8 / 10
第8話【子を守るのが親の仕事】
しおりを挟む
ゴーシュのことを『ダーリン』と呼んでいるからカマをかけたが、どうやら当たりのようだ。
この際相手の名前が分かったところで何かメリットある訳ではないが、これから滅ぼす相手の名前と素性くらい知っておいて損は無いからな。
「さあな。お前のことをよく知っている男からでも聞いたんじゃないか?」
『……ああ。メルビンね。あの男、まだ生きていただなんて。もうすっかり忘れてたわ』
残念ながらもう死んでしまったがな。
そんなことをわざわざ教えてやる必要もないだろう。
それにしても今さら名前を出されてももう出番もないだろうに。
つくづく可哀想なやつだ。
「ひとまずおもちゃは返す。もっと飛びっきりのものを見つけたからな」
『あら。いいのよー? 好きなだけ遊んでくれても。それがあなたの最後の遊びなんですから』
「いやいや。俺は興味が出たものは最後まで付き合う質でな。近いうちにまた来るさ」
『うふふ。遠慮なんてしないでー? それに最近眠れてないんじゃないのー? 快適な眠りにつく方法があるのよー』
窓越しにゴーシュが壁にかけてある剣を手にして迫ってくるのが見える。
はてさて、マティアスとどちらが腕がたつか見ものだな。
ゴーシュは鍛え抜かれた両腕を肩から振り下ろす。
窓がまるで紙切れのように切り裂かれ、剣先が窓の外に浮かんでいる俺に迫る。
俺は既に展開していた【魔力障壁】で受け止め、剣の届かぬ所まで身を下げた。
実力が同じであれば接近戦はゴーシュの方が有利だが、空中までは追ってこれまい。
そう高を括ったが、ゴーシュは振り下ろしきれなかった剣を器用に動かし壁に自分が通れる穴を作ると、平然と外へと身を乗り出してきた。
そのまま空に地面があるかのごとく俺の方まで間を詰める。
「ほう! マティアスは魔法はからっきしだったが、子孫のお前は優秀だな!」
ゴーシュは俺の言葉に反応することなく、無言で剣を振るう。
その目はどこか虚ろで、自我が途切れているように見える。
俺は迫り来る剣撃をことごとく弾き返す。
どうやら、器用にはなったが、マティアスのような剛剣を振るうことは出来ないらしい。
「あいつなら今の俺の【魔力障壁】など一撃すら耐えられなかったのだがな。やはり一つの道を突き詰めた者の方が上か」
俺の煽りに呼応するように、ゴーシュはぶつぶつと魔法を口にする。
小さくてよく聞き取れないが、感じる魔力の質や様子から、俺は賞賛の声を上げる。
「なるほどな! 器用は器用なりのやり方があるか。そこまでやられると今のままではちときついな」
ゴーシュが魔法を唱え終わると、手に持つ剣が青白く輝きを放つ。
武器強化の魔法の一種【剛刃招来】、その名の通り武器の強度と切れ味を格段に増加させる魔法だ。
再び振り下ろされたゴーシュの剣は俺の【魔力障壁】にヒビを入れた。
一撃とまではいかずとも、何度も受ければ破壊され霧散するだろう。
しかし、ゴーシュは魔導師というものを根本的に理解していないようだ。
確かに接近戦なら剣を使う方が有利だが、そもそも魔導師は接近戦に持ち込ませない。
マティアスの子孫であるゴーシュがどの程度の実力か知りたくてわざわざ受けてみたが、まぁ及第点と言ったところか。
俺は高度を上げ、ゴーシュを見下ろす。
ゴーシュも俺の所まで駆け上がってこようとするが、間に合わない。
俺が放った【触手束縛】によって動きを封じられた。
「まぁまぁ面白かったぞ。後50年くらい鍛錬に励めば今の俺なら越えられるんじゃないか?」
ゴーシュは身体に絡みつく黒い触手から逃れ出ようと必死で体をよじったり、腕を動かそうとするが無駄だ。
この状態になったらマティアスでも簡単には抜け出せない。
「……!」
俺はとっさに身体をひねりながら今いた場所から移動する。
俺のいた場所を魔力の刃が通り過ぎ、そのまま空へと消えていった。
「あらー? 勘もいいのねー? ちゃんと悟られないように【隠蔽】もかけておいたのにー」
「まさかそっちから出向いてくれるとは思わなかったな」
「うふふ。だってダーリンと楽しそうにしてるんですものー。あたし、妬いちゃうわー?」
刃の飛んできた方に目を向けると、そこにはふわりとした華やかなピンクのドレスを身にまとった若い女性がいた。
ウェーブの程よくかかった腰まである金髪を揺らし、ブルードラゴンのような藍色の目でこちらを見ている。
顔には生来のものか、どこか緊張感を欠いた笑みが浮かべられている。
こいつがソニアか。
「さて、出会えて間もないけれど、そろそろお暇させてもらうわねー? そろそろあたしたち、ティータイムの時間なのー」
言葉の内容と口調とは裏腹に、ソニアの手の中に強大な魔力が集まっていく。
【絶火氷寂】、対象の全てを破壊し存在を無に帰す対個魔法の中でも上位の魔法だ。
ソニアの右手に燃え盛る炎、左手に凍てつく冷気がそれぞれ形成される。
その二つが交わることなく俺に向かって放たれる。
「仲睦まじいところを野暮なことしたな。今度来る時は何か手土産でも用意しよう」
「その魔法から逃げられる気でいるのー? どこまでも追っていくわよー?」
丁寧に【追尾】まで付けてあるのか。
思った通り、かなり魔法に通じているようだ。
出来れば色々と語り合いたい知識の持ち主のようだし残念だな。
サーシャを狙うようなことをしなければ、見過ごしてやったのに。
「あんな娘でも可愛い子孫だからな。子供のケンカに親が出るのはいかんが、子を守ってやるのは親の仕事だ」
「うふふ。まさか大賢者イザヤがこんな可愛らしい男の子だなんて。シワシワのおじいちゃんより好みよー? でも、おやすみなさーい」
「いや、残念ながら眠れない身体になってしまったからな。邪魔したな。また来るよ」
そう言うと俺は【思い出ポイポイ】の中に身体ごと潜り込む。
俺を追ってソニアの放った魔法も入ってこようと迫るが、その前に入口を閉める。
そして別の入口を開くと、そこから這い出る。
こんな身体には最も相応しくない場所だが、まぁしょうがない。
「え……ええ!? イザヤ!? どうしてここに!?」
腰に提げた袋から俺が出てきてびっくりしているサーシャを横目に見る。
俺はこれからの事を考えて、一つ大きなため息をついた。
この際相手の名前が分かったところで何かメリットある訳ではないが、これから滅ぼす相手の名前と素性くらい知っておいて損は無いからな。
「さあな。お前のことをよく知っている男からでも聞いたんじゃないか?」
『……ああ。メルビンね。あの男、まだ生きていただなんて。もうすっかり忘れてたわ』
残念ながらもう死んでしまったがな。
そんなことをわざわざ教えてやる必要もないだろう。
それにしても今さら名前を出されてももう出番もないだろうに。
つくづく可哀想なやつだ。
「ひとまずおもちゃは返す。もっと飛びっきりのものを見つけたからな」
『あら。いいのよー? 好きなだけ遊んでくれても。それがあなたの最後の遊びなんですから』
「いやいや。俺は興味が出たものは最後まで付き合う質でな。近いうちにまた来るさ」
『うふふ。遠慮なんてしないでー? それに最近眠れてないんじゃないのー? 快適な眠りにつく方法があるのよー』
窓越しにゴーシュが壁にかけてある剣を手にして迫ってくるのが見える。
はてさて、マティアスとどちらが腕がたつか見ものだな。
ゴーシュは鍛え抜かれた両腕を肩から振り下ろす。
窓がまるで紙切れのように切り裂かれ、剣先が窓の外に浮かんでいる俺に迫る。
俺は既に展開していた【魔力障壁】で受け止め、剣の届かぬ所まで身を下げた。
実力が同じであれば接近戦はゴーシュの方が有利だが、空中までは追ってこれまい。
そう高を括ったが、ゴーシュは振り下ろしきれなかった剣を器用に動かし壁に自分が通れる穴を作ると、平然と外へと身を乗り出してきた。
そのまま空に地面があるかのごとく俺の方まで間を詰める。
「ほう! マティアスは魔法はからっきしだったが、子孫のお前は優秀だな!」
ゴーシュは俺の言葉に反応することなく、無言で剣を振るう。
その目はどこか虚ろで、自我が途切れているように見える。
俺は迫り来る剣撃をことごとく弾き返す。
どうやら、器用にはなったが、マティアスのような剛剣を振るうことは出来ないらしい。
「あいつなら今の俺の【魔力障壁】など一撃すら耐えられなかったのだがな。やはり一つの道を突き詰めた者の方が上か」
俺の煽りに呼応するように、ゴーシュはぶつぶつと魔法を口にする。
小さくてよく聞き取れないが、感じる魔力の質や様子から、俺は賞賛の声を上げる。
「なるほどな! 器用は器用なりのやり方があるか。そこまでやられると今のままではちときついな」
ゴーシュが魔法を唱え終わると、手に持つ剣が青白く輝きを放つ。
武器強化の魔法の一種【剛刃招来】、その名の通り武器の強度と切れ味を格段に増加させる魔法だ。
再び振り下ろされたゴーシュの剣は俺の【魔力障壁】にヒビを入れた。
一撃とまではいかずとも、何度も受ければ破壊され霧散するだろう。
しかし、ゴーシュは魔導師というものを根本的に理解していないようだ。
確かに接近戦なら剣を使う方が有利だが、そもそも魔導師は接近戦に持ち込ませない。
マティアスの子孫であるゴーシュがどの程度の実力か知りたくてわざわざ受けてみたが、まぁ及第点と言ったところか。
俺は高度を上げ、ゴーシュを見下ろす。
ゴーシュも俺の所まで駆け上がってこようとするが、間に合わない。
俺が放った【触手束縛】によって動きを封じられた。
「まぁまぁ面白かったぞ。後50年くらい鍛錬に励めば今の俺なら越えられるんじゃないか?」
ゴーシュは身体に絡みつく黒い触手から逃れ出ようと必死で体をよじったり、腕を動かそうとするが無駄だ。
この状態になったらマティアスでも簡単には抜け出せない。
「……!」
俺はとっさに身体をひねりながら今いた場所から移動する。
俺のいた場所を魔力の刃が通り過ぎ、そのまま空へと消えていった。
「あらー? 勘もいいのねー? ちゃんと悟られないように【隠蔽】もかけておいたのにー」
「まさかそっちから出向いてくれるとは思わなかったな」
「うふふ。だってダーリンと楽しそうにしてるんですものー。あたし、妬いちゃうわー?」
刃の飛んできた方に目を向けると、そこにはふわりとした華やかなピンクのドレスを身にまとった若い女性がいた。
ウェーブの程よくかかった腰まである金髪を揺らし、ブルードラゴンのような藍色の目でこちらを見ている。
顔には生来のものか、どこか緊張感を欠いた笑みが浮かべられている。
こいつがソニアか。
「さて、出会えて間もないけれど、そろそろお暇させてもらうわねー? そろそろあたしたち、ティータイムの時間なのー」
言葉の内容と口調とは裏腹に、ソニアの手の中に強大な魔力が集まっていく。
【絶火氷寂】、対象の全てを破壊し存在を無に帰す対個魔法の中でも上位の魔法だ。
ソニアの右手に燃え盛る炎、左手に凍てつく冷気がそれぞれ形成される。
その二つが交わることなく俺に向かって放たれる。
「仲睦まじいところを野暮なことしたな。今度来る時は何か手土産でも用意しよう」
「その魔法から逃げられる気でいるのー? どこまでも追っていくわよー?」
丁寧に【追尾】まで付けてあるのか。
思った通り、かなり魔法に通じているようだ。
出来れば色々と語り合いたい知識の持ち主のようだし残念だな。
サーシャを狙うようなことをしなければ、見過ごしてやったのに。
「あんな娘でも可愛い子孫だからな。子供のケンカに親が出るのはいかんが、子を守ってやるのは親の仕事だ」
「うふふ。まさか大賢者イザヤがこんな可愛らしい男の子だなんて。シワシワのおじいちゃんより好みよー? でも、おやすみなさーい」
「いや、残念ながら眠れない身体になってしまったからな。邪魔したな。また来るよ」
そう言うと俺は【思い出ポイポイ】の中に身体ごと潜り込む。
俺を追ってソニアの放った魔法も入ってこようと迫るが、その前に入口を閉める。
そして別の入口を開くと、そこから這い出る。
こんな身体には最も相応しくない場所だが、まぁしょうがない。
「え……ええ!? イザヤ!? どうしてここに!?」
腰に提げた袋から俺が出てきてびっくりしているサーシャを横目に見る。
俺はこれからの事を考えて、一つ大きなため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる