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第一章 女子高生行方不明事件
第二十三話
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「えと、具体的に何を話せば?」
「まずはこれです」
明善はスマートフォンを取り出し、画面を沖田に見せる。画面には沖田の部屋で見つけた透明な筒が映っている。
「沖田さん、正直に答えてくださいね。これ、一体なんでしょうか? もしかして、何かしらの薬物じゃないんですか?」
「えっと……それは……」
沖田は黙って俯く。
「いいですか、沖田さん。保身のために嘘を吐くことは許されませんよ。後でわかることですから。虚偽の証言は自分の首を絞めるだけです。もし、嘘を吐いたら我々警察はあなたに対し、厳しい態度を取らなくてはなりません」
明善にそう諭された沖田はゆっくりと話をし始める。
今から一ヶ月半ほど前。深夜、夜食を買いにコンビニに行き、店から出たところで声をかけられた。声をかけてきたの西洋系の男。
「あなた、暗い顔をしているね。ちょっとお話しないかい? いい話があるんだ」
沖田は最初詐欺や宗教勧誘だと思った。なにより男の浮かべる笑みがどことなく薄気味悪く、これ以上関わりたくないと足早で去ろうとした。
「楽になりたくないかい? しがらみや苦しみから解放されたくないかい?」
後ろからのその言葉に、沖田は思わず足を止めてしまった。
苦しみからの解放?
長年家に引きこもり社会から距離を置いていた沖田は、最近になってようやく自立しようと一歩を踏み出した。同じ境遇の人々と交流したり、NPO法人主催のボランティアにも積極的に参加していた。
とある休日、街の美化活動に参加していた時だ。休憩時間でお茶を飲んでいた時、自分の名前を呼ぶ声。
「やあ、沖田じゃないか。久しぶりだな」
振り返ると、そこには高校時代親しかったクラスメイト。彼はスーツ姿。クラスメイトは高校卒業後地元の企業に就職し、それ以降交流が全くなかった。クラスメイトは営業で外回りをしており、沖田を見かけたので声をかけたのこと。話を聞くに彼は係長に出世しており、最近忙しいとのこと。
「沖田は最近、どうなんだ?」
「ま、まあ、頑張っているよ。ボランティアにも参加している」
引きこもりであることをはぐらかし、そう答えた。
クラスメイトは「すげーな。今度飲みに行こうぜ。じゃ、俺これから客に会うから」と言い、その場を去った。
沖田の胸には強い焦燥感。高校を卒業してからこの十年間で、クラスメイトとは大きな差がついてしまった。改めて自分が無為に過ごしてしまった時間の長さを思い知らされた。
それから沖田はまるで人生の遅れを取り戻すかのように、がむしゃらに物事に取り組んだ。これまで以上にボランティアにも熱心に取り組んだし、日雇いのアルバイトにも応募した。だが、気持ちが空回ってしまい、ミスを重ねてしまう。周りは特に咎めることなく温かく見守ってくれたが、沖田は自分自身を次第に卑下するようになる。なんで俺は上手くいかないのだろうか、と。
そんな時に男が声をかけてきたのである。
「楽に… …楽になれるのか?」
沖田の問いに男は口の端を歪めて答えた。
沖田はとある場所に連れて行かれ、そこであるものを男から渡された。
「それがリベレーションですね?」
「はい。粉の名前を男はそう言ってました」
男は初回サービスだと少量のリベレーションを無償でくれた。男が言うには、アロマの一種とのこと。家に帰った沖田は早速使用。男に教えられた通り、容器に入れた粉末を火で炙り、発生した煙を吸った。
するとだ。
今までに体験したことがない不思議な感覚に襲われた。体が空気に溶け、まるで重力から解放されたような浮遊感を得た。胸には幸福感、安心感が去来。脳には幼少期の楽しい思い出が蘇り、その時に戻ったかのようだった。体には力がみなぎり、気分が高揚。今ならなんでもできるような気がした。
だが、しばらくすると気分は沈んでいき倦怠感が訪れる。過去のトラウマがひっきりなしに襲ってきて、当時の辛さ、怒り、悲しみが蘇る。
もう一度、もう一度だ。あれを使いたい。
強烈な欲求に脳が支配され、気がつけばリベレーションを受け取った場所にいた。
「リベレーションが欲しくなりましたか?」
あの夜に声をかけてきた男がいつの間にか、目の前にいた。
沖田はその問いに何度もうなづいた。
その日以降、沖田はコンビニに行くふりをしては、夜な夜な取引現場に向かいリベレーションを購入した。そして、使用する回数を重ねて行くたびに、次第に精神的に不安定になり、暴れるようになった。
「まずはこれです」
明善はスマートフォンを取り出し、画面を沖田に見せる。画面には沖田の部屋で見つけた透明な筒が映っている。
「沖田さん、正直に答えてくださいね。これ、一体なんでしょうか? もしかして、何かしらの薬物じゃないんですか?」
「えっと……それは……」
沖田は黙って俯く。
「いいですか、沖田さん。保身のために嘘を吐くことは許されませんよ。後でわかることですから。虚偽の証言は自分の首を絞めるだけです。もし、嘘を吐いたら我々警察はあなたに対し、厳しい態度を取らなくてはなりません」
明善にそう諭された沖田はゆっくりと話をし始める。
今から一ヶ月半ほど前。深夜、夜食を買いにコンビニに行き、店から出たところで声をかけられた。声をかけてきたの西洋系の男。
「あなた、暗い顔をしているね。ちょっとお話しないかい? いい話があるんだ」
沖田は最初詐欺や宗教勧誘だと思った。なにより男の浮かべる笑みがどことなく薄気味悪く、これ以上関わりたくないと足早で去ろうとした。
「楽になりたくないかい? しがらみや苦しみから解放されたくないかい?」
後ろからのその言葉に、沖田は思わず足を止めてしまった。
苦しみからの解放?
長年家に引きこもり社会から距離を置いていた沖田は、最近になってようやく自立しようと一歩を踏み出した。同じ境遇の人々と交流したり、NPO法人主催のボランティアにも積極的に参加していた。
とある休日、街の美化活動に参加していた時だ。休憩時間でお茶を飲んでいた時、自分の名前を呼ぶ声。
「やあ、沖田じゃないか。久しぶりだな」
振り返ると、そこには高校時代親しかったクラスメイト。彼はスーツ姿。クラスメイトは高校卒業後地元の企業に就職し、それ以降交流が全くなかった。クラスメイトは営業で外回りをしており、沖田を見かけたので声をかけたのこと。話を聞くに彼は係長に出世しており、最近忙しいとのこと。
「沖田は最近、どうなんだ?」
「ま、まあ、頑張っているよ。ボランティアにも参加している」
引きこもりであることをはぐらかし、そう答えた。
クラスメイトは「すげーな。今度飲みに行こうぜ。じゃ、俺これから客に会うから」と言い、その場を去った。
沖田の胸には強い焦燥感。高校を卒業してからこの十年間で、クラスメイトとは大きな差がついてしまった。改めて自分が無為に過ごしてしまった時間の長さを思い知らされた。
それから沖田はまるで人生の遅れを取り戻すかのように、がむしゃらに物事に取り組んだ。これまで以上にボランティアにも熱心に取り組んだし、日雇いのアルバイトにも応募した。だが、気持ちが空回ってしまい、ミスを重ねてしまう。周りは特に咎めることなく温かく見守ってくれたが、沖田は自分自身を次第に卑下するようになる。なんで俺は上手くいかないのだろうか、と。
そんな時に男が声をかけてきたのである。
「楽に… …楽になれるのか?」
沖田の問いに男は口の端を歪めて答えた。
沖田はとある場所に連れて行かれ、そこであるものを男から渡された。
「それがリベレーションですね?」
「はい。粉の名前を男はそう言ってました」
男は初回サービスだと少量のリベレーションを無償でくれた。男が言うには、アロマの一種とのこと。家に帰った沖田は早速使用。男に教えられた通り、容器に入れた粉末を火で炙り、発生した煙を吸った。
するとだ。
今までに体験したことがない不思議な感覚に襲われた。体が空気に溶け、まるで重力から解放されたような浮遊感を得た。胸には幸福感、安心感が去来。脳には幼少期の楽しい思い出が蘇り、その時に戻ったかのようだった。体には力がみなぎり、気分が高揚。今ならなんでもできるような気がした。
だが、しばらくすると気分は沈んでいき倦怠感が訪れる。過去のトラウマがひっきりなしに襲ってきて、当時の辛さ、怒り、悲しみが蘇る。
もう一度、もう一度だ。あれを使いたい。
強烈な欲求に脳が支配され、気がつけばリベレーションを受け取った場所にいた。
「リベレーションが欲しくなりましたか?」
あの夜に声をかけてきた男がいつの間にか、目の前にいた。
沖田はその問いに何度もうなづいた。
その日以降、沖田はコンビニに行くふりをしては、夜な夜な取引現場に向かいリベレーションを購入した。そして、使用する回数を重ねて行くたびに、次第に精神的に不安定になり、暴れるようになった。
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