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第二十話
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「確かにアーミーアントだな。それにしても……こいつらいくら群れを作るからって、相変わらずえらい数持ってきたな」
「少し、試したいことがあってな。多い分には構わないだろう?」
ハンスの発言を聞き、セレナはげんなりした。
あれのどこが、少し、なのだろうか。
セレナはうずたかく積まれたアーミアントの死骸を見つめ、さっきまでのことを思い出していた。
ハンスはセレナに一通り説明をした後、様々な条件を試すため、アーミーアントの群れを見つけては魔法を放った。
ハンスは魔法に関することならどんな些細なことでも夢中になる。
もしセレナが分からないことがあると質問すれば、日が暮れるまで、いや、日が暮れても嬉々として詳しく話してくれるだろう。
しかし、セレナはハンスの言っていることの半分も理解していないから、何も口を挟まず、指示されたことを黙々と実行して行った。
見ている限り、どうやらハンスは今回新たに発明した、複数に一度にかけることの出来る魔法の、範囲と威力の関係などを確認していたようだ。
様々な大きさに変えた魔法陣がアーミーアントの群れを襲った。
セレナでも分かったことは、魔法陣の大きさが大きくなるほど、つまり広範囲になればなるほど、効果が薄くなるようだった。
他にも小さな魔法陣を複数飛ばす魔法に関しては、数によって効果は変わらないが、どうやら数が少ない方が命中させやすいようだということが分かった。
ハンスが言うには、動かない的でも全てきちんと当てられるのは三つが限度で、動いている相手では単発でないと難しいとの事だった。
ハンスはもっと色々なことが分かっているのかも知れない。
ひとつだけセレナが言えることは、【再現性】や【確率】という難しい言葉が出る時は、何度も何度も同じことを繰り返す、ということだった。
そしてそれは【条件】というものを少し変えてはひたすらに行われた。
「ほら。これが今回の報酬だ。ついでに冒険者証をこっちに渡しな。言った通り、今日からお前達は白銅級だ」
「ほんとに上がるんだな。セレナ! 冒険者証をこっちにくれ。俺たちの新しい冒険者証はいつ頃出来るんだ?」
「もう出来てるよ。お前らが依頼を失敗するなんて誰も思っちゃいないって事だな。ほら。これが新しい冒険者証だ。いつも言ってるが無くすんじゃないぞ」
「おお!? 随分用意がいいな。ありがとう。それにしてもまだ白銅級か。銀級になるには先が長いな」
「うん? 銀級になる理由でも何かあるのか? まだって言うが、こんだけ早い昇級は中々例が無いんだぞ。最近で言うと、勇者アベルと聖女エマのパーティくらいか」
受付の男の言葉にハンスの顔が曇った。
事情を知らない男はその変化に気付かずにいたが、普段から共に過しているセレナは、ハンスの表情を見逃さなかった。
しかし、ハンスから特にアベルたちの話を聞いていないセレナは、自分の主が機嫌を損ねた理由が何処に有るのか分からなかったため、言及するのを止めた。
普段の表情に戻ったハンスは思い出したように、男にあることを聞き始める。
「そういえば、最近魔術師大会が開催されただろう。そこで何か面白い事が起きなかったか?」
「魔術師大会だと? うーん。ああ。そういえば、ワードナーって魔術師が今までに無い魔法を開発したって話題になっていたな」
それを聞いたハンスの右の眉が上がる。
「ほう。ちなみにそれはどんな魔法だ?」
「おいおい。俺は魔術師じゃねぇから詳しい事を聞かれても分からねぇぞ? ただ、なんでもえらく難解な理論らしくてな。当の本人も理論として挙げた魔法の内、二、三個しか使えないらしい。だが、王はえらく気に入ったようでな。ワードナーは王宮研究所仕えになったらしい」
「ちっ! そうか。分かった。ありがとうな」
「あ! ハンス様! 待ってください!」
ハンスは明らかに不機嫌な態度をあらわにし、ギルドの出口へ大股で歩き出した。
置いていかれそうになったセレナも慌ててハンスを追いかける。
セレナは困惑していた。
先程の勇者アベルと聖女エマの話が出てきた時も、ハンスは不機嫌そうな顔をしたが、次の質問の答えを聞いた時のハンスの怒りはそれを遥かに上回っていた。
そう長くない間だが、ほぼ一日中をハンスと共に過したセレナは、ハンスが魔法以外にほとんど興味を示さない人物だと思っていた。
良くも悪くもそれ以外の事柄に関しては無頓着で、よく言えば大らか、悪く言えば無関心だと言えた。
そのため、今までここまで感情を表に出すのは、魔法のこと以外で無かった。
魔法のことに関してさえも、出てくる感情は、喜びなど正の感情ばかりだった。
いや、たしか、ハンスが不機嫌になったのは、受付の男が新しい魔法が開発されたという話をしてからだ。
恐らく、ハンスの感情を揺さぶった原因は今回も魔法絡みなのだろう。
どちらにしてもセレナには、ハンスが話してくれた事をただ聞くだけしか出来ない。
話もせずにずんずん前へと進む主に、セレナははぐれないよう付き添うことしか出来なかった。
「少し、試したいことがあってな。多い分には構わないだろう?」
ハンスの発言を聞き、セレナはげんなりした。
あれのどこが、少し、なのだろうか。
セレナはうずたかく積まれたアーミアントの死骸を見つめ、さっきまでのことを思い出していた。
ハンスはセレナに一通り説明をした後、様々な条件を試すため、アーミーアントの群れを見つけては魔法を放った。
ハンスは魔法に関することならどんな些細なことでも夢中になる。
もしセレナが分からないことがあると質問すれば、日が暮れるまで、いや、日が暮れても嬉々として詳しく話してくれるだろう。
しかし、セレナはハンスの言っていることの半分も理解していないから、何も口を挟まず、指示されたことを黙々と実行して行った。
見ている限り、どうやらハンスは今回新たに発明した、複数に一度にかけることの出来る魔法の、範囲と威力の関係などを確認していたようだ。
様々な大きさに変えた魔法陣がアーミーアントの群れを襲った。
セレナでも分かったことは、魔法陣の大きさが大きくなるほど、つまり広範囲になればなるほど、効果が薄くなるようだった。
他にも小さな魔法陣を複数飛ばす魔法に関しては、数によって効果は変わらないが、どうやら数が少ない方が命中させやすいようだということが分かった。
ハンスが言うには、動かない的でも全てきちんと当てられるのは三つが限度で、動いている相手では単発でないと難しいとの事だった。
ハンスはもっと色々なことが分かっているのかも知れない。
ひとつだけセレナが言えることは、【再現性】や【確率】という難しい言葉が出る時は、何度も何度も同じことを繰り返す、ということだった。
そしてそれは【条件】というものを少し変えてはひたすらに行われた。
「ほら。これが今回の報酬だ。ついでに冒険者証をこっちに渡しな。言った通り、今日からお前達は白銅級だ」
「ほんとに上がるんだな。セレナ! 冒険者証をこっちにくれ。俺たちの新しい冒険者証はいつ頃出来るんだ?」
「もう出来てるよ。お前らが依頼を失敗するなんて誰も思っちゃいないって事だな。ほら。これが新しい冒険者証だ。いつも言ってるが無くすんじゃないぞ」
「おお!? 随分用意がいいな。ありがとう。それにしてもまだ白銅級か。銀級になるには先が長いな」
「うん? 銀級になる理由でも何かあるのか? まだって言うが、こんだけ早い昇級は中々例が無いんだぞ。最近で言うと、勇者アベルと聖女エマのパーティくらいか」
受付の男の言葉にハンスの顔が曇った。
事情を知らない男はその変化に気付かずにいたが、普段から共に過しているセレナは、ハンスの表情を見逃さなかった。
しかし、ハンスから特にアベルたちの話を聞いていないセレナは、自分の主が機嫌を損ねた理由が何処に有るのか分からなかったため、言及するのを止めた。
普段の表情に戻ったハンスは思い出したように、男にあることを聞き始める。
「そういえば、最近魔術師大会が開催されただろう。そこで何か面白い事が起きなかったか?」
「魔術師大会だと? うーん。ああ。そういえば、ワードナーって魔術師が今までに無い魔法を開発したって話題になっていたな」
それを聞いたハンスの右の眉が上がる。
「ほう。ちなみにそれはどんな魔法だ?」
「おいおい。俺は魔術師じゃねぇから詳しい事を聞かれても分からねぇぞ? ただ、なんでもえらく難解な理論らしくてな。当の本人も理論として挙げた魔法の内、二、三個しか使えないらしい。だが、王はえらく気に入ったようでな。ワードナーは王宮研究所仕えになったらしい」
「ちっ! そうか。分かった。ありがとうな」
「あ! ハンス様! 待ってください!」
ハンスは明らかに不機嫌な態度をあらわにし、ギルドの出口へ大股で歩き出した。
置いていかれそうになったセレナも慌ててハンスを追いかける。
セレナは困惑していた。
先程の勇者アベルと聖女エマの話が出てきた時も、ハンスは不機嫌そうな顔をしたが、次の質問の答えを聞いた時のハンスの怒りはそれを遥かに上回っていた。
そう長くない間だが、ほぼ一日中をハンスと共に過したセレナは、ハンスが魔法以外にほとんど興味を示さない人物だと思っていた。
良くも悪くもそれ以外の事柄に関しては無頓着で、よく言えば大らか、悪く言えば無関心だと言えた。
そのため、今までここまで感情を表に出すのは、魔法のこと以外で無かった。
魔法のことに関してさえも、出てくる感情は、喜びなど正の感情ばかりだった。
いや、たしか、ハンスが不機嫌になったのは、受付の男が新しい魔法が開発されたという話をしてからだ。
恐らく、ハンスの感情を揺さぶった原因は今回も魔法絡みなのだろう。
どちらにしてもセレナには、ハンスが話してくれた事をただ聞くだけしか出来ない。
話もせずにずんずん前へと進む主に、セレナははぐれないよう付き添うことしか出来なかった。
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