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第13話 遅れてきた理由
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悪夢の中で、
私はいつも、同じところまで追い詰められる。
泣いて叫ぶのも最初だけ。
すぐに塞がれ何もできなくなる。
(……もう、いいでしょ……)
(……いつまで続くの……)
ただ――終わりを待つ、その瞬間まで。
「オデット!!」
声が、遠くで聞こえた。
耳鳴りの向こう。
誰かが笑っている。
誰かが怒鳴っている。
視界が、揺れる。
――遅い。
そう思った瞬間。
「どけええっ!!」
爆ぜるような怒号とともに、世界がひっくり返った。
疲れ果て、涙も出なくなった頃、
ジャイアナは、最後に現れる。
私に群がる暴徒たちを、
鬼の形相で薙ぎ倒す姉。
血の雨が降り、
汚れ倒れた私を、力いっぱい抱きしめる。
見たこともないほど、悲痛な顔が近づく。
私の中の私は、
もう遠くへ退いてしまったかのようで、
焦点が、定まらない。
「……ごめん」
「……ごめん!!」
姉の、温かい涙が、
私の頬に、ぽたりと落ちた。
(……どうして)
悪夢の中の私は、
何度も同じ疑問を繰り返していた。
どうして、あの人は遅れてきたのか。
あれほど強く、誰よりも早く動くはずの人が。
それなのに。
なぜ――ジャイアナはいなかったのか。
最近に至っては、
部屋から出た私から、
片時も離れようとしないのに。
それなのに。
なぜ、彼女はいなかったのか。
わからない。
それから、もう一人。
◇◇◇
現実に戻っても、その違和感は消えなかった。
朝の支度を終えても、部屋は静かなままだ。
「……リリア?」
呼んでみる。
返事はない。
いつもなら、声をかけるより先に気配がある。
ドアの向こうに、控えめな足音が。
けれど今日は、それがなかった。
(……いない)
胸の奥が、ひやりとする。
◇◇◇
食堂に向かう途中、侍女の一人に声をかけた。
「リリアを、見なかった?」
「……あ、はい。今朝はお休みを取られていると」
休み。
その言葉が、妙に引っかかる。
(……今まで、一度もなかったのに)
そういえば――
私が悪夢を見るようになってから、
リリアの口数は減っていた。
ときには軽口を交わしあうほどだったのに、
気づけば会話そのものがなくなっていた。
◇◇◇
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
未来視の中で――
リリアの姿を、私は一度も見ていない。
痛めつけられたときも。
救出されたあとにも。
復讐の中心にも。
どこにも、いなかった。
(……いなくなる)
喉が、きゅっと縮む。
◇◇◇
昼過ぎ。
ノックの音がした。
「オデットお嬢さま……お時間、よろしいでしょうか」
聞き慣れた声。
扉を開けると、そこに立っていたのはリリアだった。
きちんと整えられた服装。
けれど、どこか硬い表情。
「……どうしたの?」
問いかけると、彼女は一度だけ深く息を吸った。
「お話がございます」
視線を伏せたまま、続ける。
「勝手ながら……実家へ戻らせていただきたく」
胸の奥で、何かが落ちた。
(……やっぱり)
「このまま、お勤めさせていただくのは、申し訳ないです……」
「なぜ?あなたに落ち度は何もないのに……」
「……オデットお嬢さまのお身体の具合が悪いのに、私は……」
うつむくリリア。
嘘ではない。
でも、全てではない。
私は、それが分かってしまった。
(引き止めたら……)
考えたくないことが、頭をよぎる。
(……分かってる)
それでも。
口が、勝手に動いた。
「……リリア」
声が、少し震える。
彼女が、顔を上げる。
その一瞬で、理屈は崩れた。
「……ごめんなさい」
言葉が、こぼれる。
「わがままだって、分かってるの……」
喉が詰まる。
息が、浅くなる。
「でも……」
口に出すべきじゃないって、分かっているのに。
「……いかないで」
沈黙。
リリアの瞳が、揺れた。
(……お願い)
言葉にしなかった祈りが、胸に残る。
リリアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……少し、考えさせてください」
それだけ言って、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
私は、その場に座り込んだ。
正しいかどうかは、分からない。
けれど――
私は初めて、感情に任せた。
私はいつも、同じところまで追い詰められる。
泣いて叫ぶのも最初だけ。
すぐに塞がれ何もできなくなる。
(……もう、いいでしょ……)
(……いつまで続くの……)
ただ――終わりを待つ、その瞬間まで。
「オデット!!」
声が、遠くで聞こえた。
耳鳴りの向こう。
誰かが笑っている。
誰かが怒鳴っている。
視界が、揺れる。
――遅い。
そう思った瞬間。
「どけええっ!!」
爆ぜるような怒号とともに、世界がひっくり返った。
疲れ果て、涙も出なくなった頃、
ジャイアナは、最後に現れる。
私に群がる暴徒たちを、
鬼の形相で薙ぎ倒す姉。
血の雨が降り、
汚れ倒れた私を、力いっぱい抱きしめる。
見たこともないほど、悲痛な顔が近づく。
私の中の私は、
もう遠くへ退いてしまったかのようで、
焦点が、定まらない。
「……ごめん」
「……ごめん!!」
姉の、温かい涙が、
私の頬に、ぽたりと落ちた。
(……どうして)
悪夢の中の私は、
何度も同じ疑問を繰り返していた。
どうして、あの人は遅れてきたのか。
あれほど強く、誰よりも早く動くはずの人が。
それなのに。
なぜ――ジャイアナはいなかったのか。
最近に至っては、
部屋から出た私から、
片時も離れようとしないのに。
それなのに。
なぜ、彼女はいなかったのか。
わからない。
それから、もう一人。
◇◇◇
現実に戻っても、その違和感は消えなかった。
朝の支度を終えても、部屋は静かなままだ。
「……リリア?」
呼んでみる。
返事はない。
いつもなら、声をかけるより先に気配がある。
ドアの向こうに、控えめな足音が。
けれど今日は、それがなかった。
(……いない)
胸の奥が、ひやりとする。
◇◇◇
食堂に向かう途中、侍女の一人に声をかけた。
「リリアを、見なかった?」
「……あ、はい。今朝はお休みを取られていると」
休み。
その言葉が、妙に引っかかる。
(……今まで、一度もなかったのに)
そういえば――
私が悪夢を見るようになってから、
リリアの口数は減っていた。
ときには軽口を交わしあうほどだったのに、
気づけば会話そのものがなくなっていた。
◇◇◇
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
未来視の中で――
リリアの姿を、私は一度も見ていない。
痛めつけられたときも。
救出されたあとにも。
復讐の中心にも。
どこにも、いなかった。
(……いなくなる)
喉が、きゅっと縮む。
◇◇◇
昼過ぎ。
ノックの音がした。
「オデットお嬢さま……お時間、よろしいでしょうか」
聞き慣れた声。
扉を開けると、そこに立っていたのはリリアだった。
きちんと整えられた服装。
けれど、どこか硬い表情。
「……どうしたの?」
問いかけると、彼女は一度だけ深く息を吸った。
「お話がございます」
視線を伏せたまま、続ける。
「勝手ながら……実家へ戻らせていただきたく」
胸の奥で、何かが落ちた。
(……やっぱり)
「このまま、お勤めさせていただくのは、申し訳ないです……」
「なぜ?あなたに落ち度は何もないのに……」
「……オデットお嬢さまのお身体の具合が悪いのに、私は……」
うつむくリリア。
嘘ではない。
でも、全てではない。
私は、それが分かってしまった。
(引き止めたら……)
考えたくないことが、頭をよぎる。
(……分かってる)
それでも。
口が、勝手に動いた。
「……リリア」
声が、少し震える。
彼女が、顔を上げる。
その一瞬で、理屈は崩れた。
「……ごめんなさい」
言葉が、こぼれる。
「わがままだって、分かってるの……」
喉が詰まる。
息が、浅くなる。
「でも……」
口に出すべきじゃないって、分かっているのに。
「……いかないで」
沈黙。
リリアの瞳が、揺れた。
(……お願い)
言葉にしなかった祈りが、胸に残る。
リリアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……少し、考えさせてください」
それだけ言って、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
私は、その場に座り込んだ。
正しいかどうかは、分からない。
けれど――
私は初めて、感情に任せた。
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