追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第22話 精霊王の言葉とフェアリーダンス

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 チュンチュン

 小鳥のさえずりと朝の光に目を覚ます。

 思い出すのは――昨夜の精霊王様からの伝言。
 それは今後、私が認めた者に限って森への立ち入りを許可する、というものだった。

 ……正直、そんなめんど――大事な役目を押し付けられても困るんだけど。
 でも、この前こっそり許可した件について怒ってないってことだよね? 事後的になるけども、結果オーライというやつだ。

 それともう一つ……

「おっはようございます、リリアナ様」

「おはよう、ティンカ。それと『様』はつけなくていいから」

 私は目の前で透明な羽をきらめかせる小妖精フェアリーに挨拶を返す。

「そうはいきません!あたしはリリアナ様に仕えるように言われてるんですから」

 精霊王様のもう一つの言葉、それはこの小妖精フェアリーを従者としてつける、と言うことだった。

 彼女達、小妖精には名前がないというので、ティンカという名前を贈った。元ネタはもちろんピーターパンに出てくる妖精ティンカーベルだ。

 ……相変わらず、我ながら安直だと思う。

 朝の支度をしながら、私は気になっていたことを尋ねる。

「ねぇ、ティンカ。あなた達って服とか着ないの?」

「はい、あたし達には服を着る習慣はないですね。飛ぶのに邪魔になりますから。偉い方は着ることもありますけど、あくまで装飾品として薄衣を纏う程度ですね」

 ……そうなのか。文化の違いかな? 恥ずかしいって感覚は、そもそもないんだろうなぁ。

「さすがにその姿のまま連れ回すわけには行かないんだけど……」

「それなら大丈夫……です! 普通の人には見えないようにできるから!」

 なるほど、それは便利だ。
 そもそも小妖精ってだけで注目の的になる。
 ……それはそうと、口調が砕けてきてますよ、お嬢さん。

「おはようリリアナ、ティンカ」

 ロゼが起きてきて挨拶する。

「おはようロゼ」
「ロゼさんおはようです」

 ティンカは嬉しそうにロゼの周りをひらひらと飛び回った。

「どうかした?」

「いえ、なんだか近しい方がいるのがうれしくって」

「近しい方?」

 思わず手を止めて問い返す。

「うん、ロゼさんは『人形精霊』だよね」

 ……『人形精霊』、また初めての言葉だ。

「『人形精霊』って?」

「想いの宿った人形から産まれた精霊の事だ、ですよ」

 ――ほうほう。向こうの世界で言う“付喪神”みたいなものかな?

「……私って、そういうものだったんだ」

 ロゼは初めて知ったように、ぽつりと呟いた。
 ……って、自分のことなのに把握してなかったの、この子!?

「おはようございます」
「キュキュゥ」

 そうこうしていると、ミミィともふぞーも起き出してきた。
 おっと、そろそろ朝ごはんの支度に戻らないとね。
 ロゼも慌てて空き瓶の回収に向かう。

 ほどなく、食卓に朝食が並び、みんなが椅子につく。
 小鳥たちも窓辺に置かれた皿上のパン屑をついばみ始めた。

「これが人間の食事なんだね。うん、おいしい」

 ティンカはすっかりと砕けた口調で、もぐもぐと頬を膨らませる。

「ティンカ達は普段なにたべてるの?」

「大体、樹の実だね。あんま食べなくても大丈夫だけど」

 こうして新たな仲間を迎えた食卓は、にぎやかに過ぎていった。

 ――アリサちゃんには、どうしようか?
 早めに紹介しておいたほうが、後々面倒がないかもしれないなぁ。


 賑やかな朝の時間が終わり、私はポーションの補充と、アリサちゃんの迎えのため雑貨屋へと向かった。
 「自分は私の御付きだから」とティンカも当然のようについてくる。

「村ではフードの中に入っててね。もし変な人に見つかったら、捕まったり……最悪、殺されちゃうかもしれないから」

 小妖精フェアリーは“希少モンスター”扱いだ。だからこそ、狙われることもあり得る。……気をつけないとね。

「わかってるって。……人間って怖いね」

「村の人たちは良い人ばかりだから大丈夫だと思うけど、念のためにね」

 ティンカは光の玉となり、さらに不可視化してフードの中へ潜り込んだ。

 そうこう話しながら歩くうちに、雑貨屋へと到着する。

「こんにちはー」

「いらっしゃい」
「おねーちゃん、こんにちは!」

 雑貨屋の扉をくぐると、アリサちゃんは今日も元気に出迎えてくれた。

「この子が、リリアナ様のお弟子さんかぁ」

 屋敷へ戻る道すがら、首元でティンカが小声で囁いた。

「あとでちゃんと紹介してあげるから」

「おねーちゃん、何ぶつぶつ言ってるの?」

「なんでもないよー」


 * * *

「アリサちゃん、これから見ることは……誰にも言っちゃだめだよ。私たちとの秘密、守れるかな?」

「……うん」

 小首をかしげながらも、アリサちゃんはしっかりと頷いた。

「ティンカ、出てきていいよ」

 呼びかけると、私の背中から光の粒が舞い散り、くるくると回転しながらティンカが現れる。
 ……その演出、必要?

「わぁ……」

 アリサちゃんは小妖精フェアリーの姿を目にした瞬間、瞳をキラキラと輝かせた。

「はじめまして、ティンカだよ!」

「……あ、はじめまして。アリサです」

「この子はティンカ。私の新しい家族だよ」

「すごい……! 妖精さんと家族になれるなんて、おねーちゃんやっぱりすごいです!」

 ……いや、私は別にすごくないけどね。精霊王様に押し付けられただけだし。

「小妖精って、初めて見ました……」

 それはまあ、“希少レア”だからね。普段は森の奥に潜んでいて、滅多に人前に姿を見せないし。

「いぇい、いぇーい♪」

 ティンカはアリサちゃんの反応に気を良くしたのか、両手を振りながら、くねくねと奇妙なダンスを披露する。
 ――これがフェアリーダンスってやつなのかな? ……なんか、思ってたのと違うけど。

「それじゃあ、ティンカの紹介はこのくらいにして、そろそろ今日の授業始めようか」

「はい! よろしくお願いします!」


 * * *

「……ふぅ」

 泉の水に身を浸すと、一日の疲れがとれていく。
 今日はなんだか疲れた。

 人間の暮らしが珍しいのか、ティンカは興味津々といった様子で、私たちがやることを片っ端から質問して回っていたのだ。
 ……いや、質問攻めというか、もはや尋問レベルだった。

「ねぇねぇリリアナ、この棒は何? これは何をやってるの? あ、こっちの入れ物は?」

 ひらひらと家の中を飛び回っては私やアリサちゃん、みんなのやることを聞いて回るティンカ。

「ティンカ、ちょっとおとなしくしてて……」

「キュキュゥ!」

「ちょっ!? あ、もふもふ……気持ち、いいけど、……動けない」

 もふぞーが取り押さえることで、ようやく静かになったのだった。

 ……でも、賑やかなのも案外悪くないかもね。
 アリサちゃんやみんなとも仲良くなったし、特にもふぞーのもふもふはすっかりお気に入りらしい。
 今もロゼやミミィ、もふぞーと水遊びを楽しんでいる。

 その様子を眺めながら思う。
 ――今度はアリサちゃんも、この泉に招いてみようかな。
 もしかしたら、聖女としての力が目覚めるきっかけになるかもしれない。

 そんなことを考えていると、もふぞーが水面をプカプカと私を誘いに来た。

 ――もうちょっとだけゆっくりさせてね、もふぞー。
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。
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