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やっと出会えた。

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パラパラパラ…。

ほんの少し、雨が降りだしてきた。

そんな中、奏多と絵津子は曽木発電所にやって来た。

普段は水没しているが、夏の時期にだけ姿を表す場所。

今は、1番水位の低い時期だ。

2人は湖の近くまでやって来た。

「優ちゃーん!!優ちゃんいたら返事して!」

「優太君!何処にいるんですか!」

2人は目一杯優太の名前を呼んだ。

何度も、何度も。

しかし、一向に優太が現れる気配がない。

雨脚が強まってきた。

2人は半ば諦めかけていた。

その時。

パァ…。

湖の真ん中から光が差し込んできた。

「…なに?」

絵津子は不思議そうにそこを見つめていた。

奏多は目を細めてそこに目を凝らした。

すると、湖の中から光の玉のようなモノが出てきた。

雨の中で一際輝くそれは、ゆっくりとこちらに向かって飛んできた。

2人がそれを見つめる中、その光の玉は絵津子の上で止まり、そのままゆっくりと下に降りてきた。

絵津子はそれを掌に納めた。

徐々にその光の玉はある形を成してきた。

「…カメラ?」

そう、それはカメラだった。

カメラには、「Yuuta」と書かれたシールが貼られていた。

「!これ、もしかして優ちゃんの…。」

「…。!!絵津子さん!あれ!」

奏多が指を指した方に目を向けると、絵津子は驚いた。

「…優ちゃん。」

光はいつの間に消え、代わりに光を纏った男の子が湖の上に立っていた。

それは、小さい頃の優太の姿だった。

「…優ちゃん。」

「…優太君。」

2人の目にはうっすらと涙がにじんでいた。

『ありがとう』

優太はそう言った。

すると、足元から優太の姿が消えていく。

「優ちゃん!」

絵津子は優太の元に向かおうとする。

奏多は絵津子の腕を掴んだ。

奏多を見ると、どこか覚悟を決めたような目をしていた。

それは、「優太はすでに死んでいる。」それを受け止めているように絵津子には見えた。

そんな奏多の顔を見て、絵津子の体から力が抜けた。

絵津子は再び優太の方を見た。

優太の体は既に半分以上消えていた。

『ありがとう』

「優ちゃん…。」

『ありがとう。えっちゃん。』

その言葉を最後に、優太の体は消えていった。

絵津子の目から涙がこぼれた。

その涙は、雨と共に地面に落ちていった。


翌日、湖岸から白骨死体が見つかった。

遺留品などから、衣川優太だと断定された。
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