3 / 8
それでもやっぱり頭に浮かぶのは
しおりを挟む
※攻以外の人物に強引に触られるシーンがあります。
がしゃん、と音をたててロッカーを閉めると黒いリュックを背負う。いつもよりも重く感じる荷物を煩わしく思いながら、はぁ、とため息を吐いた。
「どうしたの、神田くん。なんか悩み事?」
店員の制服でバックヤードに入ってきた男性の先輩が軽い調子で俺に声をかける。
バックヤードには、このコンビニでのバイトを終え帰ろうとしていた俺と、今入ってきたいくつか年上の先輩しかいなかった。
「悩み事っていうか……いや、悩み事っすね」
授業中も食事中もバイト中も、考えているのは空のことだった。他のことを考えようと必死に打ち消しても、気づけば空が脳裏にいる。
「なになに?よかったら相談にのるよ」
少しのからかいも含めた調子の先輩は休憩なのか、バックヤードのパイプ椅子を引く。
先輩からの申し出に逃げる訳にもいかず、そして誰かの意見も欲しかった俺は、先輩の隣に腰掛けた。
「もし友達だと思ってた奴にいきなり好きだって言われたら、どうしますか?」
「……神田くんはその人のこと好きなの?」
「それがわかんなくて。ずっと友達だと思ってたんで」
「そっかぁ。その人可愛いの?」
「いや、可愛いっていうか……男、なんすよ」
迷いに迷って、しかし戸惑いの核心をぽろっとこぼしてしまう。
どんな反応が返るだろう。これ言っちゃっても大丈夫だったかと不安になる俺の隣で、先輩は少しの間沈黙する。
その沈黙に、やっぱり話さなければ良かったかと思っていると、突然片方の手のひらが掴まれた。
「なんだ、睦月くん男でも大丈夫なの?」
俺の手のひらを掴んでいる先輩の指が、手の甲をねっとりと撫でる。
初めて聞く、睦月くんと下の名前を呼ぶ声、皮膚を這う強引な指にゾワゾワとしたものが込み上げる。
「いや、え……?」
「俺の方がずっと睦月くんを見てた。俺の方が睦月くんのことを好きだよ。そんな奴やめて俺と付き合ってよ」
心臓がばくばくと速く動き、上手く声を出せない。
どうしてこうなったんだ、俺、なんて言われてるんだ。
真っ白になった頭のまま、はっとしてどうにか立ち上がる。その勢いでパイプ椅子ががしゃんと音をたてた。
「俺、帰ります!」
何がなんだかわからないまま、掴まれていた手のひらを振りほどいてバックヤードの扉へと急ぐ。
そのままの勢いで店内に飛び出すと、レジ横を通り店内から走り出た。
息を切らして走りながら、先輩の耳に絡みつくような声、指の動きが頭の中によみがえる。
なんなんだよ、とこぼした次には、何故か空の顔が浮かんでいた。
がしゃん、と音をたててロッカーを閉めると黒いリュックを背負う。いつもよりも重く感じる荷物を煩わしく思いながら、はぁ、とため息を吐いた。
「どうしたの、神田くん。なんか悩み事?」
店員の制服でバックヤードに入ってきた男性の先輩が軽い調子で俺に声をかける。
バックヤードには、このコンビニでのバイトを終え帰ろうとしていた俺と、今入ってきたいくつか年上の先輩しかいなかった。
「悩み事っていうか……いや、悩み事っすね」
授業中も食事中もバイト中も、考えているのは空のことだった。他のことを考えようと必死に打ち消しても、気づけば空が脳裏にいる。
「なになに?よかったら相談にのるよ」
少しのからかいも含めた調子の先輩は休憩なのか、バックヤードのパイプ椅子を引く。
先輩からの申し出に逃げる訳にもいかず、そして誰かの意見も欲しかった俺は、先輩の隣に腰掛けた。
「もし友達だと思ってた奴にいきなり好きだって言われたら、どうしますか?」
「……神田くんはその人のこと好きなの?」
「それがわかんなくて。ずっと友達だと思ってたんで」
「そっかぁ。その人可愛いの?」
「いや、可愛いっていうか……男、なんすよ」
迷いに迷って、しかし戸惑いの核心をぽろっとこぼしてしまう。
どんな反応が返るだろう。これ言っちゃっても大丈夫だったかと不安になる俺の隣で、先輩は少しの間沈黙する。
その沈黙に、やっぱり話さなければ良かったかと思っていると、突然片方の手のひらが掴まれた。
「なんだ、睦月くん男でも大丈夫なの?」
俺の手のひらを掴んでいる先輩の指が、手の甲をねっとりと撫でる。
初めて聞く、睦月くんと下の名前を呼ぶ声、皮膚を這う強引な指にゾワゾワとしたものが込み上げる。
「いや、え……?」
「俺の方がずっと睦月くんを見てた。俺の方が睦月くんのことを好きだよ。そんな奴やめて俺と付き合ってよ」
心臓がばくばくと速く動き、上手く声を出せない。
どうしてこうなったんだ、俺、なんて言われてるんだ。
真っ白になった頭のまま、はっとしてどうにか立ち上がる。その勢いでパイプ椅子ががしゃんと音をたてた。
「俺、帰ります!」
何がなんだかわからないまま、掴まれていた手のひらを振りほどいてバックヤードの扉へと急ぐ。
そのままの勢いで店内に飛び出すと、レジ横を通り店内から走り出た。
息を切らして走りながら、先輩の耳に絡みつくような声、指の動きが頭の中によみがえる。
なんなんだよ、とこぼした次には、何故か空の顔が浮かんでいた。
10
あなたにおすすめの小説
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる