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第52話【S級】
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「じゃあ、みんな準備はいいかな?」
集まったクランのみんなにセシルが言う。
その言葉にそれぞれが大きく頷いた。
私は何度も確認した薬の種類や数を再度調べる。
今までよりも何倍も必要だったけど、素材集めはクランのみんながやってくれたのでそこまで大変ではなかった。
「ねぇ。人数が増えたけど、作戦は今まで通りやるんだよね?」
今日はクラン【蒼天】から来たメンバーが入って初めての攻城戦だ。
さらに言うとS級の攻城戦の初戦でもある。
これまで連携の確認や、私の薬の効果に慣れてもらうために、何度か闘技場で練習した。
始めはなかなかうまくいかないところもあったけれど、今では元々いたメンバーたちとの連携も上々だ。
「ああ! サラさんのアイデアが上手くハマってるからね」
セシルが私の質問に答える。
私のアイデアというのは、そんなに大したことではない。
元々居たメンバーもそうだけれど、【蒼天】から来たメンバーも独特の癖のようなものがあった。
似たもの同士はお互いが理解しやすいから、その癖が似たメンバーをまず集めた。
ただ、それだけだとその癖を狙われる危険性がある。
そこで、互いにその癖を補うような相手同士を一つのグループにしたのだ。
それをした結果、なかなか上手い連携が取れずにいたみんなが、瞬く間に上達していった。
闘技場での模擬戦の際も出来るだけグループごとに練習をすることで、連携の練度は増した。
ちなみに、グループは全部で三つ。
それぞれが9人のメンバーを持ち、セシル、カインそしてアンナがそのリーダーとしてまとめている。
私はそのどのグループにも属さない。
今まで通り、強化をした後は全体を見渡しながら、状況に応じて後方支援をする役目だ。
もちろんコアは私が受け持つため、死なないように気を付けるのが一番大事な役目だけれど。
それにしても久しぶりの攻城戦を前にして、私は胸の高鳴りを感じていた。
「ねぇ、セシル。実を言うとね。私、まさかS級で戦う日が来るなんて、始めは思っていなかったんだ」
「あはは。俺も、あの時は何も知らないで言ったからさ。今になって思えば、ずいぶんなことを言ったと自分でも思うよ」
攻城戦が可能な時刻になり、セシルの合図とともに、それぞれ攻城戦のフィールドに移動を始める。
コアが現れる拠点に着くと、それぞれ談笑しながら開始の合図を待った。
「それじゃあ、いつも通り私がコアを持つね」
事前に【蒼天】だったメンバーにもコアが移動可能だということは伝えてある。
みんな誰に言われるまでもなくコアから離れ、コアの前には私だけになった。
久しぶりと言ってもそれほどの時間が経った訳ではないのに、目にするコアに私は色々な思いを巡らせる。
そしていつものように、コアに手を触れ、10秒待つと現れた選択肢からコアとの同期を選ぶ。
その瞬間、目の前にあったコアが消え失せ、誰か分からないけれど、感嘆が漏れる。
私の身体から淡い光が放たれるエフェクトが発生し、無事に同期が完了した。
「それじゃあ、みんな。行こうか! S級がどのくらいのものかはやってみないと分からないけど、きっとみんななら勝てるよ!」
「俺たちには勝利の女神様が付いてるしな」
【蒼天】のサブマスターだったトールが言った言葉に、みんな笑い声を上げる。
どうやら初めてのS級でも気負いをしている人はいないようだ。
拠点同士の間にある広場までの道を、全員でゾロゾロと進んでいく。
経路は複数あるのだから別れた方が良いのではないかという意見もあったけれど、結局私を守るのが一番重要だから別れるメリットが少ないということになった。
「サラちゃん! 今回、本当にわたしにあの薬を使ってくれるのかい?」
「うん! ひとまず初めての戦いだし、節約して負けるくらいならどんどん使っていこうと思って」
進む直前アンナが私に声をかける。
あの薬というのは【神への冒涜】、一定時間まさに魔神のような強力な力を手に入れることのが出来る秘薬だ。
カインで試した後、今日まで集まったこの薬を作るための素材【魔血】の数は元々あった数も含めて三つだけだった。
もともとドロップ数が少ないのもあるけれど、やはり多くは大手の生産ギルドの手に渡っているのだろうか。
素材がなかなか集まらないので、カインの後は全て実戦に使うことに決めた。
混戦の中データを集めるのはなかなか難しいところもあるけれど、データが取れてもいざ使いたい時に無いのでは意味がない。
コアを破壊に向かっていた相手クランのメンバーと遭遇し、それを退けながら広場へと進む。
こちらは総戦力で移動をしているものの、狭い拠点の通路ではその人数の差を活かせるのも限定的で、残念ながら相手を殲滅したものの、こちらも二人ほど倒れてしまった。
「やはりS級ともなると、各個人の実力もなかなかのものになりますね。いくらサラさんの支援があっても、今までのように一方的に相手を倒すという風にはいかないようです」
「うん。こんなに先頭と離れてると、私が回復薬を投げるのも難しいし……次からはもう少し移動の仕方を考えた方がいいかもね」
先頭は今、アンナのグループが受け持っている。
その後ろにカインのグループ、私を挟んで、後ろからの攻撃に備えてセシルのグループが続いている。
犠牲は出したものの、なんとか広場に出ると、約20人ほどの相手クランのメンバーがそこで待機していた。
恐らく拠点で出会ったのは様子見のメンバーだったのだろう。
「それじゃあ、初っ端から行くよ! アンナさん、よろしく!」
「あいよ! さっきは不甲斐ないところを見せちまったからね! 汚名返上といかせてもらうよ!!」
私たちが出てきたとこを確認した相手は、すぐに攻撃を始めてきた。
一足先にカインとセシルたちがそれに対応する。
私は【神への冒涜】をアンナに投げる。
巨大化することを知っている他のメンバーは、邪魔にならないようにすでにアンナから少し離れた位置に移動していた。
赤いハートのような形をした薬がアンナにぶつかると、予想していた通り、セシルともカインとも違ったシルエットへと、アンナは変化していった。
これでアバター由来の見た目に変化するというのは、ほぼ間違いないようだ。
そう思いながら私は巨大化したアンナの姿を見上げていた。
そこには漆黒の肌を持つ巨人、このゲームのボスの一つであるタイタンに似たアンナが立っていた。
集まったクランのみんなにセシルが言う。
その言葉にそれぞれが大きく頷いた。
私は何度も確認した薬の種類や数を再度調べる。
今までよりも何倍も必要だったけど、素材集めはクランのみんながやってくれたのでそこまで大変ではなかった。
「ねぇ。人数が増えたけど、作戦は今まで通りやるんだよね?」
今日はクラン【蒼天】から来たメンバーが入って初めての攻城戦だ。
さらに言うとS級の攻城戦の初戦でもある。
これまで連携の確認や、私の薬の効果に慣れてもらうために、何度か闘技場で練習した。
始めはなかなかうまくいかないところもあったけれど、今では元々いたメンバーたちとの連携も上々だ。
「ああ! サラさんのアイデアが上手くハマってるからね」
セシルが私の質問に答える。
私のアイデアというのは、そんなに大したことではない。
元々居たメンバーもそうだけれど、【蒼天】から来たメンバーも独特の癖のようなものがあった。
似たもの同士はお互いが理解しやすいから、その癖が似たメンバーをまず集めた。
ただ、それだけだとその癖を狙われる危険性がある。
そこで、互いにその癖を補うような相手同士を一つのグループにしたのだ。
それをした結果、なかなか上手い連携が取れずにいたみんなが、瞬く間に上達していった。
闘技場での模擬戦の際も出来るだけグループごとに練習をすることで、連携の練度は増した。
ちなみに、グループは全部で三つ。
それぞれが9人のメンバーを持ち、セシル、カインそしてアンナがそのリーダーとしてまとめている。
私はそのどのグループにも属さない。
今まで通り、強化をした後は全体を見渡しながら、状況に応じて後方支援をする役目だ。
もちろんコアは私が受け持つため、死なないように気を付けるのが一番大事な役目だけれど。
それにしても久しぶりの攻城戦を前にして、私は胸の高鳴りを感じていた。
「ねぇ、セシル。実を言うとね。私、まさかS級で戦う日が来るなんて、始めは思っていなかったんだ」
「あはは。俺も、あの時は何も知らないで言ったからさ。今になって思えば、ずいぶんなことを言ったと自分でも思うよ」
攻城戦が可能な時刻になり、セシルの合図とともに、それぞれ攻城戦のフィールドに移動を始める。
コアが現れる拠点に着くと、それぞれ談笑しながら開始の合図を待った。
「それじゃあ、いつも通り私がコアを持つね」
事前に【蒼天】だったメンバーにもコアが移動可能だということは伝えてある。
みんな誰に言われるまでもなくコアから離れ、コアの前には私だけになった。
久しぶりと言ってもそれほどの時間が経った訳ではないのに、目にするコアに私は色々な思いを巡らせる。
そしていつものように、コアに手を触れ、10秒待つと現れた選択肢からコアとの同期を選ぶ。
その瞬間、目の前にあったコアが消え失せ、誰か分からないけれど、感嘆が漏れる。
私の身体から淡い光が放たれるエフェクトが発生し、無事に同期が完了した。
「それじゃあ、みんな。行こうか! S級がどのくらいのものかはやってみないと分からないけど、きっとみんななら勝てるよ!」
「俺たちには勝利の女神様が付いてるしな」
【蒼天】のサブマスターだったトールが言った言葉に、みんな笑い声を上げる。
どうやら初めてのS級でも気負いをしている人はいないようだ。
拠点同士の間にある広場までの道を、全員でゾロゾロと進んでいく。
経路は複数あるのだから別れた方が良いのではないかという意見もあったけれど、結局私を守るのが一番重要だから別れるメリットが少ないということになった。
「サラちゃん! 今回、本当にわたしにあの薬を使ってくれるのかい?」
「うん! ひとまず初めての戦いだし、節約して負けるくらいならどんどん使っていこうと思って」
進む直前アンナが私に声をかける。
あの薬というのは【神への冒涜】、一定時間まさに魔神のような強力な力を手に入れることのが出来る秘薬だ。
カインで試した後、今日まで集まったこの薬を作るための素材【魔血】の数は元々あった数も含めて三つだけだった。
もともとドロップ数が少ないのもあるけれど、やはり多くは大手の生産ギルドの手に渡っているのだろうか。
素材がなかなか集まらないので、カインの後は全て実戦に使うことに決めた。
混戦の中データを集めるのはなかなか難しいところもあるけれど、データが取れてもいざ使いたい時に無いのでは意味がない。
コアを破壊に向かっていた相手クランのメンバーと遭遇し、それを退けながら広場へと進む。
こちらは総戦力で移動をしているものの、狭い拠点の通路ではその人数の差を活かせるのも限定的で、残念ながら相手を殲滅したものの、こちらも二人ほど倒れてしまった。
「やはりS級ともなると、各個人の実力もなかなかのものになりますね。いくらサラさんの支援があっても、今までのように一方的に相手を倒すという風にはいかないようです」
「うん。こんなに先頭と離れてると、私が回復薬を投げるのも難しいし……次からはもう少し移動の仕方を考えた方がいいかもね」
先頭は今、アンナのグループが受け持っている。
その後ろにカインのグループ、私を挟んで、後ろからの攻撃に備えてセシルのグループが続いている。
犠牲は出したものの、なんとか広場に出ると、約20人ほどの相手クランのメンバーがそこで待機していた。
恐らく拠点で出会ったのは様子見のメンバーだったのだろう。
「それじゃあ、初っ端から行くよ! アンナさん、よろしく!」
「あいよ! さっきは不甲斐ないところを見せちまったからね! 汚名返上といかせてもらうよ!!」
私たちが出てきたとこを確認した相手は、すぐに攻撃を始めてきた。
一足先にカインとセシルたちがそれに対応する。
私は【神への冒涜】をアンナに投げる。
巨大化することを知っている他のメンバーは、邪魔にならないようにすでにアンナから少し離れた位置に移動していた。
赤いハートのような形をした薬がアンナにぶつかると、予想していた通り、セシルともカインとも違ったシルエットへと、アンナは変化していった。
これでアバター由来の見た目に変化するというのは、ほぼ間違いないようだ。
そう思いながら私は巨大化したアンナの姿を見上げていた。
そこには漆黒の肌を持つ巨人、このゲームのボスの一つであるタイタンに似たアンナが立っていた。
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