【完結】まつりくんはオメガの自覚が無い

りちょ

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22話 本当の気持ち

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「失礼しまーーす、ひかるいる?」

「あれ、酒井じゃん。ひかる帰ったよ」

「えーーーーマジ?約束してたのに」


しばらくして、遠慮がちに入ってきたのは同期の酒井だった。

酒井は同じ学科同じサークルで、1年の時からの俺とひかるの共通の友達だ。
快活な性格で、ころころ表情を変えて大口開けてよく笑うところが大型犬みたいで愛嬌があるタイプ。

ひかるがいないと分かって、酒井は困ったように頭を掻いていた。


「あいつがすっぽかすの珍しいな」

「ね。疲れてたんじゃね……あれ、酒井のとこ発表終わったの?」

「終わった!俺先週で一旦終わり!うちマメに経過発表しないとなんだわ」

「だるいね~お疲れ」

「お前らのとこみたいなデカい課題一個しか出ない形式のが俺怖くてやだ」


くだらない世間話をする。
話しながら酒井がスマホでひかるにチャットを送っているらしいが、どうも既読にならないようでどんどん眉間に皺が寄って行くのが見えた。

酒井は明るい性格で、サバサバしてるところもある。だから重い相談も気兼ねなくできるところがあって、それに頼ろうかなと思った。



「……俺明日も一日中いる予定だし、ひかるから本預かってこようか?」

「いいの?!助かるわ!アイス奢る!」

「いいよ全然。その代わり一個相談乗ってよ」

「なんだよ改まって。別にいいけど……相談って何?」

「セックスのことなんだけど」

「……は?セックス!?ここでその話すんの!?」

「いいだろ人来ないし」

「ええ~あんまりキツいやつやめろよ」

「酒井寝取られたことある?」

「ねえよ多分。こわ、は?」

「寝とっちゃったことは?」

「あるわけないだろ、相談ってこれ?………………え、寝取られたの?」

「いや別に……おいなんで俺が寝取られた側だと思ったんだよ」

「茉理、浮気されそうな感じするし………………」

「………………………………」


失礼な発言に一度黙ってしまう。
酒井はからかったわけでもなく本気で心配してきたようだったから余計に腹が立つ。


「どしたの?急にそんな話して」

「………全然そういう目で見てない、下心無い仲良い相手と寝ちゃってさ。急に好きになっちゃった気がして。それで、セックスって強烈なのかな~と思って」

「先にその話しろよ……なんで?別にいいじゃん、相性悪いから別れます!よか何倍もマシだろ」

「いやまあ……そうなんだけどさ、ずっと仲良かったんだよ。記憶ない頃から一緒にいるくらいで。女々しいこと言うけど関係変えるの怖いし、………別れた後が怖いのもある。全部終わっちゃうじゃん」

「………なんか珍しいね、茉理がそんな悩むの。なんでそんな相手と寝ちゃったの?」

「マジで事故った。そんなつもりなかったのに、いつの間にか」

「んな漫画みたいな…………」


酒井がキャスター付きの椅子に座って、ゆらゆら揺れながら話す。


「でもセックス出来たってことは、好意はあったってことじゃねえの?気のない相手とってなかなか出来ないだろ、特に見慣れた相手ならさ」

「まあそれもそうだけど………んー……」

「今その子とは連絡取ってんの?」

「うん。つか、家近いからずるずる半同棲みたいになってる」

「えっそれ付き合ってんじゃん」

「付き合ってない。あと一回きりでエッチもしてない」

「逆にすげーなそれ。てか茉理の環境もすごい、記憶ないくらい昔から仲が良くて今も近くに住んでる幼馴染が2人もいんだ」

「え?ひかるしか居ないけど……」

「えっ」

「………………あっ」


うっかり口を滑らせて、つい口を抑えてしまった。
そんなことをしなければ流せたかもしれないのに、あからさまに慌てた仕草をしたせいで勘のいい酒井は察してしまう。


「………当てるわ。お前がグダッた合コン後からだろ」

「…………当たりですね」

「えーーーまじか!!お前らぜんっぜんそんな素振り無かったじゃん!?マジで言ってる!?」

「本当だよな、俺もびっくりしてる」

「マジでなんでこんなことになってんの?!お前ら前までお互い彼女いたよね?!」

「うん。まあその……ヒート事故」

「え……………、あっ、え……茉理アルファだったの?」

「あー逆だわ。俺抱かれる側」

「うっっっそ!!!!全然想像つかねー!!!!えーーーッッ!!!!」

「俺にはなんとまんこがあります」

「え!?……いやいいよそこまで言わなくても!聞いてねえよ!」


酒井が裏返った大きい声を出す。
こういうちょっとデリカシーに欠けてるところも、なんだかんだ酒井の愛嬌なのだ。
重い悩みも笑い飛ばしてくれるから、気軽に相談できてしまう。


「あーーー、でもなんかそう言われると納得。元々すげー仲良かったもんねお前ら」

「まあそうだね」

「事件の合コンの日だって、ひかるが体調崩してんのお前しか気がついてなかったんだぜ?ずっと気にしてたもんな茉理。そういやそれ以外でも、お前ら女の子そっちのけで盛り上がっちゃってたし」

「え?マジ?そんな事ないよ、別にひかる以外と話してたし」

「どうせそれ最初だけだよ。気を遣って席離してもなんかいつの間にかお前らくっついて盛り上がってんだもん」

「………言われてみれば、ひかるがいる日の合コンで女の子と仲良くなったこと無いかも」

「茉理、元々ひかるのこと好きだったんじゃないの?それがセックスで浮き彫りになっただけで、多分ずっと好きだったんだよ」


酒井がそんなことを言った。
反論できなかった。黙って考え込んでしまう。


『茉理はひかるくんの話ばっかするね』


昔の恋人に言われた言葉を突然思い出した。
1番最後に付き合った相手で、攻めるようで寂しそうにそう俺に言ったのだ。
当時俺は、幼馴染で距離が近いんだから当たり前だろ、と軽く捉えてヘラヘラ笑ってそんな事ないよと適当にあしらって、その数日後に振られた。

こんなことは、割とよくあった。

いつも、俺の近くにはひかるがいた。
何をするにも側にいて、それが当たり前だった。
小さい頃から今まで一緒にいたから、ひかるのことが気になるんだと思っていた。
些細な変化に気がつくのも、いつの間にか目で追っているのも、いつもひかるのことを無意識で探しているのも。

合コンの日、話し込んで可愛いと思っていたはずの女の子の顔が、ぼんやりとしか思い出せないことに気がつく。
なのに俺は、ひかるがあの時つけていた腕時計のことは覚えていた。

ひかるの大学合格祝いに、俺がプレゼントした、チタンのシルバーカラーの腕時計。

ひかるのことなら俺は、こんな些細なことだって忘れない。


もしかして酒井という通り、ずっと前から俺はひかるを好きだったのかもしれない。



「………………………………そう、かも」



絞り出すような小さい声で俺が言う。
呆れたように酒井が笑った。


「いいじゃんひかるなら。あんなんで一途だし優しいし、何より良いやつだし」

「そうだね、まあちょっと重いけど」

「あっはは!あいつ重そう!わかる!ははは………………ちょっとまて、お前最近ずっとタートルネック着てんな」

「え?あー、あはは。バレた?見せよっか」

「いい!!嫌だよ友達のそういう生々しいの見るのは!!」

「ははは、わかる」


嫌そうに俺から離れた酒井を横目に、まだ傷が残っているうなじを服の上から撫でる。
微かに残る凹凸の痕が、なんだかすごく愛おしく感じた。


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