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第11話 視えてしまった、その先
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その夢は、突然だった。
◇◇◇
――音が、ない。
気づいたとき、私は屋敷の中に立っていた。
けれど、どこかがおかしい。
足音がしない。
風の気配も、灯りの揺れもない。
空気が、止まっている。
(……夢)
そう理解した瞬間、胸の奥が冷えた。
――これは、“視る”夢だ。
◇◇◇
廊下は暗い。
いつもなら夜番の灯りが並ぶはずの壁が、影だけを引き延ばしている。
遠くで、何かが倒れる鈍い音がした。
嫌な予感に、足が勝手に動く。
止めようとしても、夢の中の私は、必ず“そこ”へ向かう。
書斎の前。
扉が、半開きになっていた。
中は、荒れていた。
机は倒れ、書類が床に散らばっている。
赤黒い染みが、点々と続いて――
義父ロジポツ伯爵が、倒れていた。
胸元から広がる赤が、
もう――戻れないことを、はっきりと示している。
(……あ)
理解が、遅れてやってくる。
(……死んでる)
助けようと伸ばした手は、
夢の中ですら、届かなかった。
義父の目は、開いたまま、何も映していない。
(……この人は……)
嫌悪も、同情も、感情が追いつかない。
ただ一つ、確かなのは。
――この未来で、義父は死ぬ。
◇◇◇
母と、私。
二人とも、椅子に縛り付けられている。
口元に布はない。
叫べる。
だが――叫んでも、意味がないと、分かってしまう。
部屋の空気が、冷たい。
「……オデット」
母が、私を見る。
その目には、恐怖と、悔しさと、
それでも消えない意志があった。
「……ごめんなさい」
母が、そう言った。
何に対してか、分からない。
扉が、開く。
入ってきたのは、複数の影。
顔は見えない。
ただ、彼らが“これからすること”だけは分かる。
時間が、削られていく。
尊厳が、奪われていく。
(……いや)
(いや、いや、いや……)
◇◇◇
そのとき。
壁が、砕けた。
文字通り、壊れた。
瓦礫と粉塵の向こうに、立っていたのは――
ジャイアナだった。
血に濡れた腕。
裂けた鎧。
肩で息をする巨体。
その目は、見たことがないほど冷たく、
そして――
何も、映していなかった。
「……お前ら」
低い声。
感情が、削ぎ落とされている。
「私の、家族に――」
一歩、踏み出す。
「何を、した」
◇◇◇
次に起きたことは、断片でしか見えない。
人が吹き飛ぶ。
壁が砕ける。
叫びが、途中で途切れる。
復讐。
それ以外の言葉が、浮かばない。
私は、その中心で、ただ見ている。
(……だめ)
(これじゃ……)
(この人は、戻れなくなる)
◇◇◇
最後に見えたのは――
膝をつくジャイアナ。
その足元で、動かない影。
血の海の中で、彼女は、呆然と呟いていた。
「……守れなかったのだ」
その声は、泣いていなかった。
泣くことすら、できなくなった声だった。
◇◇◇
「……っ!」
息を吸い込み、私は跳ね起きた。
夜。
自室。
何も、壊れていない。
胸に手を当てる。
鼓動が、うるさい。
(……視て、しまった)
これは予感じゃない。
警告でもない。
――未来。
義父は死ぬ。
母と私は、生き残る。
だが、踏みにじられる。
ジャイアナは、守る。
だが、その代わりに――復讐者になる。
私は、静かに息を整えた。
(未来は、変えられる)
(……ただし)
(“無傷”には、できない)
それでも。
それでも、私は――
この未来を、選ばない。
◇◇◇
――音が、ない。
気づいたとき、私は屋敷の中に立っていた。
けれど、どこかがおかしい。
足音がしない。
風の気配も、灯りの揺れもない。
空気が、止まっている。
(……夢)
そう理解した瞬間、胸の奥が冷えた。
――これは、“視る”夢だ。
◇◇◇
廊下は暗い。
いつもなら夜番の灯りが並ぶはずの壁が、影だけを引き延ばしている。
遠くで、何かが倒れる鈍い音がした。
嫌な予感に、足が勝手に動く。
止めようとしても、夢の中の私は、必ず“そこ”へ向かう。
書斎の前。
扉が、半開きになっていた。
中は、荒れていた。
机は倒れ、書類が床に散らばっている。
赤黒い染みが、点々と続いて――
義父ロジポツ伯爵が、倒れていた。
胸元から広がる赤が、
もう――戻れないことを、はっきりと示している。
(……あ)
理解が、遅れてやってくる。
(……死んでる)
助けようと伸ばした手は、
夢の中ですら、届かなかった。
義父の目は、開いたまま、何も映していない。
(……この人は……)
嫌悪も、同情も、感情が追いつかない。
ただ一つ、確かなのは。
――この未来で、義父は死ぬ。
◇◇◇
母と、私。
二人とも、椅子に縛り付けられている。
口元に布はない。
叫べる。
だが――叫んでも、意味がないと、分かってしまう。
部屋の空気が、冷たい。
「……オデット」
母が、私を見る。
その目には、恐怖と、悔しさと、
それでも消えない意志があった。
「……ごめんなさい」
母が、そう言った。
何に対してか、分からない。
扉が、開く。
入ってきたのは、複数の影。
顔は見えない。
ただ、彼らが“これからすること”だけは分かる。
時間が、削られていく。
尊厳が、奪われていく。
(……いや)
(いや、いや、いや……)
◇◇◇
そのとき。
壁が、砕けた。
文字通り、壊れた。
瓦礫と粉塵の向こうに、立っていたのは――
ジャイアナだった。
血に濡れた腕。
裂けた鎧。
肩で息をする巨体。
その目は、見たことがないほど冷たく、
そして――
何も、映していなかった。
「……お前ら」
低い声。
感情が、削ぎ落とされている。
「私の、家族に――」
一歩、踏み出す。
「何を、した」
◇◇◇
次に起きたことは、断片でしか見えない。
人が吹き飛ぶ。
壁が砕ける。
叫びが、途中で途切れる。
復讐。
それ以外の言葉が、浮かばない。
私は、その中心で、ただ見ている。
(……だめ)
(これじゃ……)
(この人は、戻れなくなる)
◇◇◇
最後に見えたのは――
膝をつくジャイアナ。
その足元で、動かない影。
血の海の中で、彼女は、呆然と呟いていた。
「……守れなかったのだ」
その声は、泣いていなかった。
泣くことすら、できなくなった声だった。
◇◇◇
「……っ!」
息を吸い込み、私は跳ね起きた。
夜。
自室。
何も、壊れていない。
胸に手を当てる。
鼓動が、うるさい。
(……視て、しまった)
これは予感じゃない。
警告でもない。
――未来。
義父は死ぬ。
母と私は、生き残る。
だが、踏みにじられる。
ジャイアナは、守る。
だが、その代わりに――復讐者になる。
私は、静かに息を整えた。
(未来は、変えられる)
(……ただし)
(“無傷”には、できない)
それでも。
それでも、私は――
この未来を、選ばない。
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