【完結】まつりくんはオメガの自覚が無い

りちょ

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29話 運命

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1時間ほど眠ってしまっていたらしい。
ふと目が覚めた頃にはもう夕日も落ちたような頃で、薄暗い部屋はさっきまでのあんまり人に言えたもんじゃ無いようなあれこれを見ないふりしてくれているようで、すこし優しく感じた。

喉がガラガラに掠れていて、飲み物を飲もうと起き上がる。その拍子に、腹の中に直接出された精液が壁を伝って降りてくるのが分かった。
独特の、味わったことのない感覚にぞわっと背筋が震える。とろとろゆったり中を流れ落ちていくのがわかって、下腹に力を込めて溢れないようにした。場所が場所だし妊娠するわけでもないのに、どうにか俺は大切に腹の中に入れておきたかった。


「………起きてたの」


しばらくすると、ひかるが目を覚ました。
眠そうに目を擦りながらそう言って、俺の髪を掻き分けて耳にかける。優しい仕草にくすぐったくなった。
同じように喉が渇いていたのか、起き上がってペットボトルを探すようにひかるが周囲を見渡した。まだ眠たそうな顔をしているのが可愛らしくて頬にキスをしてみた。一拍置いてひかるから、唇にキスをもらった。


「…………体調、どう?」

「へーき、身体軽い。………薬、ありがとう」

「いいよ別に」

「………………………あと、服。ほんと、ごめん」

「………………服?」


俺が黙って、ぐしゃぐしゃになった上に何かしらの体液でどうしようもない感じになったひかるの部屋着を手渡した。無意識でウチにあるひかるの服は全部ベッドに持ち込んでいたようで、もう全滅だった。


「………良いけど、なんでベッド持ち込んだの」

「わかんない無意識だもん」

「はは、いいよそれあげるよ」

「………………いいの?」

「だって着れなさそうだし。じゃあ洗って綺麗になったのだけ返して」

「……わかった、ありがと」

「………………うん、いや、欲しいの?それ」

「いる、欲しい」


だらだら話しながら枕元に放置してあった飲み物を飲んだ。そのままひかるにも渡してやる。

少しずつ頭が冴えてきて、それにつれて自分が何をしでかしたのかもだんだん分かってきた。臍のあたりや太ももの内側なんかの、ぱっと目につくところでさえ鬱血痕やら歯形やらが残っていていたたまれなくなる。

そっと首の後ろに手を伸ばす。痛みも凹凸も無い。結局最後までひかるは俺のことを噛まなかったみたいだった。安心するもんだと思ってたけど、俺はやっぱりちょっとだけ寂しかった。


「………なに、ダメだよ」

「…やっぱダメ?俺ほんとにいいと思ってんだけど」

「………………ダメ。まだ学生だから」

「真面目だなー」

「…普通だから。ていうかなんでそんなに他人事なの?困るのお前だよ」

「えー……、だって、そこまで考えて告白したんだし」


腹の奥の甘い倦怠感に、思わず臍の辺りをさすった。腕も腰も全部だるいけど、気にならないくらい幸せだった。
ちょっとびっくりした顔したひかるが、照れて顔が緩んだのを隠すように仏頂面をしている。ほんの少し口を突き出すのが癖だった。子供みたいだといつも思う。


「…次の連休、帰省しようと思ってたんだけど一緒にいかない?」

「次って再来週?いいけど、予定無いし」

「じゃあ茉理の家にも顔出す、茉理も僕んちにも来てよ」

「いいよ、久々だな~ひかるんち顔出すの。……あれ、あやみって今受験生?」

「そうだね、来年高校生だし」

「はえーなー、あんなよく泣いてたくせに」

「あー茉理に懐いてたね、喧嘩するとよく茉理がお兄ちゃんだったらよかったって言ってたし。………喜ぶんじゃない、本当に兄ちゃんになるぞって言ったら」

「えっ、あー…………、帰省って、そういう」


さらっと言ったひかるの耳が赤くなったのをみて、俺にまで伝染してブワッと顔が熱くなるのがわかった。セックス中もさらっと先に挨拶だって言っていたけど、ひかるもひかるで本気だったようで恥ずかしいけど嬉しかった。


「…顔緩みすぎだから。てか、ダメだからね抑制剤飲まないと。なんでサボったの?」

「浮かれてて、まあ抱いてもらえればいっかなって。それに今までは軽かったし……」

「……軽すぎる、いや知ってはいたけどそれでも心配になるって」


俺の身体のことなのに、ひかるは俺より真剣だった。甘えるように抱きついて肩口にぐりぐりと頭を擦り付ける。くすぐったいと言いつつ、ひかるは俺の好きにさせてくれた。
そのまままたベッドに横になってしまおうと思って手をついた時に、散々自分で撒き散らした体液がつくったシミに触ってしまって、不快感に一気に現実に引き戻された。

重い体を2人で引きずって、どうにかシーツもひかるの服も洗濯に回す。そのまま狭い風呂に2人で入って、食べ物を買いにコンビニまで出かけた。
帰り道、ひかるの精液を掻き出さなかった俺が軽く腹痛になった。歩けないほどでは無いけれど、針でじわじわ刺すような生理痛に近い痛みに下腹部をさすっていると、察したひかるがおんぶして歩いてくれた。

いつもと違う角を曲がって、人通りの少ない薄暗い道をふらふらゆっくり進む。
だから言ったんだとひかるは小声で文句を言っていたので、俺はいつもみたいにヘラヘラ笑って誤魔化した。


-----



帰省と挨拶は、俺たちが思っているよりもあっさり終わった。そもそも親同士も仲がいい分、2人で帰ると伝えたら帰る頃にはバーベキューの予定ができていた。
それでひかるの家の庭で俺が終盤に焼きうどんを作っている時に、ひかるが急に神妙そうな顔をしたと思ったら茉理と付き合っていますと告白したのだった。絶対に今じゃ無いだろバカと思いつつ、炒める手を止めるわけにもいかないまま俺がうんうんととりあえず頷くと、どちらの親も俺の兄貴も、多少驚きつつも呆れた顔で笑っていた。

ひかるの妹のあやみだけは、口に手を当てて本当に驚いていた。その後もずっとふわふわしていたからどうしたのと聞くと、俺のことがちょっと好きだった、初恋だと言っていた。それを隣で聞いていたひかるが、あからさまに眉を顰める。


「あやみ、こういうのタイプなの?見る目ないよ辞めた方がいい」

「お前なんて事言うんだよ、…え、この流れで俺悪口言われることある?」

「俺はいいけど、こいつの女の子の扱いは碌でもないんだよ、ダメだよこんな軽い男とは付き合っちゃ。こういう感じの男はやめろよ」


てっきり嫉妬してくれるのかと思っていたら、ちゃんと兄貴として妹の肩を持ったひかるにびっくりしてしまう。
あやみが逆に呆れたように息を吐いて、軽くひかるを睨みつけた。


「でもお兄みたいに喧嘩をネチネチ蒸し返したり束縛したりしないでしょ茉理くんは。てかもう良いよ、高校でもっと良い男見つけるし」

「そうだね、俺餌やらないタイプとは言われたことあるけど、ひかるみたいになんでもラインで報告させたりはしないよ」

「………いやマシでしょ、軽いよりは」



俺と兄貴はかなり顔が似ているけど、ひかるとあやみは性別も違うからか少し印象が違う。
切れ目がちで少し冷たい印象があるのは同じだけど、あやみは目元が華やかで眉やまつ毛が濃い、ハッキリとした美人の顔立ちに成長している。
俺じゃ無くったってこの子はきっと良い人を見つけるんだろうなと、多分俺もひかるも思っていた。


食事も終わって後片付けもあらかた済んだ頃、ひかるが煙草吸ってくると言って離れたので俺もそれに着いて行くことにした。兄貴にお前も吸うの?の聞かれて、めんどくさいし、あからさまに2人きりになろうとして抜けたと思われるのはちょっと恥ずかしかったから、最近始めたと嘘ついてひかるの後を追いかけた。

東京から電車で2時間弱くらいの距離の地元は、
田舎でも都会でもないちょうど良い場所だった。遠くに山が見えて、東京より星が見えるところは好きだ。ひかると肩を並べて、もう目を瞑っても歩けるくらいには慣れ親しんだ、歩道と車道の境が無い道をゆっくりと歩いた。


「あ、茉理がチャリごと落っこちた土手」

「よく覚えてんね、嫌なんだけど」

「忘れるわけないじゃん面白すぎるし。あとあの辺、俺がヘビ轢いたところ」

「あったな~、気持ち悪かった~!あれ以来俺ヘビダメになっちゃったんだよ」


電子タバコをひかるが時々吸いながら、くだらないことを話した。どれも全部懐かしい中、タバコの煙の匂いだけが真新しく鼻腔をくすぐる。触れ合った手の甲にドキッとした。恋人になったんだなと思うと、気恥ずかしいような安心するような気持ちになる。

小指だけをそっと絡めて、同じペースでゆるゆる歩いた。
しばらく散歩を続けてくたびれてきた頃、そのまま引き返すのも味気ないからとコンビニまで行って、買ったアイスを食べながら帰った。
ひかるがソフトクリームを口につけていたから黙って引き寄せて舐め取ってやると、ぽかんとした顔をして、そのあとで少し赤くなっていた。そういえば昔もこうやってアイスを食べて歩いていた時、ひかるが口の端につけていた。何回も場所を教えてるのに自分で一向に拭えなくて、その時も俺が指で取ってやったような気がする。

あと数メートル先の角を曲がればもう家に着く。少しだけ歩くスピードを緩めると、ひかるが立ち止まって口を開いた。



「運命の番って聞いたことある?」

「なに、急に。……ネットでさらっと、くらいは」

「俺もその程度なんだけど………もしかしたらそうだったのかもね、俺ら」

「えー、あーー…………、 んー、確かに…そうかも」

「信じてなかったけどさ。…………まあ大体全部、それで説明はつくじゃん」

「お互いちょっと、気がつくのが遅かったかもね」



あはは、とひかるの笑って、また歩き出した。


家に着くとちょうど大きな椅子やテーブルを片付けていた頃で、1番力がある奴らがどこで遊んでたんだと母親に急かされて慌てて2人で重そうな机から解体に取り掛かる。
あんた達はこんな作業も連携取れるんだねと母親が呟いたから、2人してさっきのちょっと恥ずかしい会話を思い出してしまって、うまく返事もできずに黙って黙々と片付けをした。






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