魔力を高める上で最も原始的で効果的な方法とその副作用

井中かわず

文字の大きさ
12 / 16

12 ヨズキSide

しおりを挟む
会場からほのかに聴こえてくる音楽に合わせる。

「1、2、3、&、1、2、3…」

口で拍子を呟きながらヴィオラはヨズキに指導する。
今にもつまづきそうな酷いステップだが、しばらくすると少しは慣れてきた。

「そうそう、上手ですよ」

足元を見守っていたヴィオラが、ヨズキを見上げて微笑みかける。
高嶺の花は着飾るとより一層美しかった。

「すみません言い忘れてましたね、
とてもお綺麗ですよ」

表情が豊かなタイプではない自覚があるから、ヨズキは思ったことはなるべく口に出すようにしている。
それに比べると彼女は懸命に冷静を装いながらも感情が思いっきり顔に出る。今だって一瞬で顔が真っ赤になった。
そう言うところが可愛らしくて気に入っている。

「せ、先生こそ中々お似合いですよ。いつものボサボサよりうんとマシです」

「そりゃどうも」

その頬に触れると、彼女はハッとしたような顔をしてからじっとヨズキを見つめた。
いつの間にかダンスは止まっている。
ああ、綺麗な目だな。 
ヨズキの心の底から欲が膨れ上がる。

「恋愛なんてね…」

ヴィオラの顎を持つ。

「恋愛なんて性欲と支配欲を美化しただけのモンなんですよ」

そう自警も込めて囁いてから、触れるだけの優しい口づけをする。
すぐに離れてしまうとヴィオラは少し物足りなさそうな切ない顔をした。

全くこの人は、俺を欲情させるのが上手い。

「もっと欲しいならあとで俺の部屋にきてください」

耳にキスをする。

「そんな、私…」

「言い訳が欲しいですか?」

蝶の髪飾りをスッと取る。

「人質です」

こんな髪飾り、別に今夜返さなくたっていいものだ。明日でも、授業のあとでもいい。
なんなら今すぐ手から奪い取ってもいい。
それでも今夜来たら…そういうことだ。
ヴィオラは赤い顔で無言のまま後退りすると、早足に去っていった。

「…気色ワリ……」

宝石の蝶を眺めながら自分に向かって独り言を言う。

良いトシして、17も年下の娘に何ときめいてんだか…。
しかもどうせ今だけの関係だ。この学園であの子の父親に逆らえない若い男がたまたま俺だっただけだ。
そのうちどこぞの小僧と政略結婚させるだろう。あの父親は自分の娘を物としてしか見ていない。

ヨズキはまた新しくタバコを取り出して火をつける。
そうしていると、1人の女性がひょっこりとこちらを覗いた。

「こんばんは、ミス.フローレン」

「こちらにいらしたのね、探しましたのよ」

ミス.フローレンが飲み物をふたつ持ってやって来た。

「俺を探してたんですか?」

差し出された飲み物を受けとる。

「ええ、少しお話がしたくて。
こんなところで何をしてらっしゃるの?」

「少し休憩です」

「そうなんですか、疲れているなら私の部屋で少し休みません?」

「面食いのあなたにお誘いを受けるとは光栄ですね」

彼女は白衣の天使と男子生徒に人気の看護師だが、実のところ教師生徒問わずに気に入った男を食い散らかしてることで有名だった。

「あら、酷い言い様。
…それでお返事は?」

「今夜は先約がありましてね、すみません」

「あら残念。でもまあルーベンスさんには流石に敵わないか…若いしとっても可愛いもの」

「…まさかあなたが"生徒に手を出すな"何て言いませんよね?」

「もちろん。私たちは魔力安定のお手伝いをしているだけだもの」

そうやって開き直るのもどうなんだと心の中で思うが、面倒なので押し黙る。

「でも、本気はやめたほうがいいわよ。だって理事長の娘でしょ?」

「…わかってますよ」

「ならいいの。
…じゃ、私は他を探そうかな」

ミス.フローレンはつまらなそうに地面を蹴り立ち去ろうと背を向けたが途中で振り返った。

「あ、ごめんなさい。私断られるなんて思ってなくて…飲み物に催淫薬入れちゃった」

ヨズキは自分の既に飲み干したグラスを見る。

「えぇ…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話

狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。 そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

処理中です...