踏み出した一歩の行方

たがわリウ

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不安、安心、後悔

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転びそうになりながらも必死に動かす足。ひりひりと痛む喉。酸欠でくらくらする頭。
無我夢中で走っていた俺が足を止めたのは、夜の小さな公園だった。短い呼吸を繰り返し、どうにか落ち着こうと試みる。
俺どうしたらいいんだ?とりあえず帰らなきゃ。そうだ、誰かに連絡。そう思ってスマフォを手にするも、誰の名前を呼び出せばいいのかわからない。
というか別に誰にも言う必要ないか。ばくばくとうるさいままの心臓を感じながら呆然とスマフォと向かい合っていると、突然軽快な音が鳴る。着信だ、と思っているうちに自然と指は画面をスライドしていた。

「よかった、でてくれて」

冷たい指が支えるスマフォの向こうから、空の声が聞こえる。その声を聞いた瞬間、今俺はここにひとりきりなのだと認識できた。

「睦月?もしもし?」

何か言わなければ。そう思っても何かが喉に張り付いていて上手く声を出せない。息を吐き出す行為をすると、掠れた声が小さく出た。

「そら」

空。お前の気持ちから逃げたのに、こんなときだけ頼ってごめんな。

「睦月?いまひとり?どこ?」
「……っ」
「お願い、教えて」
「部屋の近くの、公園」
「わかった。そこにいて」

切られた電話が、ツー、ツーっと無機質な音を繰り返す。
きっと空は俺の声を聞いただけで何かがあったのだとわかってしまうだろう。それでも声を出して、空に助けを求めてしまった。
空が来てくれることに安心したのと同時に、空への俺の行動を考えると、申し訳なさと不安も押し寄せる。ぐちゃぐちゃのままの感情で、眩しいスマフォの画面を消した。



「睦月!」

ベンチに座り空を待っていると、すぐに大きな体が駆け寄ってきた。
息を乱したままの空は俺のそばで足を止めると、俺の肩に腕を伸ばす。抱きしめられる、と思った行動だったが、俺の体に触れる前に動きが止まり、離れていった。
触れずに離れる空の手に、寂しいという感情が湧き上がる。その寂しさに自分自身驚いていると、数回深呼吸して呼吸を整えた空が優しい声を出した。

「睦月大丈夫?」
「悪かった、突然」
「ううん」

俺を安心させるために優しい声がゆっくりと落ちる。なんて言おうか迷って黙ってしまった俺の隣に、空が少し離れて座る。こんな距離、今まではなかったのに。

「なんか、バイトの先輩に、触られて、好きだって言われて」
「……うん」
「俺どうしたらいいのかわかんなくて」
「うん」
「気づいたらお前に頼ってて」

空が隣で聞いてくれるおかげで、微かに指先に力が戻ってくる。俺落ち着いてきたのか、と他人事のように思っていると、空の真剣な声が聞こえた。

「その人の名前は?俺行ってくる」
「いいから」
「でも」

立ち上がりかけた空の腕を掴んで引き止める。俺が望んでいることは他にあった。

「いいから、ここにいてくれ」
「……わかった」

立ち上がることを止めた空に、掴んでいた腕をそっとはなす。今はただ、空にはここにいて欲しかった。

「……あのミスコンの先輩と一緒だったか?悪いな邪魔して」

どうしてそんなことを言ってしまったのか、自分でもわからない。けれど胸が痛み、後悔が押し寄せた。

「あの人は関係ないよ。俺が好きなのは睦月だけだから」

怒られるかと思ったのに、空は何も気にしていないような声を返す。その反応に、さらに胸が痛んだ。
自分が何をしたいのかわからなくて、なんだか笑えてくる。助けを求めて見上げた夜空には、綺麗な満月が浮かんでいた。
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