永久の眠りを妨げられた大賢者〜ネクロマンスで生き返らされたので死生を楽しもうと思う〜

黄舞

文字の大きさ
3 / 10

第3話【残念な子孫】

しおりを挟む
 俺は目の前のサーシャと名乗った少女に向かって、間の抜けた声を上げてしまった。
 俺の子孫だと名乗る娘は、自らの出自が誇らしいのか、それなりにふくよかな胸を反らしている。

「ちょっと待て、確認したいことがいくつかある。一つずつ確認させてくれ」
「いいですよ。あなたは曲がりなりにも私の命の恩人ですからね! なんでも聞いてください! あ、でもスリーサイズは聞かれても答えませんからね!!」

 誰がそんなものに興味あるか。
 そもそも体つきまで婆さんと似たような格好だから、聞くまでもなくだいたい分かるわ。

「あ、いま私をエッチな目で見ましたね? ダメですよ! そんな歳で姦淫かんいんの罪なんかに目覚めては!!」
「そんな目では見てない。そんなどうでいいこと話すより質問に答えろ。まずは、お前がイザヤの子孫だと言うのは間違いないのか?」

 答えを聞くまでもなく、初めから感じる強大な魔力と、婆さんに瓜二つな顔立ちから俺の子孫だと言うのは間違いないだろう。
 しかしこいつは頭のネジが少し緩いようだから、話を進めないとどんどん変なことを言い始めそうだ。

「もちろんです! これを見てください! 私の家に代々伝わる家紋です。それと私の身分を示す協会発行の通行証」

 胸元から通行証とやらを取り出し俺の方へ差し出す。
 文字は昔と大きく変わってないようだ。

 なるほど、サーシャ・アルファードという名なのは間違いないらしい。
 もしこの通行証とやらが本当に身分を示すものなら、だが。

 それよりも一緒に見せた一輪の花の紋様が描かれたロザリオの方に目が向く。
 これは生前婆さんが大好きだった花で、そう簡単に手に入るものでもない。

 元を見ないとここまで精巧に描くのは難しいだろう。
 まぁ、これが俺の家紋だなどと聞いたのは今日が初めてだが。

「なるほど。しかし、賢者イザヤの話は俺も聞いたことがあるが、彼がアルファードなんて名乗っていた事など初耳だ」
「賢者じゃありませんよ。だ、い、賢者です! イザヤ様のフルネームを知らないなんて! 様々な物語に語られていますのに!」

 どうやら俺が知らない間に勝手に姓が付いたらしい。
 そういえば、王になったマティアスのひ孫がそんなことを言っていたな。

 大賢者たるもの姓がないのは格好がつかないとか何とか。
 そんなものに興味はなかったから断ったが、あいつめ、俺が死んだ後に勝手につけたな。

「そうか。それは知らなかった。それで。その大賢者の子孫が何の祈願をしに行くというんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! ご存知の通り、かつてイザヤ様が葬った大魔王は、死に際に新たな魔王の誕生を予言した、と伝えられています」

 ああ、そういえばそうだったな。
 そのためのマティアスは復興と一緒に自衛のための軍隊作り、それと俺らのような特異点の早期発見と育成のための機関を作ったはずだ。

「イザヤ様が没した400年経った今、予言通り魔王ソドムが現れ世界を再び混沌へと導こうとしています。始祖イザヤ様のように私も魔王討伐の旅へ出ようと思い立ち、この旅の成功を祈願しにはるばるやってきたのです!」

 何やら握りこぶしを作って力説しているが、そもそもあの程度の魔獣に逃げ回るやつが魔王討伐などできるはずないだろうに。
 緩いんじゃなく、完全に外れてしまっているみたいだな。我が子孫ながら嘆かわしい。

「そうか。しかし無駄足だったな。この先の祠にイザヤの遺体が安置されていたようだが、今はもうないぞ」
「ええ!? 何故それを? いえ、それよりも! イザヤ様のご遺体が無くなったってどういうことですか!? どこへ行ったんです!?」

「邪悪なネクロマンサーの手によって永久の眠りから無理やり起こされたらしい。術者はこの俺が始末したが、遺体の行方は分からん」

 邪悪と言うにはあまりにくだらん理由で俺を起こしたやつだが、この娘にはこう言っておいた方が納得しそうだからな。
 これで大人しく諦めてくれればいいんだが。

「なんですって!? ああ。そんな恐ろしい過ちを人が自ら行うなんて! これもきっと魔王のせいですね! やはり一刻も早く魔王を討伐しなければ行けないようです!!」

 ダメだな……。
 どうやら思い込んだら突き進むタイプらしい。

 婆さんと一緒か。
 そもそもあいつの行いが魔王のせいなら、それはそれで恐ろしいものがあるが、そんなわけないだろう。

「サーシャと言ったな。お前の考えは分かった。しかし、だ。お前は回復魔法が得意と言ったが、戦闘の方はからっきしだろう。そんなんでどうやって魔王を倒す気だ? 誰か宛があるのか?」
「ありません!」

 偉そうに強く答えてるが、要は思い込みと勢いだけなのか。
 このまま放っておけば、近い将来、魔獣の餌になるのが関の山だな。

「ありませんが、今となっては私がアルファード家唯一の後継者です。イザヤ様の名に連なる者として恥じぬ行いをせねばなりません。これは私の生まれながらに持った使命なのです!」
「ちょ、ちょっと待て! 唯一の後継者だと? 親は? 兄弟は? 他に親戚はいないのか!?」

 あまりの発言に俺はうろたえてしまった。
 この残念な頭の少女が俺の唯一の子孫だと?

 もしこいつがどこかで野垂れ死にでもしたら、俺の血筋はこの世から消えてしまうというのか。
 俺だけならいいが、婆さんの子孫が居なくなるなど許さんぞ。

「残念ながら、私の父も母も私を産んですぐに死んでしまいました。教会で聞かされた話によると、魔獣に殺されたとか」

 サーシャは悲しそうな顔を浮かべながらゆっくりと語る。

「運良く生きのびた私は教会に引き取られ、大人になるまで育ててもらいました。兄弟は元々いませんし、親戚がいたら私は教会に引き取られなかったと思います」

 参ったな。
 親戚の方は未確定だが、少なくともこの少女をこのまま放っておく訳にはいかないようだ。

 まぁ、死後400年も経てば分からんことも多いだろう。
 案内役として傍に置くのも悪くない。

「しょうがない。俺がしばらくお前の護衛を任ってやろう。魔王討伐については別だぞ? あくまでお前の旅に同行してやるということまでだ」
「え!? いいんですか!?」

 目を輝かせながら聞いてくるサーシャに俺は一度だけ頷く。
 思えば婆さんのこの仕草に何度落とされたことか。

 まるで若い頃の婆さんと旅に出るみたいで悪くない気分だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...