永久の眠りを妨げられた大賢者〜ネクロマンスで生き返らされたので死生を楽しもうと思う〜

黄舞

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第8話【子を守るのが親の仕事】

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 ゴーシュのことを『ダーリン』と呼んでいるからカマをかけたが、どうやら当たりのようだ。
 この際相手の名前が分かったところで何かメリットある訳ではないが、これから滅ぼす相手の名前と素性くらい知っておいて損は無いからな。

「さあな。お前のことをよく知っている男からでも聞いたんじゃないか?」
『……ああ。メルビンね。あの男、まだ生きていただなんて。もうすっかり忘れてたわ』

 残念ながらもう死んでしまったがな。
 そんなことをわざわざ教えてやる必要もないだろう。

 それにしても今さら名前を出されてももう出番もないだろうに。
 つくづく可哀想なやつだ。

「ひとまずおもちゃは返す。もっと飛びっきりのものを見つけたからな」
『あら。いいのよー? 好きなだけ遊んでくれても。それがあなたの最後の遊びなんですから』

「いやいや。俺は興味が出たものは最後まで付き合う質でな。近いうちにまた来るさ」
『うふふ。遠慮なんてしないでー? それに最近眠れてないんじゃないのー? 快適な眠りにつく方法があるのよー』

 窓越しにゴーシュが壁にかけてある剣を手にして迫ってくるのが見える。
 はてさて、マティアスとどちらが腕がたつか見ものだな。

 ゴーシュは鍛え抜かれた両腕を肩から振り下ろす。
 窓がまるで紙切れのように切り裂かれ、剣先が窓の外に浮かんでいる俺に迫る。

 俺は既に展開していた【魔力障壁ウォール】で受け止め、剣の届かぬ所まで身を下げた。
 実力が同じであれば接近戦はゴーシュの方が有利だが、空中までは追ってこれまい。

 そう高を括ったが、ゴーシュは振り下ろしきれなかった剣を器用に動かし壁に自分が通れる穴を作ると、平然と外へと身を乗り出してきた。
 そのまま空に地面があるかのごとく俺の方まで間を詰める。

「ほう! マティアスは魔法はからっきしだったが、子孫のお前は優秀だな!」

 ゴーシュは俺の言葉に反応することなく、無言で剣を振るう。
 その目はどこか虚ろで、自我が途切れているように見える。

 俺は迫り来る剣撃をことごとく弾き返す。
 どうやら、器用にはなったが、マティアスのような剛剣を振るうことは出来ないらしい。

「あいつなら今の俺の【魔力障壁ウォール】など一撃すら耐えられなかったのだがな。やはり一つの道を突き詰めた者の方が上か」

 俺の煽りに呼応するように、ゴーシュはぶつぶつと魔法を口にする。
 小さくてよく聞き取れないが、感じる魔力の質や様子から、俺は賞賛の声を上げる。

「なるほどな! 器用は器用なりのやり方があるか。そこまでやられると今のままではちときついな」

 ゴーシュが魔法を唱え終わると、手に持つ剣が青白く輝きを放つ。
 武器強化の魔法の一種【剛刃招来サディティア】、その名の通り武器の強度と切れ味を格段に増加させる魔法だ。

 再び振り下ろされたゴーシュの剣は俺の【魔力障壁ウォール】にヒビを入れた。
 一撃とまではいかずとも、何度も受ければ破壊され霧散するだろう。

 しかし、ゴーシュは魔導師というものを根本的に理解していないようだ。
 確かに接近戦なら剣を使う方が有利だが、そもそも魔導師は接近戦に

 マティアスの子孫であるゴーシュがどの程度の実力か知りたくてわざわざ受けてみたが、まぁ及第点と言ったところか。
 俺は高度を上げ、ゴーシュを見下ろす。

 ゴーシュも俺の所まで駆け上がってこようとするが、間に合わない。
 俺が放った【触手束縛バインド】によって動きを封じられた。

「まぁまぁ面白かったぞ。後50年くらい鍛錬に励めば今の俺なら越えられるんじゃないか?」

 ゴーシュは身体に絡みつく黒い触手から逃れ出ようと必死で体をよじったり、腕を動かそうとするが無駄だ。
 この状態になったらマティアスでも簡単には抜け出せない。

「……!」

 俺はとっさに身体をひねりながら今いた場所から移動する。
 俺のいた場所を魔力の刃が通り過ぎ、そのまま空へと消えていった。

「あらー? 勘もいいのねー? ちゃんと悟られないように【隠蔽ステルス】もかけておいたのにー」
「まさかそっちから出向いてくれるとは思わなかったな」

「うふふ。だってダーリンと楽しそうにしてるんですものー。あたし、妬いちゃうわー?」

 刃の飛んできた方に目を向けると、そこにはふわりとした華やかなピンクのドレスを身にまとった若い女性がいた。
 ウェーブの程よくかかった腰まである金髪を揺らし、ブルードラゴンのような藍色の目でこちらを見ている。

 顔には生来のものか、どこか緊張感を欠いた笑みが浮かべられている。
 こいつがソニアか。

「さて、出会えて間もないけれど、そろそろお暇させてもらうわねー? そろそろあたしたち、ティータイムの時間なのー」

 言葉の内容と口調とは裏腹に、ソニアの手の中に強大な魔力が集まっていく。
 【絶火氷寂ハルモニア】、対象の全てを破壊し存在を無に帰す対個魔法の中でも上位の魔法だ。

 ソニアの右手に燃え盛る炎、左手に凍てつく冷気がそれぞれ形成される。
 その二つが交わることなく俺に向かって放たれる。

「仲睦まじいところを野暮なことしたな。今度来る時は何か手土産でも用意しよう」
「その魔法から逃げられる気でいるのー? どこまでも追っていくわよー?」

 丁寧に【追尾ホーミング】まで付けてあるのか。
 思った通り、かなり魔法に通じているようだ。

 出来れば色々と語り合いたい知識の持ち主のようだし残念だな。
 サーシャをようなことをしなければ、見過ごしてやったのに。

「あんな娘でも可愛い子孫だからな。子供のケンカに親が出るのはいかんが、子を守ってやるのは親の仕事だ」
「うふふ。まさか大賢者イザヤがこんな可愛らしい男の子だなんて。シワシワのおじいちゃんより好みよー? でも、おやすみなさーい」

「いや、残念ながら眠れない身体になってしまったからな。邪魔したな。また来るよ」

 そう言うと俺は【思い出ポイポイ】の中に身体ごと潜り込む。
 俺を追ってソニアの放った魔法も入ってこようと迫るが、その前に入口を閉める。

 そして別の入口を開くと、そこから這い出る。
 こんな身体には最も相応しくない場所だが、まぁしょうがない。

「え……ええ!? イザヤ!? どうしてここに!?」

 腰に提げた袋から俺が出てきてびっくりしているサーシャを横目に見る。
 俺はこれからの事を考えて、一つ大きなため息をついた。
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