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第7話【お買い上げありがとうございます】

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「これ、綺麗な色ですね」
「肌に載せるとこのような艶が出ます」

 私は内心心臓が張り裂けそうだった。
 今手の甲に塗った口紅の色を見てもらっているが、もちろんこれも研修ではやったが初めての体験だ。

 じーっと私の甲を見る女性は、無言。
 顔を下げているので、その顔色はよく見えない。

「私、これにします。これください」
「え? あ。分かりました。あ! 他に何かお探しの物はございますか?」

 女性の発言に、しどろもどろになりながらも私はマニュアル通りの対応をする。
 そんな私を顔をじっと見つめて、女性はこんなことを言い出した。

「これとあと一つ何か付けるとしたら、何がいいですか?」
「え?」

 思わず私は素の声を出してしまう。
 口紅ともう一つと言われて、何を勧めればいいのか、残念ながらマニュアルには書いていなかったし、研修でもそんな話は出なかった。

「お姉さんなら、何付けます? リップと。あんまりお金なくて……全部揃えるのは無理なんです……」

 彼女の顔は途端に青色に染まる。
 悲しみを抱いているようだ。

 そこで私は考えた。
 正直な話、彼女はまだ若く、肌は綺麗だった。

 血色も良く、素肌でも問題ないだろう。
 それならば。

「もし、一点だけ合わせてお求めなら、マスカラなどいかがでしょうか? 口元と同じくらい、目元には力がありますので」
「マスカラですか? それって、どうやって使うんですか?」

 どうやら、本当にこの女性は化粧品については何も知識がないらしい。
 今どき珍しいと思ってしまうものの、実際自分も就職するまで化粧なんてしてこなかったのだから、そんなことを言える立場でもない。

 私はいくつかマスカラを取り出すと、使い方とその効果について詳しく説明する。
 まつげを長く、濃くする化粧品だが、お湯で洗い流せる物やクレンジングオイルでないと無理な物などきちんと理解してもらった方がいいだろう。

 私の説明を真剣な顔をして聞く女性の顔色は、先ほどの青色から黄色に変わっている。
 どうやら興味を持ってもらえたようだ。

「いろんな種類があるんですねー。どれにしたらいいのか迷っちゃう。どれがおすすめですか?」

 先ほどよりも声に張りがあるように感じるのは気のせいだろうか。
 最初に話しかけられた時よりも、声が明るいように感じる。

 結局私の勧めるものを選び、女性は口紅とマスカラを買ってくれた。

「お買い上げありがとうございます」

 そう言って頭を下げた後女性の顔を見ると、笑顔を返してくれた。

「こちらこそ、ありがとうございました。もし、上手くいったら、また来ますね」

 そう言って女性は去っていく。
 私はその後姿を、見えなくなるまで見つめていた。
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みんなの感想(2件)

太真
2021.01.04 太真

育美ちゃんは思い込みが激しいタイプとか❓

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太真
2021.01.03 太真

初めての接客や電話って緊張より恐怖ですよね((T_T))しかしここをクリアしないと仕事は出来ないしね( ̄~ ̄;)

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