売れっ子カメレオン俳優は新人相手でも手をヌかない

榛原巴瑞季

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前編

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〇都内ラブホテル・室内(夜)
横田、迫塚をベットに押し倒した正常位の状態で無表情。
迫塚、困惑の表情を浮かべている。

迫塚「あ、あのっ……しゅ、しゅーやさん、マ、マジでヤるんスか……!」
横田「先程、お前から同意を得た。……何か問題か?」
迫塚「あ、いや! そ、そうっスけどぉ……!」
迫塚「こ、こういうのって……やっぱりフリでいいんじゃないかなぁ~って……」
横田「……」

横田、迫塚の男性器を服の上からなぞるように触る。

迫塚「ひゃうん……!」
横田「……想像していたよりも固いな。この状態で帰宅する気か?」
迫塚「え、あ……んっ」
横田「それに……俺は、どんな役柄でも手を抜かない」

横田「迫塚。――お前は黙って俺に抱かれてろ」
迫塚「……!」

迫塚(うわっ……しゅーやさんの目がマジだ……)
迫塚(えっとぉ……どうしてこうなったんだっけ……?)


〇芸能事務所・打ち合わせ室(昼)
回想、一週間前。
迫塚、男性マネージャーと事務所の会議室と向かい合わせで打ち合わせ中。
男性マネージャー「君に嬉しいお知らせだ。旭にドラマ主演の依頼が来た」
迫塚「えっ⁉」
男性マネージャー「それもW主演として相手役は今話題の人気俳優、横田柊夜と一緒だ!」
迫塚「ええっ⁉ 横田柊夜って……あの横田柊夜っスか! あのカメレオン俳優の……⁉」
男性マネージャー「ああ、その横田柊夜だ。……ただ、な」
迫塚「?」

男性マネージャー、少々言いづらそうに渋る。

迫塚「どうしたんスか? ……俺、まだまだ俳優としては駆け出しだしでエキストラばっかだし……バイトも、掛け持ちしないと食うに困るスけどっ……」
迫塚「主演なんて滅多にオファーとして来るもんじゃないし……! これをキッカケに売れるなら、オレっ!」
男性マネージャー「……」

男性マネージャー「……君の気持ちはよく分かってる、つもりだ。だからこそ、仕事は選ぶべきだと思ってね」
迫塚「えっとぉ……、どういうことっスか?」

男性マネージャー「……主演依頼の作品名は『今夜は離さないよ』」
男性マネージャー「Web独占ドラマの短編で――BL作品だ。……濡れ場が、有りの」

回想終了。

〇都内スタジオ・会議室(昼)
迫塚、緊張した面持ちで先にスタジオ入り。

迫塚(……結局、マネージャーさんの助言を突っぱねる形でオファーを承諾したけど……)
迫塚「はぁ……」
迫塚(二重の意味で緊張する……っ! 今から超人気俳優のしゅーやさんに会えるとか!)

会議室のドアが開き、横田が入室。迫塚は勢いよく立ち上がる。

横田「……おはようございます」
迫塚「お、おはようございますっ! ほ、本日はよろしくお願いしまっしゅ……!」

迫塚(か、噛んだ……)

横田「……」

迫塚(む、無反応……。で、でも本物の横田柊夜だぁ! テレビで見るよりも肌綺麗だし、睫毛バサバサでイケメンオーラヤバ過ぎる……)
迫塚(オレ、本当にこの人と釣り合ってるっスかね……)

横田「……横田柊夜だ」
迫塚「は、はい! あ、オレは――」
横田「迫塚旭。共演者については把握済みだ」
迫塚「えっ……!」

迫塚(オレ、まだまだ無名もいいところなのに……しゅ、しゅーやさんにもう認知されてるぅ~⁉)

横田、椅子に座る。

横田「打ち合わせ……前情報も既に頭に入ってる。悪いが必要最低限にしてくれ。……迫塚もそれで構わないな?」
迫塚「は、はいっス!」
迫塚(な……名前を呼ばれた……っ!)

キャストや関係者スタッフの簡易な自己紹介と初回打ち合わせをする。

男性ディレクター「――ということで、今回の打ち合わせはここまでです。皆様、改めましてよろしくお願いします。それでは解散してください」

各々、立ち上がり会議室をあとにする。
迫塚、気難しい顔を浮かべる。

迫塚(お、終わった……? ……終始、緊張してあまりよく分からなかったスけど……)

横田「迫塚」
迫塚「え……、は、はい!」
横田「この後、何か予定はあるか?」
迫塚「えっ……い、いえ。な、ないっス。何も」

迫塚(どれくらい長引くか分からなかったから、今日はバイトのシフトは入れなくてない)
迫塚(というか、この流れは……)

横田「なら、付き合ってほしい。今回、共演者でお前と……親交を深めておきたい」


〇都内ラブホテル・室内(夜)
横田、羽織っていたジャケットを脱ぎ、シャツ一枚に。
迫塚、何が起こっているのか分からずにベットに座り、困惑。

迫塚「……えっとぉ……しゅ、しゅーやさん? こ、ここは……?」
横田「ファッションホテルだ」

迫塚(つ、つまり――ラブホじゃねぇスか!)

迫塚「え、ええっと……何で、オレなんかと?」
横田「? 本作は、共演者であるお前の役柄と俺の役は恋人同士だろう。……まあ、作品内での舞台設計はほぼ彼らの同棲部屋ではあるが……」
横田「さすがに『手を出さずに一年間、同棲した』というのは撮影時期を考慮して無理な話だろう。なのでその部分は省略して――」
迫塚「ちょ、ちょちょちょっと待ってぇ!」
横田「……何だ?」

横田、不機嫌そうに足を組んでソファに座る。

迫塚「えっと……確かに『今夜は離さないよ』については純情から性愛まであって、原作ファンもそこを期待してる……らしいっスけど」

迫塚(って、マネージャーさんから打ち合わせの時に聞いた)

迫塚「オ、オレたちがトオルとセツになる必要はないって言いますか……あの、親睦を深めるためにご飯行く流れからこうなるとは思いもよらなかったなぁって……」

横田「……」

横田、目を伏せたまま暫く無言。気まずい空気が流れる。

迫塚「……」
迫塚「……えっとぉ、しゅーやさん?」

横田「……俺は」
横田「俺は、役とはいえ中途半端な理解はしたくない」
迫塚「え……」

横田「どうしてトオルはセツを愛して、同棲までしているのに一年もの間ずっと手を出さなかったのか。対してセツはトオルと深くまで繋がりたいと心理描写では明らかなのに、なぜ恋人相手には口にしなかったのか――この作品は俺が不明点のところが数多くある」
迫塚「……」

横田「……俺はトオルとして完璧に彼を模倣することは出来ないだろう。だが」
横田「一歩でも彼に近い心理、理解をしたいと思っている。そのために……他でもないお前の協力が必要なんだ、迫塚」
迫塚「オ、オレの……?」

迫塚(俳優、横田柊夜はどんな役でも変幻自在に魅せる――役が太っているのであれば体重を増加させ、体脂肪率一桁のキャラクターを任された時は数週間で身体を絞ったと)
迫塚(誰よりも……原作者や監督よりも演じる人物像を理解し、完璧に演じる)

迫塚(才能だと思っていた。彼は他者とは違う天才なんだ、だから憧れたところで足元にも及ばないのだろうと諦めていた。でも――誰よりも努力家だった)
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