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勇者の国編

第66話 グラン王の結婚式

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 おお!
 マジ、この人、僕の気持ちを読んだ。

「あっ、お前、俺のスキルのこと知ってやがるな。よく来るんだよそういう奴が! まっ、確かに俺のスキルは使いようによっては便利だ。何せ、敵がこれから何しようか読めるんだからな」

 恐らく扉の向こうでダニーは、僕らのことを鬱陶しく思っているんだろう。
 僕らみたいにそのスキルを利用したい者は沢山いるだろう。
 それくらい便利なスキルだ。

「俺はそんな奴らが嫌になったんだ! お前もそんな奴だろ!」

 きっと彼は、そのスキルで嫌な目に合ったのあろう。
 それが原因で、彼は引きこもり生活を始めたのだろうか。

「ケンタ……」

 ソウニンが心配そうに僕に声を掛ける。
 僕は頑張って心を無にして、ソウニンを手で制した。
 そして、少し扉から離れてみた。

 今日はステーキが食べたい。

「ダニーさん」
「何だ?」
「僕は今日何を食べたいと思ってますか?」
「知るか。んなもん!」

 なるほど。
 1メートルくらい離れると心が読めなくなるらしい。
 彼のスキルは空間の制約がある。
 僕は意外に使いにくいスキルだという印象を受けた。
 だが、僕らはこのスキルが必要だ。

「出直そう」

 僕らは一旦、表通りに戻ることにした。
 宿を探し、長旅の疲れを癒すことにした。

「いらっしゃい」

 宿屋のおばさんは、板張りの床をギシギシ言わせながら小走りで受付まで来てくれた。

「この時期、移民と観光客が多くて忙しくてねえ」
「へぇ」

 おばさんは、額から汗をかきながら気さくに色々話してくれた。
 確かに宿屋は忙しそうだ。
 僕らの後ろには他の客が並んでいるし、おばさんの肩越しから調理場が見えるんだけど、コックさんが大量の料理を作っている。

「観光とか流行ってるんですか?」
「この国は観光地が多いからね。それにグラン王様が観光を重要な産業と位置付けてるから、旅行者をどんどん受け入れてるんだよ」
「へぇ」
「それに、明日、グラン王様の結婚式があるんだよ。遂に、お妃様が見つかったらしくて。そのお妃様を一目見るために、旅行者が沢山押し寄せて来てねえ」
「おお!」

 僕は驚いた。
 グランが遂に結婚。

「あいつ、この私を捨てて別の女に行ったのね!」

 隣でジェニ姫が地団駄を踏んでいる。
 プライドが高い彼女は、自分を捨てた男に腹が立つんだろう。
 そして、その男が自分以外の女を選んだことにも腹が立つんだろう。

 僕はマリナを信じている。
 だから、自然にお妃が別の人だと確信していた。
 グラン、君はマリナに断られ続けて、諦めて別の人を見つけたのか。
 嫁さんが見つかった矢先に、悪いけど復讐はさせてもらうよ。

「どんな人ですか?」
「さあ、私ら平民は見たことないよ。それに、昨日、いきなり結婚が決まったらしいから。さぁ、明日は街中お祭りだよ」

 おばさんは腕まくりをした。

 僕は一人部屋、ジェニ姫、ソウニンの相部屋になった。
 一応、男女分けなきゃね。

 ボロボロの部屋で一息つくと、ダニーのことを思い出した。

 彼のことを何とかしたい。
 グランの弱点を知るためには彼が必要なんだ。
 だけど、心を閉ざした彼をどうやってこちらに引き込もうか。
 そのことについて、ジェニ姫、ソウニンと話し合おうと思った。
 だけど、皆、長旅で疲れているようだ。
 隣の部屋から、女子達のいびきが聞こえて来た。

つづく
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