君がいい、どうしても

たがわリウ

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俺が基準

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 次の授業の教室へと歩く。騒ぎながらゆっくり進む俺らの横を忙しなく人が行き交っていた。

「あ、教育の食事会の場所決まったらしいよ」
「へー、どこ?」
「なんか居酒屋兼料理屋みたいなとこだって」
「どんくらい集まるんだろうな」

 また話題は新しいものに変わる。教育学科のうち希望者は参加する食事会が定期的に開催されていた。食事会と言っても堅苦しいものではなく、食べて喋って騒ぐ友達同士の遊びの一環みたいなものだ。
 一年生はまだ二十歳未満が多い。手にしているソフトドリンクがアルコールに変われば飲み会というものになるのだろうと思っていた。

「日高はバイトだっけ?」
「いや、その日は店休みだから行こうと思ってる」
「お、じゃあ俺らは全員参加だな」

 美味い店がいいとか教授も来るのかとか食事会の話題は続く。俺も会話に参加していたが突然後ろから肩を叩かれ、意識を逸らした。振り向けば他学科の生徒がいる。

「おはよ、日高」
「はよ」

 教育の騒がしい集団なんて苦手だろうに、その中に俺がいると広尾はこうして声をかけてくる。友達に広尾と一緒にいるところを見られるのは何故か少し気恥ずかしく、ソワソワとした。
 挨拶だけして離れようとした広尾を呼び止める。しかしそれは俺の声ではなかった。

「ねぇねぇ広尾も食事会来ない?」
「お、いーね」
「は? 広尾は教育じゃねぇじゃん」

 予期せぬ友達の発言に慌てながら広尾より先に言葉を返す。自由な友達のノリにこれ以上巻き込んでしまう前に、俺がどうにかしなければと思った。断る方向で良いんだよなと広尾を見る。

「いつ?」
「二週間後の金曜だったかなー」
「行く」
「え?」
「まじか、盛り上がるやつじゃん」
「いえーい、広尾げっと」

 広尾のまさかの答えに俺だけがうろたえる。足を止め盛り上がる集団と少し距離をとった。広尾も足を止めたから、俺たちふたりだけが残される。

「無理すんなよ? 広尾、食事会とか苦手だろ? しかもアウェーな教育だし」
「でも行くんでしょ? 日高」
「まぁ俺は行くけど……」
「じゃあ行く」
「俺が基準なんだ」
「うん」

 当たり前のように頷いた広尾。そういえばアルバイト先も俺がいるからという理由で選んだんだった。

「広尾が行きたいならいいけど……」
「日高と食事楽しみ」
「いや俺だけじゃねぇわ」

 俺のことしか見えないのも相変わらずだ。急な展開に戸惑いつつも、広尾が来る食事会を想像する。周りはいつも以上に騒がしくなるだろう。アウェーな広尾でもなるべく楽しめる食事会になるといいなと思った。
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