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第十五話 ガイアの気遣い
しおりを挟む――そんな下らない話で盛り上がっていた頃。
エイルさんの執務室では、ゼフに対するミオたちの事情説明をなされていた。もちろん、魔従族のことは伏せられて。鑑定後に、ミオさんの承諾が得れれば話すつもりでいる。
「では、その鑑定終了と認定証発行までは、この屋敷に滞在されるのですね?」
「えぇ。見た限りメダルが本物なのは間違いありませんが、もう少し詳細な鑑定が必要です。ジョウはミオの護衛です。私のリードスキルを使って従魔契約をしていますが、命令権はありません。私の客人として失礼のないように、周知をお願いします」
「畏まりました」
セブのミオに対する評価は、大人しめの女の子という認識だが……これから巻き起こる騒動など、全く予想出来なかった。
♢
「ミオ様、ジュースが届きましたよ」
「ありがとうございます」
扉がノックされたと思ったけど、ジュースの配達だったのね。ララさんに手渡され飲むジュースは、一級品だった。フワフワと夢心地なのは、美味しさのせい?
(少し寝ろ)
(…え?)
ジョウの言葉と同時に浮き上がる身体。あぁ…まだジュースが残ってる。お残しは勿体無い。
「ミオ様。夕食の時間に呼びに参りますので、少々お休み下さいませ」
どうやら、私の意図せぬところで電池切れを起こしたらしい。あぁ、ララさんって以外と力持ち。
「おやすみなさぁ…」
最後まで言うことは叶わず…私の意識は沈んでいった。
♢
「復活!」
ジャンッとベッドに立ち上がり、両腕を上げる。
(起きたか。ぐっすり寝ていたな)
「うん。大人の感覚でいたけど、やっぱり子供の身体は燃費悪いにぇ。ダルかったのは、疲れが溜まってたんだにぇ。今はスッキリしてるよ!」
両腕を動かし、元気アピールをかかさない。
(元気になったのなら重畳。夕方まではもう少しあるが、どうする?)
「う~ん…目下にょ悩みは、エイルさんにどうやって打ち明けるかなんだよにぇ」
(…あぁ。あのガイア様の手紙の依頼か)
「うん。今はメダルの鑑定待ちで、お屋敷に逗留出来てるけどさ」
(鑑定の猶予は三日から一週間だ。その間に、時間を貰うしかあるまい)
「そうだよにぇ。話があると言って、聞いてもらうしかにゃいよにぇ」
よし…と腹を括る私に、ジョウは話を続ける。
(ガイア様がエイルから学べと言ったのは、ミオをフォローする気満々だからな。エイルへは、その対価に加護の付与を示した。聖域への出入りが自由に出来るとあれば、奴は両手を上げて喜ぶさ)
私はジョウの話を聞いて、「それでだったにょかぁ」と天井を仰ぎながら呟いた。
(なにがだ?)
ジョウは、なんだかとっても不思議そうに聞いてくる。つぶらな金の瞳が可愛らしい。
「ガイア様が手紙を寄越した時に、エイルさんは私にょ世話をするだけで貰えるにょって疑問に思ったんだよにぇ」
(ガイ ア様は、その先も考えていると思う)
「どういうこと?」
ジョウの答えに、私は首を傾げる。話がさっぱり見えないからだ。
(考えてもみろ。人権というものが確立していない中世の異世界だぞ?後ろ盾もなにも持たない四歳児が、ある日いきなりポーションを売りに行っても、追い返されるのが目に見えている。それどころか、その稀有な力に目をつけた欲深い奴に捕まって、監禁される未来しか見えん)
「いやぁ~」
ジョウの妄想だが、大いに現実味のある話に、私はムンクの叫びを披露する。
(ガイア様は、自分のミスで調薬釜を作ってしまったばっかりに、ミオに余計な迷惑がかかることを憂いた。だから、ミオが相手をすべき面倒な事柄の全てを引き受け守る対価として、エイルに加護を授けると仰った。まぁ、ガイア様が断言したわけではないから、我輩の想像論に過ぎんがな。ミオがのびのびと異世界で暮らすために、ガイア様が取り図ってくださっていることは感謝せねばならんぞ)
「そうだにぇ」
ガイア様の手紙の提案は、なにもかも私の為だったのだ。私はガイア様に「調薬釜をありがとうございます。大切に使わせていただきます」と心の中で深く感謝した。
「ただ……エイルさんにょ研究時間を割くにょは心苦しいにゃ。研究室に引きこもるほど、研究が大好きにゃんだろうし」
私が眉尻を下げ、エイルさんに告げるべきか悩んでいると、ジョウはその背中を押してくれる。
(なに。時間の融通を利かせてほしいと頼むのはこちらだ。あちらは、都合がいい時間帯を提示すればいい話。これは、ガイア様とエイルの目的が一致したwin-winの提案なのだ。そう臆す必要はない)
「良いのかにゃ、そんにゃ考えで」
(大丈夫だ。とにかく、エイルに話さんことには始まらん。奴に時間を作ってもらえ)
「はぁい」
私が渋々納得すれば、扉をノックする音が響いた。
「ミオ様。起きておられますか?夕食のお時間です。お迎えに上がりました」
「ララさん!起きてますよ」
ララさんの声に、私はベッドから飛び降りて扉に向かった。
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