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第一章 命ある概念達
第4話 夢の部屋の廊下
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「・・・・・・るな・・・・・・と・・・・・・、・・・・・・プロミ・・・・・・は・・・・・・」
「・・・・・・わかっ・・・・・・れ・・・・・・すれば・・・・・・」
どこからか声が聞こえる。
誰かがなにやら会話をしている様な声だ。
というか、僕はどうなったのだろうか? 部屋でユスティの話を聞いていたら、なぜか眠気が来て、それから・・・・・・。
考えが上手くまとまらない。さっきから頭がボーッとする・・・・・・。
「・・・・・・しさ、・・・・・・れたその能力で“夢”の概念を・・・・・・取れば、“あの人間”の“悪夢”は取り除いてやる」
さっきの声はまだ聞こえてきている。
最初は聞こえ辛かったが、徐々にハッキリと聞こえてきた。
「・・・・・・わかった、やくそくだからね、やぶったりしたらゆるさないんだからっ!」
「“許さない”? フン・・・・・・まだ随分と強気じゃないか? お前こそ、逃げたりするんじゃないぞ? 『生ける概念《ホムンクルス》』製造第三世代、No.7。“夢を与えられしモノ”よ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うーん・・・・・・ハッ!? なんだ今のは!?」
目が覚めた、というより意識を取り戻した。
あれからどれぐらいの時間が経っただろうか?
まさか、立ったまま寝落ちする日が来るとは、夢にも思わなかった。
それにしても、なんだったんだ? さっきのは・・・・・・?
一方は、少し圧力のある男の声で。もう一方は、幼さのある女の子の声に聞こえた様な気がする。
いや、そんなことは正直今はどうでもいい。
さっきまでは眠くて、直前まで頭が回らなかったが、明らかにおかしい。
マロムと戦っていたユスティや謎の疲労を感じていた僕ならまだしも。
普通に家で過ごしていたであろうサヨリにまで急に睡魔が来るなんて絶対におかしい。
とりあえず、どれぐらいの時間寝ていたのか調べようと、自分の部屋にかけてある掛け時計のあるであろう方向に目を向けようとした。
しかし。
「ん!? な、なんだここ!? “僕の部屋じゃないぞ”!?」
意識を取り戻した僕の目の前に広がっていたのは、信じられない光景だった。
さっきまで僕は自分の部屋にいたはずが、いつの間にか、周りが薄いピンク色(色味としてはどちらかというとやや桜色に近い色)のモヤか雲のようなものが辺り一面に広がっていた。
そして、その周りにフワフワと浮き漂うぬいぐるみや積み木などのオモチャ。
ベットや枕といった寝具。
可愛らしい装飾のケーキやお菓子。
色んな色のクレヨンや色鉛筆。
なんともメルヘンというか、カオスというか、現実離れしているというか。
とにかく、今僕はそんな場所に――いや、そんな世界にいる。
「一体何が・・・・・・まさか!? あの世じゃないだろうな!? 僕今年で16になるけどまだ見たい貯め録アニメもたくさんあったんだぞ!?」
なんて感じに声に出して数秒パニクっていると、ふと、あることに気がついた。
「って、サヨリ? ユスティ?」
もしかして・・・・・・誰もいないのか?
そう、“誰もいなかった”。
正確には“自分以外の人や生き物”がいない、気配が全くしないという感じだった。
さっきフラスコに入って寝たユスティも、いつの間にか倒れて寝ていたサヨリも、誰もいない。
あるといえば自分と、周りを漂っている、ヘンテコなモノぐらいだった。
「・・・・・・さ、サヨリ? ユスティ?」
もう一度2人の名前を呼んでみたが、返事はおろか反響音すらしない。
自分の置かれている状況が少しづつ怖くなってきた。
目が覚めたら、いきなり変な場所に自分がいて。
他に誰もいない状況を想像したら分かると思うけど、本っ当に怖くてたまらない!
心臓の鼓動も速くなってきた。
依然僕の周りには、ヘンテコな空間が広がっている。
それにしても変な場所だ・・・・・・明らかに床も何もないように見えるのに、立ったり歩いたりできる。
しかも、この見えない床(?)の下にも同じような景色があるので。まるで高い建物によくある透明なガラス床を歩いているような気分になる。
とりあえず僕は、今よりマシになるだろう、マシになって欲しいという願望のもと、この謎の空間をしばらく探索してみることにした。
右に行ったり、左に行ったり。
来た道を戻ったり、とりあえず、あちこち探索してみた。
といっても、どれだけ進んでも同じような景色が広がっているだけで、状況は何一つ変わらなかった。
「それにしても、なんかここ、たまに見るとびきり変な夢みたいだな・・・・・・しかも後味の悪い方」
ん? 待てよ・・・・・・“夢”?
そうだ、あまりに現実離れした光景や、パニックになっていたことに気を取られて、普通なら真っ先に疑うべきことに気がつかなかった。
夢なのか? というか、そもそも夢の中で、夢を見ているって普通は気づけないような気がするけど。
でも確かに、こんなヘンテコな世界。夢か幻覚のせいとしか考えられない。
「・・・・・・と、とりあえず。確かめてみよう」
夢か現実か確かめるための、一番古典的で、一番確実で、唯一の方法。それはつまり“頬をつねる”こと。
正直なところ、咄嗟に思いつたのがこれしかなかった。
「よし、んん!」
僕が自分の頬を思いっきりつねろうとしたその時だった。
「・・・・・・ム・・・・・・シムー! どこですか? シムー!」
すごく聞き覚えのある声がした。
ふと、声の方向へ目を向けると、そこにはなんと、浮遊しながら僕の名前を叫んでいるユスティがいたのだ。
「ユスティ!?」
良かった助かった。
自分以外に人が、というか誰かがいるということに、こんなにも安心感を覚える日が来るとは思わなかった。
「あっ! シム! やっと見つけました!」
ユスティもこちらに気づき、そのまま浮遊しながらこっちに来てくれた。
「すいません、“眠気”が来た時点で気づくべきでした! というより、もっと疑問に思うべきでした」
「ん? ユスティ、もしかして何か知ってるのか?」
何やらユスティが、事情を知っていそうな感じの言葉を言ったので、僕はたずねてみるとユスティは答えた。
「知ってるもなにも、ここは私と同じ『生ける概念《ホムンクルス》』の内の一体、『夢《ソムニウム》』が使う『概念領域《フィールド》』です」
「えぇ!? こ、これ『生ける概念《ホムンクルス》』のしわざなのか!?」
「はい。どういう理由で『概念領域《フィールド》』を展開しているのか分かりませんが、“彼女”もすでに目覚めていたとは・・・・・・」
すごく驚いた・・・・・・しかし、よくよく考えると確かに、その可能性を考えつかなかったのは節穴だった。
というか、普通考えつくハズがない。
「私と同じ第三世代、第七番『夢《ソムニウム》』“夢”の概念を与えられた個体です。そしてここは、彼女が使う『夢の扉』の中。いわば、『夢の部屋の廊下』」
「ゆ、夢?」
やはり信じられない。確かにもしやとは思ったが、まさか本当に夢とは。
ん? 待てよ? それじゃあ頬をつねったら痛くないのか?
そう思い、試しに右手で右の頬をグニッ! と、つねってみると。
「――痛。あれ? 痛いぞ!? 夢なのに!?」
普通に痛みがあった。
「当たり前じゃないですか、今シムは私の『約束者《プロミスト》』つまりは、“ホムンクルスの関係者”という扱いになっているんですよ。恐らく、それで『概念領域《フィールド》』の影響が少ないのでしょう」
そして、痛がる僕を少しだけ呆れた様子で見ながら、ユスティが説明をしてくれた。
どうやら僕は、ユスティの『約束者《プロミスト》』になった事で『夢の扉』の影響を完全には受けずに、意識や感覚もそのままこの世界に連れて来れたらしい。
相変わらず難しい話だけど・・・・・・。
「というか、サラッと言ってたけど『夢の扉』とか『夢の部屋の廊下』とかってなんなんだ?」
つい気になったので、ユスティにふと聞いてみた。
「『夢《ソムニウム》』本人いわく、人の夢はそれぞれ扉を通じて出入りできるらしく。扉の先には、廊下が広がっていて、そのさらに先に『夢の部屋』がある、らしいです」
「・・・・・・“らしい”?」
「はい。正直なところ、この場所はただでさえ謎だらけで――私も、そして彼女自身さえも、ここについて多くは知らないんです」
なんか、ぶっ飛んでるというか、なんというか。
それにしても、ホムンクルスって皆んなこんな人智を超えた芸当ができるのか・・・・・・?
変な空間作ったり、空飛んだり、オーラ飛ばしたり。そして、とうとう『夢の扉』と来た。
いや、そんなことよりも。今はこの状況をなんとかしないと。
もしも、『夢《ソムニウム》』とかいうホムンクルスが、マロムみたいな奴だったらたまったモンじゃない。
「な、なぁユスティ? この“夢から覚める方法”、もしくは“出口”みたいなやつってないのか?」
「出口自体はあるにはありますが、普段と様子が違います。目立つ所にいつもはあるのハズなので、さっきから探してるんですが――」
どうやら、普段はソムニウムが『出口』なるモノをあらかじめ作っているらしい。
しかしどうやら、見当たらなかったらしい。
「どうも彼女らしくありません。この『概念領域《フィールド》』は出口がなきゃ“彼女自身も出られない”のに、どうして?」
「え? そうなの!?」
出口がないと夢から覚めないなら、割と今の状況ヤバイのでは? ほぼ閉じ込められたも同然だし、一体どうすれば?
それはそうと、とりあえずユスティとは会えたが、先に寝落ちしたはずのサヨリはどこにいるんだろう?
僕みたいにパニックになってなきゃいいけど。
その後、ユスティは出口を探しつつ僕に『夢の部屋の廊下』を案内してくれた。
道中は相変わらずで、もはや新鮮さがないけど。
ユスティに聞いたところ、夢の部屋はその持ち主それぞれの意識イメージの空間になっているらしく。
それと、この廊下の景色は『夢《ソムニウム》』のイメージによるものらしい。
それにしても、廊下といわれても信じられないぐらい広い。右も左も、上も下も、まるで無限に続いているみたいに。
もっと正しくいうと、壁や床や天井のようなものが一切見えない。
そして、相変わらず立つことはできるし、歩くことも走ることもできる。
なんか、透明なガラス板の上に乗ってるみたいだ。
ちなみに、ユスティになぜ飛べるのか聞いたところ、『飛びたいと思ったら飛べた』と言われた。
今更だけど、なんて都合の良い・・・・・・。
そんなこんなで、しばらく2人で彷徨っていると。
「ん? ああ! シム、あれを!」
彼女が何かに気がつき、それがあるであろう方向を指さした。
「ん? なんだ? どうし、え?」
ユスティが指をさした方向を向くと、なぜか“扉だけ”がポツンとあった。
「あれ? なんか、あの扉、どっかで?」
なぜかは分からないが、どこか見覚えのある扉だった。
興味本位で、近づき見てみると。見覚えの正体が一目瞭然で分かった。
「――って、これ! “家の扉”だ、しかも“サヨリの部屋”のやつ! でも、なんで?」
扉にかかった『SAYORI』のローマ字が書かれた看板。
間違いない、サヨリの部屋の扉だ。
と言う事は、やっぱりあいつも来てたのか?
「恐らく、これが彼女の『夢の部屋』の入り口なんでしょう。形状のモデルは多分、彼女の中で一番“扉としてイメージしやすい扉”、なんじゃないでしょうか?」
ユスティが、少し解説っぽく言ってくれた。
とりあえず、サヨリはここに居ると見て間違いなさそうだ。
しかし、ここまでの道中に出口らしい出口は、見当たらなかった。
となると、他に調べられそうな所は・・・・・・。
「・・・・・・ユスティ? コレって開ける時、鍵とか必要なのか?」
僕がそう聞くと、ユスティは答えた。
「多分、大丈夫ですよ。よっぽどの事がない限り、ソムニウムは鍵をかけませんから――って、もしかして覗く気でいます?」
そして、おおかた予想通りの返答を返してきた。
「ち、違うぞ! “覗く”じゃなくて、“調べる”だからな!」
「だとしても、良くないですよ! 女の子の夢を勝手に覗きこむなんて!」
確かにちょっと気がひけるけど、他に調べられそうな所が無いし。
というか、あいつだって人の貯め撮りアニメ勝手に消そうとするし・・・・・・これぐらいやってもバチは当たらないだろう。
僕はそんな、割と最低な思考で扉を開けようとドアノブに手をかけた。
しかし、手元を見ない癖のせいか、なぜか空振ってしまった。
気を取り直して、今度は手元を見てドアノブに手をかけようとした・・・・・・が。
「ん? あれっ? おかしいな? さっきまで確かにドアノブがついて――」
そう、さっきまであったはずのドアノブが、まるで取り外されたみたいに“無くなっていた”。
しかも、それだけじゃない・・・・・・。
よく見ると“扉全体”がまるで、美術の授業で使ったあと、水道の水で洗ったパレットの絵の具みたいに。
ポロポロと空間から剥がれて“消えてしまった”。
「え? えっ!? 消えた!? ど、どうして!? というか、どうなって!?」
「どういうことでしょうか? 夢から覚めたのか、それとも――」
話の途中でユスティが僕の方を見ながら。正確には僕の後ろ、つまり消えた扉の方を見ながらボーっとして黙りこんでしまった。
何かあるのかと思い、思わず後ろを振り返ったその瞬間、僕はユスティと同じく言葉が出なくなってしまった。
言葉を失った理由は単純明確。僕もユスティも、目の前に突然現れた“それ”に、意識が釘付けにされたからだ。
「ふ、袋?」
「・・・・・・袋、ですよね?」
なんと、先ほどまで扉があったであろう場所に、パンパンに膨らんでいる“袋”が、一つだけポツンとあったのだ。
大きさは、身長が大体170cmぐらいある僕がしゃがめば、すっぽり入ってしまうぐらいで。
イメージ的には、サンタクロースが持っていそうな感じの袋だ。
しかも、ただポツンとあるだけならまだしも。
「・・・・・・っしょ! うんしょ! うんしょ! うんしょ!」
その袋は、掛け声をかけながら、モゾモゾと明らかに動いていた。
というより、“何かに引きずられている”ように見えた。
怪しい。いや、明らかに怪しすぎる。
あいにく、袋は僕らからみて後ろ向きなので、袋を持っているモノの正体はわからないが。
誰か・・・・・・というより、何かいるのは間違いない。
「うんしょ! うんしょ! あふぅぅぅ・・・・・・」
すると、袋を引きずっていたモノが気が抜けたみたいな声と共に、横にゴロンと倒れて脱力した。
そして、そのモノの正体を見た瞬間。今までの疑問や不思議などが、一瞬頭からすっぽ抜けるほどの衝撃が走った。
「・・・・・・わかっ・・・・・・れ・・・・・・すれば・・・・・・」
どこからか声が聞こえる。
誰かがなにやら会話をしている様な声だ。
というか、僕はどうなったのだろうか? 部屋でユスティの話を聞いていたら、なぜか眠気が来て、それから・・・・・・。
考えが上手くまとまらない。さっきから頭がボーッとする・・・・・・。
「・・・・・・しさ、・・・・・・れたその能力で“夢”の概念を・・・・・・取れば、“あの人間”の“悪夢”は取り除いてやる」
さっきの声はまだ聞こえてきている。
最初は聞こえ辛かったが、徐々にハッキリと聞こえてきた。
「・・・・・・わかった、やくそくだからね、やぶったりしたらゆるさないんだからっ!」
「“許さない”? フン・・・・・・まだ随分と強気じゃないか? お前こそ、逃げたりするんじゃないぞ? 『生ける概念《ホムンクルス》』製造第三世代、No.7。“夢を与えられしモノ”よ」
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「うーん・・・・・・ハッ!? なんだ今のは!?」
目が覚めた、というより意識を取り戻した。
あれからどれぐらいの時間が経っただろうか?
まさか、立ったまま寝落ちする日が来るとは、夢にも思わなかった。
それにしても、なんだったんだ? さっきのは・・・・・・?
一方は、少し圧力のある男の声で。もう一方は、幼さのある女の子の声に聞こえた様な気がする。
いや、そんなことは正直今はどうでもいい。
さっきまでは眠くて、直前まで頭が回らなかったが、明らかにおかしい。
マロムと戦っていたユスティや謎の疲労を感じていた僕ならまだしも。
普通に家で過ごしていたであろうサヨリにまで急に睡魔が来るなんて絶対におかしい。
とりあえず、どれぐらいの時間寝ていたのか調べようと、自分の部屋にかけてある掛け時計のあるであろう方向に目を向けようとした。
しかし。
「ん!? な、なんだここ!? “僕の部屋じゃないぞ”!?」
意識を取り戻した僕の目の前に広がっていたのは、信じられない光景だった。
さっきまで僕は自分の部屋にいたはずが、いつの間にか、周りが薄いピンク色(色味としてはどちらかというとやや桜色に近い色)のモヤか雲のようなものが辺り一面に広がっていた。
そして、その周りにフワフワと浮き漂うぬいぐるみや積み木などのオモチャ。
ベットや枕といった寝具。
可愛らしい装飾のケーキやお菓子。
色んな色のクレヨンや色鉛筆。
なんともメルヘンというか、カオスというか、現実離れしているというか。
とにかく、今僕はそんな場所に――いや、そんな世界にいる。
「一体何が・・・・・・まさか!? あの世じゃないだろうな!? 僕今年で16になるけどまだ見たい貯め録アニメもたくさんあったんだぞ!?」
なんて感じに声に出して数秒パニクっていると、ふと、あることに気がついた。
「って、サヨリ? ユスティ?」
もしかして・・・・・・誰もいないのか?
そう、“誰もいなかった”。
正確には“自分以外の人や生き物”がいない、気配が全くしないという感じだった。
さっきフラスコに入って寝たユスティも、いつの間にか倒れて寝ていたサヨリも、誰もいない。
あるといえば自分と、周りを漂っている、ヘンテコなモノぐらいだった。
「・・・・・・さ、サヨリ? ユスティ?」
もう一度2人の名前を呼んでみたが、返事はおろか反響音すらしない。
自分の置かれている状況が少しづつ怖くなってきた。
目が覚めたら、いきなり変な場所に自分がいて。
他に誰もいない状況を想像したら分かると思うけど、本っ当に怖くてたまらない!
心臓の鼓動も速くなってきた。
依然僕の周りには、ヘンテコな空間が広がっている。
それにしても変な場所だ・・・・・・明らかに床も何もないように見えるのに、立ったり歩いたりできる。
しかも、この見えない床(?)の下にも同じような景色があるので。まるで高い建物によくある透明なガラス床を歩いているような気分になる。
とりあえず僕は、今よりマシになるだろう、マシになって欲しいという願望のもと、この謎の空間をしばらく探索してみることにした。
右に行ったり、左に行ったり。
来た道を戻ったり、とりあえず、あちこち探索してみた。
といっても、どれだけ進んでも同じような景色が広がっているだけで、状況は何一つ変わらなかった。
「それにしても、なんかここ、たまに見るとびきり変な夢みたいだな・・・・・・しかも後味の悪い方」
ん? 待てよ・・・・・・“夢”?
そうだ、あまりに現実離れした光景や、パニックになっていたことに気を取られて、普通なら真っ先に疑うべきことに気がつかなかった。
夢なのか? というか、そもそも夢の中で、夢を見ているって普通は気づけないような気がするけど。
でも確かに、こんなヘンテコな世界。夢か幻覚のせいとしか考えられない。
「・・・・・・と、とりあえず。確かめてみよう」
夢か現実か確かめるための、一番古典的で、一番確実で、唯一の方法。それはつまり“頬をつねる”こと。
正直なところ、咄嗟に思いつたのがこれしかなかった。
「よし、んん!」
僕が自分の頬を思いっきりつねろうとしたその時だった。
「・・・・・・ム・・・・・・シムー! どこですか? シムー!」
すごく聞き覚えのある声がした。
ふと、声の方向へ目を向けると、そこにはなんと、浮遊しながら僕の名前を叫んでいるユスティがいたのだ。
「ユスティ!?」
良かった助かった。
自分以外に人が、というか誰かがいるということに、こんなにも安心感を覚える日が来るとは思わなかった。
「あっ! シム! やっと見つけました!」
ユスティもこちらに気づき、そのまま浮遊しながらこっちに来てくれた。
「すいません、“眠気”が来た時点で気づくべきでした! というより、もっと疑問に思うべきでした」
「ん? ユスティ、もしかして何か知ってるのか?」
何やらユスティが、事情を知っていそうな感じの言葉を言ったので、僕はたずねてみるとユスティは答えた。
「知ってるもなにも、ここは私と同じ『生ける概念《ホムンクルス》』の内の一体、『夢《ソムニウム》』が使う『概念領域《フィールド》』です」
「えぇ!? こ、これ『生ける概念《ホムンクルス》』のしわざなのか!?」
「はい。どういう理由で『概念領域《フィールド》』を展開しているのか分かりませんが、“彼女”もすでに目覚めていたとは・・・・・・」
すごく驚いた・・・・・・しかし、よくよく考えると確かに、その可能性を考えつかなかったのは節穴だった。
というか、普通考えつくハズがない。
「私と同じ第三世代、第七番『夢《ソムニウム》』“夢”の概念を与えられた個体です。そしてここは、彼女が使う『夢の扉』の中。いわば、『夢の部屋の廊下』」
「ゆ、夢?」
やはり信じられない。確かにもしやとは思ったが、まさか本当に夢とは。
ん? 待てよ? それじゃあ頬をつねったら痛くないのか?
そう思い、試しに右手で右の頬をグニッ! と、つねってみると。
「――痛。あれ? 痛いぞ!? 夢なのに!?」
普通に痛みがあった。
「当たり前じゃないですか、今シムは私の『約束者《プロミスト》』つまりは、“ホムンクルスの関係者”という扱いになっているんですよ。恐らく、それで『概念領域《フィールド》』の影響が少ないのでしょう」
そして、痛がる僕を少しだけ呆れた様子で見ながら、ユスティが説明をしてくれた。
どうやら僕は、ユスティの『約束者《プロミスト》』になった事で『夢の扉』の影響を完全には受けずに、意識や感覚もそのままこの世界に連れて来れたらしい。
相変わらず難しい話だけど・・・・・・。
「というか、サラッと言ってたけど『夢の扉』とか『夢の部屋の廊下』とかってなんなんだ?」
つい気になったので、ユスティにふと聞いてみた。
「『夢《ソムニウム》』本人いわく、人の夢はそれぞれ扉を通じて出入りできるらしく。扉の先には、廊下が広がっていて、そのさらに先に『夢の部屋』がある、らしいです」
「・・・・・・“らしい”?」
「はい。正直なところ、この場所はただでさえ謎だらけで――私も、そして彼女自身さえも、ここについて多くは知らないんです」
なんか、ぶっ飛んでるというか、なんというか。
それにしても、ホムンクルスって皆んなこんな人智を超えた芸当ができるのか・・・・・・?
変な空間作ったり、空飛んだり、オーラ飛ばしたり。そして、とうとう『夢の扉』と来た。
いや、そんなことよりも。今はこの状況をなんとかしないと。
もしも、『夢《ソムニウム》』とかいうホムンクルスが、マロムみたいな奴だったらたまったモンじゃない。
「な、なぁユスティ? この“夢から覚める方法”、もしくは“出口”みたいなやつってないのか?」
「出口自体はあるにはありますが、普段と様子が違います。目立つ所にいつもはあるのハズなので、さっきから探してるんですが――」
どうやら、普段はソムニウムが『出口』なるモノをあらかじめ作っているらしい。
しかしどうやら、見当たらなかったらしい。
「どうも彼女らしくありません。この『概念領域《フィールド》』は出口がなきゃ“彼女自身も出られない”のに、どうして?」
「え? そうなの!?」
出口がないと夢から覚めないなら、割と今の状況ヤバイのでは? ほぼ閉じ込められたも同然だし、一体どうすれば?
それはそうと、とりあえずユスティとは会えたが、先に寝落ちしたはずのサヨリはどこにいるんだろう?
僕みたいにパニックになってなきゃいいけど。
その後、ユスティは出口を探しつつ僕に『夢の部屋の廊下』を案内してくれた。
道中は相変わらずで、もはや新鮮さがないけど。
ユスティに聞いたところ、夢の部屋はその持ち主それぞれの意識イメージの空間になっているらしく。
それと、この廊下の景色は『夢《ソムニウム》』のイメージによるものらしい。
それにしても、廊下といわれても信じられないぐらい広い。右も左も、上も下も、まるで無限に続いているみたいに。
もっと正しくいうと、壁や床や天井のようなものが一切見えない。
そして、相変わらず立つことはできるし、歩くことも走ることもできる。
なんか、透明なガラス板の上に乗ってるみたいだ。
ちなみに、ユスティになぜ飛べるのか聞いたところ、『飛びたいと思ったら飛べた』と言われた。
今更だけど、なんて都合の良い・・・・・・。
そんなこんなで、しばらく2人で彷徨っていると。
「ん? ああ! シム、あれを!」
彼女が何かに気がつき、それがあるであろう方向を指さした。
「ん? なんだ? どうし、え?」
ユスティが指をさした方向を向くと、なぜか“扉だけ”がポツンとあった。
「あれ? なんか、あの扉、どっかで?」
なぜかは分からないが、どこか見覚えのある扉だった。
興味本位で、近づき見てみると。見覚えの正体が一目瞭然で分かった。
「――って、これ! “家の扉”だ、しかも“サヨリの部屋”のやつ! でも、なんで?」
扉にかかった『SAYORI』のローマ字が書かれた看板。
間違いない、サヨリの部屋の扉だ。
と言う事は、やっぱりあいつも来てたのか?
「恐らく、これが彼女の『夢の部屋』の入り口なんでしょう。形状のモデルは多分、彼女の中で一番“扉としてイメージしやすい扉”、なんじゃないでしょうか?」
ユスティが、少し解説っぽく言ってくれた。
とりあえず、サヨリはここに居ると見て間違いなさそうだ。
しかし、ここまでの道中に出口らしい出口は、見当たらなかった。
となると、他に調べられそうな所は・・・・・・。
「・・・・・・ユスティ? コレって開ける時、鍵とか必要なのか?」
僕がそう聞くと、ユスティは答えた。
「多分、大丈夫ですよ。よっぽどの事がない限り、ソムニウムは鍵をかけませんから――って、もしかして覗く気でいます?」
そして、おおかた予想通りの返答を返してきた。
「ち、違うぞ! “覗く”じゃなくて、“調べる”だからな!」
「だとしても、良くないですよ! 女の子の夢を勝手に覗きこむなんて!」
確かにちょっと気がひけるけど、他に調べられそうな所が無いし。
というか、あいつだって人の貯め撮りアニメ勝手に消そうとするし・・・・・・これぐらいやってもバチは当たらないだろう。
僕はそんな、割と最低な思考で扉を開けようとドアノブに手をかけた。
しかし、手元を見ない癖のせいか、なぜか空振ってしまった。
気を取り直して、今度は手元を見てドアノブに手をかけようとした・・・・・・が。
「ん? あれっ? おかしいな? さっきまで確かにドアノブがついて――」
そう、さっきまであったはずのドアノブが、まるで取り外されたみたいに“無くなっていた”。
しかも、それだけじゃない・・・・・・。
よく見ると“扉全体”がまるで、美術の授業で使ったあと、水道の水で洗ったパレットの絵の具みたいに。
ポロポロと空間から剥がれて“消えてしまった”。
「え? えっ!? 消えた!? ど、どうして!? というか、どうなって!?」
「どういうことでしょうか? 夢から覚めたのか、それとも――」
話の途中でユスティが僕の方を見ながら。正確には僕の後ろ、つまり消えた扉の方を見ながらボーっとして黙りこんでしまった。
何かあるのかと思い、思わず後ろを振り返ったその瞬間、僕はユスティと同じく言葉が出なくなってしまった。
言葉を失った理由は単純明確。僕もユスティも、目の前に突然現れた“それ”に、意識が釘付けにされたからだ。
「ふ、袋?」
「・・・・・・袋、ですよね?」
なんと、先ほどまで扉があったであろう場所に、パンパンに膨らんでいる“袋”が、一つだけポツンとあったのだ。
大きさは、身長が大体170cmぐらいある僕がしゃがめば、すっぽり入ってしまうぐらいで。
イメージ的には、サンタクロースが持っていそうな感じの袋だ。
しかも、ただポツンとあるだけならまだしも。
「・・・・・・っしょ! うんしょ! うんしょ! うんしょ!」
その袋は、掛け声をかけながら、モゾモゾと明らかに動いていた。
というより、“何かに引きずられている”ように見えた。
怪しい。いや、明らかに怪しすぎる。
あいにく、袋は僕らからみて後ろ向きなので、袋を持っているモノの正体はわからないが。
誰か・・・・・・というより、何かいるのは間違いない。
「うんしょ! うんしょ! あふぅぅぅ・・・・・・」
すると、袋を引きずっていたモノが気が抜けたみたいな声と共に、横にゴロンと倒れて脱力した。
そして、そのモノの正体を見た瞬間。今までの疑問や不思議などが、一瞬頭からすっぽ抜けるほどの衝撃が走った。
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元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
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