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「いいえ。私の心には今でも陛下がいるわ。でも、王家の血を引く独身男性で一番血が濃いのはアルフォンソ様なのよ。もしかしたら私は彼の子を身ごもれるかもしれない。そうなったらその子に王位を継がせるわ」

 ミリアリアは淡々と、羨ましさと妬ましさで燃える目で睨んでくるクローディアの言葉を否定する。

 アルフォンソにクローディアが内心惹かれていたようなことはミリアリアも気づいていた。その上でした彼女への嫌がらせ……というわけではなく、合理的なミリアリアはただ彼の中の血……スチュアートに近い血を求めて彼を選んだだけで、アルフォンソがいい男だったのは結果論だ。

 もっともアルフォンソの中にスチュアートの面影を見つけて、少しばかり動揺した部分もあったが、そう感じてしまうのはアルフォンソにもスチュアートにも失礼だろうと心を押さえるくらいの理性はある。

「エドワードはどうなるの!? あの子は正式な認可を受けた王太子であるのよ!? それをみんな知ってるのよ!」

「エドワードは暫定的に王太子のままでいさせるわ。その方が都合がいいから。でも、もし私がアルフォンソ様の子供を産んだら、男でも女でもその子を王太子にするわ。どちらにしろ私は今はもう女王だから、私が産んだ子は、たとえ相手が馬小屋番だとしても無条件に王族になるけれどね」

 しかし、そんなバカな真似をこの私がするわけないでしょう? とクローディアを見て笑う。そこにはお前とは違うのだ、という明らかな侮蔑を感じ、クローディアは唇を噛んだ。

「エドワードが王の子であるという保証がない以上、私の養子という庇護がなかったら、エドワードは単なる一貴族の子にしかならないわ。単なる妾妃の貴方にエドワードを守る力はないし。もし私にアルフォンソとの子供が産まれなかったら、時期を見計らってエドワードを廃嫡して、大公家から養子を迎えるつもりだし」

 そう告げて一度言葉を切るとミリアリアは、優雅に持っていたベルを揺らした。

「それがローズロッド侯爵家の者としての、王家への正しい忠誠の示し方でしょう?」

 ドアが大きく開いて、近衛兵が次々となだれ込んでくる。屈強な男たちの姿にクローディアの身体がすくんだ。

 これまではスチュアートの護衛をしていた彼らだったが、今はミリアリアの命に従っている。

 その時初めて、クローディアは本当に目の前にいる従姉が、この国の王であることを実感した。
 
「殺されたりしないだけまだマシだと思いなさいね。本当だったら首を斬るだけでは済まない罪よ」

 ミリアリアはまっすぐクローディアを指さした。
 
「この女を捕らえ、牢に入れなさい」

「離して! 何をするの!? 私は王太子の母なのよ!?」

 鍛えられた男たちに捕らえられて、クローディアは身動きが取れない。そしてそのまま暴れる体を押さえつけられながら、扉の向こうに消えていった。

「……」

 ミリアリアはクローディアの放つ罵声や怒声などの喧騒が遠くに行くのを聞きながらため息をつく。

 クローディアが王宮でスチュアートに抱かれた時にはもうエドワードを身ごもっていたのだろうと予想してた。

 クローディアは最後まで認めていなかったが、彼女が王宮に入るまでに付き合っていた男については証拠や証言などが山のように残っていたのだ。

 それらをエドワードの名誉のために全て握りつぶしたのはミリアリアだった。

 そこまでしたのも、スチュアートの子を産んだ女性がいるという事実を公的に残しておきたい気持ちもあったからだ。


「……さて、私は息子のところに行きましょうか」

 ミリアリアはベルを鳴らすと侍女を呼び、エドワードのいる王太子宮に行く準備をするよう言いつけた。

 腹を傷めて産んだわけではない息子でも情は沸いている。

 女の身が不利とわかっていて王位を自分が継いだのも、このままでは真実を知らぬまま王位を簒奪してしまうことになるエドワードの気持ちをおもんぱかったからだった。

 都合の悪い隠し事こそ表に出るものだから。

 自分のことを実の母より慕ってくれているエドワードを、この先、立派に育てる決心など、ミリアリアにはとっくの昔についていた。
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