【完結】まつりくんはオメガの自覚が無い

りちょ

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16話 恋人(仮)の俺たち

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ひかるが観ているバラエティから、大勢の笑い声が賑やかに聞こえる。スマホでWeb漫画をダラダラ読みながら、ひかるが好きだと言っていた芸人のガヤをぼんやり耳に入れていた。


「茉理、流石に重い」

「重くないよ」

「重いだろ。なんか最近ぷよぷよしてきたし」

「してない、ムキムキだし」

「はあ?どこが」


胡座をかいてテレビを観ているひかるの太ももを枕に寝そべっていると、お腹をつままれて思わず丸まった。お構い無しにひかるは腹を触ってくる。
確かに最近、高校時代についてた筋肉が落ちてお腹周りがぷよぷよしてきた気がしなくもないが、見た目的にはまだだらしなく無いしセーフだと自分に言って聞かせる。なのにふにふにとひかるはしばらく片手で俺の腹を触っていて、俺は飲みかけのコーラに手を伸ばせなくなった。

仕返しでもしてやろうと手を伸ばして、頭の上にあるひかるの脇腹をぎゅっと摘んだ。思ったより硬くて上手くつまめない。悔しくてそのまま腹筋、腰、太ももと手を下げていって柔らかいところを探す。何で同じ運動量のはずなのに、こいつは身体がこんなに固いんだろう。無駄な肉が無い。羨ましい。


「………………………………」

「……おい、ちんこ触んな。それはだめ」


顔の割と近くにあった股間が目に入って、大人しくしているそれに人差し指を突き立てた。ふにふにしている。ここは柔らかい。
すぐにひかるが俺の手を取って股間から剥がした。

そのまま仕返しの仕返しと言わんばかりにくすぐられる。どさくさに紛れてひかるが俺の胸と太ももをムニムニ揉んで言った。こいつは意外とむっつりなタイプだということを俺は恋人(仮)関係を結んでからのこの3ヶ月で知ってしまったので、何とも言えない気持ちになる。


「うはははは!ばかっもう良いって!」

「………………ねえ、僕たち恋人だけど仮だよね」

「えー?そうだけど」

「今まで通り態度変えない条件だったよね」

「うん、そうだね」

「……これ、""仮""?」

「………………仮だろ」


くすぐったくてひかるの手から逃げるように身を捩って、そのまま膝の上に乗り上げて腰に抱きついていると、ひかるが突然そんなことを言った。


「最近お前、何?すごいベタベタしてくるし、なんで当たり前のように膝枕してきてんの?」

「えーーー、膝枕はありだろ。元から時々してたじゃん」

「めっちゃくちゃ昔な。膝枕ってほどでも無いし。茉理はいいの?」

「だって落ち着くし、楽なんだもん」


目を逸らして答える。自分でもこんなべっとりくっつくのは立派に規約違反している自覚はあるけど、体勢を直すのがめんどくさくてごまかした。

ひかると恋人関係を仮で結んで、お互い気まずかったり迷いがあったのなんてほんの数日だけだった。恋人(仮)をやるには俺たちはもう仲が良すぎて親密すぎたのだ。
こんな風に互いの家でだらだら人肌を感じつつくつろげるなんて居心地が良すぎて、すぐにお互いこんな風に膝枕し合ったり腕枕で寝たりハグしてハグしてハグをするなど、それはそれは親密なコミュニケーションをとりあうようになった。
浮気はしないルールを律儀に守っているせいで、お互い合コンやそれまがいの集まりには参加しなくなっていて、それもあり余計に人肌恋しさをお互いで埋めようとするからスキンシップが深くなる。俺も、おそらくひかるも男同士でベタつくのなんか無理だと思っていたはずなのに、お互いだけ特例でなんか全部大丈夫だったのだ。遠慮なく甘えられる分、女の子より楽なところもあった。

ちなみに俺は何となく女子と連絡を取ることも辞めてしまって、女の子と出かけることももちろん無くなった。なんなら学食で知り合いの女の子とたまたま会ったから2人で食べる、くらいのレベルのコミュニケーションまで避けるようになった。お互い良い人が見つかれば解消する条件だったはずなのに、居心地が良すぎて2人ともそんな人を探すのを辞めているのが現状だ。
というか今思うと、浮気NGなのに好きな人ができるまでの恋人契約なんて矛盾している。そんで何で俺たちは浮気NGの方を真面目に守ってるんだよ。

そんなこんなで数ヶ月恋人(仮)が続いていて、終わりがどんどん見えなくなっている。
時々2人で危機感を持って、今みたいにこれは(仮)の範疇に入るのか議論することもあった。
俺的には、2人で合意の上ならまあ別に何したっていいじゃんという気持ちと、確かにちょっとベタつきすぎかもしれないという気持ちは、一応両方ある。
両方あるけど、お互い嫌じゃ無いならいいんじゃね?の気持ちがやっぱりちょっと強くて、ひかるもおそらく同じだからいつもそんな風に許容範囲を広げるだけでこの話は終わっていた。

身体を起こして、太ももから降りる。
そのまま離れようかと思ったけど、ふと思いついてそのまま膝の上に座って、ひかるの肩に手を回した。


「…………今度はなに」

「どこまで許すのかなと思って」

「僕が止めなかったらどうするの」

「えー、チューしちゃおっかな」


本当に、ほんの出来心だった。

顔を近づけて額をくっつける。
鼻先が触れ合うくらいの距離で顔を覗き込むと、瞳にまつ毛の影が落ちているのが分かる。
すっきりした一重瞼は、冷たい印象があって俺はちょっと好きだったりした。
ほんの少しだけひかるの眉間に皺が寄る。呆れている時の表情だ。手を伸ばしてきたかと思ったら、俺の顎の下あたりをこしょこしょくすぐるように撫でてきた。
ひかるは俺によくこれをする。まるで犬かなんかを撫でているような手つきで馬鹿にされているのかなとも思ったけど、こいつは昔家でゴールデンレトリバーを飼っていて、そのポン太を撫でるのと同じ手つきだと気がついてからはまあ可愛がられているのかなと思って放置している。よく犬っぽいって言われるし、俺。

顎の下を撫でていた手が、ゆっくり動いて頬を軽く撫でる。指先でそろっと触ったかと思ったら耳に移動して、両手ですっぽり覆うようにして指の腹ですりすりと撫でられた。少し冷えていた耳のフチをひかるのあったかい指がなぞっていって、耳たぶを通って穴を塞ぐように触れる。普段触られることなんかない部位をこんな風に丁寧にいじられると、くすぐったくてつい腰が震えた。


「………………ん、」


小さく声が漏れてしまって、恥ずかしくって咳払いをして誤魔化した。すりすりと音が頭の中に直接響く。身を捩ると片方の手が耳の裏側を撫でて、そのまま首筋に降りていった。
一つ一つじっくり、輪郭を確かめるような手つきだった。ひかるとは目は合わない。自分の指先を目線だけで追っているようで、伏目がちになるとまつ毛がよく見えた。意外と長いみたいだった。さっきまでふざけ合っていた空気がいつの間にか無くなって、なんだかじっとり湿っぽい。そう思ったら急に緊張してドクドク心臓が鳴り始めた。溜まっていた唾を飲み込むと、上下に動いた喉仏をそっと指先が撫でていく。
耳たぶをふにふに摘んでいた手がするっと降りてうなじを撫でた。襟が緩んだスウェットを着ていたせいで首元がガラ空きで、くるくる円を描きながら指先が自由に動き回る。

ぞくりと背筋が震えた。
オメガにとってうなじは、あんまり他人に曝け出して良いものでもない。番関係を身体で結ぶ機能はまだ残っているため、特にアルファ相手には無防備に晒して良いものではなかった。風俗店なんかだと、オメガの子は防御用の首輪をつけてるらしい。

ひかると関係を持つまで、俺はあまりそれも信じていなかった。噛みつかれたら一生そいつだけになって、ヒートも無くなって、相手の人生に自分の人生をほとんど捧げるようなことになるなんて、馬鹿らしい。嘘すぎるだろ。何言ってんだよとずっと思ってた。アルファの女の子とも付き合ったことなんか無かったから、余計に信じられなかった。
今でも頭の片隅では疑っているけど、ここを触られるたびに身体が熱っぽくなって簡単にその気になってしまう自分の身体を顧みると、本当なんだろうなあと思わざるを得ない。
上手く説明はできないんだけれど、あの時ひかるになら全て明け渡してもいいかも、と思ってしまった自分がいた。心も身体も、所有権ごとひかるにあげたくなった。噛み付いてほしいと本気で思ってしまった。

優しく指先でなぞられるだけで気持ちよくて、ゾクゾク震えが走って息が上がる。急所を握られているようなもんなのに、嫌悪感を抱くどころかもっともっと、といつも思ってしまう。

赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、ひかるの片口に顔を埋めた。生地の厚いパーカーを着ているのを良いことに、ごわつくフードを両手で握りしめてしがみつく。
多分ひかるは俺の反応を面白がっていた。顔は見えないけど、こいつの考えていることはなんとなくわかる。


「……ふ、ぅうッ!」


カリ、と爪を立てられて思わず声が漏れた。くすぐるように爪先でカリカリと引っ掻かれて、ほんの少し強くなった刺激に身体が熱くなるのがわかる。
落ち着こうと深呼吸した。密着しているからひかるの匂いが濃くて、余計身体が甘く痺れる。
頭がぼんやりしてきた。気持ちいい、じれったい、もどかしい。また前みたいに流されて抱かれちゃいたいかも。
調子に乗ったひかるがそっと舌を出して首筋を舐めた。ぞわぞわっ!と指先まで痺れが走って、すんでのところで我に返った。


「ま、待て、待って!!!終わり!!!!」


ひかるの肩を思いっきり押して自分から引き剥がした。
ちょっとだけびっくりした顔をしたひかるが、目を丸くしてこちらを見ている。


「なんで?チューしてくれるんじゃないの」

「は?それ冗談……っあ!馬鹿そこ触んな!」

「顔真っ赤だよ。嫌だった?」


またひかるが手を伸ばしてきて、頬をするする撫でながら顔を寄せてきた。離れようとしたが、いつのまにかうなじを抑えられていて身体が引けなくなっている。


「ひかる待って、ぅう、……キスって、無しじゃないの?」

「……どうする?無しにしたい?」

「無しにしたいっていうか……えっちな事はダメだし…」


ふふ、とひかるが笑ったのが吐息で分かった。


「茉理的には、キスってえっちな事なんだ」

「ッだって変なとこ触るから…っ!!何なの、お前はしたいの?」

「うん。チュー好きだし」

「………じゃあ有りで良いよ、ッんん!!」


返事をしてすぐ口を塞がれる。薄い唇が柔らかく触れた。ゆっくり何度も角度を変えながらちゅ、ちゅ、とキスをされる。前も思ったけど、ひかるは意外と唇が柔らかい。
また指先で耳やらうなじやらを撫でられて、さっきよりずっと心臓がドキドキして身体も熱くなった。軽く唇を吸われる度、ぴくっと肩が跳ねてしまうのが恥ずかしい。
ひかる相手だと余裕が無くなる。キス一つで生娘みたいな反応をすることなんか、今まで一度も無かった。初めてキスをした時だって、俺はもう少し上手くやれたのに。

ぬるりと熱い舌が上唇を舐めた。そのまま緩んでいた口元ににゅるっと入り込んできて、思わず声が漏れた。
それは無しだ。ディープキスは話が違う。離れようとひかるの肩を押そうとしたけど、いつのまにかがっしりホールドされていてそれも出来なかった。多分こうやって俺が暴れるのを見越していたんだと思う。


「んむ、んーーー………ッ!」


強引に舌を突っ込んできた割に、動きは優しかった。奥で縮こめていた舌をくすぐられて、そのまま絡め取られる。
ねとねと舌を絡ませて、ゆったりした動きでキスをされた。熱い舌が擦れ合う感覚が気持ちいい。時々上顎をくすぐられると、ヒクヒクと腰が震えてしまう。俺も俺で嫌なら噛みつけばいいのに、流されて自分からも舌を絡めていた。ぢゅうっと舌先を吸われてまた声が漏れる。夢中になっているうちに溢れた唾液が、口の端から垂れた。

やっと唇が離れたころには俺は息が上がっていて、必死に息を吸って吐いてして呼吸を整えるハメになった。少しひかるも呼吸が荒くなっていて、それを見たらちょっとだけぞくぞくした。


「……こっちは、無し、だめ……」

「…気持ちよさそうにしてたけど」

「だから、ダメなんだろ……」


ふうふう息を切らしてそう言うと、ひかるがまた少し笑った。俺のことを気遣うように背中を撫でてくれる。それも優しい手つきだった。
昔、俺がわあッとしゃくりあげて泣くことがあると、ひかるはおろおろしながらこんな風に背中を叩いたりさすったりしてくれた。ただそれは友達同士の雑なもので、今みたいに優しく大切に扱うような手つきではなかったはずだった。


「舌入れなければキスしてもいい?」


ひかるがぼそっとそんな風に聞いていた。
俺の機嫌をとるような声のトーンだった。勝手なことしておいて可愛いげを出すなよと思ってから、可愛いって思ってる自分に驚いた。
顔を見るのも見られるのも気恥ずかしくなって、またひかるに抱き付いて顔を隠す。服にしがみつくと、ぎゅっと抱きしめられた。


お前、俺のこと好きになってない?


特に最近になって薄々感じていた疑問が、また頭に浮かんだ。だけど口に出す勇気はなくて、ひかるの腕の中でぬくぬくと暖を取りながら、黙ったまま頷いた。
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