踏み出した一歩の行方

たがわリウ

文字の大きさ
5 / 8

もう一度きみと

しおりを挟む
「なぁ、もう一度キスしてみるか」
「え?」

速かった心拍もおさまり落ち着きを取り戻してきた俺は横を向き空に声を投げる。
俺の提案に空は目を見開いた。驚きが伝わってくる。

「動揺してるからとかじゃないからな」
「じゃあどうして……」
「……さっき先輩に触られた時はなんかすげぇ嫌で、気持ち悪かった」
「うん」
「でも空とのキスはそういう感じじゃなかったんだよ」
「それは、友達だからじゃないの?」
「それを確かめたい」

自分の中で何度も繰り返し考えても、空への感情がわからなかった。けれどそれは気づいていなかっただけかもしれない。今はもう、空への気持ちに確信があった。

「……正直に言うと、睦月とキスできるならしたいよ。でも睦月が友達の延長としてそういう気になってるなら、睦月も俺も辛いだけだよ」
「お前本当に良い奴だな。俺にはもったいねぇよ」

思ったままをそのまま言うと、空は喜べばいいのか否定すればいいのか迷っているように眉を下げた。

「あのミスコンの先輩に嫉妬したって言ったら?」

空の瞳の中に驚きが浮かび、言葉の意味を理解するかのように黙る。

「空の隣には俺がいたいし、俺の隣には空がいて欲しい」
「睦月……」

最初は空の気持ちを知らずに友達のまま、ただ楽しい関係が続けばよかったと思った。
けれど今は、友達のままでは居られないような、特別な感情があることに気づいている。

「じゃあするよ?」
「あぁ」

ゆっくりと空の整った顔が近づいてくる。距離が縮まる度に、落ち着いた心臓がまたうるさく鼓動を刻んだ。
しかしそれはさっきまでの嫌な痛みではなく、体温を上昇させるもの、期待を含むものだ。
息が触れる近さで目を閉じる。そのまま待っている俺の唇に、柔らかい唇が触れた。一瞬触れ合った唇はすぐにまた離れる。

「どう?」

嫌な気持ちはしない。それどころか、離れることが名残惜しく、もっとしたいと思う。

「好きだ。この前はごめんな」

確信を持った気持ちを空に告げる。優しいタレ目が見開き、そして嬉しそうに緩んだ。

「嬉しい。俺も好きだよ、睦月。大好き。でもこの前は俺の方こそごめんね」

照れを含む笑みが俺にも移り、口元がにやけてしまう。空との気持ちの重なりに、胸に暖かなものが広がり、頬に熱が生まれた。

「もっとしたい」
「ちょっと待って、耐えきれない」

もう一度顔を近づけようとした俺の肩が押されて、抑えられる。俺と同じように顔を赤くした空は大きく息を吐き出すと、俺の肩から手を離した。

「睦月、ありがとうね」

俺の方こそ、と言おうとした唇がまた塞がれる。押し付けられ、ふにふにと感触を楽しんだ唇は、数秒経って離れる。
すっかり熱っぽくなった視線を絡めた俺達は、どちらともなくまた唇を寄せ、しばらくふたりでのキスに夢中になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

Please,Call My Name

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。 何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。 しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。 大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。 眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...