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1章
第三十一話:イケメンは完璧主義
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御門光輝は、完璧である事に拘りを持っている。
親や学校など周囲の期待に応える事に強い義務感を抱きつつ、同時に称賛される事が心地良かった。
自身が優れているという事の実感を得る事が、彼の言動や考えの基準となっている。
だから、勉強も運動も人一倍に努力して結果を出して来た。
クラスメイトからの人気も集め方も心得ている。
全ては自身が思い描く理想通りに進んでいる。
中学生の頃までは、順調だった。
多くを手にしている彼は、一つだけ足りないものを自覚している。
自分に釣り合う様な完璧な彼女だ。
見た目も内面も美しく、また勉学や運動も優れた女性。
しかし、周囲には彼の眼鏡にかなう女子など居なかった。
小学生は誰も幼稚過ぎた。
中学生になり、彼女を知った。
心が震えた。確信した。
自分に相応しいのは一ノ瀬綾乃だ、と。
一ノ瀬綾乃にはその価値がある、と。
だから、高校生になり彼女に告白した。
当然、受け入れられるものと思っていた。
今まで多くの女子達から好意を寄せられて来た。周りの男子と比べて付き合うメリットは遥かに大きいのは明らかだ。
それに、中学時代は良く話していた。
距離は縮まった筈だ。
準備は出来ていた筈だ。
誰も文句は言わない筈だ。
付き合っても不自然では無い筈だ。
――だが、
『ごめんなさい!』
『私には、好きな人が居ます』
……理解出来なかった。
御門光輝よりも、優れた人が居る?
ありえない。
何かの間違いだ。
だが、そんな人物が居るのなら諦めるしかない、と思った。
別に一ノ瀬綾乃に拘る理由は無い。
だが、他の候補が居ないのが問題だった。
◇
御門光輝がその日、ショッピングモールを訪れたのはたまたまだった。
特にこれといった目的があった訳では無い。ただ、休日に暇を持て余していたから、立ち寄っただけ。
そこは様々な店舗が立ち並ぶので、時間を潰すには丁度良かったのだ。
――だから、フードコートで彼女を見かけたのは、やはり運命に感じた。
そして、チャンスとも思った。
彼女の恋人は、周囲の評価の下位者だ。
明らかに御門光輝よりも、一ノ瀬綾乃自身よりも劣っている。
もう一度、告白すれば思い直す筈だ。
『お断りします。私にはお付き合いしている大切な人が居るので、他の人とデートする事は出来ません、したいとも思いません。なので、私は上条君――』
思い直す筈だ。
『ユートとデートを続けますので、これで失礼します。あと、今後は学校でも不必要に声を掛けないで下さいね』
思い直すべきなのだ。
なのに、どうして――
『分からないようだから、はっきり言っておく――俺の女に手を出すな』
一ノ瀬綾乃は、恋する乙女の様な顔をする。
彼女のそんな顔は、御門光輝は知らなかった。
◇
数日後の一年A組の教室。
――御門君がまた一ノ瀬さんに告白したらしいよ。
――でも、玉砕したんでしょまた。
――告白してみれば? 今ならイケるんじゃない? アンタ好きって言ってたじゃん
――えーヤダよ。だって、その時、一ノ瀬さんはモールで彼氏とデートしてたのに絡んでたんでしょ?
――だってね。結構、粘着質みたい。そういうのマジ無理。
――イケメンで優等生だから、余計に気持ち悪く感じるよね。
――幻滅だなー。
そんな、自分の事を話すクラスメイトの声に、御門光輝は顔に出さない様に努めていた。
違う。違う違う違う。
『御門光輝』はそんな男じゃない。
文武両道、眉目秀麗であり常に中心に居る人物でなければならない。
誰もが才能を認め、容姿を褒め称えるべきなのだ。
だから、失笑されるなどあってはならない。
ただ、別のグループでは、
――C組の一ノ瀬って、結構ヤバいらしいぜ。
――相当なビッチだ、って話か? ソレ本当なのか?
――いや、知らねぇーけど……俺にもそういうメールとか届いてるんだよ。
――誰からだよ。
――いや、知らねぇー奴。
――そっちの方が怖ぇよ。
――でも、ああいう清楚系な美女がエロいとか、マジでサイコーじゃね?
――試しに、イッてみろよ。案外、ヤレんじゃねぇの?
と、一ノ瀬綾乃の噂も同様に広まっていた。
それに、内心でほくそ笑む。
人の噂は、毒の様だと彼は思う。
質《たち》の悪いもの程、早く強烈に回り人を殺す毒。
その毒の有用性を知っている。
◇
噂は十分に広まった。
彼女の心も身体も蝕まれると思った。
上条悠斗は、直ぐに逃げると思った。
だが、何だアレは。
何故、二人は未だに寄り添っている。
……理解出来ない。
理解したくも無い。理解する必要も無い。
何せ、御門光輝が求めているのは、愛し合う恋人では無い。
自分がより称賛される為に、都合が良い女なのだ。
◇
やはり、これは運命だ。
視線の先に彼女が居る。
コンビニで、とある商品を興味深そうに見比べている。
その商品自体は普通に一目に付く場所に売られているので、卑猥な品では無い。
だが、そういう事をする時に使用する代物なのだ。
そして、他の用途など中々思い浮かばない。
つまり、コレは決定的な瞬間だ。
一ノ瀬綾乃の手にソレがあるだけで、この一瞬に意味がある。
嬉しそうで、楽しそうで、恥ずかしそうな不思議な表情だった。
――そんな彼女も、良いと思う。
だが、
「――良かったら、僕と少し話さない?」
この怯えた表情の方が、御門光輝の好みだった。
親や学校など周囲の期待に応える事に強い義務感を抱きつつ、同時に称賛される事が心地良かった。
自身が優れているという事の実感を得る事が、彼の言動や考えの基準となっている。
だから、勉強も運動も人一倍に努力して結果を出して来た。
クラスメイトからの人気も集め方も心得ている。
全ては自身が思い描く理想通りに進んでいる。
中学生の頃までは、順調だった。
多くを手にしている彼は、一つだけ足りないものを自覚している。
自分に釣り合う様な完璧な彼女だ。
見た目も内面も美しく、また勉学や運動も優れた女性。
しかし、周囲には彼の眼鏡にかなう女子など居なかった。
小学生は誰も幼稚過ぎた。
中学生になり、彼女を知った。
心が震えた。確信した。
自分に相応しいのは一ノ瀬綾乃だ、と。
一ノ瀬綾乃にはその価値がある、と。
だから、高校生になり彼女に告白した。
当然、受け入れられるものと思っていた。
今まで多くの女子達から好意を寄せられて来た。周りの男子と比べて付き合うメリットは遥かに大きいのは明らかだ。
それに、中学時代は良く話していた。
距離は縮まった筈だ。
準備は出来ていた筈だ。
誰も文句は言わない筈だ。
付き合っても不自然では無い筈だ。
――だが、
『ごめんなさい!』
『私には、好きな人が居ます』
……理解出来なかった。
御門光輝よりも、優れた人が居る?
ありえない。
何かの間違いだ。
だが、そんな人物が居るのなら諦めるしかない、と思った。
別に一ノ瀬綾乃に拘る理由は無い。
だが、他の候補が居ないのが問題だった。
◇
御門光輝がその日、ショッピングモールを訪れたのはたまたまだった。
特にこれといった目的があった訳では無い。ただ、休日に暇を持て余していたから、立ち寄っただけ。
そこは様々な店舗が立ち並ぶので、時間を潰すには丁度良かったのだ。
――だから、フードコートで彼女を見かけたのは、やはり運命に感じた。
そして、チャンスとも思った。
彼女の恋人は、周囲の評価の下位者だ。
明らかに御門光輝よりも、一ノ瀬綾乃自身よりも劣っている。
もう一度、告白すれば思い直す筈だ。
『お断りします。私にはお付き合いしている大切な人が居るので、他の人とデートする事は出来ません、したいとも思いません。なので、私は上条君――』
思い直す筈だ。
『ユートとデートを続けますので、これで失礼します。あと、今後は学校でも不必要に声を掛けないで下さいね』
思い直すべきなのだ。
なのに、どうして――
『分からないようだから、はっきり言っておく――俺の女に手を出すな』
一ノ瀬綾乃は、恋する乙女の様な顔をする。
彼女のそんな顔は、御門光輝は知らなかった。
◇
数日後の一年A組の教室。
――御門君がまた一ノ瀬さんに告白したらしいよ。
――でも、玉砕したんでしょまた。
――告白してみれば? 今ならイケるんじゃない? アンタ好きって言ってたじゃん
――えーヤダよ。だって、その時、一ノ瀬さんはモールで彼氏とデートしてたのに絡んでたんでしょ?
――だってね。結構、粘着質みたい。そういうのマジ無理。
――イケメンで優等生だから、余計に気持ち悪く感じるよね。
――幻滅だなー。
そんな、自分の事を話すクラスメイトの声に、御門光輝は顔に出さない様に努めていた。
違う。違う違う違う。
『御門光輝』はそんな男じゃない。
文武両道、眉目秀麗であり常に中心に居る人物でなければならない。
誰もが才能を認め、容姿を褒め称えるべきなのだ。
だから、失笑されるなどあってはならない。
ただ、別のグループでは、
――C組の一ノ瀬って、結構ヤバいらしいぜ。
――相当なビッチだ、って話か? ソレ本当なのか?
――いや、知らねぇーけど……俺にもそういうメールとか届いてるんだよ。
――誰からだよ。
――いや、知らねぇー奴。
――そっちの方が怖ぇよ。
――でも、ああいう清楚系な美女がエロいとか、マジでサイコーじゃね?
――試しに、イッてみろよ。案外、ヤレんじゃねぇの?
と、一ノ瀬綾乃の噂も同様に広まっていた。
それに、内心でほくそ笑む。
人の噂は、毒の様だと彼は思う。
質《たち》の悪いもの程、早く強烈に回り人を殺す毒。
その毒の有用性を知っている。
◇
噂は十分に広まった。
彼女の心も身体も蝕まれると思った。
上条悠斗は、直ぐに逃げると思った。
だが、何だアレは。
何故、二人は未だに寄り添っている。
……理解出来ない。
理解したくも無い。理解する必要も無い。
何せ、御門光輝が求めているのは、愛し合う恋人では無い。
自分がより称賛される為に、都合が良い女なのだ。
◇
やはり、これは運命だ。
視線の先に彼女が居る。
コンビニで、とある商品を興味深そうに見比べている。
その商品自体は普通に一目に付く場所に売られているので、卑猥な品では無い。
だが、そういう事をする時に使用する代物なのだ。
そして、他の用途など中々思い浮かばない。
つまり、コレは決定的な瞬間だ。
一ノ瀬綾乃の手にソレがあるだけで、この一瞬に意味がある。
嬉しそうで、楽しそうで、恥ずかしそうな不思議な表情だった。
――そんな彼女も、良いと思う。
だが、
「――良かったら、僕と少し話さない?」
この怯えた表情の方が、御門光輝の好みだった。
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