後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

文字の大きさ
54 / 72

第54話【新人】

しおりを挟む
「え? 回復職の応募があった? やったね! すぐに入れてもいいんじゃない?」

 いつものように薬の調合を終え、クラン専用スペースの共有部屋に戻ると、開口一番にセシルが言ってきた言葉に、私はそう答えた。

「いや、回復職はどこも貴重だし、回復職を入れたいのはそうなんだけど、レベルがね……」
「レベル? カンストしてないくらいはどうってことないんじゃないかな?」

 回復職ならば引く手数多だから多少レベルが低くてもすぐに上がるだろう。
 とにかく、アンナのグループにはもう少し回復職が欲しいと思ってたところだし、これを逃す手はない。

 S級になったとはいえ、まだまだ知名度が低いから、募集をかけていてもこうやって応募してくるのはそこまで多くのないのだから。

「いや……それがさ。その人のレベル、10なんだよね」
「え? あ、もしかしてクラン入れるようになりたてってこと?」

「うん。だから、どうしようかなーって」
「うーん。本人のやる気次第だけれど、頑張ればそれなりに早くレベル上げる方法もないわけじゃないし……ひとまず会うだけあってみたら?」

 このゲームはパワーレベリング、つまり高レベルの人が低レベルの人とパーティを組んでレベル上げを手伝うのは難しい。
 難しいとは言っても、極低レベルの人を連れて高レベル帯のモンスターを倒せば、それなりに早く上がる。

 ある程度上がった後は使えないけれど、今度はそれに応じた方法でレベル上げを手伝えばいい。
 ただ、それをやって上げるだけのやる気が本人になければ、こちらとしても時間を無駄に使うことになる。

「そうだね。じゃあ、会う約束してみるよ――いますぐ会えるみたい。サラさんも一緒に行く?」
「うん。ちょうど手も空いたし、行ってみようかな」

 待ち合わせ場所に着くと、すでにクランメンバー募集に応募した人が待っていた。
 名前の横にはまだ所属クランの表示はない。

「えーっと、君がティファさんかな?」
「はい! 【龍の宿り木】のクランマンスター、セシルさんですよね! よろしくお願いします!」

 元気な声でティファは返事をする。
 声も若く、表情や仕草から同じ歳、もしくは若干若いくらいだと見えた。

「立ち話もなんだから、座れるところに行こうか。いいかな?」
「はい!」

 私たちはハドラーが応募してきた時にも利用した、カフェに行きそこで話を進めることにした。
 仮想空間なので食べたり飲んだりしてもお腹が膨れるわけではないけれど、雰囲気や味は楽しめる。

「わぁ! こんな素敵なところがゲームの中にあったんですねぇ。私、初めてです!」
「好きなの頼んでいいよ。お金の心配はしないで」

「ありがとうございます! ところで……隣の、サラ、さん……ですか? は、どういった方なんでしょう?」
「え? あ、サラさんはね。このクランを一緒に作った初めのメンバーだよ。実質、このクランの創設者とも言えるかな」

 セシルの紹介に私はむず痒い気持ちになった。
 言ってることは間違いじゃないけれど、こうやって説明されると少し恥ずかしい。

「へぇー。でも、サブマスターじゃないんですね?」
「あ、ああ。そういえば、まだサブマスターは作ってないね」

 指摘されて私もセシルも顔を見合わせる。
 言われてみれば、人数が少なくて必要ないと思っていて作っていなかったけれど、今では30人ほどもいるのだからサブマスターを作ってもおかしくない規模になっている。

「サラさんの格好、すごい素敵なドレス姿ですけど、職業はなんなんですか?」
「私は【薬師】なの」

 私の返答にティファは驚いた顔をする。

「え!? このクランってS級クランなんですよね? それなのに、【薬師】なんているんですか!?」

 ティファの言葉にセシルが険しい顔付きになる。
 一方、流石にこのタイミングでこの言い方は少し失礼だけれど、ティファの感想は概ね誰もが思うことなので私は気にしていなかった。

「君、かなり失礼じゃないか?」
「え? あ、すいません。つい。思ったことをすぐ口にしちゃうのが、私の悪い癖で……」

「君が【薬師】のことをどう思ってるかは知らないけれど、サラさんはこのクランの柱だ。S級になれたのもサラさんのおかげだと思ってる。そのサラさんを馬鹿にするような発言をする人には、正直入って欲しくないな」
「ちょっと、セシル。少し言い過ぎだよ。私は気にしてないから」

 セシルがすごい剣幕でまくし立てるので、ティファは萎縮しまっているように見えた。
 私は思わずティファを擁護ようごする。

 しかもティファのアバターは私と同じノームだ。
 竜の顔をしたセシルが、子供くらいの背をしたティファに怖い顔をしているのだから、はたから見てていて可哀想に見えてくる。

「う……すいません。気を付けます。それにサラさん、ありがとうございます」
「あ、いや。俺もいきなり悪かった。でも、サラさんが凄いのは本当だから」

「はい! それで、このクランに入れるかどうかは、どうやって決まるんですか?」
「ティファはまだレベルが10になったばかりみたいだけど、できるだけ早くカンストして、攻城戦で活躍したいと思う気持ちはある?」

 私が一番重要だと思うことを聞いてみた。
 回復職の場合はカンストしていなくてもそれなりに役立つことができるけれど、攻城戦のS級で、となると話は別だ。

 どのゲームもそうだろうけれど、プレイヤー同士での戦いとなると、カンストは当たり前。
 そこからがスタートとなる。

 装備を充実させ、連携を学び、このゲームの場合は立ち回り等のプレイヤースキルも重要になってくる。
 もちろんそれを無理に求めることはしないけれど、そのくらいをやるという意志があるに越したことはない。

 私の質問に、ティファは少し考えたそぶりをみせ、そして答えた。

「はい! まだ、こんなレベルですけど、やる気はあります! このクランを選んだのも、せっかくなら上を目指したいと思ったからですから!」
「そうか。ところで、なんで俺らのクランに応募したの?」

「それは……S級クランで、応募要項に適応するのがこのクランだけだったからです……もともとダメもとで……」
「あ、なるほど……」

 言われてみれば、普通の上位クランは応募にレベルや職業、その他強さの指針となるようなものの制限を設けていることがほとんどだ。
 ただ、うちのクランはそれがなかった。

「セシル。悪い子じゃないみたいだし、やる気もあるみたいだし、入れてあげてみてもいいんじゃないかな。空きも十分あるし」
「うん。サラさんがそう言うなら、俺も異存はないよ。じゃあ、ティファ、これからよろしく」

「わぁ! 本当ですか!? ありがとうございます。私、早く皆さんのお役に立てるように頑張りますね! ところで……最後に一つ聞いてもいいですか?」
「うん? なんだい? なんでも聞いていいよ」

「あの……二人は、付き合ってるんですか?」

 ティファの思いもよらぬ質問に、セシルは飲んでいた飲み物を口から吹き出し、私も固まってしまった。
 私が大慌てで否定したのはいうまでもないが、何故かセシルはその私を見て不満そうな顔をしていた。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

処理中です...