げ、口に運んで食べるしか無かった。

 この国では亜人の奴隷は認められているものの、奴隷への性行為は禁止されていた。
 しかし、商人は初めからセレナへの性行為を目的とし購入したのだと、ある日言ってきた。

『どうせバレはしない。もしも身篭ったなら、母子共に処分すればいい』

 げひた笑いを発しながら商人はセレナに近付いて来たが、その時セレナの病気が商人に発覚した。

 移る病気では無かったが、商人はまるで汚物でも見るかのような目を向け、セレナを不良品と罵り、奴隷屋に返品した。
 少なくとも商人に買われる前は、健康であったのは間違いなく、この病気は商人の家で発症したのは明らかだった。

 しかし、当時の主人にとってその商人は上客だったらしく、商人の言い分を受け入れ、セレナを買い戻した。
 売り上げを失い、しかも病気持ちの少女を保有する羽目になった当時の主人は、セレナに暴力を振るい、その怒りのはけ口とした。

 その後買い手も見つからず、点々と色々な奴隷屋に売り渡された末、ハンスに買われたのだ。
 セレナにとってハンスはまるで自身を地獄から救い上げてくれた神に等しかった。

 セレナは出来ることなら一生ハンスの役に立って生きていきたいと強く願った。
 そのためにはもっと冒険者としての実力がいる。

 セレナは焼き立てのパンを食べながら、今日からは毎日訓練をしようと心に誓った。
 そんなセレナに気付いているのかいないのか、ハンスは無言でパンを平らげると、水筒に入れた水を飲んで喉を潤すと、やおら立ち上がった。

「セレナ。歩きながらでもそれ食べれるよな? もう、ギルドが開く時間だ。そろそろ向かうぞ」
「あ、ふぁい! ごほっごほっ!!」

 セレナは口に含んでいたパンを喉につまらせ、盛大に咳き込んだ。
 それを見たハンスが心配そうな顔を向ける。

「大丈夫か? すっかり良くなったと思ったが、まだ病気の方は治ってないんだな。すまないな。少しゆっくりしようか?」
「あ! いえ! ちょっと喉に詰まらせただけで! 大丈夫です。行きましょう!」

 ハンスはその言葉を聞くと安心したらしく、数回セレナの背中をさすると、ギルドの方角へ歩き出した。
 セレナもその隣に並んで歩く。

 きっと今のセレナを心配する言葉も、ハンスにとってはごく自然に出てきたもの。
 そう思うとセレナは少しだけ自分の前を歩くハンスを見て、自然と笑みが浮かんだ。

 そんなセレナの気持ちも知らず、ハンスはギルドの扉を勢いよく開け放つと、真っ直ぐに受付に向かう。
 受付の男は眠そうに大きなあくびをしていたところにハンスが来たので、少しだけバツが悪そうだ。
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