付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ

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1章

第二十二話:いつかお義父さんと呼ぶ時に

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 上条悠斗と一ノ瀬綾乃にとって総じて、良い一日だった。

 某ディスカウントストアでの買い物の後、気が向くままにモール内の店舗をハシゴしてのウィンドショッピング。

 買っても遊ぶ場所も無いエアガンがカッコいいとか、

 割とガチめなアウトドア用品に憧れを抱いたり、

 月曜日のお弁当は何が食べたいか、なんて一階で広いフロアを取っている食品スーパーで食材を見ながら考えたり。

 話題が尽きる事が無かった。

 笑みが消える事は無かった。
 
 ブラブラと大きなイベントも無く店を見て回るだけなのに、なぜか心が満たされた。

 ただ、本来は夕飯に間に合う様に帰宅する予定だったが長々と話し込んで、バスの時間を逃してしまい、どうせならとファミレスで夕食を済ませて帰路につく所だった。

 陽はすっかりと暮れ、暗くなった空には星が輝き出している。

「――次は、もっとお洒落な店とか調べるよ。なんか良いバイトも探そうかな」

「んー、そういう面で無理しないで。アンタとなら、別にコンビニでも何でも良いから」

「理解のある彼女でありがたいです」

「そんな私を大事にしなさいよー?」

 肩を竦ませる彼女に、

「あぁ、一生大事にする」

 悠斗は直ぐに返した。

 へぁっ!? と変な声を漏らして綾乃は咳払い。

「……振っといてアレだけど、そういう含みのある事をさらっと言わないでくれる? 冗談でも心臓に負担がかかるんだけど」

「なら、ちゃんと責任が取れるようになったら改めて言うよ」

 ――真剣な声だった。

 言われて、ピタっと綾乃の足が止まる。

 そして数秒のフリーズ。

 つまりは、プロポーズの予約なのでは?

 その時のは、結婚指輪を渡されるガチの奴なのでは?

「綾乃」

 おいで、と手を出された。

「ねぇ、だからそういう所!」

 タタタ! と悠斗に追いついて彼と腕を組む。

「ぉおぅっ!?」

 ビクッ!? と身体が強張った彼に自身を押し当てた。

「ふーん、身体は正直なのねぇ」

「……ぐぬっ」

 悪戯気味の笑みを浮かべたが、綾乃の心臓は早鐘を打つ。

 だが、彼に身を委ねるのは安心出来た。

 少しだけ沈黙のまま歩いている内に家の近くまで来ていた。

 そこで、ふと綾乃は思い出す。

「あぁ、そうだ。ごめん、お父さんの事言うの忘れてた。来るなら今日でも良いって言ってたけど、流石に急だから止めとこうか? 明日ならいつでも良いとも言ってたし」

 そうだなー、と僅かに考えて、

「予定より、遅くなっちゃったから謝るついでに顔を出すよ」

「うん。ありがと」

 丁度、家の向かえにあるコンビニ近くの横断歩道に捕まった。

「あと私の……む、胸の事なんだけど、お父さんには『同級生への見栄』って事にしてるから、適当に。――流石にアンタの気を引く為って言えてないからさ」

 恥ずかし気に言う彼女に彼は苦笑する。

「分かった。そういう話題になったらな」

「なるでしょ、恋人なんだし……」

「“俺はスレンダーな彼女が好きです”って言えば良い?」

「“胸が小さくても妥協する”って聞こえるんだけど」

「ちゃんと聞こえてない様だから耳元で言うよ。耳貸せ?」

「だからチョイチョイSっ気出すのやめて、ホント」

 耳を押さえながら、綾乃は悠斗により引っ付いた。触れる自身の顔がやけに熱い。

「……渡るまで、こうしてて良い?」

「ああ」

 赤信号が点滅する。

 こうして居られる時間もあと少し。流石に、付き合っている事を認められていると言ってもベタベタとしている所は見せられないと自制心が顔を出してきた。

 青に変わり、一歩を踏み出す間際、

「――二人とも帰ったか」

 綾乃にとっては聞き慣れ、悠斗にとっては懐かしい声がした。

 バッと組んでいた腕を離して振り返る。

 あわあわとしている綾乃の代わりに悠斗は軽くお辞儀した。

「お、お久しぶりです――おじさん」

「あぁ、こうして面と向かうのは久しぶりだね。悠斗君」

 どこかバツの悪そうな一ノ瀬綾乃の父、一ノ瀬聡いちのせさとるは、未開封の煙草を握った手を上げた。





「――コーラで良いかな?」

「はい、頂きます」

 上条悠斗は一ノ瀬綾乃の父、一ノ瀬聡に散歩に誘われ、近所の公園に来ていた。

 娘の一ノ瀬綾乃はお留守番。恋人の父親との夜の散歩は何とも言えない空気だった。

 敷地内の自動販売機で聡は缶コーラを悠斗に渡し、自分の缶珈琲も買って、隣に設置されたベンチに座る。

 悠斗は緊張で異常に喉が渇くが、それを潤すのは筋を通してからだ。

「まずは、綾乃との交際を認めて頂きありがとうございます」

 姿勢を正し深々と頭を下げた。

「それと、今日の帰りが遅くなってしまい、すみませんでした。話に夢中になって、帰りのバスを乗り過ごしてしまいました。もっと気を配るべきでした」

 少しの沈黙の後、拳を握る。

「何よりこの三年間、彼女を傷つけてしまい――すみませんでしたっ!」

 頭を下げ続けると、

「顔を上げなさい」

 聡が優しく声を掛ける。

「確かに、中学生の頃の綾乃は酷く落ち込んでいた。それこそ、あの子の母親が居なくなった時の様にね。正直、君には思う事はあったさ。当時の事は娘から聞いた。君の気持ちは分かる、娘にも責任はある。――だが、君はもっと早く娘と向き合う事も出来ただろう、とね」

「……」

 その優しく語る言葉が悠斗に突き刺さる。

 言い訳など出来なかった。またするつもりも無い。

 握る拳が震える。

「だが、一番辛かった時の娘を支えたのも君だ。あの子には君が必要だと私も思うよ」

 その一言に少しだけ救われた気がした。

 悠斗の覚悟《気持ち》を確かめる様に彼女の父親は問う。

「君達はまだ子供だ。この先の事は分からないが……。娘との事は、少なくともと思って良いのかな?」

 自分は、その人の父親に胸を張って言える程の男なのか正直、自信は無い。

 それでも、

「勿論です。彼女が望んでくれる限りは、卒業した後も一緒に居たいと思っています」

 ――この想いに偽りは無かった。

 少年の言葉に少女の父親は目を丸くした。

 だが、その真剣な表情に小さく息を吐く。

 言葉以上の意味と想いを汲み取って、

「……なら、私がとやかく言う事も無いか」

 缶珈琲を開けて、一口飲んだ。

「まぁ、座ってくれ。久方振りに君と話したかったんだ、昔の様に」

「はい、失礼します」

 促され腰掛ける。

 缶コーラの蓋を開けて、ようやくカラカラの喉を潤した。

「今日のデートは楽しかったかい?」

「はい、とても。今までで一番、楽しいと思える時間でした」

「娘はどうだった」

「――きっと、楽しんでくれていたと思います」

「ん、何よりだ」

 聡は胸ポケットから煙草の箱を取ろうとして、流石に未成年の隣で吸う訳には、と苦笑して戻す。

「所で、娘と付き合っているのなら――なんだ……」

 聡は言葉を選ぼうとして、放棄した。

「あの子のは知っているのかな?」

「ぁ……以前、同級生の女子に少し発育の度合いを笑われたらしくて、気にしている様ですね。まぁ、イジメと言う訳では無いらしいのですが……」

 あはは、と口裏合わせの苦笑で悠斗はコーラを口に含むが、

「――と、私も聞いてはいるが、実際は『君の気を惹く為』なのだろう?」

「ぶはっ!?」

 彼女の父の言葉に派手にぶちまける。

「ははは、やはりそうか。なに、あの子は存外に分かり易い。そして浅はかだ。男は皆、大きい胸が好きという訳では無いのにね」

「いや……あのー、あはは……」

 悠斗は苦笑するしかない。

 聡は珈琲を流し込み、

「まぁ、安易な手に出たあの子の身から出た錆だが、学校生活も窮屈だろう。もしクラスメイトに知れれば、肩身も狭くなる。恋人の君にも――」

「――例えそうなったとしても、今更そんな事で繋いだ手は離しませんよ」

 自身に出来る事は、それ位だと身の程は分かっていた。

 聡は大きく息を吐き、

「……だ、そうだ。お前も、彼の事を真剣に考えなさい」

 肩越しに後ろを気に掛けた。

「――ん?」

 悠斗もそれに倣うと、少し後ろの掲示板に黒ずくめの人影。

 しばらくすると沈黙に耐えかねたのか、当人が気まずそうに顔を出し、長い黒髪を弄る。

「え、綾乃!? いつからそんな所に……」

「最初からだよ。君は緊張で気付かなかった様だが」

 マジですか、と呆ける悠斗に聡は小さく笑った。

「さて、こんな時間に連れ出してすまなかった。娘を連れて先に帰ってくれないか」

 聡は胸ポケットから煙草の箱を取り出した。

「はい。では、失礼します」

 悠斗はペコリと頭を下げて、綾乃の元へ駆け寄った。

 娘の恥ずかしそうな嬉しそうな不思議な表情で彼の手を取る様子を見て、父は煙草を口に咥える。

「――悠斗君」

 彼らに背を向けながら、

「私は、“息子と酒を飲む”のが夢でね。綾乃が娘で、嬉しかったがソレだけが少しだけ心残りなんだ」

「え……そうなんです、か?」

 背中に刺さる娘の視線と、返答に困る少年の相槌。

 父は煙草に火をつけて一息吸う。

「だが、私には息子でね。――その時は、付き合って貰うよ」

 吐き出された煙が消える頃、

「――是非、お供します。お義父さん」

 その場から逃げ出したい綾乃に手を引かれながら、悠斗は答えた。
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