永久の眠りを妨げられた大賢者〜ネクロマンスで生き返らされたので死生を楽しもうと思う〜

黄舞

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第2話【婆さんと瓜二つな聖女】

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 外に出ようと思い足を一歩出した瞬間、俺はあることに気付いた。
 そういえば服どころか何も身に付けていない。

「さすがに見せびらかす訳にもいかないか。婆さん以外の女がなびいてきても困るしな」

 俺は過ぎし日の婆さんのことを思い出す。
 死が二人を分かつまでを誓った婆さんは、俺を置いて先に行ってしまった。

 その後の百年余り、言い寄ってくる女は多かったが、俺は婆さんへの操を貫いた。
 婆さんは笑いながら「あなたの好きにしてください」と言っていたがな。

「えーっと、確かあそこに入れてあっただろ。どれどれ」

 俺は魔法を唱える。
 目の前に空間の亀裂が現れ、俺はためらうことなくそこに手を腕ごと突っ込む。

「これか? いや、まだでかいか。これ……は小さすぎるな。ああ、これでいい」

 目の前の空間は俺の特製時空魔法、その名も「思い出ポイポイ」だ。
 中には亀裂を通る物ならなんでも、生き物すら入れられる。

 中の大きさは俺も分かってないほど大きく、入れたものは半永久的に保存される。
 捨てるのが苦手な俺は、とにかくなんでもこの中に入れる癖があった。

 入れてる所を婆さんに見つかっては怒られもしたが、今となっては役に立ったな。
 今こそ婆さんに「いつか使うかもしれんだろう」と言った通りになったと言ってやりたいものだ。

 取り出したのは俺の息子が着ていた子供服だ。
 確かなめしたドラゴンの皮で作った物で、着心地は悪くない。

「さて、と。では久方ぶりの現世を楽しむとするか」

 祠を出ると一切見覚えのない場所だった。
 俺が死んでから一体どれほどの時が流れたのかが分からないから、そもそも覚えのある物の方が稀有けうかもしれない。

「どれ、まずは人の居る場所でも探すか。王都がどうとか言っていたし、人が滅びたなどということはあるまい」

 王という言葉で戦友のことを思い出した。
 聖剣を持って大魔王にトドメを差した男は、大陸初めての王となったんだったな。

 あいつも俺より先に死んでしまったが、良い統治で荒れ果てた大陸を徐々に豊かにしていった。
 今の王とやらはあいつの子孫だろうか。

 魔力探知を使って自分を中心に生き物の存在を探していく。
 甦る際に与えられた魔力が足りないのか、思ったほどの距離に広げられず、速度も遅い。

「参ったな。まぁ、足りない魔力はおいおい稼いでいけばいいか。うん? 何だこの魔力は」

 残念ながら人里のような集団は見つけられなかったが、ここからそう遠くない所に異常に高い魔力の反応が一つ見つかる。
 それほど大きくない人型、こちらに少しずつ近付いているようだ。

 その後ろを二つの小さな魔力が追っている。
 形は四足歩行の獣型、魔力の質から弱い魔獣の一種だと思われる。

「ふむ。妙だな。あれだけの魔力を内在していれば、あんな魔獣など一蹴できそうなものだが……」

 どうせ目的などないようなものだ。
 興味がわくところへ向かってみるか。

 俺は身体に魔力を込めて、巨大な魔力めがけて疾走した。
 本当なら浮遊した方が楽で速いが、今の魔力量では思った効果が期待できるか怪しい。

 その点、身体強化であれば必要な魔力は少なくて済むし、扱いもかなり楽だ。
 寝起きの運動にはもってこいだろう。

「いやあぁぁぁっ! 来ないでぇぇ! 私を食べたって美味しくないんだからぁ!」

 たどり着くと一人の少女が必死の形相で走っていた。
 首元から下げたロザリオが揺れている。

 もし宗教が変わっていなかったら聖職者のようだ。
 あいつらは魔力を浄化や治癒に使う。

 なるほど、あんな強大な魔力を持っているのに魔獣から逃げるのはそのためか。
 俺の生きた時代なら護衛や戦闘職を伴うのが常だったが、周りにはそれらしい気配はない。

「そこの僕!? なぜこんな所にいるか知らないけれど逃げてください! 後ろから魔獣が!」

 一瞬誰に言っているのか分からなかったが、そうか俺にか。
 見たところ15歳くらいに見える少女から「僕」と呼ばれる日が来るとは思わなかったな。

「構わん。そこで止まって動くなよ?」
「え?」

 返事を待たずに俺は二条の光の矢を放ち、少女の後ろに迫る魔獣を撃ち抜く。
 息絶えた魔獣から放出された魔力は忘れずに吸収しておく。

「え? え? あ、あの。ありがとうございます。助かりました」

 少女は目の前で起こったことに一瞬理解が追い付かなかったようだが、すぐに俺に礼を言った。
 顔を上げた少女をきちんと見た瞬間、今度は俺が言葉を失う。

 別人であることは理解しているが、それでも俺は違いを探そうと必死になる。
 それほどまでにこの少女は若い頃の婆さんに瓜二つだった。

「あの……どうしました? 大丈夫ですか? あ! もしかしてどこか怪我を!? 安心してください! 私、回復魔法にだけは自信があるんです!!」

 言葉を発しない俺を不思議な顔で眺めていると思ったら、とんでもないことを言い出した。
 この少女の魔力量は俺から見ても決して少なくない。

 さっき食べても美味しくないと叫んでいたが、魔力を糧とする魔獣からすれば、これほどのご馳走はそうそう無いと言っていいほどだ。
 そんな少女が俺に回復魔法を使うと言う。

「いや! 大丈夫だ! どこも怪我などしていない! だからそんな物騒な事はやめるんだ!」
「え? そうですか? 怪我がないのなら何よりですが……」

 慌てすぎて俺は若干おかしなことを言ってしまったかもしれない。
 しかししょうがない。

 不本意ながらさっきの男に甦らされた俺は、いわゆる「アンデッド」だ。
 聖職者である聖女や聖人、神官などが使う神聖魔法は回復の他に邪気を浄化する力を持つ。

 そんな魔法をかけられたら、即死しないまでも痛手を食うに違いない。
 魔力が少ないやつならレジストできるが、この少女の魔力では、少なくとも今のままでは自信が無い。

「それより、こんな所で一人で何をしている? 他に護衛なども見当たらないようだが?」
「えっと……実は……」

 少しばつが悪そうにしてから、少女は次の言葉を続ける。

「護衛に雇った人は用があると言ったっきり戻ってこなくて。でも、私この先に必ず行かなければならないのです!」
「この先に用だと? 何があると言うんだ?」

「この先に眠るとされる、世界の救世主、伝説の大賢者イザヤ・アルファード様。私はサーシャ・アルファード。偉大なるアルファード家の始祖に、私の未来の成功を祈願しに行かねばならないのです!」
「な、なんだって!?」
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